母が楽しそうだったから良いのだがね……
……大ホールに城に居る全員が集められた……と思う。
壇上に上がっているのは私、ウォーエル、マリンさん、セイラン、ローザ……ナナリー撮影係で、エリちゃんとシャーリーさんは隅っこで見学だ。
真夜中なので眠そうな目でこちらを見る人や、何事かと困惑している人、顔面蒼白なメイド達、親戚っぽい人達、下を向くおっさんや怪訝な顔で見るおっさん、顔の引き攣っている王とアズ母が見てとれた。
皆は仮面を被った氷神巫女の表情はわからないが、私の隣に座っているマリンさんの唯ならぬ雰囲気だけは感じ取っていた。
「みんな、夜中に悪いわね。氷神教を利用して私利私欲を満たしている者が居るの。そんな奴らに氷神様を利用されてしまって、わたくしは悲しいわ。だから本日をもって、氷神教を終了する」
「「「──っ!」」」
『ウォルよ、もう祈ってくれぬのか?』
「御姉様、わたくしは今まで通りに祈ります。氷神教を終わらせるだけなので安心して下さい」
『そうか、なら良い。氷神教は元々ウォルが始めたものじゃから、好きにするが良い』
「はい。御姉様の名を利用して私腹を肥やした者は始末しておきます」
『ほっほっほっ、ノースギアの王よ』
「はいっ!」
『良い機会じゃ、ウォルの作った氷神結界は国で買い取り管理するが良い。わらわが力を入れるからもう千年は持つじゃろう』
「はいっ! 氷神様の仰せの通りっ!」
……王よ、皆の目が驚きと困惑で血走っているがマリンさんが氷神様って説明した?
みんな息していないくらい止まってんぞ。まぁ良いけれど、これで氷神教が終わるって言って納得するのか? 王はマリンさんには絶対逆らわない姿勢だから、もう決定なのだろうがね……にしてもマリンさんがノースギアの事情を汲んで発言しているのが少し意外だ。
いやいやいや、氷神結界を国で管理? それマズくね? 下手したらヴァルヒートが復活するだろ。
「御姉様、ありがとうございます」
『ほっほっほ、可愛い妹がこの国に閉じ込められているのが心苦しいだけじゃ。もう、用事は済んだか?』
「はいっ、もう全員に枷を付けましたのでっ」
『そうかそうか。してルナよ、頼みというのは人魚達が礼をしたいと言っている……会ってくれぬか?』
「うーん……人魚達ってちょっと怖いんですよね。それと、マリンさんはルゼル様に疑われています。それを解消しないと私はマリンさんと行動出来ません」
『……すまない。あの迷宮は、わらわには攻略出来なかった……あれは、裏の王が作った迷宮なんじゃ』
本当かどうかはわからないが、それならそれを先に言って欲しかったな。
デスちゃんが警戒しているから嘘だろうが、一度攻略しに行っているのなら話の辻褄は合うか?
まぁでも今直ぐにでもマリンさんに抱っこされたいくらいうずうずしているが、デスちゃんに怒られるので我慢だ。
「私としては今まで通りに接したいのですが、ルゼル様の了解が得られないと難しい状態です。後で伺う予定なので、聞いてみますね」
『あぁ……わらわはお主を好いておる。だからあの時一緒に行っていればと後悔している……すまない』
「私もマリンさんの事が大好きですよ。まぁとりあえず後でデスちゃんとルゼル様の所に行って来るので、その後に話しましょう」
『では、手紙を書こう。ルナの家に行っているから、寄ってくれ』
落ち込んでいる感じで壇上を降りて、真っ直ぐ歩いて行ったから城の人達が直ぐに避けて頭を下げていた。
氷神教はもう無いので頭を下げる必要は無いのだが、本能的に下げてしまうのは仕方がない。
マリンさん曰く、御神体が無い状態で陸の者が祈っても意味が無いらしい。だから氷神教なんて要らないし、ウォーエルだけが祈っていれば良い。
マリンさんが去って、大ホールは騒然となった。
そりゃ氷神様が居たんだもん。
「おかぁさん、犯人探しする?」
「なんかあっさり氷神教が終われたから怒りが収まったわ。とりあえず全員に枷を付けたし、ルクナ達の部屋に支援者を寄越した人間には制裁するくらいだから帰っても良いわよ。神殿巫女達と王とアズリーナ王女と一緒にやるから」
「じゃあ手助けが必要だったら言ってね。帰って寝よっかー」
『ママ待って。ウォル、あの男に聞いてみて』
「……そう、ありがと」
「デスちゃん、もう調べ終わっていたの?」
『うん、褒めて』
デスちゃんが有能過ぎて可愛過ぎる。抱っこして撫で撫ですると、嬉しそうに笑った。
マリンさんが通った道を見ていると加担したメイド達が見えたが、常習者の手伝いをしていたメイドに関わる事も無いだろうしスルーした。
「支援者も氷神巫女にバレたら終わるのに、なんで城でやったんだろねー」
「氷神巫女の娘を手玉に取ればこの国を手にしたようなものだからじゃない? そう言われて騙された哀れな支援者も居そうだし。そもそも氷神教はお金を受け取らないんでしょ?」
「そうそう、千年前にウォーエル女王が氷神結界の維持を邪魔されないように布教しただけで形だけの宗教だった。どうしても寄付をしたい場合は神殿に行って申請しないといけないのよ。一応氷神結界の使用料という税があるから、寄付なんていらないんだけれどねー」
「でも使用料は1日1ゴルドって安すぎないかしら?」
「ノースギア国民の人数分、そのまま氷神巫女に入るんだよ。日給だと結構な額じゃない?」
「あぁ……凄いわね」
千年分の使用料を貰っているウォーエルさんは超金持ちなのだ。使い切れないから色々な施設に寄付をしていたり、他国の災害にも支援したりしているのでウォル・ノースマキナよりもノースマキナ財団という名前の方が有名だったりするらしい。
私には学が無いからそこら辺はよく知らんがね。
聞いたところによると、幾つかの貴族が潰れたらしい。氷神教が終わった原因を作ったのだから、氷神結界を買い取る資金を捻出しろって感じで、領地やら財産やらでも足りないから国に借金を作って辺境の開拓に行かされた。
めっちゃ怒ってんじゃんとは思ったが、私への愛が暴走したらこれくらいで済まない気もするし……やっぱりウォーエルとセイランって似ているなーなんて思った。
「……とまぁそんな事があったんですよ。氷の悪魔と呼ばれた母の生き生きとした顔を見届けたくて……遅れてしまい申し訳ありません」
『ふふっ、気にするな。我よりも母を優先したルクナに好感を持った。娘の為ならなんだってやる気持ちは痛いほどわかるぞ』
「ありがとうございます。ルゼル様は娘様にどんな事をされているのですか?」
『最近だと娘の弁当を作る為に頑張っている。しかし上手くいかなくてな……料理が苦手なんだ』
「ルゼル様でも苦手なものがあるのですね。料理教室とかに通っているのですか?」
『いや……我の魔力が強過ぎるせいだと言われて直しているところだ。娘が仕事を頑張っているから、少しでも応援出来ればと思ったが無理なら別の方法を試すさ』
デスちゃんとルゼル様のお屋敷に来たら、丁度帰ってきたみたいでお茶会をしようという事になった。ルゼル様は繊細な事に向いていないみたいで、料理は細工は壊滅的とのこと……デスちゃん、私ならなんとか出来るでしょみたいな視線で見ないでおくれ。理論はあるが、頼まれていないし娘の為なら自分の力でやるものでしょ。
「娘様はどんなお仕事を?」
『教師をしている。生徒達は、ルクナと同世代が多いな……見た目は』
「へぇ~先生なんですね~。あんなに可愛かったら生徒達に人気じゃないですか?」
『あぁ、大人気だな。いつも生徒達に囲まれて、楽しそうだよ』
「生徒達に慕われて、あんなに可愛い先生が居たら私も学校に通い詰めていたでしょうね。」
『ルクナも……失礼、娘から連絡が来た』
デスちゃんは私の向かい……ルゼル様の膝の上に座って私の事をニコニコしながら見ている。
そこ、代わってくれん?
私もルゼル様の膝に座って至近距離でルゼル様の美貌を堪能したい。めっちゃ良い匂いすんのよ。デスちゃんに代わってくれ視線を送ると、デスちゃんがルゼル様の胸を少し持ち上げた。
違うっ、そうじゃないっ、持つより揉んでくれっ! いや違う持ち上げてじゃなくて代わって欲しいのよ。
『ママ、ここ、娘の特権』
「デスちゃんはまだ私の娘よ」
『ふふふふふふ』
「ですちゃぁん……」
『ママもなれば?』
「……ん?」
『あぁ……来ている……ルクナ、娘が会いたいと言っているのだが……良いか?』
「えぇ、娘様だけですよね?」
『あぁ、アスティだけなら良いぞ……駄目だ、もし来させたら怒るぞ……あぁ後でな』
……どうやら誰か一緒に来たいみたいだ。娘さんでも少し苦手なのにもう1人来たら帰るからね。
その前に時計直したいのだが……
「ルゼル様、時計を見せていただいても宜しいでしょうか」
『あぁそうだった、これなんだが……部品も吹っ飛んでしまってな……』
「あー同じ物を作った方が早いですね。何か、強い力で殴りました?」
『着けたのを忘れたまま破壊の魔法を受けてしまったんだ……ショックで寝込んだよ』
破壊の魔法はよくわからんが、なんか凄い戦いでもしたのだろう。とりあえず作業部屋に向かい……なんか部屋の扉に何か書いてあるな……読めないから良いか。
部屋でバキバキに壊れた時計を調べ、部品も全て駄目になっていた。
……この時計作るの凄い苦労したのにな……まぁ良いお礼を期待して、必要な素材を出していった。
「もう少し強度を上げられたら良いのですが……あっ、あの時の鉱石はありますか? マギマタイトでしたっけ」
『いや、中々手に入らない素材だから手元に無いんだ』
「すみません、貴重な物だったのですね……一応素材はあるので大丈夫ですっ」
『前回のを残してくれていたのか、すまないな……ん? それは……』
以前余ったマギマタイトでルゼル様とデスちゃんのお揃いの腕輪を作っていたのだが、ついでに私もお揃いの腕輪を作っていたのだ。お揃いの腕輪を使うのは寂しいが、仕方がないよね。
これだけあれば3本くらい作れそう……魔法を使いながら私の腕輪をポキッと折った時、私の腕をルゼル様がガシッと掴んだ。
グシャッ……と私の腕が潰れて、痛みと混乱で声が出る前に勝手に身体が動いた……椅子から転げ落ち、正座をして潰れた腕を前に出しながら床に頭突きをする勢いで頭を打ち付けた。
やべぇ失敗した……ここで、死ぬわけにはいかない!
「申し訳、ありませんっ! 無礼をお許し下さいっ!」
『ぁ……る、ルクナ……違う……』
『……黒金様、お母様を罰するのなら私を壊して下さい』
「おかぁさーん、ルクナちゃーん、入るよー……えっ……」
「私は、まだ、死ねませんっ、一生を掛けて、償います、どうか、見逃して、下さい」
『……』
「ルクナちゃんっ! ねぇどういう事!? なんで腕が……治すからどいてっ!」
無理矢理起こされそうになったが、娘さんの手を振り払い再び頭を打ち付けた。
腕だけで済んでいるんだ、邪魔しないでくれ。
「ごふっ……」
『──お母様っ!』
やばい、こんな時に、血を吐いてしまった。
上手く喋れない……でも、謝らないと……まずい、命が、減っていく。
「も、うし訳、あり……ごふっ、ごふっ……はぁ、はぁ、はぁ……」
「大丈夫、大丈夫だからっ……こんなに血が……お母さんっ! 私だけじゃ無理だから誰か回復出来る人連れて来てっ! 早くっ!」
『ぁ、ぁぁ……』
『お母様っ、お母様っ!』
これはまずいなぁ……死ぬかも……




