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第6話 港町リルド3

「んぐっ…ゴクンッ…ぷはぁ…

アインツさーん、がんばってー」

あ…ミリアさん飲んでますね…


「はぁ…じぃ…めぇえ!!」

レフェリーの号令に、弛緩した空気がぐっと引き締まる。

動かない左腕と閉ざされたままの片目の視界、体格での優位も無い。

可能性を探せ。


「さあ試合は開始から睨み合いが続いております

アインツ選手はどうやら義手が動かない様子、土俵際まで距離を取っています

それに対しガンテツ選手、じりじりとにじり寄っていきます

なお、解説のミケルさんは都合により帰宅しました」

不利な時はまず観察…

ここまでの試合の影響で大きな凹凸がいくつも出来ている。

これは使えそうだ…試す…!




「おっつかれさまです!アインツさん!

んふふー優勝!おめでとうございます!

いやーすごかったですよー!

まさか即席で落とし穴作るなんて…」

「もう良いよ、ミリア

何回目?その話」

今居るのは町の酒場。

赤ら顔のミリアが肩にもたれながら何度も称賛を繰り返す。


悪い気こそしないがいい加減にしてほしい。

「でもアインツさんってなんでそんなに強いんですか?」

「師匠が厳しかったからね

魔術に頼ってたら死ぬからってとにかく身体を鍛えられた…

でも他の人に師事してたらホントに生き残れてなかったと思うよ」

肩越しにそう語った後、ミリアに視線を向けた。

「ミリアも結構鍛えてるみたいだけど、お兄さんの影響って言ってたっけ」

「そうなんですよ!

酷いんですよお兄ちゃん!

いっつも私にいじわるして勝たせてくれないし…

黙って居なくなっちゃうし…

むかつく!じょうほーしゅーしゅーしてきます!」

「え?ちょっとミリアさん?」

真っ赤な顔でふらふらと彷徨い始めたミリア。

あわてて腕を掴み引き留める。

「お、落ち着いて!

一旦宿に戻ろうね

明日改めて調べてみよう」


肩を支え部屋に入った頃にはミリアの意識は殆ど残っていなかった。

判然としないうわごとがポツポツと漏れ出している。


しかし、ミリアをベッドの上に下ろそうとしたとき…

「あ…これなんですか…?」

「あ!それは…」

副賞で受け取った聖遺物、懐にしまっていたそれが酔ったミリアの手に握られた。

マズいぞ…魔力を込めたら何が起こるかわからない…


「あぅ…」


…パリンッ


乾いた音が部屋に響いた。

手から滑り落ちた聖遺物が床に落ちて割れた。

「え?うそ、割れた?」

女神の加護を受けている聖遺物は物理的な破壊はあり得ない。

つまりは…


「偽物…」

はぁ…そうそう上手くいく訳ないのはわかってるよ…賞金も路銀だ…悪くない…悪くないんだ…

ふらふらと自室に戻り、ベッドで眠りに就いた。


翌朝、朝食を取っていると宿屋の店主が席に近付いてきた。

巨体が踏み込む度にミシミシと床が軋む。

「旦那、アインツさん、で良いんだよな

折り入って頼みがある」

ミリアがパンを齧りながら店主に視線を向ける。


「実はな、最近魔獣が出るようになっててな

そのせいで山への狩りが出てねぇんだ」

「魔獣…」

2年前の生き残りか?もしそうなら繁殖してる可能性もあるな…


「魔獣が出るって言っても姿を見たって奴が居ねぇんだ

痕跡と叫び声だけ聞こえるんだ…」

「魔獣の使う魔術じゃないかってことか…」

店主が大きく頷く。


「ああ、だけど退治してくれまでは言わねぇ

姿を確認して王都に報告する情報を集めて欲しいんだ

報酬は出す、トーナメント優勝者と見込んでの依頼なんだ

頼まれちゃくれねぇか?」

トーナメントの優勝がこんな形で役に立つとは…


「わかった、やるよ

報酬は持ち帰った情報を見てからの相談で良い

イノシシの1件もあったし、僕も貴方を信用するよ」

「ありがとう、感謝するよ」

話を聞いていたミリアが荷物をまとめ、出発の準備を急いだ。

兄の手掛かりに繋がる可能性があることを理解してるのだろう、やる気に満ちているように見える。


が、朝から口数が極端に少ない。

それに水を沢山飲んではトイレに何度も通って…時折ダルそうにしてて…頭痛に耐えるような表情をして…


「あの、ミリア?

もしかしてお酒残ってる?」

「え?…ま、まさかぁ…

そんな訳ないじゃないですか…」

ああ…ままならないなぁ…


リルドを出て山に、ミリアの動きは精彩を欠く。

「うぅ…登り…つら…」

「飲み過ぎだよ…

やっぱり僕1人で行こうか?」

尋ねた途端、ミリアがキッと睨み付けてきた。

「嫌です!兄さんを探すのは私の目的です!

私が休んでて良い訳ないんですよ!」

「カッコつけても君二日酔いでしょ…」

「うっ…ちょ…ちょっと休憩しましょうか…」

ミリアが口元を押さえて俯いてしまった。

荷物からボトルを取り出し魔力を込め、加熱を試みた。

ヤクモの村の魔術…多分仕組みは分子振動…ボトルの中身は水だけだから…よし…!

「ミリア、お湯が沸いたよ、飲んで」


ギギョー!ギギョー!


ボトルを受け取ったミリアが慌てて落としそうになる。

「な、なな!なんですか!今の!?」

「おそらく獣の叫び声だね」

「結構近かったですよね?」

「うん、でもなんか違和感が…

それより体調は落ち着いた?」

ミリアはボトルのお湯をグイッと1口飲み込み、ふらふらと立ち上がった。

「はい…ありがとうございます…!」

「ミリアは風の精霊と契約してたよね?

広域の魔力探知は出来る?」

ミリアがしっかりとした眼差しを向け頷く。

「はい!」


しばらく獣の声がした方向に進んで行くと…

「アインツさん…きました

あっちの方向です…!」

ミリアが茂みを指差し、小声で教えてくれた。

「ミリアはここで待ってて

魔獣は魔力に敏感な奴も多い

僕1人の方が警戒されにくいから」

ミリアを残し茂みの奥へ入っていく。


ギギョー!ギギョー!

ギギョォォォオオー!!!


数十メートルほど進んだところか、先程よりも激しく威嚇の声が上がった。

かなり近い!もう向こうはこっちを見つけてるかも…探せ…!


そして…

木の上に留まり虚空を眺める茶褐色の大柄の鳥を見つけた。

いた…ミミックバード…!

声帯模写の魔術で小動物を誘き寄せて狩りをする獰猛な猛禽類だ…

後は報告に戻るか倒してしまうか…


いや待て落ち着こう。

なんかおかしいぞ…

何で僕たちが山に入ったタイミングがわかったんだ?

それにさっきはより強く威嚇した。

つまり、まだ山から出ていないってわかってるんだ。

なのにあそこに見えるミミックバードに警戒してる様子がない…

例えば風の精霊なら、対価とする魔力量次第で山全体の魔力探知も出来る…

あ!ミリアを1人にしちゃダメだったんだ!

急いで戻ろう!


ミミックバードはそのままに、来た道を急いで戻った。




来る時は慎重だったが今は速度優先!

数分もかからず到着した。

「ミリア!」

「あ、アインツさん」

そこには座り込むミリアと縛り上げられた男が居た。


男の顔は腫れている。

「えっと…無事でよかった」

「無事じゃないですよ…

また気持ち悪くなってきちゃって…」

「ああ…うん…」

ミリアはそのままに、縛られた男に近付く。

服装は野盗って感じだ。


「あの、生きてるよね?」

「はい!あれ?旦那?」

男が腫れた顔をこちらに向け応える。

「もしかしてアインツの旦那ですか?

覚えて無いかも知れませんが1度会ってますよ」

誰だろう…


「ごめん、わからないから簡潔に教えて」

「あ、はい…

その少し前に遺跡の出口で旦那を奇襲した野盗の1人です

足払いに感心してた男でわかりますか?」

あ、間抜け面の男か。

顔が腫れてなくてもわからなかっただろうな…

「ああ、うん、わかったよ

それじゃあ次はこの山での目的を教えて

仲間の人数と潜伏先も」

「はい…」


間抜け面の案内を受け、彼の仲間たちの元へ向かう。

道中話を聞いた。


「この山に来た理由は遺跡です

面子は前と変わりませんよ

でも、もう野盗からは足を洗って真っ当に稼ごうって話になって…」

「はあ!?襲ってきたじゃん!

うっ…」

ミリアが睨み付けたが、すぐに顔を伏せた。

悪化してそうだなぁ…

ああ、なるほど、ミミックバードは人払いだったのか。


「ち、違いますよ!

その…ナンパのつもりで…」

間抜け面は怯えた表情でミリアを見ている。

こんなになるまで殴られる何て…一体何したんだ…


「その話はもういいよ

遺跡って言ったよね?

聖遺物の遺跡のこと?」

「はい、今頭領とヤンの兄貴とソンの兄貴が3人で入ってます

でも、妙なんです…

魔獣に全然出くわさなくて…」

名前はどうでもいいや…どうせわかんないし。

それより、魔獣が居ないって…


「あ!着きましたよ!

おーい」

間抜け面は遺跡の入り口で立ち番している男に呼び掛けた。

「あ?なんだ!?

敵か!?」

慌てて剣を構える立ち番。


「違う違う、これはおいらのミスで

覚えてない?アインツの旦那だよ」

「アインツって…あ!あの時の!

覚えてます?ハイキックで1発KOの…」

「いやもう覚えてないからいいよ

そんなことより遺跡ってこれだよね?」

遺跡の入り口をよく観察した。



やっぱり…

「ほら、ここ見て、魔術協会のエンブレム

魔術協会の探索団が中を調べて聖遺物の獲得に成功したか既に聖遺物が残ってなかった遺跡に刻む目印だよ」

「つまりどういうことで?」

察し悪いな間抜け面。


「つまり中にはもう聖遺物は無いってこと

だから魔獣も居ないんだよ

探索してる3人を呼んでおいで

あと、ミミックバードを操ってる仲間もね」

元野盗の2人が固まってしまった。

まさに言葉にならないって様子だ。

宿屋の主人はしばらく狩りが出来てないって口振りだったしコイツらも苦労してたんだな…


やがて元野盗の集団が一堂に会した。

「姉さん…調子悪いんで?」

「誰が姉さんよ!?」

「ひっごめんなさい!

その頭領から胃腸薬貰ってきたんで…」

「あ、そ、そう、ありがとう」

薬を受け取りこちらを見るミリア。

「飲んで大丈夫ですかね…これ」

「今ミリアを騙しても何にもならないし、大丈夫じゃないかな?」

ミリアに水を手渡した。

「あの…アインツの旦那…」

厳ついツルツルがおずおずと話しかけてきた。

「あ、頭領の…」

「その…ゴルダムだ…」

巨漢が縮こまっている。

「この髪と髭…と言うか全身の毛がいくら待っても生えてくる気配が無いんだ…」

「悪魔との契約の代償なんだ、もう生えてこないよ」

「わかってる、わかってるよ

俺なりに調べた

だからこうして聖遺物を探してるんだ」

泣き出しそうな顔だ。

大の男が泣くとこなんてあまり見たくないぞ。


「ちょ、ちょっと待って

先にこっちの質問して良い?

ミリア、こっち来て」

「はーい」

スタスタと近寄ってくるミリア。

薬が効いたのか顔色が良くなっている。


「ミリアは兄を探してるんだ

ミリア、兄さんはどんな特徴か教えてあげて」

「はい、兄さんは私と同じ赤毛で

背はアインツさんより少し小さいくらい

顔はまあまあで特徴が無いんですよね…」

頭領が腕を組み考え始めた。


「うーん…赤毛…どっかで見たような…」

「見たんですか!?」

「見た気がするだけだ、期待するなよ

ここに来る前はコタリ村にしばらく留まってた

見たとしたらそこが怪しい

すまんが、これくらいの情報しか無い…」

ミリアが明るい表情をこちらに向けた。


「うん、ノーヒントよりは全然マシだね

次の目的地はコタリ村にしよう」

頷きながらミリアに告げた。

「はい!」

「なぁ俺はどうしたら良い?」

「そうだなぁ…とりあえずリルドの町民が山での狩りが出来なくて困ってるんだ

一緒に来て謝って欲しいな」

「わ、わかった

聖遺物が残ってないならここに居ても仕方ないしな」


その後…

リルドで元野盗一行を引き渡し、旅支度を整えコタリ村へ舵を切った。

港町リルドは肉体労働の人手を常に求めていた。

山での1件を不問にして、町の仲間として受け入れたようだ。

力自慢の元野盗たちがリルド最強トーナメントで活躍するのかしないのか、それは後の話になるだろう。


◆ ◆ ◆


「さて、ご存知と思いますが

登録済みの聖遺物の内、魔術協会所有ではない物の1つに魔術阻害のブレスレットが港町リルドの伝統行事に使われています」

お、タイムリーな話。

この日初めて目線を上げ、話を聞く体勢を作った。

長い髪がサラサラと耳を滑る。

「この度、城下町からの要望で公衆浴場に魔術阻害の仕組みを取り込む研究をすることになりました

それに当たり、このブレスレットを預かり、解析を行います」

「ほぅ…」

こんなに早く魔術阻害に当たると思わなかったから後回しにしてたけど、義手と義眼にも魔術阻害対策したかったんだよね。

「フフフ、じゃあ早速人を集めてよ

研究室は地下で大丈夫かい?」

「え、ええ、もちろん」

「何か不満かい?」

「い、いえ…

意外と言っては何ですが…話がスムーズでしたので…」

「フフフ、人類の為だよ」

会議を仕切っていた男に目線を向け放った。

「君は私への無礼をわかって言葉を挟んだんだ、顔は覚えておくよ」

「そ、そんな…カンナ様…」

聞き終える前からみるみるうちに青ざめていった。

しかしそんなものより今は解析を急ごう。

最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます。

感謝してもしきれない思いです。


もし本作をお読みになった結果、ほんの少しでも「面白い」「続きが気になる」「良い暇潰しになった」等、思っていただけましたら、

ページ下部にある星マークからの評価、感想、ブックマーク等いただけますと、とんでもなく励みになります。


ではでは、今後ともよろしくお願いいたします。

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