第五話 双子の魔法使いは、語りかける
那尻大輔は、六本毘ヒルズへ向かうタクシーの中にいた。
同乗している異世界の双子から、強烈な異臭が漂っている。
那尻は呼吸を制限し、激しい悪臭に耐えていた。
「私は、レナ・エッティンガー。隣に座るのが姉のシュリーナだ。
父をハメた『銀色の拳銃』の男と『多魔手箱』を探しているッ!!」
いきなり何言っている。俺の背中を蹴り、ちゃっかり乗りやがって──
そんな俺を無視し、レナはさらに喋り続けた。
「あれは10年前のことなのだ。父のジャック・エッティンガーは人工知能の
研究者だった。数学者である母ミオナと共に、魔法のアルゴリズムを
自動で見つけるAIを開発した。両親の目的は、魔法の普及にあった」
魔法のアルゴリズム? なんだそれ?
「だが、ある日、私たちの家に東京という異世界の都市から来た男が
現れた。男は誰もが平等に魔法が使える世界にしたいと両親を説得し、
契約を結ばないかと言ってきた。父と母は、男を信用してしまった」
すると突如レナの目が潤んだ。過去のことを思い出し、感極まったのだ。
「私たちの星、ヴァドールでは魔法を発動する際に脳内で計算する必要がある。
魔素細菌が計算式をエネルギーにするのだ。事故や病気で障害を持つ者は
魔法が使えない。父と母は、魔法生成AI『多魔手箱』を開発したのだ」
うっ・・・こいつ、口も臭くて目まいがしそうだ・・・。
「東京から来た男は、超少子高齢社会の日本では様々な問題が起きていると
説明した。技術が遅れ、ロボットを動かすAIも作れないと言われた父は、
東京に行くと決めたのだ。そして出発前夜、悲劇が起きたのだッ!!」
あ、あ・・・ダメだ・・・もう意識が──
レナが感情的に話していると、彼女に頭を掴まれ、口臭を直に浴びせられた
那尻は白目をむいたまま、口から泡を出して気を失った。
それを見たレナは、青ざめた顔で那尻に向かって叫んだ。
「ナ、ナニィイイッ!!」
レナが那尻の体を激しく揺さぶり、反応を見る。
やがてシュリーナが、深刻な表情で話しだした。
「間違いないわ・・・『敵』が攻撃したようね」
「ま、まさか・・・この運転手かッ!!」
「レナ、後ろの車を見なさい。ずっと私たちの後を付けている。
あれは『銀色の拳銃』を持つ男が仕向けた『追手』ッ!!」
レナは血相を変えて、後ろの車を凝視した。そこにいたのは、優しそうな
男の運転手。後部座席で子供たちに楽しそうに話しかけている、茶髪の女性。
どう見ても、休日の微笑ましい親子連れにしか見えない。
「姉者ッ!! 敵は、敵は一体誰なんだッ!?」
「『全員』よ。敵は、私たちに親子連れと思わせる『電磁波』を
照射したと見て、間違いないわ」
レナは信じられないと驚きながら、姉の意見に賛同した。
「ナニィィイッ!! じゃあ那尻も、脳に攻撃を受けたというのかッ!!」
「ええ。さっきから私が『波動』を操作し、敵の電磁波を探っているけど、
なぜか反応しないのよ。おそらく超高度な妨害電波を使っているわね」
運転手が謎の会話をする姉妹に話しかけた。
「お客さん、そろそろ目的地に着きますけど、料金はどちらが払うんですか?」
シュリーナは、ニッコリと微笑み、運転手に告げた。
「父です。着いたら父に請求してください」
数分後、タクシーが止まった。
ドアが開くと同時に、レナとシュリーナは即座に飛び出す。
気絶した那尻は、運転手に何度も呼ばれてようやく目を覚ました。
──場所は変わり、六本毘ヒルズの路地裏。そこでは『決闘』が行われていた。
金髪のホスト風の青年が、赤髪と青髪の『双子の異世界人』に怒鳴りつけた。
「ふざけんなッ!! 売掛金払えやッ!!」
青髪サイドテールの少女は笑いながら挑発した。
「キャハハハッ!! テメェが『寄付』したんだろうがァ!!」
隣に立つ赤髪ツーサイドアップの少女は、男に告げる。
「口約束なんて、うちらの国じゃ誰も守らねぇぜ?」
その発言を聞いたホストは両手をかざした。地面の小石がふわりと宙に浮いた。
彼は、27年前の『異変』を機に、超常の力に目覚めた『覚醒者』だった。
「分からせてやるッ!! 斥力加速ッ!!」
男の周囲の小石が、不可視の反発力で弾丸のように射出される。
同時に、反動によって路上が軋む。
青髪の少女は、右手で弧を描きながら叫んだ。
「異元粉末ッ!!」
白い粉が周囲の空間に広がる。すかさず、赤髪の少女も魔法名を叫んだ。
「超凝結ッ!!」
細菌の放つ高周波の電場が、摩擦熱を抑えつつ、魔法の粉と水分子を
高速配列させ、グルテンの架橋を形成した。
黄金色のグルテンの壁が、男の放った石の弾雨をすべて弾き返す。
「ウギァアアッ!!」
男は弾力で加速した石を全身に浴び、力尽きるように倒れた。
「キャハハハッ! よっわぁ!!」
「ウリカケとか、卵かけとかよぉ・・・この国のヤツらはァ!
何でもカケたがるなぁッ!!」
二人は高笑いし、男の顔に唾をかけ始めた。メドラー姉妹──異世界でも
犯罪行為を繰り返す極悪の双子が、平和を脅かしていた。




