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那尻大輔は特務官である ─サイバーファンタジーの来訪者と本気出します─  作者: 南田華南


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3/10

第三話 那尻大輔は、告白される

 長官室の扉を静かに閉めた那尻大輔は、その静寂とは裏腹に、

 胸の内でドス黒い感情を渦巻かせていた。


 ──俺だって、誰かに感謝されてぇよぉッ!!


 どんなに強力な力を持っていようと、現場の穴埋めに使われる『補充品』。


『異能防衛特務庁』。警察省や防衛省のキャリア組が牛耳るその強固な

 派閥は、異能覚醒者である『魔法使い』を完全に制御下に置いていた。


 人が生成AIを利用するように、権力者が超常の力を「使いこなすべし」。


 それが彼らの理屈だった。世界で唯一『時空操作魔法』を扱う那尻とて

 例外ではない。権謀術数を極めた者達の前で、彼はただの若造であり、

 組織という不可視の『力学』に組み込まれる『分子』に過ぎなかった。


「はぁ・・・さっさと報告書を終わらせるか」


 那尻は嘆き、片方の水色の瞳に冷徹な光を宿した。彼の周囲に『加速時間』が

 生成される。次の瞬間、彼は一瞬にして自室のオフィスへと移動し、デスクの

 キーボードに手を置く。常人には見えない超光速のタイピングが始まった。


 彼の表面は薄い「時空膜バリア」が展開されており、どんなに領域を加速させても

 彼は老化しないのはそれである。同時に、彼が触れた物質は一時的に彼の

 『固定された加速時間』へと組み込まれる。本来なら、キーボードを瞬時に

 摩擦で消滅させ、モニターの回路を焼き切る。だが、那尻の『加速時間』と

 彼が認定した『物質』を魔法で同期させることで、完璧に抑え込まれていた。


 周囲の職員が微動だにしない時空間の中、那尻は頭の中で激昂していた。


(労いの言葉は一日の最後? フザけんじゃねえッ!! あんたがずっと窓の外を

 見ている間、俺ら下っ端は必死に働いているんだよッ!! あんた達からすれば

 AIと同じように命令通りに動く道具かもしれないがァ!! 俺たちは同じ血が

 通った生物だろうがァ!! 死んだ後にありがとうじゃ遅せえんだよッ!!)


 理不尽だった。

 特務長官・陣堂ジンドウに「生成AIを仕事で使いたい」と伝えた結果がこれだ。

 那尻が時空を操れば資料作成の時間も短縮できるという身勝手な判断で、

 彼だけが、脳を激しく消耗する魔法を使い続けることを強いられていた。


 時間を極限まで加速させ、那尻は1分にも満たない現実時間の中で、報告書を

 含むすべての必要書類を叩き出すように完成させた。


 張り詰めた神経を緩め、彼が深く重いため息を吐き出そうとした――その瞬間。

 カチャ、と那尻の机の上に、温かいコーヒーのカップが置かれた。そこには、

 特務庁で最も美人と評判の「吉咲ヨシザキ陽菜ヒナ」が立っていた。


「那尻先輩、お疲れ様です。何か手伝えることありますか?」


 ――その瞬間、俺の顔はだらしなく緩んだ。


 両親から引き離され、周りが覚醒者だらけの環境で育った。

 大学も行けず青春を奪われた俺は、恋愛経験が皆無だった。


 職場で唯一優しくしてくれる吉咲さんに、俺は恋をしていた。

 今日こそ彼女の気持ちを確かめる――そう決心した、その時。


「先輩ッ! 事件ですッ! 今すぐ出動してくださいッ!」


 後輩の熊野クマノ尊道タカミチによる、最悪の間合いでの乱入だった。


 彼はいつも那尻が息を抜く瞬間を見計らったように現れ、鮮やかに仕事を

 押し込んでいく。この前の休憩時も同様だ。那尻はその天性の立ち回りに、

 熊野という男が苦手だった。


「こんな時に──」


 那尻が積年の怒りを叩きつけるように、眼鏡を掛けた平凡な体型の男――熊野を

 睨んだ。だが熊野は臆せず、冷めた態度の那尻の顔を見ながら熱弁をぶつけた。


「何ヒヨっているんですかッ!! 日本中、いや世界中の人が、先輩が事件を

 解決するところを期待しているんですッ!! ヒーローが泣いている人たちを

 忙しいからと見捨てるんですか? 大いなる力には大いなる責任が宿るッ!!」


 なんか色々パクったセリフだッ!!


 説得する熊野に呼応するように、周囲の職員たちもゾロゾロと集まってきた。


「俺らじゃ出来ないことをやってのけるッ!!そこに憧れる子供達が先輩の

 背中を見て育つんです。息子も、先輩のようになるって言ってますッ!!」

「私たち女性職員も、先輩のおかげで平和に暮らせているって感謝してます。

 お願いです、私たちの代わりに世界を救ってくださいッ!!」

「那尻君、みんな我が国のスーパーヒーローである君を頼りにしている。

 君が立ち上がる時はいつだ? 今しかないでしょッ!!」


 なんだこの空気は。俺はいつからヒーロー扱いされるようになったんだ?


 老若男女問わず、職員たちの目は完全に俺を崇拝していた。

 逃げ場を失った俺の前に、間髪入れずに吉咲さんが歩み出る。


「先輩。たとえジンドウ長官にパワハラを受けても、思い出してください。

 私たちは先輩の味方です。ずっと私たちは先輩の『仲間』ですから」


「えっ・・・それって──」


 吉咲は瞳を潤ませ、呆然としている那尻の目をじっと見つめて告白した。


「私・・・・・・仲間のために働く男の人が、大好きですッ!!」


 吉咲さんの好きなタイプを聞いた瞬間、俺の死んだ魚のような目は一変した。

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