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第2話 ミリア

「はぁ...やっと着いた…」

魔獣との遭遇を避け、迂回を繰り返し、ようやくたどり着いた街、マギルダ。


「ん?」

街の検問を通過してすぐ、白髪猫っ毛の少年と目があった。

華奢な手足と眩しいほど白い薄手の服装、庶民と旅人で賑わう往来には不釣り合いでそこだけ光が当たっているように見えた。

こっちを見てる…?ここまで汚い奴は珍しいのかな?


が、一瞬の疑問は空腹と疲労感の前に霧散した。

今は聖遺物の鑑定!そして飯!寝床!

この街で一番大きく、常に警備員が立っている建物、古物商に向かった。


やがて魔術協会のエンブレムが彫られた厳つい建物にたどり着く。


警備員の睨むような視線をくぐり、重いドアを開いた。

「ん?見ない顔だな

レンタルならそこのカタログから選んでくれ」

店主とおぼしき男は一瞬鼻を引くつかせた後、ぶっきらぼうに声あげた。


「いや、聖遺物の鑑定を頼みたいんだけど」

静かな店内、その言葉が響くと1段階緊張感が増した気がした。

強面の店内警備員が顔を覚えようとしてるのか、まじまじとこちらを見ている。


「か、鑑定ですか

いやぁ珍しい…」

冷や汗を浮かべ姿勢を正す店主。

「そ、そうか

頼むよ」

今日遺跡から奪取した聖遺物をカウンターに差し出した。

「ほぅ…」

店主は手袋をはめ、聖遺物を良く観察してからこちらに目を向けた。


「確かに聖遺物のように見えますね

ちゃんと調べるには魔術協会所有の遠隔鑑定の聖遺物を使う必要があります

鑑定料として1000lz(エルズ)、あと鑑定の為にこの遺物はしばらく預からせていただきます

そうですね、1時間から2時間くらいはかかると思います

よろしいですか?」


「はい、お願いします」

待ち時間に昼食にしようか、昼寝して疲れを取ってから食べるのもアリだな。

二つ返事を返しながらも頭の中は空き時間の過ごし方にあった。


「僭越ながら1つ提案させてもらいますね

この街に限った話ではありませんが、遺物をレンタルしたお客様は暴漢に狙われる可能性が常に付きまといます

街の中にいる間は有料ですが警備をお付け出来ます、いかがですかな?

今回はレンタルじゃありませんが、暴漢には分かりませんし、なによりお客様の身の安全が…」

「結構です!」

既にこれ以上の足留めには耐えきれなくなっていた。

言葉を被せ断りを入れると市場の露店に向かった。


人混みを歩くのは気を遣う。

すれ違う人々が顔をしかめないか常に気になってしまう。


露店で焼いた干し肉と葉物野菜を挟んだパンを手早く購入、今度は人の少ない公園に向かう。

ベンチに腰掛け人心地つこうとしたが、こちらに向かって歩く、安物のジャケットを着たいかにもなチンピラ3人組が目に留まった。


マジで暴漢ってやつ?

3人組のリーダーらしき男が叫ぶ。

「おいおっさん!うっ臭!

おっさん古物商から出てきたよな?」

マジで暴漢だった…今臭いって言った?

「聞いてんのか!?おっさん!」

「のかあ!?」

「あぁあん!?」

呆気に取られている間も3人組の言葉は止まらない。

「何とか言え!

口ついてんのか!?」

「のかあ!?」

「あぁあん!?」

何なんだよコイツら…

「はぁ...あのさ…」

「黙れ!なにも言わずに金目のものと金と…あと…食べ物!

出しな!」

「出しな!」

「あぁあん!?」

うん、殴って黙らせよう。


膝の上でぬくもりを与えてくれるパンを優しくベンチに置き、ゆっくりと立ち上がった。


その時…

「こっちです!」

中年女性の声の後、古物商に居た警備員が数名こちらに向かってきた。

「お前達またか…

そして貴方は遺物鑑定の…

とにかく、街中で騒ぎは困る

悪いが出ていってもらうよ

鑑定結果は街の外で伝えるから待っていてくれ

お前達3人は詰所まで来い!反省文だ!」

警備員に連れられ街の外に追い出されてしまった。

ベンチに残したぬくもりを救い出すことが出来なかったのが悔やまれる。


1時間ほど待った。

鑑定結果と預けていた遺物を手に持ち、警備員を引き連れた古物商の店主が街の門から現れた。

「お待たせしましたね

さっそく鑑定結果ですが…

おめでとうございます、間違いなく聖遺物ですよ」

良かった、ひとまず偽物ではなかった。


「塩の聖魔法が備わっております」

「うっ…」

塩…?"外れ"かぁ…

「使い方はここ、蓋になってるところを開いて中に塩に変換したい物を入れ、蓋を閉じ魔力を込める

すると中に入れた物が塩に変わります

値段を付けるなら9000万lzくらいですね

しかし、残念ですが、今の貴方に買い取りの提案は出来ません

さ、これを持ってもう行ってください」

「は、はい…ありがとうございました…」

後半の説明が全然頭に入らなかった…

聖遺物を受け取るとその場から離れた。


別の街がある方角へ、しばらくトボトボと歩いた。

疲労、空腹、失望感が全身の力を奪う。

「ケケケ!良い表情じゃん!

太陽さえ出てなければ飛び出して抱き締めてあげたいくらいだぜ!」

頭の中に少女の声が響く。

「黙れクソガキ

性悪の"曇り"が」

「ケケ!褒め言葉だね!

気分が良いから協力してやるよ!

あそこの森、女が1人で野営してるぜ

ありゃあ根明だな、嫌いなタイプだ

襲うなり物乞いするなりして曇らせてやんなよ」

全く、ムカつく精霊だ。

能力は有能なのがさらにムカつく。

はぁ...物乞いかぁ…


森を進み、開けた草原に出た。

火を起こし料理をする赤毛の女性が見える。

「あの…」

最短距離を進み声をかけた。

「ん?あら、大丈夫ですか?

ちょうどご飯出来たので食べてください」

彼女は僕が頼み事を告げる前に目を合わせ、食事を進めてきた。


「え…いいの?」

返事を待たず赤いシチューを受け取り頬張った。

「ふふふ、だって顔に書いてありますよ

もう空腹の限界だー!って

遠慮しないで食べてくださいね」

無心だった。

気が付くと辺りは暗くなり始め、空腹感は満足感に変わっていた。


「はっ!」

流石に失礼か!

「僕はアインツって言います

貴女は命の恩人です

何でも言ってください、出来る限り尽くします!」

誠意の姿勢、土下座で提案した。

「ふふふ、私はミリアと言います

気にしないでください

世界を救うのは"無償の善意"

兄の口癖なんですが、口に出すと少し恥ずかしいですね」

はにかむ彼女の瞳に反射した焚き火が揺らめいている。

天使?いや聖母かもしれない?

この辺りには珍しい細く柔らかな赤毛、健康的な肌艶、笑顔は真夏の太陽のようだ。


「いやいや!ダメですよ!

僕の気が済まないです!

旅の途中ですか?ボディーガードくらいなら出来ますよ?」

頭の中がこの聖女を守らねばという使命感に支配されていた。


「そうですか…じゃあ次の目的地はここから北にあるヤクモ村なんですが、そこまでお願いして良いですか?」

逆に気を遣わせてしまったか?

兎も角これで少しは恩が返せそうだ。

「お安い御用ですよ!

そうと決まれば僕が番をするので休んでください!」

そう言い放ち立ち上がった。

「だめです!貴方こそ寝てください!

アインツさん魔力切れですよね?

顔色も悪いですし、相当しんどいはずです!」

図星過ぎて返す言葉が何も出てこない。


おずおずと座ると鞄から毛布を取り出し身体に巻いた。

「はい…実は魔力も体力も殆ど残ってないです…

でも何かあったら起こして下さいね…」

そう絞り出すとプツリと意識が途絶えた。




「起きてください!熊です!」

ミリアが言い終わるより早く飛び起き、辺りを見渡した。

この澄んだ空気は夜明け前か…

子育てベア…じゃなくて…グロウワーモンスターだ

腕に蔦が生えた大きな熊がこちらを睨み付けている。

「魔獣です!魔力探知のアラームがなりました!間違いなく魔力を持ってます!」

「うん、あれはグロウワーモンスターだよ

落ち着いてね、刺激しない方が良い

反応は2頭じゃなくてあれだけ?」

魔獣に目線を向けたままミリアに尋ねる。


「はい、近くに他は居ないみたいです」

「そうか、なら子育て中の縄張りに入っちゃってただけだと思う

グロウワーモンスターは夫婦で狩りをするからね」

そう告げると魔獣を引き付けるように駆け出し、ミリアの安全を確保した。

距離が近付くにつれ怪物の鼻息が荒くなる。


「曇り、巣はどっちにある?

昼間の協力はまだ有効だよね?」

暗闇に灰色の癖っ毛が目立つ八重歯の少女が浮かび上がる。

「ああ?んだよ、太陽が沈んだと思ったら今度は面倒事か?」

「仮眠で魔力は多少回復したはず、全部やるからあの熊を落ち着かせてくれ」

横顔から放たれた要望に八重歯の少女がため息混じりに応える。


「しゃーねーな…昼間の釣りってことにしてやるよ」

少女が手をかざすと熊は目に見えて落ち着いていく。

やがて表情から険が失われ、力なく踵を返した。

「ほら、帰ってくぜ

向かった方向が巣だ、あっちに行きたいなら迂回しろよ

じゃあな」

少女は闇に溶け込むようにスッと霧散した。

魔力切れの疲労感はあるが体力は問題ない。

巣はここら西か、迂回せずに済みそうだ。

しかし野営地は縄張り内、すぐに発つべきだな。

ミリアと合流し、出発を促した。


「わかりました

あの…ありがとうございます!」

荷物を背負ったミリアが頭を下げる。

赤いショートヘアが揺れる。

「ミリアさんがしてくれたことと比べたら、まだまだ返しきれて無いですよ

それより急ぎましょう

落ち着かせただけだからまた来るかもしれない」

「ですね…」

2人は北に向けて歩みを始めた。




しばらく歩いたところでミリアが口を開いた。

「あの…熊が来たときみたいに敬語は無しで良いですよ?

さん付けも要りません、アインツさん結構年上っぽいので落ち着かないです」

「え、ああ、うん

じゃあそうするよ」

「でも…街に着いたら洗濯はしてくださいね

だいぶ汚れちゃってますよ」

ミリアは気まずそうに告げる。

「だよね…臭いよね…」

「…」

その沈黙は何よりも雄弁だった。

仕方ないことだけど…落ち込むなぁ…

最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます。

感謝してもしきれない思いです。


もし本作をお読みになった結果、ほんの少しでも「面白い」「続きが気になる」「良い暇潰しになった」等、思っていただけましたら、

ページ下部にある星マークからの評価、感想、ブックマーク等いただけますと、とんでもなく励みになります。


ではでは、今後ともよろしくお願いいたします。

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