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那尻大輔は特務官である ─サイバーファンタジーの来訪者と本気出します─  作者: 南田華南


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7/10

第七話 那尻大輔は、戸惑う

 メドラー姉妹との激闘を終え、エッティンガー姉妹は那尻の住む寮に

 転がり込むことになった。異世界から来た彼女たちは、一週間以上も

 風呂や着替えと無縁で、激烈な悪臭を解決しなければならなかった。


 特務官の給料で集めた高級家具と、一室を占領するトレーニングマシン。

 これまで誰も踏み込ませなかった「城」に、初めての女性客が加わる。


 だが、那尻には次の課題が迫っていた。女性物の服の調達という難題に

 対し、姉妹が浴場を使っている隙に、女性の同僚へ相談することを決める。


 吉咲陽菜ならば、この難題における最善の協力者となるはずだ。

 那尻は玄関の扉を開け、廊下へ踏み出す。

 だが、そこには後輩の熊野が立っていた。


「ウォッ! 熊野、お前いつからそこに居るんだよッ!!」

「先輩・・・・・・」

「ん? なんだ?」

「さっき先輩が連れ込んだの、異世界人の女の子でしょ?

 報告義務があることくらい、分かっていますよね。僕たちは、

 日本の『平和』を守る側の人間なんですよ?」

「上に報告してみろ。あの子たちは二度と外に出られなくなる。

 お前は、組織に主導権を握られるのが正しいと思っているのか?」


 その瞬間、熊野の表情が険しくなり、彼は那尻に食ってかかった。


「自分の立場を考えろッ! あんたは世界に誇れる人だろッ!!」

「世界に誇れるって・・・俺は別に世界にどう思われても──」

「あんたが思わなくても、もう誰もあんたを無視できないッ!!

 あんたの評価が下がれば、僕ら特務も巻き込まれるんだッ!!」


 なんだそれ。俺の評価が、そのまま組織に反映される?

 組織は『平和』じゃなくて『名声』を守っていたのか。

 じゃあ、いままで俺は何のために頑張ってきたんだ──


 那尻は、自らの歩んできた道に、かつてないほどの違和感を覚えていた。

 上層部の冷遇、劣悪な労働環境。そんな現実に耐えられたのは、彼を

 支える仲間がいたからだ。しかし、今の彼には『疑念』となっていた。


 ──みんなで、俺を『安心』させていただけだったか。


 那尻が沈黙すると、熊野は優しく彼に答えた。


「代わりに、僕が買い物行きます。うち、嫁も娘もいるんで。

 異世界人の女の子たちの必需品も集められますから。先輩は、

 部屋に戻ってください。実は・・・公務庁が監視しています」


「マジか・・・陣堂長官の古巣じゃねえか」

「うちは公務や日本国防軍のキャリアを中心に組織されましたから。

 実は・・・僕の親父が公務なんです。僕は先輩と違って、血筋で

 特務庁に入庁しました。尾行や調査も、親父譲りなんですよ」


 熊野は俺を見張っていたのか。だが情報を伝えてくれたのは、

 こいつが組織での立場よりも、俺のことを考えて行動した証拠だ。

 熊野は組織より俺を選んだ。なら、俺もその想いに応えるべきだ。


 那尻は熊野のことを信用し、彼に姉妹の服や洗面用具の購入を頼んだ。

 熊野は持っていたサングラスを掛けると、足音を消して歩き始めた。

 忍者のような動きを見せて去る後輩を見送り、那尻は部屋へと戻った。


「あいつも、色々と事情を抱えた男だったんだな・・・」


 那尻がリビングに戻ると、そこにはバスタオル一枚で身を包んだ

 エッティンガー姉妹がいた。二人は冷蔵庫から勝手に牛乳を取り出し、

 我が物顔でくつろいでいる。汚れを洗い落とした肌からは白い湯気が

 立ちのぼり、彼女たちの表情は多幸感に満ちていた。


 呆然とする那尻の姿に気づいたレナが、彼に抱きついた。


「ダイスケ!! お風呂良かったのだッ! ありがとうなのだッ!!」

「分かったッ!! だから服が届くまで、ジッとしていなさいッ!!」


 数分後、熊野から預かった服を渡すと、姉妹はその場で着替え始めた。

 那尻は慌てて自室へ逃げ込む。やがて、誰かが部屋の扉を叩いた。


「お話があります。タクシーで途切れた、あの夜の続きを」


 シュリーナの声は低く、重い。那尻は覚悟を決めて居間に戻った。


 だが、そこにいた二人の姿を見た瞬間、彼は頭を抱えた。

 そこにいたのは、場違いなほど露出の激しい服に身を包んだ、

 令和のギャルそのものな姉妹だった。


 ──さっきお前に感動した俺の時間を返せ、熊野ッ!!


 しばらくすると、シュリーナは神妙な表情で、語りだした。


「私たちが2階から1階に降りると、母は亡くなっており、

 父は『銀色の拳銃』を握らされたまま倒れていたのです。

 翌日、父は刑務所に収監され、獄中で亡くなりました」


(あり得ん。犯人が凶器を握ったまま現場に留まるはずがない)


「凶器が日本製だったのが致命的でした。検察からすれば異世界の

 武器は国際問題の火種です。こちらが私が撮った写真になります」


(向こうの検察が日本人の犯行だと知り、事件を闇に葬ったのか?)


 シュリーナがテーブルに置いた一枚の写真。


 それを見た瞬間、那尻の思考が凍りつく。

 ――それは、特務庁制式採用のリボルバー拳銃そのものだった。


 写真の中の『拳銃』は、彼女たちの母の命を奪った真犯人が、

 自分のすぐそばにいるという事実を、無慈悲に突きつけていた。

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