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<遠足>

 <遠足>


 乃木山小学校の遠足は5月頃、全校一斉に、同じ日に、同じ場所に行くことになっていました。山あいの小規模な学校という環境にあわせ、永い間の実践改善の結果からだと思います。


 その年の遠足先は「観音様」でした。


 隣の県にある観光名所ですが、山あいの小学校の子供たちにとっては、長閑な生活空間からいくつもの街を通過し、観光客が沢山訪れる観光地や、地元とは比べられないほどの人口の多い街場に行くのです。毎日が一種の興奮状態で、多くの街や観音様の話で持ちきりです。


 そこへSちゃんの話をしました。子供たちにとっては1年生の時から4年生になるまで一緒に学校生活を送ってきた仲間です。Sちゃんの様子や状態はよく理解しているし、どんなことになるかも子供達には簡単に想像できます。


「先生、それは無理だよ。」


「それは分かっている。先生もお母さんから頼まれた訳ではないのだよ。『まだ1度も遠足に行ったことがないんですよ』と言われただけなんだ。それで、先生はどんな事があっても連れて行きたいと思ったので、皆の協力が欲しいのだよ。」


「どうするの?何をすればいいの?」


ということで、グループ活動の概要を話し、皆に理解してもらいました。


「特に、Sちゃんのグループは先生が見守るから、先生と班長さんで連絡をきちんとすれば、後は先生が引き受けるよ。」


皆に納得してもらった上で、更にグループ行動について研究を重ねました。


 遠足の当日、快晴の青空が広がる、絶好の遠足日和です。

 子供達を乗せてバスは観音様へと向かいます。

 観音様のある街に入ると、街並みの向こうに小高い丘が見えてきました。その丘の上に真っ白な観音様が遠目には小さく立っている様子が見えます。子供達は観音様を見つけると、表情にぱっと笑顔を現し、ザワザワと騒ぎ始めました。


 さらにバスは走り、思ったよりも高く広い丘の上に登り切り、駐車場に停まると、高さ30メートルはあろうかという観音様が、真っ白な全身で大きく高く聳え立っています。遠くからうつむき加減に見えた観音様は、下から顔が良く見えるように作られたものだと思われます。


 観音様の足元に四角の入り口があり、中は真っ暗です。その中に入ろうとすると、Sちゃんが急に私の左腕に両手でしがみついて来ました。子供ながらに結構な力で、Sちゃんの心の中が見えるように思えます。


 薄暗い中、螺旋状の階段を上って行くと、壁の所々に小さな窓があり、中をぼんやりと照らしています。階段の右側には、高さ30センチ程の色々な表情や腕の形や手の形など、様々な仏様が並んでいます。ゆっくりと上りながら、一つ一つの仏像を見ていくと、怒り顔の仏像の前では、Sちゃんがしがみついている両手の力が強くなります。優しい顔の仏像の前では、心なしか両手の力が弱くなります。Sちゃんは、本当に素直な心をもった子供なのだなと実感しました。


 結構な高さまで上り、観音様の眼の所まできました。外から見ると大きな眼ですが、中からは大きな窓になっていて、街並みが遠く広がっています。私が雄大な眺めに見とれていると、またSちゃんの両手の力が強くなりしがみついてきます。暗い所の上に、高い所だと実感して恐怖を感じたのかもしれません。


 お弁当の時間は、Sちゃんも楽しくグループで食べることができました。子供達もグループ行動に興味を持ち、グループのメンバーに気を使ったり楽しんだりする事に新鮮さを感じたのかもしれません。こうして、大きなトラブルも事故もなく、無事に遠足を終えることが出来たのです。



 そのときは「Sちゃんを遠足に連れて行きたい」という思い付きから考えた方法でした。


 後年の教育制度や方針の流れの中で、「グループ活動」は「話合い活動」とともに、子供の自主性や自発性を高め、自己の責任や役割を分担する事を学ぶ教育として評価され、普及されていくことは皆様の周知の通りです。




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