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嘘吐きエリスタの最後の嘘  作者: はぎま
身辺整理編

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351/363

もう何回泣くのよ

 

「わぁぁぁっ! これも作ったんですかぁー? すっごいですねー」

「実は魔剣として使わなくても凄いんですよ。ほらっ撫でるだけで紙がスパスパ斬れます」


「おぉぉぉぉ! えっ、じゃあ魔剣じゃない普通の剣とか無いんですか?」

「ありますよ。でも先ずはこれを見て下さい。この包丁凄いんですよ、適度な切れ味に野菜もくっつかない優れものです」


「へぇー包丁ですかーっ、私得意なんですよっ…………ん? あれ? えっ? ちょっと待って下さいっ! これ鬼神メイラの作品じゃないですかぁぁ! ふわぁぁぁっ! こんなに綺麗なの初めて見たぁぁぁぁ!」

「あっ、やっぱこれ見なかった事にして下さい」


 ガシッと手を掴まれた……ヤバい、獲物を見付けた目だ。

 なになに怖い怖い。メイラさんの作品ってそんなに有名なの? 他の包丁との見分けが付くように刃紋が特徴的なのだが……わかる人にはわかるのか……


「どうして、鬼神メイラの包丁を? こんな完璧なもの有り得ませんよ? 教えてくれないとマジ泣きしますよっ! ずっとずっとずっと探していたんですよ、これと、同じものぉっ!」

「わ、わかりましたからっ、教えるから圧かけないで下さいっ。友達なんですよっ!」


「……へぇー、友達? もう何百年も前に亡くなっているのに、友達? へぇー、どうして、ですか?」

「あっ……子孫と、友達……」


「へぇー、子孫? 独身だったらしいですよ? 鬼族の里に行った時に聞きました。私、そことも取引あるんです」

「うぐっ、そう、でしたか……幅広いですね」


「で? 本当の事は?」

「友達から貰ったんですーっ! そういう事にして下さいっ! これあげるんで見逃してっ!」


「…………ふへっ、完璧な状態……あぁ、今なら幾らするのかしら……千、いや億はするわねぇ……あの時オークションで負けて悔しかったけれど、この時の為だったのねぇ……良いの? ほんとに良いの? 遠慮なく貰っちゃうよ? はぁ~……き、れ、い〜」

「……」


 どうやら地雷を踏んでしまったようだ。ウルさんって歴史オタクで珍しい物のコレクターだから、メイラさんの作品は危険な気がする。魔剣も鬼神メイラの作品だと気が付く前に王妃よっ! 早く戻って来てくれっ!



 コンコン

「ルクナ様……」

 侍女来たっ! 早く来いっ! この人ドSなんですっ!


「あれ? もしかして……」

「っ、侍女さんどうしましたー? 王妃様はまだですかー?」

「あぁあの……ミルエルナ王女殿下が同席したいと申されていまして……王妃様に確認したところ、ルクナ様が宜しければという事なのですが……」


「じー……」

「えーどうしよっかなーっ、ミルル王女って私の事嫌いなんですよねー? わざわざ同席したい理由はなんですかー?」

「嫌いかどうかはわかりかねますが……どうしてもお会いしたいそうで……」


「あーじゃあこのエメラルドグリーンのジャージで来るなら会っても良いですよ。シャツはこれです」

「……流石に、それは」


「ジャージで色違いのお揃いなら親近感が湧くかなーって思っただけです。可愛いから似合いますよ。嫌だと言われたら返して下さい」

「……わかりました。お伝えしてみます」


 ……あっ、侍女さん行っちゃった。

 そういえばミルルの侍女であんな人居たな。王妃の侍女じゃなかったか……


「ねぇーえ、ルクナちゃん?」

「……なんでしょうか?」


「この魔剣、誰が、作ったの?」

「既存の剣に私が加工した宝石を嵌め込んだので、私が作った作品ですねっ」


「ふぅーん。へぇー。そぉーなぁんだぁー。すぅっごい良い剣よねぇー。この細剣だけで、幾らしたのぉー?」

「そこは仕入れの兼ね合いで言えませんよ。先方には安くして貰っているんですから。これは性能が良過ぎるので、別のものでまた話し合いましょう」


「やだっ! ルクナちゃんがお蔵入りにした商品を何故かミカが持っているのっ! ミカのお小遣いじゃ絶対買えないのに何故か何個も持っているのよっ! 誰かにあげるくらいなら売らせてっ!」

「怒らないで下さいよ。ミカが可愛いからつい、ね? 因みに1本幾らで買います?」


 ウルさんが手のひらを出した。

 ……500万か、まぁ思い切ったわね。500万なら利益率が良いね。原価5万だし。


「5000万出すわ」

「えぇ……迷宮産より高いじゃん……」


「ルクナちゃんなら、5000万じゃ売らない。原価が安い場合は罪悪感が出てしまうから……適正価格を言うのは今の内よ? じゃないと本当に5000万で買うわよ? 友達のお母さんにぼったくるような子じゃないものねぇー」

「うわドS……はいはいわかりました、300万でどうです?」


「はぁっ!? さんびゃく? たったの300? 原価おかしいんじゃない? 剣だけで1000万はする名剣よ?」

「だから怒らないで下さいよ。安定供給が出来ない上に私の趣味剣ですよ? 不良在庫を引き取って貰うんですから適正価格です。本当はもっと良い剣があるのですが、それはこの魔剣が広まってから出そうと思います。どうです? 乗ります?」


「ははーん、なるほど。乗ったっ!」

「はいじゃあハイターッチ」


 ウルさんと取引成立のハイタッチをしたところで、顔を真っ赤にさせたミルル王女がやって来た。

 金髪ツインテールにエメラルドグリーンのジャージ……あーしまった、体操シューズを渡していなかった。


「きっ、着てあげたわよっ!」

「わぁー、かっわいー。シャツも来てくれた? おっ、良いねー。ウルさんっ、お揃いですっ」

「お似合いですねー。ジャージは非売品なので羨ましいですねぇー。着たくはないですがー」


「変な色の服着せた罪は重いわっ」

「えーじゃあ私は毎日罪人じゃないのー。ミルルちゃんっ、かぁわいいねぇー」


「その名前で呼ばないでっ! くっ……恥ずかしい」

「良いじゃーんミルルちゃんは私の事をルクナちゃんと呼ぶ事。良い?」


「……いや、なんかいや」

「えー呼んでよー。1回試しに呼んでみてっ、はいっ、ルクナちゃんって」


「……ルクナ、ちゃん」

「なぁーあーにっ、ミルルちゃんっ。あーお持ち帰りしたいっ! 可愛いぜっ!」


 その真っ赤な顔をペロペロしたいが、ここでやったら色々問題が起きる……アルセイアの妹ってだけでヨダレすげえんだ……しかもジャージだぜ? 今9歳くらいでしょ? 強がっているところも可愛いくて可愛いくて……くっ、誰か私を止めてくれっ!


「やめてよっ! 私、知っているんだからっ! みんなを騙している事っ!」

「騙す? うん、結構騙すの得意よ。どんな噂があるの?」


「実は王都に住んでいるんでしょ? ノースギアなんて嘘っ! 毎日御姉様に会いに来ているの知っているんだからねっ!」

「あぁ、家はノースギアにあるよ。毎日家から来ているのよ」


「どれだけ遠いと思っているの? 毎日? 意味がわからないっ!」

「まぁそうよね。ミルルちゃんには特別に、教えてあげようか?」


 ちょいちょいと手招きをすると、素直に耳を近付けてきた。耳……みみ……美少女のみみ……ペロペロしたい……ぐぅっ、静まれ私の邪な心よっ!

 なんかルゼル様に会ったくらいか、娘さんと会ったくらいから美少女欲が増している気がするのよね。


「……なに?」

「私ね、転移魔法が使えるの」


「っ! なん、ですって! 伝説のっ!」

「こらっ、周りにバレちゃうでしょ? 聖女ライザも転移魔法使えたんだよ」


「えっ本当っ?」

「うん、しかも地図さえあればどこにでも行けたの。ミルルちゃん、ここ座って。ミルルちゃんとお話しがしたいんだ」


 椅子に座って太ももをポンポンとすると、少し考えた後に太ももに座ってくれた。

 ふぉぅっ、ジャージだから尻の感触が素晴らしい……ふっ、ここに座ったらもう離さない。腰に手を回して肩を抱いて落ちないようにしないとねっ。

 至近距離だから内緒の話も出来るわねっ。


「お姉様と居る時、私には見向きもしなかったのに……なんで?」

「アルセイアが居たら妹のミルルちゃんとどう接するかを決めるのは、アルセイアじゃない? 元々私はミルルちゃんと話したかったけれど、侍女達は王妃様寄りだったからね。私と王妃様って結構難しい関係なのよ」


「難しい? どんな?」

「大好きなアルセイアのママで、大嫌いな王子のママでもある。アルセイアのママとして会ってくれたら仲良くするし、王子のママとして会ったら険悪になる関係なの」


「お兄様が嫌いなのは……ルナードの事? ルクナって、ルナードの、婚約者、だったんでしょ?」

「ルナードの件なのは確かだね。実は私ね、ルナードの婚約者じゃなかったんだ」


「えっ、そうなの? お兄様凄く落ち込んでて……でも、ルナードの事虐めてたって知ってから……お兄様の事なんてどうでも良くなっちゃったの……私って冷たいのかな……あっ、今の聞かなかった事にしてっ! 私なんでこんな事……」

「私と一緒に居るとみんな正直になっちゃうみたいよ。ミルルちゃんが王子の事なんてどうでも良いのは私と一緒だねっ。ねぇねぇミルルちゃん、将来はどうするの?」


 将来について聞かれ、私を見て首を傾げた。

 ……特に考えていないって事で良いのかしら? まぁ王位がどうこうなんてよくわからないのは確かだよね。

 ところで王族って何人居るのかしら? アルセイアにしか興味無かったから全然わからねぇ。


「……わかんない。ルクナ、ちゃんは?」

「私はもう自立して自分で商売をしているから、今のところは規模拡大かなぁー」


「……学院には、通っていないの?」

「うん、最近まで通っていたけれど通えなくなった」


「どうして?」

「絶対不可侵に認定されたの。そうなったら学院には通えなくなるんだ。影響力が高過ぎるから」


「……? 寂しく、ないの?」

「寂しいよ、もうみんなと同じ教室で学べない。学院終わりにカフェなんて出来ないし、完全に孤立した存在になってしまった……私ね、終わりにしたくなくて、学院のみんなにお別れの挨拶を言っていないんだ」


 ミルルはなんで通えないのかよく理解していないが、口を尖らせて黙ってしまった。

 なでなで……ミルルの髪飾りは、昔に私があげたもの……ずっと着けてくれているから、紐が擦り減っていた。


「……触らないで、私の宝物なんだから」

「これね、私が作ったんだよ」


「っ! そうなのっ!?」

「うん。このままじゃ紐が切れちゃうから直してあげるよ」


「……ぅん。ありがと」

 ……くそっ、ちゅーしてえな。健気過ぎて罪悪感で胸が痛い。

 紐を直して再びツインテールにして、小さな箱に予備と他の髪飾りを入れて渡した。


「これはプレゼントだよ。いらなかったら侍女さん達にでもあげて」

「……ありがとう。ルクナちゃんって、優しいんだね。お金、払うから」


「試作品だからお金なんていらないよ。こうして王女様を独り占めしているから、私がお金を払うべきだよ」

「……私、なんにもない。なんにもないのに、みんな私に頭を下げるの……お姉様の方がずっとずっと凄いのに……私が王女じゃなかったら、こうしてくれないでしょ……」


「君が王女じゃなかったらもっと早くこうしていたよ。例え平民だとしても、私はミルルちゃんを絶対に見付ける。可愛い子を見付ける運だけは人一倍有るから、絶対見付けて抱き締めてあげるね」

「…………」


 ミルルが顔を寄せ、私の眼をジーッと見詰めた。

 私も眼を見ているのだが、急に目が泳ぎだしたな……どうしたん? 眼を見て、下を向いて、また眼を見て……視線から逃げるように抱き締められた。

 ……? ウルさんを見ると、メイラ包丁をウットリと眺めているので私に気を向けていない。

 ミルルが私の太ももを跨ぐように体勢を変えて、密着度合いを上げていた。

 温かい……手は腰と背中にあり、腰を少しグイッと押すとミルルの股間が私の下腹部に擦り付けられた……ミルルの首筋にキスマークを付けたいが、付けたらアルセイアにボコボコにされる未来が見えた。

 この体勢……ウルさんが居なかったら確実に生尻触っている。

 美少女の吐息が肩に当たっているのは生殺しだと思うのよ。


「……私の事、好きになってくれた?」

「……ぅん。あの、今から変な事、言って良い?」


「うん、良いよ」

「……ルクナちゃんが、ルナードなの?」


「……」

「もし、そうだったら……ルクナちゃんに、恋してたんだって思ったの……そしたら、顔見れなくなっちゃって……ご、ごめんなさい……変な事言って……」


「……変な事じゃないさ、ミルルちゃんは私の事……ルナードくらい好きになっちゃった?」

「……ルナードの方が、上……だと思う」


 肩を持ってミルルの顔を覗き込むと、ジャージで来た時みたいに顔が真っ赤になっていて視線を合わせず口を尖らせていた。


「じゃあ……私がルナードだったら、ルナードより上に行ける?」

「そ、そりゃあ……まぁ、うん」


「今から言う事は、周りには秘密に出来る?」

「ぅん……できる」


「約束だよ。特に王子なんかに言ったら大変だからね」

「……お兄様には絶対言わない」


 ……ウルさんをチラリと見ると包丁を真上に掲げてだらしない笑顔だった。

 よしっ! 布を出してミルルと一緒に被った。これでナニしても見えないっ!

「私が、ルナードだよ」

 私の答えにミルルが私に目を向け、目が合ったので両手で顔をこちらに固定してしまった。

 見詰め合いながらゆっくりと顔を近付けると、ミルルの目が閉じて唇を差し出すように顎が上がった。

 唇の先が触れた瞬間……

 コンコンとノックが鳴った。

 直ぐに布を仕舞ってミルルの顔を胸に抱いてどうぞと言うと、侍女が入って来て王妃が間もなく来るよの連絡を受けた。

 侍女がこちらを見てビクッとしたな。視線はミルル……多分、邪魔されたからめっちゃ睨んでいるのだろう。

 侍女は直ぐに礼をして去って行った。


「ぅぅ〜……」

「ミルルちゃん、後でね」


「ぅん……あの……ルクナちゃん……」

「なぁに?」


「……しゅきです……きゃっ」

「……可愛いなぁおい、くっ、だめだっ、可愛いすぐるっ」

「ルクナちゃーん、ミカも貰って下さいねー」


 えっ、良いんすか?

 本当に貰いますよ?

 また手をパーにした。5億で買えって? 娘で商売すんなよ。

 ミカ泣くぞ。

 おっ、やっと王妃が来たな。


「お待たせしたわねっ……エルナ?」

「王妃様、エメラルドグリーンはやっぱり恥ずかしいという事で私が胸を貸した次第です」

「……お母様、頑張ったので褒めて下さい」


「その勇気、讃えるわ。ルクナ、なんて色のもの渡すのよ……エルナが可哀想よ」

「ミルルちゃん、シャツ見せてあげな」


 ミルルが体勢を直してジャージのチャックをジジジと下げると、乳首部分にリボンが付いて『ファッション☆エターナル』と書かれた目の痛い黄色いシャツがお目見えし……

「エルナああぁぁぁぁぁっ!! いやぁぁぁぁ!!」

 王妃が発狂した。


「王妃様っ! 何事ですかっ!」

 入口付近で叫ぶもんだからめっちゃ人が来たんだが……ウルさん、失礼なので指差して笑ってはいけませんよ。

 マーガレットさん、かわいいーどこで売ってんだろーとか呟いたら私がセイラン用にプレゼントしてしまうので親子関係が崩壊しますよ。

 みんな来るもんだからミルルが可哀想じゃないか。

 沢山の人にファッション☆エターナルを見られるんだぞ? 王妃、それはミルルに対しての嫌がらせになるぞ。


「エルナ……駄目よっ! そっち側に行ってはいけないっ! 今なら引き返せるわっ!」

「何が起こったんだっ! お母様っ! どうなさいましたかっ! えっ? ルクナ……」


 おー王子、久し振りだなー。お呼びじゃねえぞー。

 しっしとやると、ミルルもしっしとやってくれた。よーしよーし偉いぞー。


「ジャージは百歩……いや千歩譲って我慢するけれどそのシャツは駄目よっ! 人生の汚点になるわっ!」

「酷くね? セット売りだったからどっちかめっちゃ迷ったんだよ。優勝したから良いけれどさぁ」

「……お母様、ルクナちゃんがせっかくプレゼントしてくれた服なんです。そんな酷い事言わないで下さいっ!」


「い、いや、考え直して欲しいだけよ? その道は、茨の道よ? 年中ジャージの女になって欲しくないのよ。毛玉付いても気にしない女になって欲しくないのよっ! ルクナはクソダサ王決定戦の優勝者なの、悪い事は言わない……お母さんの所に来て」

「それ言う? 今言う? クソダサ王って言いたいだけじゃん。普通に怒るぞ? ぁあ?」

「わたしっ! ルクナちゃんに憧れているんですっ!」


「そこを憧れないでよぉぉもっと良いところあるわよねぇぇなんで寄りによってクソダサなのよぉぉやっぱりジャージも駄目よぉぉルクナぁぁごめんなさいぃぃこんなのあんまりよぉぉ私が悪かったからぁぁ全部全部私が悪いんだからぁぁエルナだけはエルナだけわぁぁぁ」

「元気になって良かったな王妃様よぉ? アルセイアもジャージ大好きだからなぁ、これで姉妹揃ってジャージの餌食になったって事だっはっはっはっ! 許して貰えると思ったか? こんなもんじゃ済まさねえよぉっ!」

「凄い……お母様を打ち負かした……」


 王妃、泣くなよ。

 クソダサ王とか言うから悪いんだ。憧れるのは良いだろ。なんでクソダサに憧れているって思考になんだよ。情緒不安定過ぎて引くぞ。

 慈愛の王妃って仇名どこ行った?


「ルクナ……許して……それだけは……」

「王妃様、私をクソダサ王と言った罰です。2連覇を達成している友達を差し置いてクソダサ王なんて名乗れる訳ないじゃないですかっ! 許して欲しければ、この蛍光オレンジのジャージを着る事ですっ! さぁ、どうします? 許して欲しいんですよね? なんでもするんですよね?」


「ぐっ……せめて、違う、色を……」

「違う色? そうですねぇ……あっ、木目調のジャージがありました」


「ヒィッ! いや、いやよっ! ルクナがいやって言って良いって言ったからいやって言うわっ! 私、王妃なのよっ!」

「だからなんですか? 服を着る、ただそれだけじゃないですかぁ。それにノースギア王妃はジャージを見事に着こなしています。見ますか?」


「そ、そうなの? っ……なんで、こんなにお洒落に見えるの……」

「ふっ、ノースギア王妃は本物のお洒落さんです。あぁ王妃様はまだお若いですから、まだ、その域ではないのですかねぇふっふっふ。マーガレットさん、何色が良いですか?」

「えっ、良いの? セイランちゅわんと一緒が良いっ!」


 早速裏切ったマーガレットさんは、私から青いジャージを受け取ると直ぐに羽織ってそのまま私の方に立った。

 王妃がまた泣きそうだ。もうジャージの話は飽きたから終わってくれ。


「マーガレット……あなた……」

「王妃様、負けを認めて下さい。このままではルクナさんの思うツボですよ? 城内に王妃様がご乱心したと話が回ってしまえばやがてねじ曲がって民衆に伝わります。ルクナさんと王妃様が喧嘩したと噂になったらどうするおつもりですか? 私達はどう足掻いてもルクナさんには勝てないんですよ」


「くっ……わかった………………………ルクナ、今回は負けを認めてあげるわっ!」

「なんの勝負ですか? 私はお茶会の余興をしただけですよ。もう疲れたのでお茶にしません? はい、野次馬さんは出て行ってくださーい。ミルルちゃん、アルセイアとお揃いのピンクにする?」

「うんっ!」


「…………」

「王妃様、怒ったら傷口が広がりますよ」


 侍女さんに野次馬を追い払うように頼んで、ミルルにはピンクのジャージを渡したら駆け足で自室に戻っていった。

 王妃は口を閉じながら歯を食いしばっているので頬の筋肉がグイグイ動いていた。

 泣きながらなんでもするって言っただろ。何されても怒らないよって事でしょ?

 王子よなんで座ってんだ? そこミルルの席だから帰れや。


「さて……あぁもうお昼ですね。どうします? 今後の概要は伝えているので後日時間が合えばそれぞれの考えを聞く形でも構いませんが」

「……そう、ね。各情勢も見てからにもなるし……でも緊急性は高いのよ。もう少し話したい」


「んー……そうですねぇ……理想は各地域に1人以上派遣ですが、そんなに多くを管理出来る体制は作れません。そもそも信用出来る人が少ない……あぁそうだマーガレットさん、カサンドラさんってどうです? あの人暇そうなので」

「あぁ……忘れていたわ。声掛けて良いの?」


「えぇ、仲はとても悪いですが公爵家なので信用はあります。オレイドス家の宣伝にもなりますし、セイラン立ち合いになるのでボロ雑巾にされる覚悟が必要ですがね」

「そうね、調子に乗らないようにしてくれるから助かるわ。言っておくわねー……それと、王子様は何か言いたげですが? どうしました?」


 話を振るんじゃありませんよ。少しニヤニヤするのを隠すあたり、わざとなのだろう。

 まぁ良いよ、マーガレットさんにはこれから最大の心労……ウォル・ノースマキナとの両家顔合わせという地獄が待っているのだから。



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