その3 VSセレスティン=イースター(歴代勝負回数:計測不可能)
★回帰解禁マザーズデイ・サムデイ!
第一話『ほうき星狙いのトリックスター』
その3 VSセレスティン=イースター(歴代勝負回数:計測不可能)
teller:ハロルド=パンプキン
◆
オレとセレスが対峙している頃。
オレが誇るこの大型機械艇『グッドフェロー号』は、セレスに色々破壊された影響で機関室に異常が発生したらしい。
地上を走行していた機械艇は、ルートを突然変更した状態で爆走している。
この機械艇が向かう先はこの場じゃ確認できねえし、機関室の様子を見に行きたくても、この石頭がオレを易々と通すとは思えない。
クソ真面目な幼馴染に、オレはわざと煽るように言った。
「ったく。カジノ騒ぎを聞きつけてすぐ来るたあ、職務に忠実すぎて面白味のねー男。仕事仕事って、恋人に愛想尽かされても知らねーぞ?」
「その言葉は私のことも、私の恋人のことも侮辱していると受け取るぞ。口を出すな外野。――御託はいい。武器を取れ。貴様は、私が裁く」
少しは冗談に乗るくらいしろよ。
からかっても反応が面白くねえんだよなこいつ。
セレスは毎度毎度真剣な言葉しか返さねえ。
それがこいつの美徳っちゃ美徳なんだろうが、オレはもう少し柔軟に生きたい。
――なのでオレらは幼馴染だが、価値観やらがとにかく合わないもんだから未だにケンカする。
それはもう良く。
それはもう今この時も。
「……ジャンヌ。下がっててくれ。この発酵腐れ縁騎士サマとは一対一でやりたいんでね」
「……了解しました。ご武運を、団長」
オレの傍でずっとナイフを構え警戒態勢を解いていなかったジャンヌに声をかけると、ジャンヌは素直に頷き、オレらの戦いに巻き込まれない範囲まですっと下がった。
聞き分けが良くて助かる。
というか、ジャンヌも流石に慣れてるか。
オレがセレスとこうなるのは、毎度のことだから。
武器を取れ、と言われたので。
オレは遠慮なくオレの武器を取らせてもらう。
一瞬だけセレスに背を向け、すぐ背後にあった戦車に駆け上がる形で乗り込んだ。
どうせセレスがすぐ駆け付けるのは読めたから、この勝負の為にオレがついさっきまで、つきっきりで整備させてもらった――渾身の出来の愛機。
乗り込んだと同時に、常備している遠隔操作パネルを滑るように押していく。
直後、格納庫中にあった戦車が一斉に起動し、セレスを囲むように立ちはだかった。
こいつらの性能はどれも、昨夜カジノで暴れ回ったやつらと同程度。
だが。
「……ほざけ。どこが一対一だ。貴様は毎度、回りくどい真似をする」
「全部オレの力で造ったもんだから、オレの一部にカウントさせろよ。こいつらはオレの誇りで血肉なんでな!」
「そうか。ならばその薄っぺらい誇り、私が叩き折ってやろう」
セレスが剥き出しにしていた剣を構えた、かと思えばそれを鞘に一度収めた。
セレスの愛刀『蝉時雨』。
騎士団の中では珍しく、魔石『カーネーション』の装飾が施されていない剣。
刀に込められた、歴史ある鍛冶屋の魂。
セレス自身の剣技。
それらに裏打ちされたセレスの強さは、決して魔石頼りではない。
セレスもオレと同じ『カーネーション』に頼らない側の人間なわけだがーーこいつは魔法と魔石を必要とする魔導院に仕えてるんだから、人の道はそれぞれすぎる。
そんなセレスの構えを見て、嫌な予感がした。
あの座り込むような構えは――。
オレは戦闘の型にこだわりはない方だが、剣の扱いにはあまり興味がない。
造る武器も銃ばかり。
だがセレスのやり口は、それこそガキの頃から嫌と言う程この目で見て、この身で体験してきた。
セレスが得意としているものの一つは、『イアイ』。
いかなる体勢からでも抜刀を織り込まれた動きを常に想定し、瞬時に斬りつける。
そしてセレスは対象の材質が何であれ、斬ろうとしたもんの粗、というか一番脆い部分を見抜く観察眼に異常に長けている。
知ってはいた。
知ってはいたが、意地が出た。
オレは負けを許さない。
全てに勝ってこそ、オレだ。
だから今度こそ、セレスの剣技と眼をもってしても物理で敵わないもんを造ってやろうと今までせっせと改良を重ねてきたはずで。
「――ウツツ流剣術、『極光』」
セレスの呟きと、恐らく同時。
光が走ったような錯覚があった。
セレスを囲む全ての戦車の弱点を一斉に斬り砕く、迷いのない、流麗とした一閃の剣戟。
瞬きをすればもう遅い。
視界が綺麗に晴れている。
セレスが自身を覆っていた戦車を全て、ものの見事に両断して地に堕としたのだから。
「……っ、だっかっらっ! 何でテメーは毎度毎度これ切り抜けるんだよ!! こっちがこつこつ努力してるってのに見せ場もよこさねえで一瞬で終わらせやがって!! オレのわくわくメカ類を紙きれみたいに斬るんじゃねえ!!」
「文句を言うな見苦しい。貴様の誇りと血肉……だったか。それがその程度なだけだろう」
「はっ、言ってくれるぜ!! オレのプライドなめんなよ、今にそのすましヅラ崩してやらぁ!」
「その戦車でか? ……それも私が以前斬り砕いた戦車だな。また懲りずに改良したのか。何度挑んでこようが同じことだ」
「はっ、おもしれぇ! やれるもんならやってみろ!」
戦車を急発進させ、セレスに突撃させるーー寸前でオレは戦車から飛び降り、セレスの脇腹の辺りへと、手持ちのマシンガンの銃身で殴りかかる。
咄嗟に剣でガードされるが、自動 操縦機能をオンにした改造戦車のアームが反対方向からセレスを襲う。
セレスはオレの銃との迫り合いを剣で流すように切り抜けてから、素早く後ろに飛び退き、振り落とされたアームを回避する。
だがセレスは回避の中にも抜刀の動きを取り入れてくるから、このままじゃ戦車が危ない。
セレスの剣が戦車に届く前に、オレは改造マシンガンの引き金を引いた。
硬度の高い素材を組み合わせて練り上げた、特別製の糸が銃口から放たれる。
オレの改造マシンガンは、弾丸以外にもオレが武器と判断したものなら、詰め込めば何でも放てる。
弾丸と同じスピードで放たれた糸はセレスの剣に巻きつき、一瞬の気休めではあるが、セレスの動きを止めることに成功した。
そのままもう一丁の銃を構えたまま回し蹴りを喰らわしてやろうとしたが、すぐに糸を叩き斬ったセレスと再び迫り合いになる。
先ほどセレスが回避した戦車のアームは未だに床にめり込んでおり、戦車の動きが復活するまでにはまだかかりそうだ。
セレスが容赦なく斬りかかってくるが、オレは短いスパンでそれらの猛攻を一丁のマシンガンで防ぎ、時々防ぎきれずとも、もう一丁の銃身と蹴り技を駆使して何とか防戦だけにならないように立ち回った。
じわじわと、互いに攻防を繰り広げる。
「この程度の斬撃も防げないくせに、貴様は毎度しぶといな……っ」
「はっ、攻撃はなぁ! 当たろうが当たらなかろうが、効くって思った側が効くんだよ! オレの意識は全く効いてねえから効いてねえし、傷は増えようが痛みはねえ! だからこっちだって攻める手を休める理由はねえよ!」
「頭の悪い自論を展開するな……! こちらの頭まで痛くなるだろう!!」
「おっ、イライラしてやんの! いいぜ、そうやっておめーが冷静さを欠いてからがオレの勝機――ッ!?」
急に、世界が揺れた。
走行していた機械艇が急停止したらしく、その反動だとわかる。
予想外の振動だったが、なぜかセレスはすましたまんまだ。
「……時間か」
「は?」
セレスが剣を鞘に収め、何事もなかったかのようにオレから距離を取る。
今にも踵を返しそうな勢いで。
セレスが壊した入り口から漏れる光から、景色が見えた。
だから、此処がどこなのかすぐにわかった。
此処は、オレらの故郷の街。
魔導院こと騎士の本拠地が、街の中央部にそびえ立つ街――『ノエル』。
何か祭りの最中なのか、街から聴こえる音楽は賑やかで軽やかだった。
「……言っておくが、ハロルド。私の目的は貴様らの討伐、捕縛ではない」
「……はぁ? じゃあお前、何しに……」
「貴様は確かに昨夜、違法カジノを襲撃しカーネーションを盗み出した」
「……それでオレを捕まえに来たんじゃねえのかよ?」
「だが、違法カジノに関わっていた連中が検挙され素性が明らかになった結果、連中の元々の地位の高さもあり、事が公になれば各都市の勢力が複雑化する……ので、事件は秘密裏に書類上だけで処理される。――それが魔導院の下した、秩序を守る為の決断だ。魔導院も、彼らに仕える騎士団も、今の貴様を罪に問わない」
じゃあ何でこいつは目の前に居るのか。
答えは――聞かなくてもわかったことかもしれない。
こいつはいつも、己の正義に一番忠実に生きている。
「だが、貴様の行為に罪がないと私はまるで思わない。深夜の大規模な器物破損、設備の破壊。近隣住民が被った迷惑。その罪は白紙にしてはおけない」
「だから私刑に走ったってか? 騎士サマ?」
「……格納庫に来る最中、なるべく同程度にこの機械艇の設備を破壊しておいた。金銭も、貴様が暴れた街の修理費に回す為にいくつか回収した。嘆く民が増えると、騎士を信じる者も、魔導院を慕う者も減る。わかるな」
「わかってたまるか。人のフネ好き勝手荒らしやがって! お前もたいがい義賊側だよな、毎回やること!」
「賊と同じにするな。毎度騎士団長の許可は得て行動している。恨むなら、法が適用されない賊としての立場に生きる自分を恨め」
自分が言いたいことだけ散々言って、セレスは踵を返しはっきりとオレに背を向ける。
「今回の目的は果たした。機械艇の破壊、金銭の回収、主犯格であるハロルド=パンプキンへの軽度の制裁」
「軽度じゃねえわ。オレの血肉が大量に壊されてんだよ。……あーくそ、執念深い騎士様は厄介だなホント! 魔導院の犬のくせに」
「見誤るな。私は確かに魔導院に揺るがぬ忠義がある。――が、考えなしに従うだけの犬でもない」
セレスが、自分が切り開いた通路を抜けて機械艇を出ようとする。
ヤツの向かう先は、オレらの故郷の街。
ここからでも見える祭りの雰囲気は覚えのあるもので、気付いた。
落花祭の時期だ。
主に恋人や夫婦の仲を祝い深める記念の祝祭として、毎年一度街で開かれる。
そこでオレは、セレスとのやり取りを思い出す。
『仕事仕事って、恋人に愛想尽かされても知らねーぞ?』
謎の進路変更措置を施され走行してここに辿り着いた機械艇。
セレスが先ほど放った言葉。
『……時間か』
ーーセレスは、オレの二人いる幼馴染のうちの一人で。
もう一人の幼馴染は女で、セレスとは昔から恋仲だ。
こいつ、まさか。
オレの視線を感じ取ったのか、セレスが振り向く。
「……言っただろう、見誤るなと」
「てっめ!! よくもオレのグッドフェロー号にタダ乗りしやがったな!! 乗車賃置いてけ乗車賃!!」
「賊が真っ当なルールを訴えるな。悔しかったらその機械絡みの腕を真に活かして運送業でも何でも営むといい」
捨て台詞を吐いて、去ろうとするセレス。
だがオレもここで終わる男じゃない。
「お前こそ勝ち誇った気になるんじゃねえぞ! オレはまだ負けてねえ! 途中で勝負から逃げ出したのはテメェの方だからな!」
「……負け惜しみを」
「自惚れんなよ、お前はオレの部下をボコって血肉を山ほど壊しやがったが、まだどいつの魂も殺しちゃいねえ! オレが造った魂たちはまだそこに転がってんだ! オレが拾い上げて、オレと一緒に何度でも甦る! それがオレの血肉を預けた部下どもと、オレが誇るわくわくメカ類だ!」
「屁理屈だな。言ってろ」
「ああ、一生喋り倒させてもらうぜ! ロゼッタによろしくな!」
「一言くらいはな」
ロゼッタ。
もう一人の幼馴染にしてセレスの恋人の名を出すと、存外素直に了承された。
妬いたり焦るなりの反応もまるで見せないから、いじり甲斐のないやつだ。
オレは二丁のマシンガンをホルスターに収め、ぐっと伸びをし。
そして作業用にと、愛用のゴーグルをかける。
「さーって、復旧作業だ野郎ども! 起きろー! いつまでものびてんな、キリキリ動いてさっさとすませんぞー! 終わったら丁度近くの街でメシだメシ! 祭りのメシと酒は美味ぇから気合い入れろー!」
「マジすか団長、人遣い荒っ……!」
「俺はそろそろあの騎士様トラウマになりそうなんですけど……」
「あー? トラウマなんて真っ向から立ち向かうには絶好の好敵手だぜ? 今はセレスの吠え面想像してイメトレしとけ! 一番の武器は想像力! 想像は創造だ! おら、やるぞー!」
結局明確な勝敗はつかず。
オレの完全勝利を阻み続ける幼馴染、セレス。
人生何度目かのセレスとのケンカを終えて、人生幾度目だからさすがに慣れて。
オレは目の前の、未来のことを考えてまた工具を握ったのだった。
◆
「団長、タフっすねジャンヌさん……ジャンヌさんは大丈夫ですか? 団長と騎士様の戦い毎度間近で見るのは危ないんじゃ……」
「団長は……今日も……とても素敵でした……」
「え、ええ……?」
◆




