第9話 ナナイ3
「その日、村に魔術研究所の職員を名乗る集団が訪ねて来ました
私はその時の村の巡回を担当していました
よく覚えています
特に白髪の少年…
何て言うか上手く言えないんですが…
そこだけ明るさが違うような…
とにかく、吸い付けられるように視線を外せない…そんな感覚でした…」
◆ ◆ ◆
「お兄さん、緊張してるね」
目を外したつもりはなかった。
しかし、今少年は目の前に居る…
「い、いや、私は…」
「ナナイ様、急いで下さい」
言葉に詰まっていると少年はもう姿を消していた。
また…見ていたはずなのに…
◇ ◇ ◇
「可愛い子だったんですね!」
「ミリア…やめて?」
「はぁい…」
元気に振ってた尻尾が項垂れるのが見えた気がした。
「オホン
また始めますよ?」
団長が咳払い1つ、すぐに話を再開した。
◇ ◇ ◇
「あの…
アルフレッドを見ませんでしたか?
昨日山に行ってから戻らないんです…」
眠れなかったのだろう…目の端に疲れが見える…
「見てないですね…
山には1人で?」
「いえ…
ヤスケ君と一緒に行く…と…」
目を伏せ、言葉を詰まらせる…
「ヤスケか…
昨日からヤスケの姿も見ていないな…
酒場には行きました?」
「はい…
ですが酒場のご主人も息子は戻ってないと…」
あの2人は若いが素行が悪い訳ではない…
「わかりました、団長には伝えておきます
自警団で捜索、とは約束できませんが、私の方でも探してみます」
「ありがとうございます…!」
少しだけ顔色が明るくなったように見えた。
しかし、これは始まりに過ぎなかった。
2週間後には行方不明者は5人に増えていた。
全員が15~18の男性。
この村では若い女性が人知れず行方を晦ますと言う話は珍しくない。
そのほとんどは、城塞都市アルネルドへの"出稼ぎ"に出ては、そのまま身請けされたり、村での生活を見限って別の場所に旅立って行く者たちだ。
表向きこの村は、山奥の温泉地へ行くための中継地点、だが実態として村の生業はこの"出稼ぎ"なんだ…
公然とアルネルドを往復する出稼ぎ用の馬車が出ている。
だが、今村は何か大きな揺らぎに巻き込まれているような…そんな悪い予感が拭えない…
カランコロン
「…いらっしゃい…」
様子見ついでに酒場に昼食を取りにきた。
私はカウンターに座り問いかける。
「やっぱりまだ戻りませんか?」
喧騒と言う程ではないが昼時で賑わっている。
店主以外は…
「はい…
…ごめんなさい…ダメですね…お店を開いておいて暗い顔してちゃ…」
「そんなことは…
とりあえずパンとスープとお水を下さい」
注文を済ませ店内の会話に耳を澄ます。
「最近は温泉目的の観光客は減ったよな」
「クライネちゃん!明日の晩!頼むね!」
「店主は可哀想ね…でも料理の味が落ちてないのはさすがよね」
「わかったわ、明日の晩、二回を二回…ね」
「魔術研究所の奴ら…挨拶もしやがらねぇ!」
「でもナナイ様って呼ばれる少年…見てるとドキドキするよな…」
「え?お前ってそうなの?」
「引かないでよ!お前だけは選ばないから!」
「そうそう、息子さんが居なくなった猟師のお宅ご存知?
ご主人も居なくなったらしいの…」
「おまちどおさま」
目の前にパンとスープ、干し肉を水で戻しスパイスで焼き上げた名物料理が置かれた。
「あれ?頼んでませんよ?」
「自警団以外に頼る物がないんです…
受け取ってください…」
藁にも縋る思い…いや、藁で居てはいけない…!
無言で頷き料理を口に運んだ。
食べ終わるとアルフレッドの家の噂話をしていた壮年女性2人組の席に向かった。
「あの…さっき話してた猟師の主人の話、出来るだけ詳しく聞かせて貰えませんか?」
酒場を出て詰所に戻り、情報を整理した。
まずアルフレッドとヤスケが居なくなった日、彼らは狩りに行くと言って山に入った。
これだけなら山での事故の可能性があった
しかし、3日間交代で山を探索したが事故の痕跡も見つからなかった。
2人とも17歳だ。
次に居なくなったのは雑貨屋のトリト。
彼は15歳、内気で狩りに出たことは1度もなかった。
居なくなった日もいつもと変わらず夕食を終えた後、床に就くところまで両親が確認している。
だが、朝になるとベッドは空になっていた。
連れ去られた形跡はなく、自ら出ていったとしか思えない状況だった。
その次は馬車の御者、ソリンとコリンの兄弟。
彼らは腰を悪くした父親の代わりになって、もう御者として働いてたはずだ。
そして、アルフレッドの父、猟師のアルドレッド…
失踪の前日は酒に酔って色んな人に絡んでいたらしい…
この事態に誰かの作為があるのなら…
人と関わりが少ないトリト…彼が失踪前に誰と話していたか…そこから調べるべきか…
◇ ◇ ◇
「団長さん…」
ミリアは食い入るよう団長を見つめている。
相次ぐ失踪者と兄を重ねているのだろう、目に涙が滲んでいる。
「まだ続くからお茶を淹れますね
君たちも飲むかい?」
団長の目は優しいがその奥には言葉に出来ない後悔が見える。
「はい、頂きます」
「私もほしいです!」
◇ ◇ ◇
「確かにトリトはその日、学校から帰ってくるのが遅かったんです
誰かと遊んでたの?って聞いたんですが、はぐらかされて…」
トリトの母親も、疲れが肌に現れている。
「そうですか…
わかりました
村でトリトが誰かと話していたり、何処かに寄り道したのを見たか聞き込みしてみます
ありがとうございました」
無力感で頭が重くなる…
「そんなに頭を下げないで下さい…
あなたたち自警団が村のために動いているのはわかってるんです…
だから…」
私が追い詰めてしまっているな…
「では…」
足早に立ち去った。
村での聞き込みも思うようにはいかなかった。
私は往来で立ち止まり考え込んだ。
トリトの情報は何も得られなかった…
でも何人か、魔術研究所の職員に声をかけられた村人が居たな。
トリトもそいつらに?
トリト以外の人間も、接点を持つタイミングはいくらでもあったはずだ。
考えてみれば、魔術研究所の奴らが来てからおかしくなったんじゃないか?
そうだよ!団長に頼んで調査に入らせて貰おう!
急いで詰所に戻り団長に詰め寄る。
「団長!魔術研究所の奴ら!
怪しいですよ!」
「ほう…」
団長が鋭い眼光をこちらに向ける。
「話を聞こうじゃないか…
ただし、彼らは王都から遥々赴き研究に励む、王直轄の組織だ
そこをよく考えてから続きを話せよ?」
団長には全てを見透かされている…
目を見るといつもそう錯覚してしまう。
「ぐ…」
どう言葉を紡いでも憶測の域を出ないことは明らかだった。
「何でもありません…私の勘違いです…」
その日、私は限界まで酒を煽り、気絶するように眠った。
翌日、私は初めて自警団の訓練に行かなかった。
さらに夜が明けた。
村が騒がしい。
私は2日ぶりに家を出て詰所に向かった。
「何があったんですか?」
「あ!ゲイルさん!
その…死体が出ました…
おそらく殺しです…」
◆ ◆ ◆
「その犯人がククナさんだった
そうなんですね?」
僕は団長…ゲイルの目を見て問いかけた。
「はい…
すぐにわかった訳ではなかったんですが、そこから二晩、連続で夜明けに死体が見つかりました
死んだのが3人ともククナさんの客だったから、彼女はすぐに捕まりました」
ゲイルは淡々と語る。
「この村では村長の仕切りの元、自警団と村人で犯罪者の処遇を話し合いますが、通例として殺しをした人間は全て処刑、そうなっています
しかし、彼女の裁きが決まる前に村長が失踪しました」
ゲイルの瞳が暗く濁ったように見えた。
「村長が亡くなった場合はすぐに長男が継承する決まりでしたが、この時はまだ亡くなったと判断出来ず…
それなのに居なくなった翌日、長男が辞退、次男が継ぐことがすんなり決まりました
ククナさんをどうするか…村長の次男は話し合いの場を設けずに、村から追放することを決めました…」
話終えたゲイルは冷めたお茶が残るカップに視線を落とした。
「ありがとうございました
聞けて良かったです」
なるほど…ククナさんをここに置いていってもまたあの家に戻されるだけか…
でもそれはゲイルさんの本意でもないはずだ…
なら…
「そこの紙を一枚貰って良いですか?」
「ああ、どうぞ」
白紙の紙に一筆認め、手渡した。
「ゲイルさん、これを
さ、ミリア、宿に戻ろう
話したいことがある」
ミリアは視線を合わせ、無言で頷いてくれた。
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