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南極の氷が解けるとき、魔法は名前を失った  作者: つのん。
第二章 融けはじめた名前

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第28話 同意のない救済

機関の会議室は、その朝、他の建物の、他の階の、他の部屋に、用意されていた。


長机ではない。


四人がけの小さな机の周りに椅子が、四つ置かれていた。


机の上には、薄い綴じの資料が、四つ並べられていた。


四枚の地図に対応する、それぞれの方角の、最近の三月の、要約だった。


地図の中の、乾き始めている地域の輪郭はもうばらばらにはなっていなかった。


四つの輪郭は、ひとつの大きな乾きの方へ、既にはっきりと向き直っていた。


その輪郭の上の薄い赤の色を私はその朝再び機関の会議室で目で追った。


追った色の上で、私の指先は、まだ内側へ折れていなかった。


折れていない手の位置の方が、机の上で、いつもより中央に近い場所に置かれていた。


---


向かいの椅子には、初老の男性が、ひとり、座っていた。


姿勢は、まっすぐ、だった。


声を出す前から、結論の置き場所がもう自分で、ひとつ、決まっている顔だった。


決まっていることをその人は私に向けて、隠してはいなかった。


隠さないというのが、その人の、ひとつの誠実だった。


上着の左の袖口の、一番下のボタンだけが、他のものより、一段、新しい色をしていた。付け替えの縫いは、職業の手の角度ではなかった。本人の手でもなかった。ごく近い、別の手の角度だった。その手が、今はもう、隣にいないことを、付け替えた糸の色は、まだ覚えていた。


「先生」


その呼びかけをその人は置いた。


「お忙しいところをお時間をいただきまして、ありがとうございます」


「単刀直入にお話をさせていただきます」


「先生がお書きになっている、預け合いという形の方を我々もいくつかの経路から、確認しております」


預け合いという言葉をその人ははっきりと置いた。


私の喉の奥が、その言葉の位置で塞がった。


その言葉を私は自分の手記の中で、まだはっきりとは、書いていなかった。


書いていなかった言葉を、今その人は職業の手の角度で確かに置いた。


「先生のお書きになる方法の方は」


その人は続けた。


「衝突の続いている地域の、相互理解の手前の段で確かにひとつの可能性として、活用できる、と私の中では考えております」


活用。


その言葉を私はすぐには飲み込めなかった。


---


「同意の方を」


口を開いた。


「いただかない、預け合いは」


「預け合いの形にはなりません」


その人は応える前に間を置いた。


その人は四枚の地図を見直した。


見直した縁の上の、一番乾いた色の上に、その人の指先が少し止まった。


その指先の影が、その色の上で、私の影と、ほとんど同じ角度で、立った。


「同意を」


その人は低くこう言った。


「お待ちしている、間に」


「ここの水はもう尽きます」


その一行をその人は言い換えなかった。


言い換えない一行の中に、その人の家族か、身近な誰かの命の重さが立っていた。


私はその朝、その重さをすぐには否定できなかった。


---


「ご懸念はわかります」


その人は続けた。


「ですから、我々はこれを共有とはお呼びしないつもりです」


「一時的な感情共有による、鎮静化として、書類の枠の中では扱うつもりでおります」


鎮静化。


その言葉が、地図の上で立った。


その内側に、止める、が入っていた。


悪意ではない。


けれど、別の形が入ることを見ながら、目を伏せる手つきだった。


私はそこに、長兄が外縁の集落の伝令を、速さのために訂正しなかった時の影を見た。


速さは、命を救う。


訂正は、遅れを生む。


だからこそ長兄は、見えていた別の形に、目を伏せた。


今、機関の人の指先が止まっていたのも、その同じ手前だった。


その手前で、私の喉の奥が、また、塞がった。


---


「申し訳ありません」


私は口を開いた。


「先生のご懸念の方は」


「私の中でも確かに受け止めます」


「しかし、同意の方の手前で預け合いの形を本人の停止権の方を外して、扱うということは」


「私の中ではお引き受けすることができません」


応える前に、その人の隣の席のもうひとりの担当から、他の薄い紙が、机の中央へ差し入れられた。


差し入れられた紙の端の上に、文字は、ほとんどなかった。


その紙の側の表題の一行だけが、見えた。


ある国境付近における、本日早朝の、衝突の発生について


その一行の下の地名は、その朝の地図の上の、一番乾いた色のもうひとつ手前の地名だった。


地名の下の人数の欄は、まだ空欄のままだった。


空欄の上に、私の指先の影が乗った。


乗ったまま私はその手を、机の端から、引き戻すことが、できなかった。


「お引き受けにならないということを」


その人は低くこう言った。


「ご無理に迫る側には」


「我々も立ちません」


「お引き受けにならない選択の側にもこちらの空欄の数字の方は」


「どの方角でも増えていく可能性がございます」


その一行をその人ははっきりと言った。


置かれた一行の中に、敵意は、なかった。


袖口の新しいボタンだけが、机の下でかすかに揺れていた。


その重さを、その朝、最後まで、軽くできなかった。


---


会議室を出た後、私は機関の建物の長い廊下を、ひとつずつ、歩いた。


廊下の窓の外に、その日、薄い空の色だけが立っていた。


雲は、いつもより、低かった。


低い雲の下に、私の研究室の机が再び立っていた。


管理。鎮静化。止めてください。空欄の人数。


四つは、ひとつの方角へ寄っていた。


その上で私はひとつのことを避けられなくなった。


魔女の罪を私はここまで、外側から責める位置で見続けてきた。


けれど今、長兄の影も、機関の人の指先も、空欄の上に止まった私の指先も、その罪の形の手前に立っていた。


外側から責めるだけではもう止めてくださいという声の手前にある判断を、置ききれなかった。


私の足は、机の外側の、一番古い白さの方へ向きを変えた。


使わないことでも、人は死ぬ。その事実だけが、その日の机の上に残った。


認めた重さの上で、救済という言葉の中で、古い形が再びこちらを見ていた。


入っていた形の中心で私は再びある古い手を、見直さなければならなかった。


私は魔女の罪から、逃げるためではなかった。


その姿を再び見るために、南へ、戻らなければ、ならなかった。


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