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第十三話「夜明け」

 九郎は一人義仲号から降りて、地面に腰を下ろし朝日を眺めていた。すると一人の青年が彼の下へやってきた。義仲である。


「何一人でたそがれてんだ」

「うるせぇ、あっち行けよ」


 九郎の態度はそっけない。だが義仲は無視して隣に座る。


「で、これからどうするんだ、お前さんは」

「ったく、どいつもこいつもそれを聞く」


 心底嫌そうな顔をする九郎。それを見て義仲が笑うものだから、余計機嫌を悪くする。どうしようが勝手だろ、と九郎は言ったが、結局は質問に答えた。


「ひとまず佐藤兄弟と奥州へ行く。そういう約束だからな。後鎌倉の兄貴のところにでも顔を出す」

「それはまた。てっきり西国へ行くのかと」

「なんで西国へ行かなきゃならねぇ」

「怨がまだまだ蔓延(はびこ)ってるそうだ。帝さんに付いていくんじゃないのか? お前さんを必要としてるだろ」

「あぁ?」


 九郎は怪訝(けげん)な顔をするが、すぐさま深刻そうな面持ちになった。


「あいつは俺なんか必要じゃないんだよ。俺にはわかった。あの時草薙剣を発動したのはあくまであいつなんだ。あいつはまだガキで自分の力さえよくわかっていないだけだ。手助けするのは俺じゃなくても知盛とかでも良かったんだよ」

「なんだその言いようは、惚れてるんじゃないのか?」

「クソ野郎、なんで知ってやがる!」

「顔に書いてあるからな」

「ぶっ殺すぞ」


 九郎は義仲に掴みかかる、がさっと避けられた。苛立って九郎の元々荒い語気がさらに荒くなる。


「クソが、大体、身分違いなんだよ、俺とお安は、クソめ!」

「身分違いを気にするようなタマかよ」

「ああ。だからいずれ俺は太政大臣にでも征夷大将軍にでもなってやる。天下を取ってやるんだ。清盛には絶対負けねぇ」


 それが清盛という大きな存在を越えることだ、と九郎は答えを割り出していた。


「ならいつか俺達は敵同士になるな」


 義仲は立ち上がった。ああと頷く九郎。


「次は俺が勝つ。覚悟してろよ義仲」

「ふっ、その時が楽しみだな」


 笑いながら義仲はその場を去る。九郎は一息つくが、すぐに何者かに肩を叩かれた。あっという声を出して辺りを見回すと、突如としてお静の姿が現れた。天狗帳陰舞静で隠れていたのだ。


「おい、驚かすのはやめろお静! つかその天狗帳使いすぎるな! 消えちまうぞ馬鹿」

「あら、私のこと心配してくれるんだ、九郎」

「そんなんじゃねぇよクソ!」


 九郎は口を尖らせる。お静もまた眉間に皺を寄せて言った。


「奥州へ行くんだ」

「立ち聞きしやがって」

「まさか私のこと、置いていく気じゃないわよね」

「あん? なんでお前を連れて行かなきゃいけないんだ」


 そう聞くとますますお静は怒った風になる。


「俺から離れるなって言ったくせに」

「なんで覚えてやがる」

「私はアンタとどこまでも行くんだから。自分の発言には責任を取りなさいよ」

「クソ、勝手にしろよ」


 つっけんどんな態度を九郎は取るが、対してお静の表情は柔らかくなった。お静は九郎の手を掴み、引っ張り上げる。

 九郎は悪態こそつくが、その手を払いのけるようなことはしなかった。昇る太陽が二人を燦燦(さんさん)と照らしていた。




 その後史実の九郎義経は奥州から鎌倉の兄頼朝の下へ()せ参じると、京で一度将軍となった木曽義仲を討ち、続けて平家を西国に追い詰め壇ノ浦でこれを滅ぼす。この功績を朝廷に認められるがそれが元で頼朝と対立し奥州平泉まで追われ、非業の最期を遂げる。

 しかしこの物語の続きが史実通りとは限らない。何せ天狗によって記される物語なのだから。


源平天狗帳 終

ここまで読んでくださってありがとうございました。

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