表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
那尻大輔は特務官である ─サイバーファンタジーの来訪者と本気出します─  作者: 南田華南


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/10

第四話 那尻大輔は、巻き込まれる

 この『時』を、逃してはならないッ!!

 吉咲さんと付き合ってみせるッ!!


 那尻はキリッとした表情で答えた。


「もう安心してください、皆さんッ!! この国で、俺の目が届く以上、

 凶悪犯罪なんて起こさせませんからッ!!」


 その刹那、那尻の片目が水色に輝き、彼の姿がブレて消失した。時空を

 加速させた超光速の機動力。階段を駆け下り、エントランスに残像だけを

 残して建物外へと消え去った。


 その完璧なヒーローの背中を見届けた瞬間、捜査一課長、

 乃頭ノズ数行カズユキは満足げな表情で言った。


「はい、カット! いやあ・・・みんな、『演技』が板についてきたね。

 これなら・・・諜報部門でも『即戦力』として働けるよぉ?」


 乃頭の冗談交じりの言葉に、吉咲はねっとりとした甘い声で応じる。


「ええ~、嫌ですよぉ。私、そんなブラックな職場で働きたくありません。

 課長のそばで、私にできることを尽くしたいです♡」


「ハハハハハッ! いいねぇ、陽菜ちゃん! 僕が課長である限り、君を

 そんな場所へは行かせないよ。じゃ、今夜もデートしちゃうかぁ♡」


 乃頭と吉咲は、『汚い大人の関係』であった。


 乃頭は、バツイチで娘を養っているが、育児は国民の血税で雇った家政婦に

 丸投げし、自身は家に寄り付きもしない。対する吉咲は乃頭と付き合うことで

 過酷な特務庁での地位を保証させていた。二人は、『真の仲間』だったのだ。


 そして、那尻を熱狂的に信奉するフリをした他の職員たちもまた、

 乃頭に高評価をもらえるという理由で、この茶番劇へと加担していた。


 乃頭は人事査定に絶大な権限を持っていた。彼に逆らえば、今よりも

 悪い職場に左遷させられるのは確実だった。


 さらに乃頭は、長官や内閣府から、那尻を含む『異能覚醒者の公務員』に

 対する、ある『極秘指令』を受けていた。


 一、彼らの『自己肯定感』を徹底的に奪うこと。

 二、職場では、同僚こそが『仲間』だという『錯覚』を与えること。


 異能覚醒者が増長し、国家への反乱を企てるのを避けるため、彼らを

 甘やかしたり昇進させたりしてはならない。


 だが、孤立して退職されても困るため、同期や後輩には偽りの期待感を

 植えつけさせる。出世の道は塞ぎ、現場での信頼感だけを演出する――。


 乃頭を含む『特務庁』の管理職は、那尻のような魔法使いを組織に

 従属させ、囲い込みを行っていた。これこそ、この組織が編み出した、

 超常の力を持つ者たちの『公僕アルゴリズム』だった。


 一方、そんな闇を知る由もない那尻は、すでに限界を迎えていた。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・や、ヤバい・・・頭が・・・」


 連続魔法の代償が、彼に襲いかかる。もはや現場まで走り抜く力は、

 残っていない。那尻は地に膝をつき、途切れる呼吸を繰り返す。

 加齢による体力低下が、彼を着実にむしばんでいた。


 那尻は情けなく肩で息をしながら、背広からスマホを取り出すと、

 必死の思いでタクシー配車アプリを起動した。


 数分後。


 彼の前に救世主の如く黒塗りのタクシーが到着し、静かに自動ドアが開いた。


 息切れし、足をガクガク震わせながら、世界最強の時空操作使い──那尻は、

 白いマスクで口元を隠す運転手に行き先を伝える。


「お客さん、どちらまで?」

「・・・ええと・・・六本毘ヒルズまで──」


 彼が、白い座席シートに手をついて車内に滑り込もうとした、次の瞬間。


「確かめさせてもらうのだッ! 本当に『最強の魔法使い』なのかをッ!!」


 突然、赤い頭巾とマントを羽織った金髪碧眼の少女が、那尻の背中を

 容赦なく蹴り飛ばし、そのままタクシーの座席へと転がり込んできた。


「いてぇええええええ!! お、おい、誰──」


 那尻が抗議の声をあげようと口を開けた瞬間、少女の強烈な『臭気』が

 彼を襲った。何日も風呂に入らず、洗濯もしていない服から悪臭がした。


(クセぇえええええッ!!)


 悶絶して鼻を覆う那尻の横に、仕込み刀を持った糸目の少女が乱入。

 彼女も負けじと超絶に臭く、そのまま運転手へ淡々と告げた。


「私たちは、生き別れの娘なのです。父は、私たちを海外に捨て、

 この子は慣れない日本語で、必死に愛情を表現したに過ぎません。

 父を蹴ったのも、私たちが育った国ではごく普通の習慣です」


 そんな雑なウソに、タクシー運転手は心底面倒くさそうに言った。


「あ、そうすか。じゃお客さん、三人でご利用ってことで良いですか?」


 那尻は、全力で首を横に振ろうとする。だが、赤頭巾の少女に両手で

 ガッシリと頭を固定され、身動きが取れない。少女は運転手に怒鳴った。


「急ぐのだッ!! 既に競争レースは始まっているッ!! 終わってからでは

 何も得られぬ負け犬なのだッ!! そう父が言っているのだッ!!」


 運転手は、後で警察に報告すればいいかと思い、アクセルを強く踏み込んだ。


 エッティンガー姉妹。異臭を放つ『来訪者』である彼女たちは、那尻に

 叶えてほしい『望み』があった。だが、ようやく那尻と巡り会えた瞬間、

 彼女たちが那尻に与えたのは、猛烈な悪臭という最悪の第一印象だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ