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那尻大輔は特務官である ─サイバーファンタジーの来訪者と本気出します─  作者: 南田華南


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第二話 世界最強の公僕と異世界の来訪者

 那尻は背広の内ポケットから手帳を差し出し、現場の指揮官に告げた。


「異能防衛特務庁捜査一課所属、那尻大輔です」

「特務か。被疑者確保の迅速な協力、感謝するッ!!」


 藍色のヘルメット越しに、隊員が深々と敬礼を送る。那尻はどこかバツが

 悪そうに視線を逸らし、ポケットに手を突っ込んでその場を立ち去った。


 ――同時刻、現場を見下ろす雑居ビルの屋上。息を潜めていた特殊部隊の

 観測手が、スコープから目を離して小さく息を漏らした。


「あいつか・・・噂の・・・世界最強の時空操作使い、那尻大輔ッ!!」


 異世界の力である『魔法』を国力として取り込んだ日本。


 それは他国からの侵略すら防ぐ盾となり、那尻大輔はその平和を支える

 象徴的な存在となっていた。警視庁の猛者たちですら、彼には一目を置く。


 だが、その絶対的な平和のシンボルであるはずの男は今、嘆いていた。


「世界最強になっても、ずっと昇進できないんだよなぁ・・・」


 彼が現場で活躍するたびに、組織は彼の昇進を遅らせた。いつまでも現場の

 『便利屋』として置かれ、給与が少しばかり高いだけで、待遇の改善もない。


 正義感や使命感に燃える同僚たちを、那尻は冷めた目で見つめる。自分は国に

 『こき使われている』だけだ。かつて退職を申し出た際、上司から『日本の

 安全を脅かす気か』と怒鳴られて以来、彼は諦めを抱いていた。国のために

 尽くす『滅私奉公』の精神という名の、重く冷たい『オリ』が彼を閉じ込めた。


 そんな那尻の孤独な背中を、雑踏の中から鋭く見つめる視線があった。


姉者アネジャ、あれが那尻大輔なのだ・・・」


 青白い眼を輝かせ、赤い頭巾とマントを揺らしたのは、金髪ショートの少女。


「レナ・・・私たちの『手がかり』は見つかったわね」


 黒髪のポニーテールに、深緑のローブ。赤鞘あかさやの仕込み刀を携えた糸目の少女――

 シュリーナは、その口元に妖艶な笑みを浮かべた。


 彼女たちは足音を消し、静かに那尻の後を追い始めた。


 地下鉄の改札を抜け、長く続く駅の階段を上りきると、そこは神住関かすみがせきだった。

 地上には巨大なビル群が冷徹にそびえ立ち、グレーや黒の背広に身を包んだ

 大人たちが、せわしなく行き交っている。


 神住関――。

 各中央省庁の庁舎が立ち並び、隣接する永馬ながま町と共に、日本の首都機能を

 一手に担う場所である。そこは日本を代表する最高峰の官公庁街として知られ、

 那尻が所属する国防機関『異能防衛特務庁』の本部もまた、居を構えていた。


 那尻がゲートウェイで軽く手を挙げると、警備員たちは慣れた様子で会釈を

 返した。その刹那、那尻は時空操作魔法を発動し、忽然と姿を消す。


 だが、職員たちは誰一人として動じない。彼が普段から『時空加速』の

 超高速移動を使い、一瞬で長官室へと向かうのを知っているからだ。


 ――同時刻、建物の外。


 冷たいビルの柱の影。那尻の背中を見送っていたシュリーナが妹へ声をかけた。


「レナ、あれを使うわよ」


 レナは無言で頷き、姉の差し出した右手に自らの左手を重ねる。

 弾ける青白い粒子。二人は息をぴったりと合わせると、魔法名を唱えた。


量子同調クオンタム・シンクロッ!!」


 双子の魔法使い──エッティンガー姉妹。

 彼女たちは、世界の根幹を成す『粒子』と『波動』を司る魔法使いであった。


 姉のシュリーナは電磁波や音波といった『波動』を自在に操り、妹のレナは

 物質の原子や分子の操作を真骨頂として、あらゆる物理干渉を可能とする。


 本来は別々の事象。だが、手を取り合い、その精神を完全に同調させた瞬間。

 彼女たちの魔法は、宇宙の法則すら書き換える、『量子操作』へと昇華する。


 二人は『粒子』と『波動』を高次元で掛け合わせ、彼女たちの目の前に、

 未知の機構を持つ『量子ドローン』を物質化させた。


 ふわりと空中へ浮かび上がるドローン。それを見据え、シュリーナは

 周囲の『波』を自在に操り、無数の光子を集約させていく。


光子隠密フォトニック・ステルスッ!!」


 その声と同時に、ドローンの輪郭が歪み、周囲の景色へと溶け込んだ。

 視覚からも、あらゆるレーダーからも遮断された不可視のドローンは、

 音もなく浮上し、そのまま『特務庁』の本庁舎へ向けて飛び立った。


 那尻がノックをして扉を開けると、眼前に立っていたのは、手を後ろで組んだ

 大柄な男の背中だった。男は那尻へ視線すら向けず、窓を見つめたまま言った。


「報告しなさい」

「本日未明、天宿区一丁目交差点にて人質強盗の被疑者を制圧。

 警視庁へ犯人の引き渡しは完了致しました。報告は、以上です」

「そうですか。今は、君の『力』を借りる事件は起きていません。

 持ち場に戻り、速やかに報告書をまとめなさい」

「あの・・・長官」

「なんです?」

「労いの言葉とか、ないんですか?」

「労いの言葉とは、一日の最後に伝えるものです」


 那尻の顔が、引きつった。魔法使いを都合のいい『公僕』と扱う環境。

 あと何年、自分はこの組織に、この国に尽くさねばならないのだろうか。

 この底なしの現実に、那尻大輔はただ静かに、辟易するしかなかった。

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