番外編 レオンハルトからの目線 初めての気持ち
番外編です楽しんでください!!!!!
ガタゴトと揺れる馬車の窓から、流れる王都の景色を眺める。私の心は、その晴れ渡った空とは裏腹に、ひどく沈んでいた。
これから向かうのは、エルバート公爵邸。
目的は、公爵のひとり娘であるラナ・エルバートに会うためだ。
(……はぁ。本当に気が重いな)
私は小さくため息をつき、座席の背もたれに深く体を預けた。
第一王子という立場で生まれた私は、昔から大人や同世代の令嬢たちに散々媚を売られて生きてきた。
近づいてくる者たちは誰も彼も、私の機嫌を取り、私の後ろにある権力や地位を利用しようとする者ばかり。差し伸べられる手にも、向けられる微笑みにも、すべて下心が透けて見えていた。そんな人間関係に、私は幼いながらもすっかり疲れ果て、人間不信気味になっていたのだ。
しかも、これから会うラナ・エルバート令嬢の噂は、事前に私の耳にも届いていた。
『甘やかされて育った、傲慢でわがまま放題なお嬢様』
(どうせ今日も、いつものパターンだろうな)
「レオンハルト殿下ぁ、お会いできて光栄ですわ!」と、猫なで声ですり寄ってくる光景が容易に想像できてしまう。王子の地位目当てにベタベタと付きまとわれる時間を想像するだけで、頭が痛かった。
だからこそ、私は心に決めていた。
最初から氷のように冷たい態度を取り、一切の隙を見せないでおこう、と。
馬車が止まり、公爵邸の重厚な扉が開く。
私は完全に心を閉ざした状態で、冷ややかな仮面を被って応接室へと足を踏み入れた。
「よろしく、エルバート公爵令嬢」
あえて氷のように冷たい声で、義務的な挨拶を投げかける。
だが、そこで待っていたラナ・エルバートは、私の予想を、そしてこれまでの私の常識をあまりにも鮮やかにひっくり返す存在だった。
私の冷淡な視線にも怯むことなく、彼女は非の打ち所がない完璧な淑女の礼を決めた。その瞳には、他の人間たちが向けてくるようなギラギラとした下心や執着など、微塵も浮かんでいない。
それどころか、彼女はおっとりとした美しい微笑みを浮かべ、実になめらかな敬語で言葉を紡いだ。
『お初にお目にかかります、レオンハルト殿下。エルバート公爵が娘、ラナにございます。本日は我が家へお越しいただき、心より歓迎いたしますわ』
すり寄るどころか、非の打ち所がないほど礼儀正しい挨拶。私が少し面食らっていると、彼女はさらに続けた。
『殿下、お父様とのお大切なお話がおありでしょう。私のような若輩者が長居をしてはご不快にさせてしまいますわ。お二人がゆったりとお話しできるよう、私はこれにて失礼させていただきますね。どうぞ、我が家でのお時間を心ゆくまでお楽しみくださいませ』
流れるような動作で一歩下がり、彼女はパタンと静かに応接室の扉を閉めて出て行ってしまった。
残された私は、彼女が去った扉をしばらく呆然と見つめることしかできなかった。
「……噂と、全く違うではないか」
胸の奥が、妙に熱くなっていた。
いつも私の周りに群がる人間は、自分を大きく見せようとする者か、私を利用しようとする者ばかり。なのに彼女は、私に媚を売るどころか、出会って数分で私の立場を最優先に気遣い、余計な負担をかけまいと気配りをしてくれたのだ。
(私に気を遣わせないために、あえて用事があるフリをして、すぐに退室したというのか……)
なんて聡明で、思いやりのある令嬢なのだろう。
今まで出会った誰よりも欲がなく、気高い心を持っている。
「殿下、ラナは少々お転婆なところがありまして……無礼はございませんでしたか?」
付き添っていたエルバート公爵が心配そうに尋ねてくる。私は小さく首を振り、扉の向こうにいるであろう彼女に想いを馳せた。
「いや、素晴らしい令嬢だ。公爵、私は彼女に深く感銘を受けたよ」
廊下で彼女が「よっしゃ、生存ルート一歩前進!」とガッツポーズをして喜んでいるとは露知らず、私は生まれて初めて、一人の少女に強い興味を抱いていた。
(ラナ・エルバート……。次に会う時が、今から楽しみだ)
番外編どうでしたかレオンから見たラナ好感度上がってましたよね次の番外編もお楽しみに




