その6 ふるさとはセピアに帰して
★回帰解禁マザーズデイ・サムデイ!
第一話『ほうき星狙いのトリックスター』
その6 ふるさとはセピアに帰して
teller:ハロルド=パンプキン
◆
大型機械艇『グッドフェロー号』から戦車を一台駆り出し、ジャンヌを同乗させて進んでいく。
生まれ故郷なだけあって勝手知ったる魔法都市『ノエル』の街中で戦車をかっ飛ばすうちに、おかしい、と気付いた。
街の喧騒を聞き付けてこっちに来たってのに、やけに辺りが静かだ。
それに、年に一度の落花祭だってのに、人っ子一人見当たらねえ。
広い空の夜特有の深い暗闇も、その中で煌めく星々も、いつも通りの夜なのに。
街だけが、変わり果てている。
ぱっと遠目に見ただけじゃ、いつも通りの街並み、建造物なのに。
良く見りゃすぐに違和感に気付く。
街が、死にかけている。
空の下の全てから、色という色が失われている。
街全体がモノクロに染められて、冷たい冷たい石と化していた。
石っつーか――化石、みたいだ。
街の活気が、すうっと丸ごと封じ込められちまってるみてえ。
本当に人は居ないのか、と辺りを見回したところで。
石化した建物にぐったりと寄りかかるように座り込んでいる奴らを何人か見つけた。
そいつらには、まだ色がある。
街と違って、化石になってない。
まだ、生きている。
だけどもそいつらの顔色はやけに苦しそうで。
一旦戦車から降りて、話を聞こうかと思ったところで――倒れかけていた市民が、一斉に絶叫した。
苦痛に満ちた声だった。喉が潰れそうな、痛々しい叫び。
尋常じゃない様子に警戒していたら――いつの間にやら、『何か』がオレたちの前に聳え立っていた。
それは、人型の巨人だった。
一体じゃない。ぐるりとオレの戦車を囲むぐらい、大勢ごった返している。
石化した街と同じく、巨人どもの肉体は石でできているようだった。
魔物のゴーレム族みたいなもんか? ……いや、ゴーレムは確か泥人形だったか。
……こいつら、どっから湧きやがった?
考えられるきっかけは、憔悴していた市民の絶叫。
叫び尽くした市民は、既に意識を失って倒れているようだ。
完全に脱力しているが、喉や口元の動きを注視すればまだ息があるのがわかる。
次に、巨人の群れをまず注意して観察する。
じわり、じわり、と街灯に照らされた巨人どもの影が、夜だと言うのに不自然に伸び、近くの建物や植物を侵食していく。
影に触れられた物体は、ますます石化が進行していく。
――なるほど、わかった。
街を殺しかけているのは、このデカブツどもだ。
現状から推測するに、あの巨人どもは市民の何らかのエネルギーを贄に顕現している。
で、巨人どもの影は触れたものを石に変える力があるらしい。
あの石ころデカブツどもの出自は不明だが――まあ、とりあえず。
「ジャンヌ」
「……はい、団長」
「――行くぞ」
「――団長の、仰せのままに」
オレの期待に絶対に応えてくれる最高の右腕の、これ以上ない返しを聞いて。
オレは集中する為にゴーグルをかけて――乗り込んでいた改造戦車の自動操縦機能をオンにした。
朝っぱらからセレスの野郎にいいようにしてやられちまったのを反省点として、ついさっきスピード面を大幅に改良済みの戦車だ。
オート操縦をオンにした途端、暴走状態に間違われても仕方ねえくらいに爆走を始めた改造戦車の上で、オレは専用改造マシンガン二丁をばらばらばらばらっと乱射しまくる。
戦車に同乗していたジャンヌは、持ち前の体幹の強さを活かし、爆走中の戦車の上で一切の身のバランスを崩すことなく、巨人の大群に何かを打ち込んでいく。絶対に狙いを外さず。
ありゃ、ジャンヌがその扱いを得意としている暗器の一種だ。
鎖に繋がれた刃物を複数操り、巨人どもの両腕両脚の関節部分を確実に潰して手足を奪ったり、厄介そうな大きめの個体は鎖で捕縛したりと、オレの右腕は今夜も頼もしい大活躍で魅せてくれる。
一体だけ、しぶとくこちらに飛びかかってくる巨人が居たが、ジャンヌはとん、と宙を一瞬舞って、隠し持っていた短剣で石巨人の胴体を物の見事に切り裂いた。
ジャンヌが今使った短剣は良く見ると、オレがさっきジャンヌに贈ったモンで。
オレが丹精込めて造った武器をさっそく試し斬りに使ったジャンヌに、オレはついついにたりと笑みを零す。
嬉しいし、オレの武器への見立てが間違っていなかったことが誇らしくて仕方ない。
オレがマシンガンで前へ前へと切り開く道の途中、ジャンヌはオレの背中を見事にカバーし、デカブツどもの残党を的確に排除していく。
改造戦車は相も変わらず爆走状態。
おらおら、どいたどいた。群れても無駄だぜ、デカブツども。
この戦車は、オレに良く似てきかん坊。
ミンチにされたくなかったら、オレらの邪魔をするんじゃねえ。
この街に、余計なマネをするんじゃねえっての。
「ハロルド……貴様……! また勝手なことを……」
鋭く刺すような刺々しい声が聴こえたのを皮切りに、オレは戦車を急停止させる。
聴こえた声は、嫌になるほどに良く知った声だからだ。
「よう、セレス? 平和を守る騎士サマにしちゃあ、随分な大遅刻じゃねえか?」
セレス。
セレスティン=イースター。
オレの腐れ縁の堅物騎士サマの登場だ。
「たわけ。あの石巨人が現れたのはこの区画だけではない。私に割り振られた区画の石巨人は全て討伐済みだ」
「へーえ、そうかよ。で? 何が起きてんだこの街に?」
「それは」
「団長~~!!!! ジャンヌさ~~ん!!」
セレスの言葉を遮るように、義賊バッグパック盗賊団の団員どもがオレとジャンヌ目掛けて駆け寄ってきた。
街の様子と違い、セレスにも部下どもにも石化の兆候はなさそうだ。
あの巨人の影の侵食、人間には効かねえのか?
セレスが何か知ってそうだからとりあえず話を聞いとくか、と未だ騒ぎ立てている団員の野郎どもを黙らせようとした矢先だった。
「セレス! 大変!! ……って、ハロ!? 帰って来てたの!?」
「げっ、セレスに続いてうるせーのが来やがった」
「あー、はいはい。久々の再会にド失礼かますアホっぷりが健在で安心したわ」
オレとセレスの幼馴染にしてセレスの恋人、ロゼッタ=スターリングの登場に、オレはうげ、と顔をしかめる。
茶髪ポニーテールに落ち着いた意匠のウェイトレス服を着た女……だが、こいつは武術方面の鍛え方がガチすぎるから厄介だ。
オレの不服そうは反応を見たロゼッタが、表情一つ変えずにオレの脛を蹴り上げやがった。
……ロゼッタのやつ、人体の急所知り尽くしてるから結構痛ぇよバカ。
セレスとは喧嘩ばかりの自覚はあるも、ロゼッタとは別に仲は悪くねえ……けど、セレスとロゼッタが昔から付き合ってるせいで、この二人に結託されると面倒で仕方ない。
このトロール夫婦、すぐ暴力に訴えかけるのやめろっての。
「……ロゼ、避難していろと言っただろう」
セレスが苦々しげに告げる。
セレスはこう見えて意外とロゼッタをわかりやすく大事にしてっから、明らかな異常事態が起きている今のこの街をロゼッタが下手にうろつくのは避けたいんだろう。
オレはそんなセレスが過保護だと思うんだけどな。だって。
「勿論、お店のお客さんやご近所さんはみんな避難させたわよ? 途中邪魔してきたデカい石くれは全員ぶっ壊してやったし」
「……ほら見たことか。ロゼッタめっちゃ強いじゃねーか」
「ロゼが強かろうが、私がロゼを心配しない理由にはならないだろう」
しれっと惚気られた上に、今のオレの言葉をロゼッタへの侮辱と捉えたらしいセレスに脛を蹴られた。
恋人で揃って同じ箇所攻撃してくんじゃねえよ。
それに別にオレはロゼッタのことは侮辱してねえ。信頼だ、信頼。幼馴染としての。
「はあ……ハロルドのうつけが居ると話が進まん。ロゼ、慌てていたようだが更なる異常事態でも起きたか?」
セレスの言葉にロゼッタはハッとして、追加の異常事態について大声で説明した。
「エリ姉と孤児院の子らがまだ避難できてないの!! エリ姉のことだから、子どもを庇って酷い目に遭ってるかも……」
ロゼッタの言葉に、オレとセレスの表情が一瞬で強張るのを感じた。
――孤児院。
オレ、セレス、ロゼッタの三人は身寄りがなく、魔法都市『ノエル』の外れにある、一応は魔導院おひざもとの孤児院育ち。
ロゼが『エリ姉』と呼ぶ人物――エリーゼ=ハートフィールド。エリーゼ姉ちゃん。
オレらより三つ年上の姉ちゃんは、ガキの頃から孤児院では一番の年長者で、大人になった今でも孤児院で働き、身寄りのないガキどもの面倒を見ている……まあ、オレらにとっちゃ姉貴分かつ親代わりみたいな存在だ。
街の異常事態については道すがらセレスに聞くとして、今は孤児院と姉ちゃんのとこに急ぐべきか。
ガッと戦車に再び乗り込み、ジャンヌ、セレス、ロゼッタに目線をやる。
「乗りな! こいつが一番速ぇ!! ――おい、野郎ども!! 今、自動操縦の戦車をグッドフェロー号から呼んだ! そいつに倒れてるヤツら乗せて避難所に連れてけ!! 避難所になら治癒術師がいるからな! 道中デカブツが来たら即討伐! やばくなったらまず逃げろ! できるな!?」
「う、うっす団長!!」
「おっし、まかせた! ……よし、三人とも乗ったな? ――飛ばすぜ、振り落とされんなよ!!」
オレの隣にセレス、後ろの座席にジャンヌとロゼッタが横並びで乗り込んだのを確認してから、改造戦車を荒い運転でかっ飛ばす。
途中、後ろのジャンヌに声だけかけた。
「悪いなジャンヌ、孤児院とか言われても置いてきぼりだろ?」
「いえ……団長が行くところなら、どこまでもお供させていただきますし……団長が守りたいものは、私も全身全霊でお守りします」
「……へっ、さすがはオレの右腕だ! 頼りにしてるぜ!!」
そしてまた、戦車のスピードを上げる。
石化した街を、静止した街の中を、生きてるオレらと、オレの血肉である戦車が、ひたすらに駆け抜けていった。
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