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第8話 ナナイ2

◆ ◆ ◆

「ククル、お母さんはもうお腹いっぱいだよ

残りは食べて」

「また嘘言って…

お母さんが食べてよ!

いい加減怒るよ?」

ああ…我が子ながらなんて良い子なの…

人の気持ちもわかるし、控えめに言って美少年だし…

ククルから器を受け取り、薄い雑穀粥を啜る。

「ククルの手を経由したお粥…美味しい…」

「それやめて、ホントにキモい」

デレの後のツン!たまらない!


幸せな時間はあっという間だよね…

空の器を片付けたら、化粧をし、洗っておいた安物のドレスに着替え、急いで外に出る準備をした。

赤いガラス細工のペンダントが壁で揺れている。

「ククル、お母さんもう行くからね

暖かくして寝るのよ」

「うん…」

ククルの寂しそうな顔に見送られ、寒空の下へ。

今日は曇り、星は見えないがぼんやりとした月は微かに見える。

「大丈夫…この生活も悪くない…」

ポツポツと自分に言い聞かせながら約束した客の家に急いだ。

あら?こんな時間に人だかり?

村に似つかわしくない清潔な白い服の集団が見える。

その中で一際目立つのが白髪の少年。

まぁまぁの美少年…ククルほどじゃないけど!

あ!あんまり見て厄介事に巻き込まれたら遅れちゃう!

視線を外し、客の元へ。

扉をノックする。


コンコン コンコン


二回を二回、この仕事のルール。


反応が無いわね…


コンコン コンコン


「お姉さん、お金が必要なの?」

すぐ後ろから声を掛けられた。

か細くも耳に心地よい、よく通る声。

一瞬、聞き惚れちゃった…

振り返って顔をよく観察した。

「あら、あなたにはまだ早いんじゃない?」

でも吸い込まれそうな瞳…

ダメ!息子とそんなに変わらない子供よ!

「お姉さん子供が居るんだね」

あら?声に出てたのかしら?

「ええ!命より大切よ!

もういいかしら?これでも仕事なの」


コンコン コンコン


「そこには誰も居ないよ」

「え…?」

「ねえ、子供の為にお金が必要なんでしょ?

なら何を犠牲にしてもお金が欲しい?」

んんー?ちょっと難しくなってきたわね。

「そうよ!ククルの為には何でもするわ!」

「そう」

あら?今少し笑ったかしら?

「女!契約だ!」

彼の後ろには、闇に紛れるような黒い肌の大男が目元まで隠れる汚れたフードを被って佇んでいた。

隠れていない口元がニヤリと笑っている。

いつから居たのかしら?

それに契約?

「その荒れた手、パサついた髪を治してやる!

化粧無しでも映える肌艶とぷっくり鮮やかな唇もおまけだ!

しかも魔力を込めれば何度でも手に入る!

感謝しろよ!契約はもう成立しているからな!」

「え?」

え?え?え?

暗がりでも目に見えて手肌が潤っていく。

髪に指を通すと生娘だった当時を思い出す柔らかく滑らかな手触り。

肌はもちもちでしばらく忘れていた弾力。

とんでもないわね…鏡なんて見なくてもわかるわ!

「なんて事なの…

もう萎びた親父を相手にする事無いわね!

感謝するわよ!美少年!」

踵を返し家路を急いだ。

今すぐ見せたい!

誰よりも!

ククル…!


みすぼらしい我が家に着いた。

息を整えて少し冷静になった。

ホントは勢いよく扉を開け放ちたかったけど、もう寝てるかも知れないわよね。

そおっとそおっと…

忍び足で入る。

風の音が聞こえるほどの静寂。

穴の空いたカーテンがなびいている。

何かしら…何かおかしい気が…

そうね…窓が開いてるのね…

閉め忘れたのかしら?

そうよね…

手探りでランプに火を灯し窓を閉めた。

ククルのベッドに近付き覗き込む。

心臓がバクバクと高鳴り警鐘を鳴らす。

ポッカリと掛け布団が空いている。

少し盛り上がっていて、支えが無くなった分、重力に従っている。

それはついさっきまで、そこに誰かが寝ていたと信じさせるには十分だった。

全身の血液が抜かれたかのように手足から温度が失われていく。


カタンッ


ランプが床に落ちて灯りが消えた。

胃の奥から止めどなく込み上げる吐瀉物を抑えられない。

ビチャビチャと液体が床に広がる。


「だれか…だずげで…」

誰もいない部屋で絞り出した。

手足が動かせない。

視界が白く広がっていく。

もう声も...だせない…


「ク…ククク…まぁ10人だな

俺を信じるなら10人、10人の命だ

簡単だろ?」


最後に聞こえたのは希望…きっと…たぶんそう…


◆ ◆ ◆


ようこそコタリ村へ!

コタリ村は北の城塞都市アルネルドから程近くに位置し、村からネルド山へ繋がる道が延びています。

ネルド山の秘湯を求め中継地点とする旅人も多くいて、温泉が恋しい時期には屋台も並び、観光客で賑わいます。

村と村周辺には起伏が少なくとっても住みやすい村なんです!

さらに!アルネルドへの定期輸送馬車も出てるんですよ!

村の名産品は…


「…聞いてますか?アインツさん」

ハッと顔を上げると、パンフレット越しに睨み付けるミリアと目があった。

「えっと…そう!

キールで食べた魚美味しかっ…だっ!」

レバー一点を的確に刺すブロー…これは尾を引くダメージだ…

「ご、ごめんなさい」

脇腹を擦りながら謝る他なかった。


僕たちを襲った女性は、結局名前すらわからないまま、コタリ村の自警団に引き渡すことになった。

自警団の団長は彼女のことを知っているようだった。

今は酒場で食事をしながら、これからの指針を決めているところだ。


「アインツさん…お酒は…」

「ミリア、このままで良いと思う?」

10人ってやっぱり儀式的なことだと思うんだけど…これ以上関わるべきかどうか…

あの時先にミリアに向かってたら今頃は…

「ダメですよ!」

「ミリア…」

やっぱりミリアも…

「やっぱり飲むべきです!

なんたって酒場なんですから!」

違った…

「ミリア?」

「何にしましょうか~

あ!クラフトエール!

良いですね~」

「ミリア…!ホントにやめてね?」

少しだけドスを効かせ嗜める。

今ミリアがポンコツになったらいよいよ収拾が付かない…

というかこんなに聞き分け悪い子だったっけ?

「はい…ごめんなさい…調子に乗りました…」

ミリアが叱られた子供のように目を伏せる。

よし!良い子だ!

「話を戻そうね

ミリアはこれからどうしたい?」

「えっと、この村であの人のことを調べるか、兄さんや聖遺物の噂を集めるか、ですよね?

そうですね…」

ミリアは腕を組み、キョロキョロと目線を動かし思考する。

僕は燻製された干し肉を噛み締めながら眺めていた。

「私はあの人がただのおかしい人とは思えないんです

何て言うか…理由は上手く言えないんですけど…」

「うん…僕も変だなって思ってたよ

赤いガラス細工のペンダントを見たときの表情は嘘だとは思えなかった

それにククルって名前…

推測だけどククルって子供がいて、その子もう…」

黙って聞くミリアはじっと僕の目から視線を外さない。

「だから10人って言うのも10人殺したら何か起こる…

もっと言えば生き返る…それくらいのことを彼女は…そう思い込んでるんじゃないかな…」

「はい…」

酒場の喧騒の中、一瞬の沈黙が流れる。


「明日、自警団で話を聞いてみよう」




翌朝、すぐに自警団の詰所に向かった。

「あ、貴方は昨日の…」

詰所では団長が1人書類仕事に勤しんでいた。

「邪魔をしてすみません

昨日の女性について気になって…」

ミリアと2人頭を下げて挨拶し、本題に入った。

「単刀直入に聞きますね

昨日のあの人のことは知ってますよね?

突拍子無い話ですが、彼女はおそらく人を殺しています

その事についても知っていますか?」

団長は少し困った顔で考え込んだ。

「はぁ…

確かに知らない人間ではないです

ですが…知ってるからと言って他人に…

いや知ってるからこそ他人には簡単に話せないこともあるんです…」

そう言うとカップに口をつけ、音を立てずに1口、口に含んだ。

やっぱり何か事情があるんだ、それも簡単に他人には話せないような…

「ですが、他人とは言え私たちは彼女に殺され掛けています

そして、私たちが狙われたのは通りかかっただけの偶然だとしか思えません」

団長の顔に緊張の色が見える。

「なら他にも襲われた人、死んだ人も居るでしょう

何もしないのはそれに加担する事と変わらない

そうは思えませんか?」



暫しの沈黙のあと団長はコトリとカップを机に置き、重々しく口を開いた。

「わかりました…全てお話しします…

ですが、ここで聞いた話は口外しないようにしてくださいね

彼女の名前はククナ…

話は6年前に遡ります…」

最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます。

感謝してもしきれない思いです。


もし本作をお読みになった結果、ほんの少しでも「面白い」「続きが気になる」「良い暇潰しになった」等、思っていただけましたら、

ページ下部にある星マークからの評価、感想、ブックマーク等いただけますと、とんでもなく励みになります。


ではでは、今後ともよろしくお願いいたします。

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