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<二宮金次郎>

 <二宮金次郎>


 秋晴れの日曜日です。

 

 学校の近くに流れる乃木山川に沿った道を散歩していると、川向こうの山の斜面を、薪を背に背負った少年が降りてくるのが見えました。

土地の人は『セイデ』と呼んでいる背中に背負う、二宮金次郎の銅像にある背中と同じような感じのものです。


 K君でした。


 近づいてみると、K君は薪を山のように積み、慣れた姿勢としっかりした腰つきで力強く、注意深く下って来るのです。私には、K君の姿が学校にある二宮金次郎の銅像そのままに見えました。


 私が「バイトか?」と尋ねると、ニヤッと笑ってすました顔で歩き続けます。


 どうも学校で見るK君の様子とは違う、どこか大人っぽい態度や表情に見えるのが気になります。


 その山は、見事に育った檜が並ぶ山でしたが、1・2ヶ月程前に大勢の人手で切り倒し、材木を運び終わったところでした。広い山の斜面には、大きな切り株と薪の束が何箇所にも小高く積んでありました。K君は、その薪の束を道端へと運んでいるのでした。


「先生にもやらせろ。」と言うと、


「先生には無理だと思うけどな。」と返ってきました。


 私はその大人っぽい言葉に『なにお!』という気持ちが沸いて来て、セイデを肩に背負いました。ズシリと重いセイデを背負って、足腰に力を入れて立ち上がると、背中に掛かる重みで膝が震えているのが分かります。何とか立ち上がったものの、足を前に出すことが出来ません。震える膝を確認しながらかろうじて一歩、二歩と前へ出たのが限界でした。フラフラしながらセイデを下ろすと、思わず「K君、すごいな。」と言葉が出てしまっていました。


 すると彼は、ひょいっとセイデを背負うと、どんどんと山を降りていくのです。


「どこが違うのかな?」と感心して言うと、


「先生、それは慣れだよ。」と簡単に言うのです。


 その言い方も大人びていて、私はびっくりしてしまいました。



 やがて太陽が西の山に掛かり始めました。山の合間にある乃木山の昼は短いのです。



 その頃の乃木山は、材木景気で忙しいときでした。


 しかし、景気の良かったのは山地主と山の仕事に関わっていた人達だけのようで、山地主は殿様のように崇められていたそうです。


 そんな山村も、いつかは時代の波に巻き込まれるのも当然なのかもしれません。




 20年後には、その乃木山小学校も廃校になります。


 水の沢小学校と合併し、水室小学校となりました。



 でも、私の心の中には、子供達との生活が、今でも活き活きと蘇ってきます。



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