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南極の氷が解けるとき、魔法は名前を失った  作者: つのん。
第一章 氷の下の記憶

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第9話 暖かさの戦争

その日から、兄たちの声は、彼女に届く前に、別の言葉へ変えられていった。


私はその一文を、自分の中で長く繰り返していた。


繰り返すたびに、「変えられて」のところで、私の声は止まった。


止まった声の角度を、問いの形に直した。


「変えられていったというのは」


「誰が変えたのですか」


魔女は答える前に、目を一度閉じた。


開けた時、視線は私の方ではなく、自分の手のひらに置かれていた。


指先は手のひらの内へ寄っていた。先ほどよりわずかに深く、本人はその寄り方に気づいていないようだ。


「誰か一人ではありません」


彼女はそれだけ口にした。


「悪意のある者でもありませんでした」


「温度と恐れと正しさを欲しがった者たちが同じ場所にいただけのことです」


「それなら」


問うた。


「誰の罪でもないということですか」


「いえ」


魔女はそこで初めて目を上げた。


「誰の罪でもないというありさまが一番深い罪でした」


---


柱の根元の線が、短く白く呼吸した。


光が落ちた先に、王家の広間そのものではない、別の場所の輪郭が立ち上がってきた。


王家の広間の外、廊下の途中で別の方向へ折れた先にある、写しの部屋だった。


刻まれた板を整え、運ぶ前に読み直し、各陣へ写すための部屋だった。


そこでは、命令はまだ戦争の声にはなっていなかった。


兄たちの言葉に残っていた温度だけが少しずつ削られていった。


板はその写しの部屋へ運ばれ、別の者の手で再び書き写された。


長兄の「戻れない者を増やしてはならない」は、「外へ向かう者は内側を危険に晒す」と読める姿になった。


次兄の「届くなら試すべきだ」は、「外へ進むべきだ」と読める姿になった。


どちらの側でも、その言葉に嘘はない。ただし、本人の言葉ではない。


この時、兄たちはまだ互いを憎んではいなかった。


削られていたのは、敵意ではなく、兄たちの声に残っていた温度の方だった。


---


広間の壁の継ぎ目に、わずかな結露が出ていた。私は最初、自分の指先の汗かと思った。汗ではない。


壁の端の氷が薄く濡れていた。氷地図の縁薄く削られた部分の色が、内側からじわりと変わっていた。白さが一段、暗く沈んでいた。


凍ったものは光を弾く。ほどけかけたものは光を呑む。


光を呑み始めた縁を、誰かが指で軽く拭った。指先には薄い水の膜がついた。その者はそれを服で拭わずもう片方の手の甲で受けた。受けたまま、口元の手前で止めた。


舐めて確かめたのではない。


確かめるための仕草の手前で、その指は止まった。


その指の止まり方を私はその場で、誰のものとも記憶できなかった。


息が白くならない瞬間が混じり始めていた。


---


広間の中の声の出方が、ひとつずつ変わっていた。声の音量はそのままだった。語尾が硬くなり、返事までの間が短くなっていた。


誰かが言葉を言い終わるより前に、別の誰かが応じる声を準備していた。その声は相手の言葉の最後を聞かないまま出された。


「最後まで聞きません」


そう言った者はいなかった。


聞き終える者が減っていった。


---


ある日、長兄は外縁の集落に向けて避難の線を引いた。


岸寄りの氷の線が、暖気で少し緩み始めていた。


長兄は短く命じた。


「この線より外の者を内側へ下げよ」


その命令だった。


「下げよ」と「放棄せよ」は、別の言葉だった。


しかし長兄の背後にいた者のひとりが、伝令を出す前に、その命令の前に半歩、別の言葉を被せた。


「外縁の集落を放棄する」


その者はそう言って、別の伝令へすぐに指示を伝えた。


長兄は隣にいた。


長兄はそれを聞いた。


聞いて、訂正しなかった。


訂正する余白はあった。


訂正すれば、伝令の手はそこで一度止まる。止まれば、岸寄りの氷が緩む速さに対して、避難の速さが遅れる。線の外側にいる者たちは、足元から先に氷を失いつつあった。


長兄は速さの方を選んだ。


選んだことを、彼は誰にも告げなかった。


告げないままで、伝令は外縁へ走った。


外縁の集落へ運ばれた言葉は「下げよ」ではなく「放棄する」の方だった。


外縁の者たちは、自分たちが切り捨てられたのだと、理解した。


理解の方が、訂正よりも、速かった。


---


私にも、急ぐために訂正しなかった言葉が、いくつかあった。


訂正している間に、相手が別の場所へ行ってしまうことを私は恐れていた。


恐れていた私は急ぐ方が優しさだと、自分の中でその恐れに別の名を付けていた。


その名付けを私は長く、訂正しないままにしてきた。


---


妹のところに、両方の側から、ほぼ同じ頃に人が来た。


長兄の側から来た者はこう言った。


「妹君のお力があれば、内側の線を保てます」


次兄の側から来た者はこう言った。


「妹君のお力があれば、外側へ線を伸ばせます」


声音はどちらも丁寧だった。


どちらも妹を脅していなかった。


どちらも妹を頼っていた。


どちらも妹の手の方を、見ていた。


妹の顔ではなく、手だった。


妹は、その場では応えなかった。応えないまま、片方の手でもう片方の手の甲を覆った。覆った手の中で、彼女自身の冷気はもう外には出さないようにと、内側で抑えられていた。


彼女は低く言った。


「私の手は」


「地図の上に置くためのものではありません」


声は静かだった。


その一言を彼女はそれ以上繰り返さなかった。


繰り返さない一言の方が、繰り返した一言より、深く残ることがあった。


しかし繰り返さない一言は、運ばれる時、運び手の手の中で形を保つのが、一番難しかった。


長兄の側へ運ばれた時、その一言は「内側に置きます」と聞き取られた。


次兄の側へ運ばれた時、その一言は「どこにも置きません」と聞き取られた。


二つは正反対の意味だった。それなのに、どちらも妹の口から出た言葉ではない。


---


私はある夜のことを、思い出していた。


弟が出かける前の夜だった。


私は弟に向けて、何かを言った。


言った言葉そのものを私はまだ、自分の中で、揃え直せていない。


その夜、私は弟に向けて、「届かない」とだけは言った。


その先に何を続けたかは、まだ自分の中で、揃わない。


揃わないままでも、その夜の自分が弟を憎んでいたわけではないことは分かる。


私はあの夜、弟の死を恐れていた。


けれど口から出たのは、恐れではなかった。


「届かない」という、もっと冷たい言葉だった。


「届かない」と言った時、それは弟からは、私が弟自身を信じていないように聞こえたのだろう。


信じていなかったのではない。信じている弟を、失いたくなかった。失いたくないという一言を私はあの夜、最後まで言わなかった。


代わりに、別の言葉だけを置いた。


その夜、私の中にも、本人の言葉を運ばない別の手が、既に立っていた。


---


外縁の集落ではなく、内側からも外側からも見える、岸寄りの氷の長い線の上だった。


長兄の側の数人と、次兄の側の数人が、同じ線の前に揃って立っていた。


長兄の側は、その線を内側へ寄せ直そうとしていた。線の縁に沿って薄い氷を継ぎ足し、岸の側を厚くし直す手つきだった。


次兄の側は、その線を外側へ伸ばそうとしていた。線の先端に細い線をつなぎ、海の向こうへ延ばす手つきだった。


二つの手は、同じ線の上で、別の方向へ動いていた。


最初は声を上げなかった。途中から、声を上げる者が出た。


「これ以上、外へ伸ばすな」


「今、閉じれば、向こうが見えなくなる」


声は短かった。そのまま、互いに最後まで聞かれていなかった。


そこに妹が来た。


妹は二つの側のどちらでもない位置に立った。線の真上、内と外の継ぎ目の上に立った。


妹は何も言わなかった。


自分の手を、線の継ぎ目の上に、軽く置く。手の下で、線が一度白く応えた。


応えた線は、しかし、止まらなかった。


線は内側にも、外側にも、ほぼ同じ速さで薄く伸びた。


内側の方の線は、長兄の側の手が動かしていた方向だった。


外側の方の線は、次兄の側の手が動かしていた方向だった。


妹はどちらも選んでいなかった。


しかし、線は妹の手を起点に、両方の方向へ走った。


両方の側の声が、その瞬間、ほぼ同時に上がった。


「見たか。妹君はこちらの線を選ばれた」


長兄の側の者が言った。


「いや、向こうへ伸びている」


次兄の側の者が言った。


二つの声は、同じ妹の同じ手を見ていた。


しかし、二つの声は、その手から、それぞれに別の選択を読み取っていた。


妹は両側を見た。


両側を見て、口を開かなかった。


開かなかったことが、その場で、両側の解釈を、それぞれの側に同意したものとして残してしまった。


岸の亀裂で一拍だけ静まったあの手は、ここでは、二つの解釈を同時に生む起点になっていた。


妹はそこを、自分の足で離れることもできなかった。


離れれば、線はその場に残る。


残った線は、本人の手の中ではなく、両側の解釈の中でだけもう動いていく。


---


そのほぼ同じ頃、長兄と次兄は、別の場所で、二人だけで話した。


王家の広間でも、外縁の集落でもなかった。


岩の陰の、二人が幼い日に同じ光を挟んで動かなかった、あの場所だった。


光はもうそこにはなかった。


岩の陰の縁にわずかに濡れた跡だけが残っていた。


長兄が先に口を開いた。


「お前の声が遠くなった」


低い声だった。


責めるための低さではない。


もうそこに届かないものを、自分の中から呼び戻そうとする低さだった。


次兄はしばらく岩の陰の濡れた跡を見ていた。


こう言った。


「兄上が線の内側に立つからだ」


次兄の声も低かった。


それも、敵へ向ける声ではない。


遠くなった長兄へ、まだ届くと思って出した声だった。


長兄はそこで、声を低く抑えた。


「私はお前を外に置きたいわけではない」


「なら、外にいる者を誰が見る」


次兄は問い返した。


問い返した声に、若い日の慕いの色が、まだ薄く混じっていた。


長兄はそれに気づいた。気づきながら、その声に応じる位置にもう自分が立っていないことを知った。


応じれば、自分の者たちの言葉を、長兄自身の手で否定することになる。否定すれば、岸寄りの避難の速さが遅れる。


長兄は応じなかった。


応じず、長兄は次兄の顔ではなく、次兄の半歩後ろの方を見た。


そこには誰もいなかった。


誰もいなかったのに、長兄の視線はその「誰もいない場所」を、はっきり見ていた。


次兄もまた、長兄の顔ではなく、長兄の半歩後ろを見ていた。


そこにも誰もいなかった。


二人とも、相手の本人ではなく、相手の背後にいる者たちの方を見始めていた。


幼い日、岩の陰で同じ光を挟んだ二つの手は、その夜、同じ場所に置かれていなかった。


長兄は自分の手をもう光の上には置かなかった。


次兄ももう光を挟もうとはしなかった。


二人の手はそれぞれの背後の方角へ向かってわずかに開いていた。


開いた指の先で、相手ではなく、相手のそばにいる別の者の声が、それぞれの手のひらに直接降りてきていた。


---


私はその場の外側へ戻った。


戻った時、私の指先がまた、内側へ深く折れていることに気づいた。


魔女もまた、自分の指先を折ったままだった。


「あの夜のことを」


問うた。


「あなたは後でどう思ったのですか」


魔女は視線を、自分の指先へ一度落とした。


しばらく経ってこう言った。


「後になって、分かったことがあります」


声は静かだった。


「あの夜、二人は互いの方を見ていませんでした」


「長兄は外を見ていました」


「次兄は内側を見ていました」


「どちらも自分の見ていない側を再び自分の手で確かめようとしていました」


「周囲の者たちはそれを対立と呼びました」


「閉じる者と開く者と」


「呼んでしまったその名のせいで二人は元の方をもう向きませんでした」


「けれど」


魔女はそこで一度、目を伏せた。


伏せたまま、低く言った。


「二人は同じものを恐れていました」


その一言の後、彼女は何も付け加えなかった。


私もまた、何も問わなかった。


二人は同じものを恐れていた。


その同じ恐れが、二人を分かつ線になった。


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