第六話 双子の魔法使いは、本気出す
自らをメドラー姉妹と名乗った双子の魔法使いは、倒したホストから
財布を抜き取ろうと、彼のジャケットを漁り始めた。
その刹那──赤い頭巾と赤いマントを羽織る金髪碧眼の少女が怒鳴った。
「やめろ外道ッ!! 貴様らヴァドール人の誇りはないのかッ!!」
青髪のサイドテール、星型の瞳をしたウーナ・メドラーが振り返る。
目の前に背が低い、腕を組むレナ・エッティンガーと目が合った。
「あ? メスガキがッ!! テメェ、ブン殴られてえのかッ!!」
「私は許せないのだッ!! 魔法を犯罪に使う愚か者の同族がッ!!
魔法は弱者の学問ッ!! 弱者を冒涜するのは認めないのだッ!!」
レナとウーナが睨み合う中、赤いツーサイドアップの少女が告げた。
「弱者? 魔法はうちら強者のモノだろうが。何言ってんだテメェ?」
赤髪のネリーナ・メドラーは邪悪な笑みを浮かべた。レナは毅然と反論した。
「魔法は、力なき人間が知で生み出した学問だッ!! 力で解決できぬ、
様々な問題を、弱者が知恵を出し、解き明かしてきたッ! 弱者を襲う
魔物や権力者に対抗するために生み出されたのだッ! 恥を知れッ!!」
レナの熱弁を聞いたウーナとネリーナは、腹を抱えて爆笑した。
だが、レナの凍てつくような青い瞳は、まったく動じなかった。
その光景を見たウーナは苛立ち、瞬時にレナに敵意を向けた。
「ウゼェ・・・なら、弱え奴は無価値だと、テメェの体で教えるッ!!」
ウーナは手をレナの方に向け、脳内で魔法演算を始めた。彼女の微弱な
電磁波に反応した魔素細菌が青白く発光し、彼女の背後に数式で描かれた
魔法陣が顕現した。ウーナの星型の瞳が赤く輝き、彼女は魔法名を唱えた。
「水素制御ッ!!」
ウーナは空気中の水分子と魔素細菌を水に変換し、超圧縮した水撃をレナに
向かって撃ち込んだ。超高速のウォータージェットがレナの体を貫こうとする
刹那。レナも両手を突き出し、脳内でアルゴリズムを組み、魔法名を叫んだ。
「粒子分解ッ!!」
目にも止まらぬ神速で細い水撃は霧散した。さらにレナは分解した水分子と
酸素を媒介に、新たな魔法のアルゴリズムを脳内で練り上げる。彼女は
『粒子』を操る魔法使いであり、原子や分子を自在に組み合わせるのだ。
大気中の分子を衝突させ、電子雪崩で自由電子の数を爆発的に増加させた。
レナはウォータージェットが持っていた運動エネルギーを電離エネルギーへと
変換し、大気圧下での強制電離を成す。青白い光球が彼女の掌に集約する。
「倍返しなのだァッ!! 電離気功砲ッ!!」
ウーナの水撃は、レナの手で熱線へと変換されて放たれる。
だが、そこに割って入ったのは姉のネリーナだった。
スカートから取り出した試験管を、地面に叩きつける。
純白の小麦粉と魔素細菌のガスが周囲を覆う。
直後、姉妹は手の平を合わせて、脳内で魔法を唱える並列計算を走らせた。
「同期魔法・究極弾性障壁ッ!!」
地球に存在しないヴァドール産の小麦粉と大量の水へと変換した魔素細菌が
分子結合を起こし、黄金色の壁がネリーナたちの前にそびえ立つ。プラズマの
熱エネルギーを、水分が『気化熱』として強引に奪い取っていく。
熱を失い、物質としての反発力を取り戻したプラズマ。それをグルテンが
持つ弾性エネルギーが包み込み、レナへと弾き返そうとした刹那。
「波動一新ッ!!」
大気が激しく共振する。同時に、グルテンを結合していた波動が
ノイズキャンセリングのように打ち消された。さらにレーザーを
構成していた光子も電子もバラバラになり、跡形もなく消滅する。
「ナ、ナニィイイッ!! あたしたちの・・・究極グルテンがァアアッ!!」
驚愕するネリーナの背後に、影が一つ。
黒髪糸目の少女――シュリーナが、技名を叫んだ。
「雅神一刀流、十六夜ッ!!」
シュリーナは仕込み刀の鞘を抜かず、みね打ちを16回、ネリーナたちに
叩き込んだ。双子は絶句したまま路上へと倒れ伏した。
「私はヒト以外に剣を抜きません。ですが手加減も出来ません」
シュリーナ──レナの実姉であり、『波動操作』と『剣術』の達人だった。
二人が異世界の『来訪者』を退治したのを目撃し、那尻は悩み始めた。
「どうするべきなんだ・・・こいつらのことは・・・」
那尻大輔は、世界で唯一の『時空操作使い』。二人がいかに強力な魔法を
使おうが、時間を止めて警察へ突き出すなど造作もない。だが、その正義の
心を理解できるからこそ、現行犯として捕らえることに迷いが生じていた。
考え込む那尻の姿を見つけたレナが、勢い良く彼に抱きついた。
「良かったのだッ!! 敵の『電磁波』から元気になったなッ!!」
目をキラキラと輝かせ、無邪気に笑うレナ。だが那尻は、密着したレナの
口臭と体臭の凄まじさに、あからさまに顔を曇らせていた。
(と、とりあえず・・・こいつらを寮の風呂に入れないとッ!!)
那尻は、そう心に決めた。その後、メドラー姉妹は警察官に
拘束された。彼女たちは二度と悪さをしないと心の中で誓った。




