やっぱり城は敵が多いわね
王とアズ母は大ホールの奥に座っていて、ご飯を食べ終わったペアから順番に挨拶に向かっていった。
王が参加するなんて滅多に無いらしいので、壁沿いに行列が出来ていた。私達と同じテーブルの人達には気にしなくて良いから行って良いよと言ってあるので、テーブルはセイランと2人だけだ。
「あっ、ローザ達一緒のテーブルじゃん」
「あら本当だわ……エリって遠くから見ると本当にルクナっぽいわね。挙動というか、あの首を傾げる感じ」
「学院終わりはいつも一緒に居るからね。しかも服のセンス一緒なんだよ」
「チェック、ボーダー、無地、ジャージ」
「やめてっ、気にしてんだからっ」
「別に貶していないわよ。私の服を着ないから覚えているだけ」
だってなんか恥ずいんだもん。まぁそれは置いておいて、王への挨拶が終わった人は公爵へ挨拶し他の来賓にも挨拶した後、ローザの元へ挨拶に向かっていた。
壁沿いに人が並んでぐるーっとした後に真ん中に向かって行列が出来て、これっていつ終わるんだ?
「セイラン、明日の高等部の晩餐会は他国からゲストが来るんだって」
「あー、私はその日家から出ないから」
「知っている人?」
「ヴァン王国と帝国の貴族とその子供達よ。口より先に手が出るわ」
「こわっ、私はルゼル様の所に行くからみんな家でまったりだね」
「そうね。あっ、でもパンパンには行きたいから誰か借りるわね」
「はいはい。ママと行ってきたら? 王妃様付きになったらごめんだけれど」
「それも良いわね。ルクナの御祖母様に挨拶しておきたいから、クルルママに連絡してみるわ」
『セイラン、どうしたの?』
「クルルママ、明日パンパンに行きませんか? クルルは仕事なので、私だけで良ければですが」
『良いわよ。王妃、行く? セイラン、王妃も行くって』
暇なのね。えっ、ちょっと待って、なんか羨ましいぞ。私も行きたい……セイランを見ると、片方の口角だけ上げてフッと笑った。
「ありがとうございます。では明日、神殿に伺います」
『えぇ待っているわ。折角だからローザも連れて来て良いわよ』
「……ありがとうございます。ローザ様も喜びます」
『ルクナには早く終わったら来てねと伝えておいて』
来てねって事は、早く終わらせて来いよって事ね。
ローザが味見される前に帰らないといけないな……まぁ、それは良いか。
セイランが通信を切ると、小さく拳を握って喜んでいた。
普通は緊張するものだが、セイランは違う。王妃とどんな勝負をしようって考えるタイプだから変人よね。
晩餐会はお開きになり、ローザ達と共に城の客間にやって来た。
……それぞれ部屋に入れられ、部屋の中は良い宿で、外にはメイドが待機……なんだろうこれじゃない感は。
……
……暇だな。
……
……セイランから通信だ。
『ルクナ、暇だわ』
「うん、暇だね。みんな私の部屋に集合する?」
『出ちゃ駄目って言われたわ』
「あー、そっか。私が迎えに行くよ」
『なんかここのメイドおかしいのよね。久々に見下す視線を受けたわ』
「そりゃそうさ、王様をよく思わない勢力だもん。ちょっと待ってて、ママに連絡するよ」
困ったわね、恐らくぼっち会食で私を毒殺しようとしている勢力が何かしようとしている。天輪を起動し、周囲を索敵……とりあえず絶対権力のウォーエルに連絡するか。
『あらルクナ、寂しくなった?』
「うん、おかぁさんを頼ろっかなーって思ってね」
『あらあらあら、やっと頼ってくれるのね? 何かあった?』
「みんなが外に出られない状態みたいなの。とりあえず窓から出て私の部屋にみんなを集めるから、何か面白い事しない?」
『ふふふ、良いわよ。わたくしもお泊まり会したいわ』
「じゃあみんな集めたら迎えに行くねー」
よし、先ずは扉を凍らせて開けられないようにしてから窓を開けて周囲を確認……ここは6階で辺りは暗く、下は兵士が巡回しているだけか。窓から結界の上を歩いて、下の階のセイランの部屋に向かって窓をコンコンと鳴らした。
「このまま知らない場所まで拐って欲しいわ」
「みんな困るから駄目よ。抱っこしてあげるから」
「ありがと……寂しかった」
「みんな集めたらママも連れて来るからお泊まり会しよ」
「良いわねっ。このまま寝るのは嫌だったの」
「とりあえずここに罠を仕掛けておくね。誰が引っかかるかなー」
ベッド辺りに罠の魔法を仕掛け、セイランを私の部屋に置いてからローザ、ナナリー、エリちゃん、一応シャーリーさんも同じように連れて来た。
にしてもみんなバラバラの部屋に泊まらされるとか気が利かないわね。
みんなに待っていてもらって、神殿に転移するとウォーエルが巫女服で待っていた。
「ルクナっ、おかえりなさい」
「ただいまー。みんなの部屋に罠を仕掛けておいたから、誰の所に誰が引っ掛かるか楽しみなのよ」
「あら、流石はわたくしの娘ね。じゃあ行きましょ」
「うんっ」
ウォーエルも連れて来ると少し狭いがくっ付けばみんなベッドに座れるから大丈夫か。とりあえずエリちゃんを抱き枕にして寝ようとすると、セイランに脛を蹴られた。
無表情で蹴らないでよ。
「なんで私を抱き枕にしないのよ」
「エリちゃんって良い感じなのよ。セイランもやってみな」
「ふんっ! エリ、来なさい」
「えぇ……」
「……良いわね。エリって赤ちゃんみたいな匂いだから眠くなるわ」
「そうなのよ。エリちゃんと寝ると癒されるから毎晩寝たいくらい」
「ルクナちゃんも良い匂いだよね。天気の良い日の草原みたいな感じ」
みんなに匂いを嗅がれるとなんだか恥ずかしい。ローザとかなんかエロい匂いだし、ナナリーはお日様みたいな匂いと言ってみんなで匂いを嗅ぎ合った。
「やっぱりおかぁさんの匂いが一番癒されるなぁー」
「ふふっ、なんか恥ずかしいわね。ところで何か引っ掛かったかしら?」
「まだみたい。王様とアズママは書類とにらめっこで、メイド達は部屋の前で立っているだけ。怪しい動きをしている人は居るけれど……王様の暗部か私の暗殺者かな」
「暗殺者? 命狙われているの?」
「うん、ぼっち会食は毒入りだし屋敷に侵入しようとする奴も多いよ。デスちゃんの眷属が始末しているから大丈夫だけれど、懲りないなぁーって思う」
「わたくしを頼ってくれたら潰してあげるのに、ルクナったら面白がっているの。わたくしに似て良い女ね」
「ただ潰すなんて勿体無いからね。この前関係者のトップの氷属性を消してあげたから、良い感じに焦っていると思う」
「うふふ、氷の適性は命も同然よね。年を取れば取るほど、レドにしがみつくもの」
ウォーエルと笑い合うと、少なくともシャーリーさんは引いていた。
……おや? 怪しい人はローザの部屋に向かったな。
メイドが怪しい人を通した。
「ローザ、最近命狙われた?」
「えぇ、帝国では日常よ。まぁ他国で殺した方が都合良いわよね。今私の部屋?」
「うん、遠隔で魔法使うからちょっと待ってね…………掛かった。拘束、魔力封印、解毒、解毒、回復、睡眠。ふふっ自害なんてさせねぇよ」
「どうするの? 騒ぎにする?」
「どうしよっかなー。まだ怪しい動きの人が居るから全員罠に掛かってからかな」
「せっかくのお泊まり会なのに勘弁して欲しいわね。メイドもグルって事かしら?」
操られているようには見えなかったから、グルなんじゃないかな? 帝国の反ローザ派と繋がりが深いところかも知れんし……おっ、セイランの部屋のメイドが誰かを入れたな。
……拘束、魔力封印。
「セイランの部屋でも掛かったわ。騒いだみたいでメイドも中に入ったから仲良く拘束しておいたよ」
「えぇ……どんな奴かわかる?」
「さぁ、会った事が無いとわからない。私の拘束を解けるのはアズママくらいだから後で見に行くかね」
「見に行くの怖いわ」
「その内ここにも来そうですね……」
「……おっ、ローザの部屋のメイドが確認しに行った。拘束っ、魔力封印」
「はぁ……ルクナの家は平和だったなぁ」
「デスちゃんの眷属借りる? 寝る時くらいは守ってくれるよ」
「お願いしよっかな……ごめんねなんか私のせいで……」
気にするものではないが、いつも暗殺の危機を感じているローザからしたら巻き込んでしまったと思うのだろう。
ナナリーに目配せをすると、ローザをぎゅっと抱き締めて頭を撫でた。
「ローザちゃんのせいじゃないよ。悪い大人達のせいなんだから」
「だって、せっかくのお泊まり会なのに……」
「大丈夫だよ。みんな居るじゃない。だーれもローザちゃんが悪いなんて思っていないよ」
「ナナ……」
ウォーエルさん、ローザとナナリーを肴にビールを飲んでぷはーって言わないの。あっ、エリちゃん取られた……抱っこしながらアゴ撫でないの。猫じゃないんだから……エリちゃん嬉しそうにすな。
残るは私とセイランと緊張しっぱなしのシャーリーさん……あっ、セイランがシャーリーさんの膝に座って私にニヤリと笑い掛けた……くっ、私をぼっちにするなんて……ふっ、しかし私には愛する娘がいるっ! ゲートを出してデスちゃんを召喚っ! おいでー。
パジャマ姿可愛いーっ、ちゅっちゅ。
『ママらぶ、敵出た?』
「うん、ローザの暗殺者とセイランを襲おうとした奴が出たよ」
『詳しく、調べる?』
「良いの? ローザ、セイラン、デスちゃんに頼む? 殺しはしないから安心して」
「えぇ、お願いしよっかな」「怖いから私も頼むわ」
『わかった』
デスちゃんがにゅっと闇に溶けていくように沈んでいった。自ら出向くなんて張り切っていらっしゃる。
……デスちゃんはこの城によく1人で来るのだが、王がルクナの人形だから大切なお客様だと思えと通達している。そのせいか私よりもこの城に馴染んでいる気がするのよね。メイドさん達がデスちゃんに普通に話し掛けるのよ……私なんて目礼して通り過ぎるまで停止だぞ。
「おっ、こっちに誰か来るかも。みんな隠れてー」
「「「はーい」」」
みんなベッドの下やカーテンの裏やクローゼットに隠れ、ウォーエルはスーッと消えた。ウォーエルの居た辺りを触ると、居る……透明になれるの? その魔法教えてくれ。
「精霊魔法よ。習得が難しいのよね」
「魔法書とかあったら良いのに。いきなり攻撃しないでね」
「嫌よ。娘を守るのは母の役目よ」
「メイドさんが入って来そうだからだーめ」
「無礼なメイドでも許さないわよ」
透明なんだから大人しくしてよ。
先にメイドが部屋の中を確認するみたいだ。
とりあえずソファーに座ってほうじ茶でも飲んで待ち構えよう。
メイドがノックもせずに部屋に入ってきて、ソファーに座る私と目が合った。このメイドは見た事が無いな……私に対して敬意は無かったので、ノースギアの人間じゃなさそうね。
「……何? 何か緊急の用事でもあった?」
「……? なんで、寝てない……」
「私に睡眠薬なんて効かない。用事も無しにノックもせず無断で入って来るなんて有り得ないわ。何処の家の者? 名乗りなさい」
「わ、私は、平民、なので……」
「質問に答えなさい。名前は?」
「……レイチェル、です」
「ふぅん……苗字を名乗る気は無い、と。良い度胸ねぇ……質問を変えるわ。外に待たせているのは誰?」
「えっ? あ、あの、誰も、居ません」
「誰も居ないと言う貴女を信じて良いの? 氷神巫女の娘ルクナ・レド・ノースマキナに嘘を吐いたら相応の結末が待っているとわかった上で言っているのよね?」
「えっ……うそ……ルクナさま……なん、ですか……?」
あん? 私の顔を知らない? 酷く驚いた顔で私を見ているが、王都のメイドじゃないって事か?
メイドの目の前に無数の氷柱を出して目を細めて見詰めると、血相を変えて土下座をして頭を床に擦り付けた。
怯えるようにブルブルと震え、今にも消え入りそうな声で何かを言っていた。
「レイチェル、私が居ると聞いていなかったの?」
「は、は……はい……この部屋に居る者を、出さないように、と……そして……その……支援者が、来たら……」
「……支援者?」
「はい……氷神教の……支援者です……」
「その支援者が来たらこの部屋に通して、事が終わるまで扉を封鎖するって訳ね。氷神教はそんな事をしているの? おかぁさん?」
「──ひっ!」
「する訳無いじゃない」
部屋の温度が下がった……ウォーエルが魔法を解除し、手の平を上に向けると白銀城が氷に覆われていった。
城に居る者を逃さないつもりだ。
「申し訳ありません申し訳ありません申し訳ありません!」
「ルクナ、この始末はわたくしが付けるわ。デスを戻して」
「私も手伝うよ。ジハークを使えるのは私だけだからさ……デスちゃん戻ってきてー。みんなごめんね、もっと楽しいお泊まり会になっちゃった」
「私も被害者だから手伝うわ。ローザ様、ご一緒しましょう」
「もちろん。ナナ達も参加しましょ」「うんっ、ルナ様素敵でしたー」「まぁこの際だから付き合うよ」「なんか凄い事になりましたね……」
「ルナ様言わんで。実はエリちゃんの部屋も誰か来たから拘束したのよねー、という事でデスちゃんが戻って来たので各部屋に大音量で警報鳴らすよっと」
『ママ、殺す時は私がやるね』
「ローザ様っ、お祭りですねっ」「えぇ、ルクナの敵は私達の敵よ。抹殺するわ」
「娘に危害が及ぶくらいなら氷神教なんて要らないわね。マリン御姉様にはわたくしから言っておくわ。支援者は死刑ね」
私の仲間が野蛮過ぎる件について、私しかツッコミが居ない状況が不安だ。
ビィィィィィ! と各部屋に警報が鳴り、真夜中の城が慌ただしくなってきた。
ウォーエルがぷんぷんだから一応王に連絡しておくか。
『ルクナッ、何があった!』
「もしもし王さまーウォルママが怒っちゃったんで、氷神教が無くなるかもしれません」
『えぇっ!? 今どこ!?』
「客間ですが、狭いので大ホールに城に居る全員を集めて貰えませんか? 思ったよりも大事になりそうなので」
「大事になんてならないわよ。氷神教が無くなるだけだから」
『ウォル様先ずは話を聞きますからっ! アズッ! ちょっと起きろっ! へ? なんか凄い音してますねぇー……あっ寝ちゃってた』
「アズママー、後で大ホール集合ねー。じゃあねー」
なんか、凄い事になって来た気がするが……
まぁ、ウォーエルが居るから大丈夫か……えぇ……このタイミングで来る?
『おぉルナ、ここに居たか。頼みがあってな……ん? どうした?』
「あっ、マリンさんお久しぶりです」
大丈夫じゃなかったわ。




