第1話 アインツ
「見えてきましたよ、アインツの旦那」
「ああ、出口だね」
ここはノースマギナイダ遺跡。
長い階段の先、外の陽が見える。
「旦那を誘って正解でしたわ
遺跡攻略、こんなにあっさりいくとは思いませんで
しっかし、遺跡って意外と中は臭いんですね
たまに鼻が曲がるかと思いましたよ…」
男は汚れた手で大きな鼻を擦りながら呟くように言う。
「…ああ…そうだね…
でも、君の囮も板に付いてたよ
それに罠に対する嗅覚は大したものだよ
何にせよ、これで街に戻れる…」
ため息混じり、自嘲気味に返した。
~戻り道のキュクロープス~ 第一部
第1話 アインツ
遺跡の探索は上手くいった。
目的だった未鑑定聖遺物も入手出来たし、怪我もしていない。
後は街に戻って遺物を鑑定するだけ…"当たり"だと良いんだけど…
「ん?」
「どうしました?旦那、もう出口ですぜ?」
「いや...」
外から流れてくる生暖かい風と乾いた砂の臭い。
その中に微かだが確かに金属音が聞こえた。
壁に埋め込まれた罠の音を聞き逃さないこの男が、僕に聞こえた金属音に気付かない訳がない…
なら…
出口に差し掛かったところで、1歩先を歩かせた。
すかさず後ろから脹ら脛を蹴り抜く。
「ぎぃゃっ!」
共に遺跡を探索した男が背中から地面に激突する。
タイミングを外された待ち伏せの野盗達が慌てて岩影から4人現れた。
1番近い野盗に狙いを定め2歩で距離を詰め、回し蹴りを側頭部にヒットさせる。
勢いを維持したまま隣の野盗に渾身の足払い。
「すげぇ!回った!」
「バカ!感心すんな!」
間抜け面で呆ける1人を残し、叫んだ男が剣を振り下ろす。
反射的に左腕で受け止め、弾く。
ガキィィイン!
金属同士がぶつかる甲高い音が響いた。
耳鳴りのように金属音が反響する最中、右手を伸ばし頸動脈を押さえるように素っ首を掴み持ち上げる。
「あのさ…野盗ってことで良いんだよね?」
間抜け面の男に問いかけた。
「うっ…あ…うん…」
返答を待つ間に失神した剣の男を地面に寝かせると、再びその間抜け面に向き直った。
「流石に1人で戦ったりしないよね?
とりあえず武器捨ててよ
そんで、こいつら連れてアジトに帰って欲しいんだけど…」
脹ら脛を押さえ呻き声をあげる者、脳震盪で昏倒する者、背中を強打し泡を吹く者、安らかな顔で失神する者、間抜け面は彼らを見渡し手入れの甘い短剣を放り投げた。
その時…
「っ…」
ズダァァアンッ!
前方からの落石に気付き、身を翻した。
「間に合ったなぁ!」
髭面の男が馬から降り立った。
「あ!頭領!」
間抜け面の気の抜けた感嘆。
「このサイズの岩を飛ばす魔法…」
砂ぼこりの隙間から頭領と呼ばれた男を観察する。
「ハッハァ!ビビったか片目の男!
大人しく遺物を渡せば多少穏便に済むぜ?」
「断る」
「あぁ?後悔すんなよ?」
その台詞の直後、周囲の砂が男の身体を覆い、岩の鎧を形作っていく。
なるほど、動きに合わせてくれる岩の鎧か…
あの腕に付いた岩で殴られたら…防御しても最悪脳震盪だな…
やるしかないか…
「っ…!」
小型の魔術書を取り出すと距離を詰めた。
この魔術書は接触しないと使えない…リスクばかりで嫌気がさすよ…
岩の腕を紙一重で躱しながら右手を鎧に添え、魔術書に魔力を込める。
鎧から温度が失われたことが指先に伝わる。
「菌!今だ!
風邪菌!症状が早いやつ!」
「ふ…ふひっ…うん…する!」
カビた黒いローブを纏った女性が微かに浮かび上がる。
カラフルな茸が生えた帽子がうなずく頭に合わせて細かく何度も揺れる。
全身がぼんやりと透けるその女性は指示を聞き入れ、野盗の頭領に手をかざした。
すかさず距離を取り様子を見る。
「ああ!?」
鎧に手を添えたこちらに向け、頭領は腕を振り回す。
魔術書と精霊の魔法が上手く噛み合ったことを願い距離を取った。
「あ?寒…なんだこれ…だるおも…頭痛も…」
「よし!上手くいった!」
助走をつけ、全体重を乗せたドロップキックを浴びせる。
頭領は堪らず仰向けに倒れた。
「う…動けん…鎧重すぎる…」
鎧の中で踠くが先程のように鎧が言うことを聞かない様子。
「風邪だね、お大事に」
荷物をまとめ背負い直した。
「頭領!大丈夫っすか!?」
間抜け面が駆け寄り、鎧を外していく。
すると、鎧の中から肌の汚いツルツルが現れた。
「頭領!じ、自慢の髭が!それに髪も!」
「ああ!?な、なんだこれ!無い!全部抜けてる!?」
「自慢の髭…僕が初めて会った日から長かったし…いったい元の長さまで何年かかるんですかね…」
やっぱり悪魔の契約魔術だったか…
でも出力と柔軟性ありすぎたし、代償としては軽すぎるくらいだよ。
「もう生えないよ」
嘆く2人にそう言い残し、遺跡を後にした。
もう魔力も残ってない…
笑う膝をパシンとはたき、気合いを入れ直す。
よし、何とか街に戻って鑑定しよう…
頼むから"当たり"であってくれよ…
◆ ◆ ◆
「フフフ、残念ながらこれも"外れ"だよ」
アインツから遠く。
王城の1室。
カンナの退屈そうな表情は穏やかな微笑みに変わった。
「どうかしましたかな?カンナ様」
「いやいや、こっちの話だよ
不肖な弟子の観察さ」
「弟子?」
「気にすること無いさ
それより、私と過ごせる時間は貴重だよ
本題に戻ろうじゃないか」
再び感情のこもらない眼差しを向け、髪を耳にかけた。
左目の泣き黒子がこれ以上の詮索を牽制する。
「そうですね…
では王都の機密保持の…」
話を聴きながらも気はそぞろ、椅子から地面に着かない足をプラプラと遊ばせる。
幼い容姿も相まって王城の作戦室には不釣り合いな様相を呈している。
カンナの目は再び不肖の弟子アインツに向けられる。
本作は初の長編シリーズ連載となっております。
至らないところも多々あるかと存じますが、ひとまず第1話、最後までお読みいただいたことを大変嬉しく思います。
もし本作をお読みになった結果、ほんの少しでも「面白い」「続きが気になる」「良い暇潰しになった」等、思っていただけましたら、
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