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第十二話「決戦平安京」

「知盛様、怨が! 怨の群れが!」


 沈没したフクハラの外で悪七兵衛が騒ぎ立てた。彼らもまた平安京に向かう怨の大群を目にしたのであった。


「落ち着け悪七兵衛。我々は避難民の安全を確保しなければならない」


 知盛は冷静に判断した。自分達の足では高速で動く怨に追いつけないし、大量のフクハラの難民を放っておくことは出来なかった。

 しかし怨もまた看過できない。思案している内に知盛の頭上を大きな影が過ぎていった。


「あれはヤシマか!」


 誰かは知らぬが平家の空中戦艦を動かしていることに知盛は気付き、すぐさま飛んで弟重衡の姿を見つけると近寄った。


「重衡、対怨装備を集めてヤシマに行け」

「わかった」


 一度は敵対した知盛に重衡は躊躇いなく従い、天狗帳跳躍門を取り出した。




 重衡はヤシマ改め義仲号の艦橋までワープし、折波瑠金の矢を授けた。

 彼は平家の空中戦艦が義仲一味に占拠されていることに何も言わなかった。艦長義仲も戦力として快く受け入れる。しかし九郎には面白く感じられなかった。平家への敵対意識が拭えないからだ。

 九郎は一人艦橋を降り、甲板に出て風を感じた。その後を追ってお静と、彼女に付き従う武蔵坊も来た。


「九郎……」

「ケッ、俺は義仲や平家の連中とはつるめないんだよ」


 お静はそう愚痴る九郎の隣に立つ。


「で、どうするのアンタ」

「どうもしねぇよ。お安が戦えって言うなら戦ってやるが」

「私考えたんだけど……残された者は先行く者の遺志を受け継がなきゃいけないと思う」


 それはお静の生き方であった。父鬼一法眼の、清盛を倒すという願いを叶えようと彼女はここまで来た。だが九郎同様その目的を失ってもいた。


「清盛は俺に越えてみせろと言いやがったな」


 清盛の遺志を受け継ごうなんて考えは九郎には出来なかった。しかし本当の父の言葉はどこかに引っかかっていた。


「お静こそどうしたいんだよ」

「私は平安京を守りたいと思う。私が行っても何も出来ないだろうけど、それでも生まれ育った街だから。アンタにはそういうのないでしょ」

「ふん、俺だって平安京生まれだよ。まぁ世の為人の為に働く気はないがな。俺は俺の為に戦う」


 九郎は腕を曲げ、拳を強く握る。


「俺には戦うことしか出来ないからな……」

「九郎! ここにいたの」


 甲板への扉が開いて、安徳帝が顔を出した。


「お安、そっちはどうなんだ」

「五分後には怨と会敵する、平安京までには頭を押さえられそう」


 安徳帝はつかつかと歩き、九郎の手を取った。


「危険な旅路になる。それでもどうか、朕に手を貸してほしい」

「その言葉を待っていたんだよ」


 九郎は俄然張り切って言った。その時突如として、安徳帝が腰に差している草薙剣が光り始めた。今までにない現象だった。


「おい、どうしたんだ?」

「こんなこと、初めて……もしかしたら……」


 安徳帝は九郎から手を離し、草薙剣を抜いた。しかし光は一瞬のうちに収まっていた。そこで安徳帝は九郎に自分の手に触れるよう言った。九郎がその通りにすると草薙剣は再び緑の光を発した。


「やっぱり……朕一人では駄目でも二人なら草薙剣の真価を発揮できるかもしれない」

「どういうことだよ」

「草薙剣は鎮魂の為に使われる神器だったんだ。伝説では聖徳太子様がこの剣一つで物部(もののべ)八十(やそ)の怨を鎮めたという。魔なる天狗帳の効力さえ封じることが出来る」

「そういえば平家の奴が四郎の火を消したりしてたな。でも俺が使った時はただの剣だったぜ。それがなんで」

「朕にもわからない……でも朕と九郎が力を合わせれば出来るかもしれない。怨を鎮めることが!」

「まぁ物は試しだやってみようぜ……来たか」


 九郎は異質な空気を肌で感じ、月明りを頼りに空を睨んだ。すると黒い瘴気を発する怨の群れを見つけた。と同時に夜も眠らない平安京の姿も捉えた。

 いよいよ決戦の時は来た。




 建造途中だった義仲号には主砲が搭載されておらず、対怨成仏弾頭も八発のみであった。この数少ない手札で勝負に掛けようというのだ。

 艦長義仲は艦内放送を使って全員に呼び掛けた。


「あー、義仲号はこれより平安京と怨どもの間に滑り込み、交戦状態に入る。各自の働きに期待する。まぁ、こんな時だがなるたけ気楽にいこうや。じゃ、行くぜ」


 右手を掲げる義仲。と同時に操舵手の次郎は舵を切った。義仲号は華麗に舞いながら平安京と怨の大群との間に割って入る。


「巴、出し惜しみはなしだ。撃てる限り撃て!」

「アゲアゲのフルファイア!」


 巴は順番に義仲号のミサイルハッチを開けた。対怨成仏弾頭が飛び出して怨の軍勢に炸裂する。それは夜空の花火のようであった。

 しかし(うごめ)く怨はその半数も失わなかった。撃ち漏らしを仕留めるべく、天狗達が出撃する。

 佐藤継信と忠信は弓を引き絞り、折波瑠金の矢を放った。彼ら奥州天狗が怨と戦う理由はない。しかしこの兄弟は九郎への義理を重んじた。弓の腕は兄弟負けず劣らず怨を撃ち落としていく。

 四郎は倶利伽羅剣の炎によって怨を焼却する。その様は地獄の大火であった。

 さらに重衡は対怨刀で斬りこんだ。天狗帳による瞬間移動を活かし、次々と怨を斬り捨てていく。

だが一瞬の隙をついて背後に忍び寄る怨がいた。重衡危うし、かと思いきや、対怨用薙刀が怨を両断した。武蔵坊である。その背中にはお静が乗っていて、天狗帳陰舞静のステルス能力を武蔵坊に与えていた。


「しかしこれではキリがないな」


 継信は諦めるでもなく、ただ事実を呟いた。折波瑠金の矢が尽きたので対怨刀を抜き、前線に向かう。忠信も兄に続いた。

 彼らは破竹の勢いで怨を駆逐していく。しかし怨も無抵抗ではなかった。群れの中心にいる早良親王は抵抗勢力の存在を認めると、両手を掲げた。


「ああ恨めしや、源氏に平家の者ども。滅びるがいい」


 早良親王の掌に魔の光が満ち、拡散する熱光線となった。前線で戦う重衡達には勿論、義仲号にも襲い掛かる。


「次郎、回避だ回避!」

「もうやってます!」


 義仲号は傾きながら飛び、熱光線の雨を逃れた。

 これを見て大将首を獲らねばなるまいと重衡は早良親王の下までワープし、斬りかかった。しかしこの一閃を早良親王は白羽取りで防ぐ。これには重衡も一瞬驚いた。そのせいで早良親王の目から放たれる怪光線を逃れることから一瞬遅れた。


「ぐぅ!」


 重衡は深手を負って墜落する。それを見て早良親王は高笑いした。


「平家よ、桓武の血族よ、思い知ったか我が恨み!」


 早良親王は平安京を築いた桓武天皇の弟で、無実の罪で流刑にされ、兄を怨んで死に大怨霊となった。源氏も平家も元を辿れば桓武天皇の子孫であるからして、彼は立ち塞がる源平の武者共に恨みをぶつけようとする。

 この大怨霊を強さを目の当たりにしてお静は戦慄する。怨の数もまだまだ多く戦局は不利だ。だがまだ終わりではない、とお静は思い直して義仲号に目を向けた。


「頼んだわよ、九郎、お安……」


 義仲号の艦首にて九郎は悪戦苦闘していた。草薙剣は光ったものの、その真価をいまだ発揮しない。


「クソ、何が駄目なんだよ!」

「九郎、邪念を捨てて。集中して、心清らかに、草薙剣に語り掛けるの」

「そう言うは易しだがお安」

「そうだ、お爺様のことを考えて」

「なんでだ」


 安徳帝の言葉に九郎は一瞬戸惑うが、清盛のことを考えるのは簡単だった。

 清盛が憎い。だがそれ以上に――

 清盛を越えたい。

 ただ純粋に、それだけを九郎は願う。すると安徳帝と共に持つ草薙剣の光が一層強まった。神器は純然たる意志に反応を示した。


「清盛の奴が出来なかった怨の撃滅を成し遂げてやる……この草薙剣で!」

「これならいけそう!」


 だが喜びも束の間、早良親王が怨を引き連れて迫っていた。すぐ傍まで。


「滅びよ桓武の血族!」

「九郎、お安!」


 お静が叫ぶ。彼女を乗せた武蔵坊は早良親王に向かって突貫する。だが間に合わない。何もかも間に合わない。草薙剣の発動も――


「とっておきを使うか、時越千本桜!」


 九郎は天狗帳時越千本桜を用い、草薙剣が発動する未来を今この瞬間に持ってきた。草薙剣が纏う光は空を裂くほど膨大に集まり、巨大な光の剣を形成した。


「草薙剣よ、怨を鎮めよ!」


 安徳帝は九郎と共に草薙剣を振るった。光が怨を包み込む。黒い瘴気は全く消え去り、彼らもまた一瞬の内に消えていく。


「これは、この温かな光は……」


 大怨霊早良親王も草薙剣に(はら)われた。恨みに歪んだ顔から生前の穏やかな表情を取り戻し、そして成仏した。

 光の剣が闇を薙ぎ払った後には何も残さなかった。


「やったのか……?」

「やった! やったやった!」


 安徳帝は喜びのあまり九郎に抱き着く。九郎は天狗帳の副作用で伸びに伸びた髪を鬱陶しく思いながら、顔を赤くした。


「良かった……」


 お静も胸を撫で下ろす。義仲号の艦橋でも戦勝に沸き立っていた。怨のいなくなった空を地に落ちた重衡は見上げ、小さく息を吐いた。

 平安京の明かりは絶えない。

 義仲号がその傍に寄せて着陸した時には、夜明けの光が差した。まるでこの末法に終わりを告げるかのような、眩い光であった。

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