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回帰解禁マザーズデイ・サムデイ!  作者: ハリエンジュ
第一話『ほうき星狙いのトリックスター』
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その8 今日一番の大悪党様

★回帰解禁マザーズデイ・サムデイ! 

第一話『ほうき星狙いのトリックスター』

その8 今日一番の大悪党様


teller(語り手):ハロルド=パンプキン




「……で? せっかくの落花祭だってのに何が起きてんだ、騎士様よぉ」


 戦車をかっ飛ばしながら、よりにもよって隣に居やがるセレスに訊ねると、セレスは戦車のスピードにも臆することなく淡々と告げた。


「……『伝令役』を名乗る者から、魔導院に先ほど文が届いた。……犯行予告にしては、内容が突飛すぎるものがな」


「あ? 突飛?」


「『魔法世界、エヴリデイ・ハロウィーンの全てを化石にする』――と。この世界で今生きる全てを過去のものにし、歴史の全てをリセットする、とのことだ」


「へーえ、そりゃまた突飛だな? ……で、その突飛なコトが実際起きてるっつーわけか」


 石化して灰色に染まる街並みにちらりと目をやりながら言えば、セレスは『ああ』と短く肯定した。

 それはまあ――どこのどいつか知らねえが、なかなかに破天荒なことをしてくれやがる。負けてらんねえ。


 孤児院が見えてきたところで、何が起きても小回りが利くように戦車の速度を落とす。

 ついでにオレがマシンガンを構えると、ああ、見えてきた。


 孤児院を囲む、巨人の群れと――怯え震えるガキどもを、その背に庇いじっと巨人を見据える小柄な女。

 今年で26歳だってのに、背丈はちっこく頼りない……薄い紫色の長い髪を、二本の三つ編みにした、ケープを纏った女。


 エリーゼ=ハートフィールド。

 オレたちの、姉代わりで母代わり。


 エリーゼ姉ちゃんの姿を確認してからのオレたちは、もう早かった。


「はっ、オレらの古巣に手出しはさせねえ!! どきな、石っころ!!」


 オレは二丁のマシンガンで、それぞれ両端の巨人をぱららっと銃声響かせ撃ち抜いてやる。

 オレの銃撃をサポートするかのように、銃弾でも仕留めきれなかった奴らには、ジャンヌが投げナイフを放つ。

 ナイフは見事に巨人どもの脆い部分を貫通し、オレとジャンヌの襲撃によって、端にいた巨人どもは一斉に砕け散る。

 さすがオレの右腕、良い仕事してくれるぜ。


 オレがマシンガンに銃弾をリロードし、ジャンヌが巨人どもの拘束用に鎖付きの暗器を取り出している間。本来ならばロスタイム。

 そんなちょっとの間でも、オレの幼馴染二人は、じっとしていられる奴らじゃなかった。


 オレとジャンヌが攻撃しているうちに戦車がかなり孤児院に迫っていたこともあり、セレスがロゼッタをさっと抱き上げ、戦車から飛び降りる。

 まだ石化しきってない草の原を上手く着地点にしたセレスは、腹が立つ程の澄ましヅラで体幹ひとつ崩さない。

 飛び降りた勢いとは裏腹にセレスはロゼッタをゆっくりその場に降ろし――そして、セレスとロゼッタの見せ場が始まった。


 セレスは愛刀『蝉時雨(せみしぐれ)』を抜刀し、巨人どもの群れに飛び込んだかと思えばやたらとテンポの良いスピード感で巨人どもを斬り倒していく。

 セレスの死角をカバーするように、ロゼッタは持ち前の身体の柔らかさ、しなやかさを活かした体術を駆使して、巨人どもそれぞれをほぼ一撃でノックアウトまで追い込んでいた。


 ったく、厄介なことだ。

 このトロール夫妻には、攻撃対象の材質や、肉体の一番脆い急所を感覚的に見極めて、弱点を見事に特定してブチ抜く特技を持っている。

 そんなとこまで似たもの夫婦じゃなくていいんだよ。ほんと、昔っから乱暴なトロールどもだ。変わんねーやつら。

 呆れ半分、懐かしさ半分の笑みを浮かべて、オレもまた巨人どもを蹴散らしていく。


 オレらがある程度巨人どもを片付けた頃、まだ赤子相当のガキを守るように抱きかかえた女と目が合った。

 オレは軽く手を上げる。


「よっ、エリーゼ姉ちゃん。久しぶりだな?」


 オレのあっさりとした挨拶に、エリーゼ姉ちゃんはこんな時だって言うのにとても嬉しそうに表情を綻ばせて、オレたちに真っ直ぐすぎる視線を向ける。


「ハロくん……! 元気そうで良かった……! ハロくんも……ロゼちゃんもセレスくんも、助けてくれてありがとう……!」


 不安げにエリーゼ姉ちゃんにしがみつくガキどもをあやしながら、エリーゼ姉ちゃんはオレの傍に控えているジャンヌにも柔らかく微笑みかけ、恭しく頭を下げる。


「貴方も、ありがとうございます……! おかげさまで、子どもたちに怪我がなくて済みました……!」


「……いえ。私は、団長に付き従ったまでです。全ては団長の行動力と牽引力があってこそ……」


「団長……?」


 首を傾げるエリーゼ姉ちゃんに補足する。


「オレのことな。今じゃすっかり義賊のカシラだからよ。で、こいつはジャンヌ。オレの盗賊団での右腕だ。それより姉ちゃん、街がやべーからさっさとガキども連れて避難を――」



「――させんよ」



 宵闇の冷たい空気の中、老いを感じさせるしゃがれた声が響いた。

 オレとセレスが、ほぼ同時に顔を上げる。


 孤児院の、ちょうど屋根の上にそいつは居た。

 老年の、モノクルをかけた猫背のジイさん。

 いかにも怪しげなそのジイさんは、オレたちを見下ろしながら告げた。


「初めまして、若人。儂は伝令役(メッセンジャー)、名をシュタイン。貴君らに終末を報せに来た者だ」


 そんな物騒なメッセージと共に、シュタインと名乗ったジイさんはご丁寧に一礼する。

 このジイさんの伝令とやらを「はいそうですか」と素直に受け入れるわけにはいかねえので、今更礼儀を見せられても知ったこっちゃねえ。


「そいつはご苦労なこったな、シュタインのジイさんとやらよ。……アンタ、伝令っつったな?」


「その通り。我が主から、『魔法世界、エヴリデイ・ハロウィーンの全てを化石にする』旨を伝えに来た。それが儂の使命だ。この世界は主の望むまま全てが化石となり、過去のものとして石の中に封じ込められ、世界は新たな再世を迎える定めだ」


「へーえ? どこのどいつが、そんな傲慢なクソ計画企ててるって?」


 敵意や反発心、そんなものを一切隠さないオレに微塵も動じることもなく。

 シュタインのジイさんは、その名を淡々と口にした。


「……我が主の名は、マザー。母なる者。この世界の母で、庇護者だ。母なる者は、愛する世界の為に決断なされたのだ」


 シュタインのジイさんのモノクル越しのぎょろりとした目が、オレらを見下ろす。


 ああ。

 文字通り、上から目線ってのが気に食わねえ。


「……永い歴史の中で、人類は間違えすぎた。あまりにも、この世には悪意が増えすぎた。貴君らも、心当たりがあるはずだ。私利私欲の為に資源を独占しようとする権力者、我欲の為に弱者を虐げる愚者」


 ジイさんの台詞に、オレは顔をしかめる。

 先日の闇カジノでの光景が、一瞬脳裏を過ぎったからだ。

 至近距離に居るセレスとロゼッタからも少しぴりついた空気を感じる。

 下級階層のゴタゴタに縁がある二人だ。また厄介なゴロツキでも最近シバいたのかもしれない。


 黙り込むオレたちに、なおもシュタインのジイさんは『伝令』を続ける。


「……この世の魔物たちは、母なる者の意思に賛同したぞ。あとは貴君ら、人間たちだけだ。母なる愛に回帰したまえ。それが貴君らの幸せだ」


「母なる愛、だあ?」


「ああ。……貴君らが生きる為に頼る魔石、『カーネーション』の花言葉は『母の愛』、だったか? 愛は動き出したのだ。今日という日を、もってな」


 シュタインのジイさんの言葉に反応したのは、セレスだった。


「……先ほど、巨人を討伐している最中。気付いたことがある」


 セレスは、シュタインのジイさんを睨み上げながら低い声で言った。


「街を荒らしていた巨人の材質は、石だった。それもカーネーションに極めて近い材質の石だ。……そして、報告にある。出現した巨人は、市民の何らかのエネルギーを贄に顕現している」


 セレスは未だに刀を握り締めながら、ジイさんに告げた。



「この世界……『エヴリデイ・ハロウィーン』に生きる生命体の心臓には皆、魔石カーネーションの欠片が埋め込まれている。……生物の進化の過程でな」



 ――セレスの言葉は、真実だった。

 心臓に魔石『カーネーション』が埋め込まれているからこそ、それが肉体の一部だからこそ、この世界に生きるオレたちは魔石『カーネーション』を使役し生活の為に役立てることができる。

 オレみたいに、カーネーションに全く依存せずに我が道を行くイレギュラーもいるけどよ。


 いよいよ、セレスが高所に居るシュタインのジイさんに刀の切っ先を突きつけた。


「……伝令役(メッセンジャー)よ。貴様らは、市民の体内のカーネーションに干渉し、カーネーションを暴走させて巨人を生み出し……街の惨状を生み出したのか」


「……その通りだ、若き騎士よ。儂らは母なる者の恩恵により、他者の体内のカーネーションの欠片を操ることができる。街に蔓延る巨人は、市民の体内のカーネーションが暴走して市民の『思い出』を奪い、奪った思い出を具現化したものだ」


 しん、とオレらは静まった。

 言いたいことなら、各々色々あったんだろう。

 ロゼッタなんか、今にもジイさんに噛みつきそうな勢いだ。


 突然の世界の危機。

 世界が頼ってきたカーネーションに突きつけられた危険性。

 未だに姿を現さない、母なる者とやら。


 まあ、気になることは色々あるが――少なくとも、オレにとっちゃあ全てが死ぬほど気に食わねえのは確かだ。


 オレらの視線を一身に受けながら、シュタインのジイは片手を胸に置いた。

 ちょうど、心臓部の辺りに。

 ――ちょうど、カーネーションが埋まっている場所に。


「……伝令の役目は果たした。では、最後の仕事に移るとしよう。――この街を、過去のものにする。我らがマザーの、望むがままに」


 シュタインのジイさんの、その台詞を聞いて。

 先ほど、他の誰でもないジイさんが放った言葉が脳裏に甦る。




 ――街に蔓延る巨人は。

 ――市民の体内のカーネーションが暴走して市民の『思い出』を奪い。

 ――奪った思い出を具現化したものだ。




 じゃあ、あのジイさんは。

 たった今、自分自身の思い出を犠牲にしようとしてるってのか。


 ざわり、と心臓の辺りに嫌なもんが走る。

 オレにも、カーネーションなんざが埋め込まれている場所。


 オレは、オレの後ろに控えるジャンヌへと振り向いて言った。


「ジャンヌ」


「……はい、団長」


「……今からオレは、信じられねーことをしでかす。だけど、オレを信じてろ。できるか?」


 オレの、唐突で無茶苦茶な指示に。

 ジャンヌの眼鏡越しの瞳が僅かに揺れた。

 だけど。


「……はい、団長。ご武運を」


 だけど、オレの右腕は――結局は、オレを信じてくれる。

 その事実にオレは笑い返し、からっぽになっていた戦車に一人乗り込んで。

 壁伝いだろうがなんだろうが勢いのままに走って走って、ジイさんの元へと駆けていく。


 自身の胸にあるカーネーションを犠牲にしたシュタインのジイさんは、散々この街で見かけてきた石の巨人なんざ目じゃねえくらいの、デカい怪物に成り果てていく。

 石とかの面影はなく――肉塊みたいな、生物兵器みたいな、グロテスクなモン。


 こんな終わり方で満足かい、ジイさん。

 アンタがどうだろうと、オレは認めねえがな。


 背後が少し騒がしい。

 セレスが、ロゼッタとエリーゼ姉ちゃんに避難指示を出しているんだろう。

 まあ、今オレがやろうとしていることを考えると、そっちの方が都合が良い。


 戦車が壁の表面を走り切り、月夜をバックに空へと翔んだところで。

 ようやく、肉塊と化したシュタインのジイさんと目が合った。

 モノクル越しに見た静かな瞳と違って、今のジイさんの目はギョロっと肉に埋もれ血走っていたけど。


 オレは、ジイさんへと銃口を向ける。

 自慢の特製マシンガンだ。

 でも、弾丸が出るわけじゃない。


 そう、オレの改造マシンガンは、弾丸以外にもオレが武器と判断したものなら、詰め込めば何でも放てる。

 セレスとの戦いで、散々学んできたからな。



 マシンガンの引き金を引くと、銃口からは特製ワイヤーフックが飛び出して、シュタインのジイさんの身体にちょうどよく引っかかった。

 そのまま勢いに身を任せ、オレは戦車を乗り捨てて、ワイヤーフックを頼りにジイさんへと体当たりで突っ込む。



 街を闊歩していた巨人どもの影に触れられ侵された建物や植物は、石化が進行して化石となった。過去のものとなった。

 ならきっと、このジイさんの影にもそういう力があるはずだ。


 ワイヤー頼りにシュタインのジイさんへと至近距離まで突っ込んだことで、月明かりのせいで出来たジイさんの影と、オレの影が同化する。

 ずきりとオレの心臓部に焼けるような激痛が走ったが、気にしちゃいられない。

 ぴき、ぴき、と硬い音を立てて石化が進む己の片腕を意地を張って伸ばし切り、肉塊状態のジイさんの心臓部にめり込ませる。

 ワイヤーの勢いは未だに衰えず――オレの全身は、肉塊と化したシュタインのジイさんの身体に、めり込んで沈んで吸い込まれて。

 影だけじゃなく、オレは、肉体すらもジイさんと同化した。


「……!? ハロルド、貴様……!?」


 セレスの声が、遠い。

 ぼんやりとした視界の中に映るのは、オレを信じてくれるジャンヌと、ブチ切れてるセレスの二人。

 セレスのやつ、ガキどもとロゼッタ、エリーゼ姉ちゃんのことはとっとと避難させたらしい。

 ったく、憎らしいくらい仕事が早い騎士様だ。


 仕事が早いついでに、利用させてもらうぜ。騎士様よ。


 ジイさんと同化したとは言え、まだ強烈な主張を止めない自我を呼び覚ます。

 癪だが、このままじゃ故郷を化石に変えちまう醜悪な怪物の姿のまま、オレはセレスへと叫んだ。



「――討ってみやがれ、聖騎士様!!

ドタマのおかてえ、セレスティン=イースター様!!

てめえにとっての!! 今許せねえ!!

今日一番の、大悪党をよ!!」



 挑発的な、煽り文句。

 セレスがこんな安い挑発に乗る野郎じゃねえのは、わかっちゃいた。

 そしてセレスも、漠然とだろうがオレの意図を察している。

 無駄に付き合いだけは長いからな。腐れ縁発酵レベルで。


 セレスは愛刀・蝉時雨を握り締め、屋根へと積み重なった箱や樽、近所の窓辺を軽々と飛び移り――オレの眼前まですっ飛んできて。

 本来なら安定しないはずの空中での体勢だってのに――それでも。


 それでも、オレの胸部を的確に一突きで仕留めた。


 石が、カーネーションが砕け散る音と共に。

 街を脅かす怪物――オレとジイさんの魔物顔負けに禍々しい身体は、瓦解する。死に至ろうとする。



 それでも。


 ――それでも、最後に勝つのは、オレだ。




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