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第3話 ヤクモ村

「そうか、ミリアはお兄さんを探して旅をしてるのか」

「はい、兄さんは王都バルバドに行くと言い家を出ました

もう3年も前ですが…」

森を抜け、山間の村ヤクモに向けて街道を進む。

脇には見晴らしの良い草原が広がっている。

ミリアは行方がわからなくなった兄を探す為に旅をしている。


今向かっているヤクモ村は王都からの討伐団が2年前に魔獣討伐の中継地とした村だ。

ミリアの兄、ロアンも討伐団に参加した可能性があった。


「アインツさんのことも訊いて良いですか?

その…答えにくくなければ…」

上目遣いで顔色を伺うミリアと目があった。

「僕の旅の目的は聖遺物だよ

2つ、欲しい聖遺物があるんだ」

表情を変えず、淡々と告げる。

「2つ…ですか…」

ミリアの表情が少し引きつる。


「当てはあるんですか?」

尋ねるミリアの表情は固い。


「うーん…魔術協会のカタログには無いから…

未発見か個人所有…」

その台詞でさらにミリアの表情が曇った。

「ほとんど無しじゃないですか!

な、なんでそんな無謀な旅を…」

「あんまり楽しい話じゃ無いし、ちょっとまだ言いにくいかな…」

「ごめんなさい...」

視線を下げたミリアの横顔が胸にチクリと刺さる。

「ほ、ほら、村が見えたよ!」

誤魔化すように街道の先、木製の門を指差した。

既に日は傾き始めていた。


「ああ、村長ん家はあの道を行った先さ」

村人の言葉には少し訛りがあった。

ミリアは笑顔でお礼を言うとこちらに振り返った。

「それじゃあ私は村長の家を訪ねますね

2年前のことを訊いてみます」

「うん、僕は村を見て回るよ

宿の食堂で合流しよう」

ミリアはペコリとお辞儀し、村長の家へ歩きだした。


村の住人をつかまえ、情報収集を行った。

「この村に市場なんて立派だもんはなか

しっかし臭いのお!」

50代(推定)男性。

「うっ…

え…なんですか…?」

40代(推定)女性。

「(鼻に手を当てながら)討伐団?覚えとらんよ」

50代(推定)女性。

「(顔の前を手で仰ぎながら)しらん!しらん!」

60代(推定)男性。

「お店は宿にあるだよ

あのでっかいのはお風呂屋ど」

鼻を垂らした少年。


うむ…収穫はあった…いちおうね…

村人との交流を経て、宿に入って待つの(メンタルに)良くないと判断した。

宿の外、出口から距離を置いて往来を眺め時間を潰した。


「アインツさん!お待たせしました!」

駆け寄って来るミリア。

「あれ?外で待ってたんですね」

無理矢理口角を上げ、立ち止まったミリアに顔を向けた。


「どうだった?お兄さんのことは訊けた?」

「それがあんまり…

ここで食事をとってから山に巣食う魔獣討伐に出たそうですが、その後の動向についてはわかりませんでした…

おそらく山を越えた先、港町リルドに向かったんじゃないかと…」

「そっか…じゃあとりあえずご飯食べようか!」

気を逸らそうと提案したが、ミリアの反応は想像と違った。

「いえ…アインツさん、昨晩何でもするって言ってくれましたよね?」

ミリアの眼差しが意味深に笑い掛けてくる。


「う、うん、言ったね…」

「じゃあお風呂入ってきてください!

理由は言わなくてもわかりますよね?」

意思の籠った強い瞳だ…

「うぅ…」

「まさか昨日の言葉は嘘だったんですか?」

冗談で言ってる線は無いな…

「はい…わかりました…」

浴場はあれか…ああ…気が重い…

「後これ!

着替えと入浴セット!」

手提げ袋を受け取ると浴場に足を向けた。

「宿で待ってますねー!」

1度だけ振り返り、手を振るミリアに向け笑顔を作った。


大衆浴場、ヤクモの湯。

「入浴料200lz、そこの箱に入れっね

タオルはそこにあんのつこてええでね」

受付のおばちゃんは愛想よく笑っている。


軽く会釈し、100lzの硬貨を2枚料金箱に入れた。

脱衣所に入ると数人の男性が居た。

入浴を終えて服を着る者、これから湯に向かうため服を脱ぐ者。

空の籠が入った棚に荷物を入れ、彼らに混じり服を脱いだ。


何週間振りだろう…

こうなったら満喫してやろうじゃないか!

1度、2度、3度、まずは身体を念入りに洗った。

もう良いかな?

湯を見下ろすと左目の義眼が一瞬赤く反射した気がした。

ん?光っ…てない…よね?

まぁここまで来たら…

「ふっ…うぅぅぁあ…」

足元から湯に包まれるに従い、思わず声が漏れた。

疲れが溶けていくようだ…

「さいこう…」

暖かさが全身の血管を走ってるみたいだ…

やっぱ風呂良いなぁ…でもなぁ…

快楽に痺れた脳が少しずつ正気に戻り、現実を突きつけてくる。


まずいよなぁ…

これで手持ち最強の技、"菌"の条件を満たせなくなった…

近くに人が居ないことを確認してから小声で菌の精霊に尋ねた。

「菌、何日経ったらまた契約出来る?」

「ふ、服っ…あらう…?」

頭の中で高く細い声が吃りながら答える。

「洗わないよ」

「な、ならっ…み、みみ、3日…で…良いよ…」

「わかったよ、ありがとう」

3日かぁ…

村で過ごすか…

いやその前に情報を集めよう。

聞き込み出来てないのは遺跡の情報、あとは宿で何が売ってるか。

そうだ、次に行ける村や街がどのくらいかも調べないと。


ミリアはリルドに向かうのかな?

先を急ぐなら足留めしたくないな。

しかし、ただの野盗ならまだしも、魔獣や悪魔契約者に遭遇したら逃げられるかどうか…

"曇り"は当てになんないし…


「ああーどうしよー!」

「おう!兄ちゃんどした?」

声をかけてきた男は引き締まった身体と日に焼けた素肌、日頃過酷な肉体労働をしていることを想像させる。


「あ、いえ

ちょっと予定外に滞在が長引きそうで…」

「ガッハハァ!そかそか!まあまあ!なんもないが風呂だけはあるんでな!

ゆっくりしてき!」

「はぁ...」

力なく相槌を打った。


「あの、訊きたいことがあるんですが良いですか?」

「おう!なんでもええぞ!」

男は力強く頷く。


「この辺で未探索の遺跡か、個人で聖遺物を持ってる人の噂を聞いたことは無いですか?」

「うん!無いな!」

否定も力強い。

「そうですか…あ

もう1つ気になってたんですが、ここ結構大きな浴場ですが煙突無いんですね」

「ああ!そうか珍しいか!

実は魔術でやってんのや!」

魔術!ローカル魔術かな?

「へー!それは興味あります!」

「ほーかほーか!あんな!

なんかあったまんねん!

昔からあってな!

ほんで料理とかもできんねや!」

「へー!そうなんですね!」

わからん!


脱衣所に戻り籠から着替えを取り出した。

無意識に今日まで着ていた服の臭いを嗅いでしまった。

「かっ!」

くっさ!我に返ると大変だな…

今着る気にはなれないぞ…

菌!ごめん!

ミリアが用意してくれた浴衣に着替え、宿に向かった。


宿の扉を開け、食堂に居るはずの赤毛のショートヘアを探す。

「あ!アインツさん!

こっちですよ!」

ミリアが手を振り呼んでいる。

「んふー食べてみてください!

これ美味しいですよ!」

ミリアが先に注文していたであろう、肉を煮込んだ料理を勧められた。


「うん、柔らかいし味が染みてるね」

「でしょー?んふー

センスです!」

妙なテンション。

少し顔も赤い。

あ、手に持ってるのエールだ…

「機嫌良さそうだね、結構飲んだ?」

「ええー?飲んでませんよ?

ちょっとしか…

それより...」

ミリアの顔がグイっと近付く。

「綺麗になりましたねぇ!

いやー何より何より」

今度は腕を組んでうんうん頷いている。

楽しそうで何よりだよ…

「ああー!服!着てた服!」

ミリアが浴場で脱いだ服が入った手提げ袋に気付いた。


「洗いましょうね!今すぐ」

さてどうだろう…

ミリアは酔っている。

戦力を考えたら誤魔化すべきだ。

しかし…

「ね?ね?」

ごめんよ…菌…

ミリアが寝るまで相槌を続けた後、宿の女将に部屋まで連れていって貰った。

その時水場を借りて着てきた服を全て綺麗に洗濯した。

「うぅ…うそつきぃ…」

頭に響く怨嗟の声。

心で血涙を流し、聞き流すことにした。




翌朝…

昨晩洗濯した衣類はまだ乾いてない。

浴衣のまま食堂へ向かう。

「おはようございます!アインツさん!」

既にミリアが朝食をとっていた。


「おはよう、ミリア」

女将が焼いたパンと根菜のスープを運んできた。

「あ、どうも」

朝食を受け取りミリアを見る。


「ミリア、先に伝えておくね

僕はしばらくここに滞在するよ」

「え…そうですか…」

ミリアの表情が少し曇る。


「ごめんね、ちゃんと理由を説明するよ

ミリアは精霊との契約について勉強した?」

「あ、もしかして…

契約条件だから言えない事情で村から出られない…ことですか?」

「察しが良くてすごく助かる

その、最初は3日だったんだけど、今はもう話すら出来ない…」

ミリアの目が罪悪感でさらに濁る。


「それってやっぱり…」

「いやいや!ミリアは悪くないよ!」

「アインツさん!」

ミリアの目に決意が灯る。

「は、はい!」

突然の大声に思わず姿勢を直立に正してしまった…

「私結構旅慣れてるのはわかりますね?

それにこう見えて実はそれなりに強いんです!

私は今使えない力を補うには足りないですか?」

「そっか…わかった

でも罪滅ぼしに付き合う気は無いよ」

「そ…」

ミリアの目が再び光を失う。


「だからお互いの目的に協力し合うって言うのはどうだろう

僕はお兄さん探しを手伝うし、ミリアには聖遺物探しのサポートをお願いしたい

その、バディってことで…」

「はい!お願いします!」

こうして正式なバディになった。

次の目的地は港町リルド。



「ちなみに昨日の夜のこと覚えてる?」

「夜?ご飯食べて気持ち良く寝ました!

アインツさんお風呂長いんで待てませんでしたよ…」

「ああ…そっか…ごめんよ…」

肩に力が入らない。

「今服が濡れてるから乾いたら出発しようね…」

「はい!じゃあ私もお風呂入ってきますね!」

ミリアにお酒は飲ませないと心に刻んだ。

最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます。

感謝してもしきれない思いです。


もし本作をお読みになった結果、ほんの少しでも「面白い」「続きが気になる」「良い暇潰しになった」等、思っていただけましたら、

ページ下部にある星マークからの評価、感想、ブックマーク等いただけますと、とんでもなく励みになります。


ではでは、今後ともよろしくお願いいたします。

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