腕時計が高いのは理由があるのよ
私がぷんすかした後は、ウォーエルが落ち込んだ振りをしながら城へ向かった。きっと王妃に愚痴るのだろう。
アズ母と王も会議があると言って城へ向かった。晩餐会は城で行うらしく、ギリギリまで仕事するってよ。
とりあえずみんなに今日は城でお泊まり会をするから強制参加と伝えておいた。エリちゃんの嫌そうな顔はいつもの事だが、3人組もビビってしまったので私の家でお泊まり会の時に呼ぶから帰っても大丈夫よと伝えたら安堵の表情を浮かべて帰って行った。
「……なんで私は強制なのさ」
「エリには居てほしいんだ。エリが居ないと寂しいから……」
「婚約者の前でよくそんな事言えるね」
「褒めても何もあげないぞ」
「私はクルル・オレイドスという名前さえ貰えればそれで良いわよ。婚約者って……エリ、褒美をあげるわ」
「ありがとうございます。クルルが婚約者とかなんか暴動起きそうだね」
「モテる男は辛いぜっ」
「優越感の塊で過ごすなんてゾクゾクするわ」
「ふふっ、ほんとお似合いだね。ルクナちゃんの家に居るから、晩餐会終わったら呼んでね」
「うん? ペアだよね?」
エリちゃんが帰ろうとしたが、ナナと手を繋いでいるのを忘れたか? ナナにアイコンタクトを取ると、ウインクで返してくれた。続いてクレイルにアイコンタクトを取ると、エリちゃんに嫉妬してまじヤバいという視線を向けられた。
我慢しろよ。何? やだ? わがまま言うなんて珍しい。
「予定変更。クレイルとナナリーペア、エリちゃんとシャーリーさんペアにするから一度私の家に向かってフランミレイのコンビに身を委ねて。解散っ!」
「「えっ……」」
「クルルっ! ありがとっ!」
「クレイルちゃんとペア? なんか照れちゃうねー」
ばいばーい。晩餐会はアズ母に2組追加って連絡したので大丈夫。死んだ目のエリちゃんをナナが引っ張り、嬉しそうなクレイルがシャーリーさんを連行して行った。
「……どっちがどっちになるのかしら?」
「私はクレイルちゃんとナナ君で来て欲しいなぁ。エリちゃんとシャーリー君ならしっくり来るし」
「ふふっ、そうね。で? 囲まれているけれど、本当に誰も話し掛けて来ないのね」
「幻のクルル・ノースマキナと悪名高きセイラン・オレイドスだもんね」
「失礼ね。サーレス公爵が来たわよ」
「ルクナをぼっちスピーチさせた罪は重いよね」
「……晩餐会に参加してくれると聞いたが……なんと、呼んだら?」
「サーレス公爵様初めまして、クルル・ノースマキナと申します。クルルでもなんでもお呼びください」
「ちょっとよくわからないんだが……クルルとルクナは同一人物、なのか?」
「社会的に言えばルクナは双子の妹です。どう捉えても構いませんが、ルクナが困るような事になれば大変な事態になるので……皆さんも覚えておいて下さい」
「大変な事態ってどんな事?」
下手な事をしたら駄目だぞーと釘を刺したが、セイランが具体的に言わないと駄目よと暗に言ってきたので教えてあげた方が良いのかしらね。
「だってルクナって氷神様と友達じゃん」
「──っ!」
「あぁ、ルクナの事凄く気に入っているものね。昨日会ったわよ」
「えー来てたの? なんか言ってた?」
「まだ黒金様の覇気にやられているみたい。体調悪い様子だったから、チョコあげたら帰ったわ」
「そっかぁ……デスちゃんと一緒に会いに行くかぁ……あっ、すみません一度帰ります。セイラン、行こ」
「えぇ。それでは失礼致します」
何か言われる前にセイランの手を引いて早歩きをすると、囲んでいた人が避けてくれたのでそのまま真っ直ぐ進んで……通せんぼしている邪魔な奴が居るな。
「……」
「……何か御用ですか?」
「なんで私を避けるのよ」
「なんでと言われてもルクナがキャロリア・レド・ノースギアを嫌いなだけですよ」
「なんでよっ、嫌われるような事なんて何もしていないのに嫌いとかほんと勝手ねっ!」
「えぇ、好き嫌いは勝手です。嫌われるような事しかしていないのに自覚が無い時点で論外なので、邪魔をしないで戴きたい」
「なによそれ……意味わかんない」
「ねぇクルル、ルクナはどんな事されたの? 教えて」
「学院の案内の約束を破って、ルクナが氷神巫女の娘だと学院でわざとらしく態度を変えて、その後一向に何もせずに今に至る。とどめにさっきの差別的発言でますます嫌いになった。ザックリ言うとこんな感じ」
「……」
「そう。キャロリア、私も貴女が嫌いだわ。行きましょ」
すれ違う時、嫌われるのは慣れていると聞こえたが……もう、関わる事はないだろう。
私を利用するつもりなのはわかっていたが、それでも私の力になりたいと姉になりたいと言ってくれたのは嘘でも嬉しかった。
はぁ……母の故郷だから好きになる努力はしているが、ノースギアの気質は嫌いだ。話したいのなら、話し掛ければ良い。
「セイラン、私はノースギアの気質がどうしても受け入れられないよ」
「ふふっ、珍しいわね。貴女が面と向かって嫌いだなんて。まるで自分に言い聞かせているみたい」
「……嫌いって言うより、ショックだったってのが正解だと思う。シャーリーさんの時、怒ってくれてありがと。セイランが居なかったら、今頃シャーリーさんとは縁を切っていたし同じ事をする全員を嫌いになっていた」
「優しいわね。貴女はその全員が居なくてもいつも通りの貴女なのに。まぁ私はルクナにとっての友達の重みを知らない奴が許せないだけよ」
「私が友達に重いみたいじゃん」
「重いじゃない。なんでもかんでもプレゼントして、優しくして気が付いたら知らない女が増えている私の身にもなりなさい。ちょっと目を離すと貴族やら姫を連れて来るのは心臓に悪いわ」
返す言葉が無いねっ!
だってだって、ここを逃すと駄目だってラインあるじゃない? それの判断が雑なの。
ゆるちて。
「まぁでも許すわよ。クルルと結婚出来るんだから」
「ほんと君は天才だねー。ウォルママとアズリーナ王女の信頼を得て、クルルは自分のものだとアピールしたなんて」
「あら、否定しないわね。結婚から逃げるかと思ったわ」
「逃げないよ。セイランが本気で向き合っているのに失礼でしょ」
「ありがと、愛してるわ……安心して、結婚式はしないから」
「えっ、したくないの?」
「興味無いわね」
「……本当はしたいくせに。もし、ウォルママとアズ母を気遣ってしないのなら、2人に怒られるよ」
ウォーエルとアズ母は、結婚式をしていない。そもそもウォーエルは結婚していなかったが、憧れはあったと思う。セイランはそういう所を気にするから、興味無い振りをしているだけだと思う。
まぁ本当に興味が無いのかも知れないから、少しずつ聞いておこう。
家に戻ると、丁度準備が終わったようで制服姿のカップルが待っていた。
……良いの? ローザクレイル皇女全開のローザと無駄に格好良いナナリー君という世間をざわつかせるカップルと……いつものエリちゃんとシャーリー君? あれ? 誰だ?
「ルクたん様の作った新作魔導具『帝国美人』と妙に相性が良かったので、髪色も変えてみましたー」
「あれ失敗作だったのに……なんかローザの弟みたいね。シャーリー君、鏡見た?」
「いやまだだけれど……ありがと…………誰?」
「多分席はバラけるからよろしくねー。ローザはローザで良いの?」
「うん、帝国では認知されているしクルルに続きたいと思ってね。ナナとペアになりたかったし……あっ、クルル、セイラン、おめでと」
「ありがとうございますっ! ローザ様、帰ったら言いまくって下さいねっ!」
「公表していないからやめてよ。先にアルセイアとリリに話さないといけないんだからさぁ……エリちゃん、勇気をおくれ」
「えっやだよ。頑張って」
「あっそうだエリ、ヴァン王国で籍を入れるから愛人オッケーよ」
セイランさん何言ってのよ。心がお広い事で……いやそうではなくてよ、愛人の話をここでしないでおくれよ。
みんなジッと考えたじゃん……
「愛人……い、いや大丈夫です……」
「そう? グニアとミカとエリは誘おうと思っているの。クルル・オレイドスの名前さえ貰えれば後はいつも通りだし、私はウォル・ノースマキナとアズリーナ・レド・ノースギアが母になる事が主目的よ」
「なに企んでいるのさ」
「何も企んでいないわ。ルクナと家族になれる……ルクナの母に私も母と呼べるの。それだけで胸がいっぱいだから、それ以上は何もいらないわ」
「セイラン……」「一途だね……」
「セイランさん……自慢しまくるって顔に書いてあるよ」
みんな騙されるな。セイランはそんな清らかな思想じゃない。自己顕示欲の塊だから自慢しまくる。
私とグニアとセイランのブランドを確固たる地位にして社交界を牛耳る気だ。セイランの世界征服は確実に前に進んでいるぞ。
セイランの評価が上がったところで、作業場に居るデスちゃんに会いに行った。何やら難しい本を読んでいて、私に気が付くと自然な流れで本を仕舞った。一瞬見えた題名は知らない文字で読めなかった。
『ママ、おかえり』
「ただいまー。ちゅっちゅっ、これからみんなで晩餐会に行って来るよ」
『うん、気を付けて』
「うん、ねぇねぇマリンさんってルゼル様の気に当てられてまだ体調悪いの?」
『うん、呪いに近いから、ママと私でも、解けない』
「えぇ……そんなに強い呪い?」
『1年は続く。黒金様、ママ殺そうとしたの、怒ってたから』
「それはマリンさんが認めた訳じゃないでしょ? なーんかそこら辺しっくり来なくてさぁ……まぁ、特に頼まれていないし、様子見かぁ……」
『ママ、黒金様が時間がある時に来て欲しいって』
「何か用事? あっ、納品依頼かしら」
『多分。行く時呼んで、私も行く』
「うんっ、一緒に行こうねー」
デスちゃんにちゅっちゅして、みんなの所へ戻るとセイランだけだった。あれ? もう行った?
「みんな先に行ったわ。ローザ様が帝国皇女として挨拶に回るんですって」
「まだ時間あるのに真面目ね。今頃大騒ぎかしら」
「そうね、行列が出来ていそう。私達は話し掛けられないのに、なんか嫌ねー」
「それだけ氷神巫女の存在がデカいのよ。大人達が血走った目で絶対に失礼の無いようにって命令したら誰だって怖いさ」
「ふふっ、公爵家の息子だろうがボコボコにする気の強さも噂になっているわね。私と一緒で敵が多そうだわ」
「まぁね。帝国よりは過ごしやすいけれど」
「こことは正反対よねー。権力者や有名人にべったりだし、クルルが来たら大変ね」
「そうだねー。大変な事になるねー……セイランはまだ初等部だよね? 飛び級出来ないの?」
セイランがフッと笑い、学生証を見せてきた。
帝国学院中等部1年1組、セイラン・オレイドス。
……まじ? アルセイアと同じ組って事? えっ、聞いてないし……
「勉強は得意中の得意よっ! ライバルと同じ組にならないと帝国学院に入る意味が無いじゃないっ! 長期休暇が終わったら飛び級出来るわっ!」
「えぇ……ほんと君は天才だよ……アルセイアと同じクラスかぁ……良いなぁ……」
「他の学校の生徒もお金さえ払えば午後の活動に参加出来るわ。アルセイア王女は魔法研究会と華道部よね?」
「うん、気軽に休める活動にしているみたい。セイランは何処か入るの?」
「特に何も。仕事が忙しいのよね。貴女が来るのなら同じところに入るわ」
「私も忙しいし。じゃあ時間合ったら図書館で本読む?」
セイランは嬉しそうに頷いた。行く時はルクナで行くけれどね。クルルはやだよ。めっちゃ女子に話し掛けられるもん。
時間までティータイムを挟み、晩餐会の時間が近付いてきたので城へと向かった。
城の大ホール前で受付を済ませ、指定された席にセイランと座った。
6人掛けの丸テーブルがずらりと並んで、知らないペアと知らないペアなので一礼だけして終わった。
晩餐会って普通にご飯食べるだけよね。順番に置かれていくコース料理を食べるのだが、周りはペアで雑談しながら食べていて、私とセイランは食材や味付けの話で盛り上がっていた。
「これ、アズリーナ王女が作ってくれたわね。食材は良いけれど、味付けは全然違うわ」
「あーほんとだ。でもこれも美味しいねー」
「流石は王宮料理人ね。ここで食べる時も同じ料理人じゃないの?」
「さぁ、どうだろ……いつも1人で食べているから、あんまり味覚えていないや」
「そう、私と一緒ね」
「セイランは学院でぼっちなの?」
「貴方と違って学院での友達は沢山居るわ。家よ家」
「あーオレイドス家ね。セイランは隙が無いからメイドでも怖がっているでしょ」
「えぇ。専属メイドが居なくなったから、私を知るメイドが居なくなったの。この前帰った時は手が震えていたわ」
「マナーにうるさいもんね」
睨みながらあーんしないでおくれ。もっきゅもっきゅ……あっ、これセイランの嫌いな食材だ。
それくらい我慢しろよ。ったく……なに? あーんしろって? 恥ずくないの? あーん……うわっ、あざとく口の端にソース付けやがった。セイランの口に付いたソースを指で取って舐めてあげると、ご満悦に礼を言った。
……他のペアの女子の顔が真っ赤じゃないか。気不味いだろ。
「マナーなんて騒がなきゃ良いのよ。私は法律の勉強をしているだけで、ルールは自分だけ守るようにしているわ。帝国学院でも遅刻した人にはもう何も言わないし、いやそもそも毎日遅刻するような奴は貴方ぐらいだったわね」
「ふふふっ、じゃあセイランを1番怒らせたのは私という事だね」
「そうね。怒ったのも、笑ったのも、泣いたのも全部貴方が1番。それはこれからも変わらない。本当はまた貴方と学院に通いたかった」
「……まぁ、高等部になれば変わるかもよ」
「ほんと?」
「うん、デスちゃんが私の仕事を引き継いでくれるんだ。ルゼル様が出資してくれるみたいで、あっちで量産する体制を整えてくれるんだって」
「……貴方ってほんとヤバい人に好かれるわね」
「運が良かっただけ。また挨拶に行ってくるよ」
「私も行きたいけれど、アレは無理。今でも思い出して震えるわ」
「いやーあの時ほんと死ぬかと思ったね。デスちゃんも泣いていたもん」
あれからデスちゃんはこの世界とルゼル様の所を行ったり来たりして色々やっているみたい。
ルゼル様は私の時計を凄く気に入っているみたいで、いつも着けてくれているらしい。
ヴヴヴ……ん? ルクナリンクに連絡が来た……誰だ? 知らない連絡先? 少し屈んで連絡を取ってみた。
セイランも耳を当てているので、イチャイチャしているように見えちゃうわね。
『……ルクナか?』
「……どちら様でしょうか」
『ルゼルだ』
「っ、どうなさいましたか?」
『急に悪いな。デスに連絡先を聞いていたんだが……頼みがあるんだ……』
「えっ、なんで、しょうか……」
『時計、壊しちゃった……直して欲しいんだ』
「は、はいっ。明日でも、良いですか……?」
『良いのか? もちろん明日でも大丈夫だ。ありがとう……あの転移石で来てくれ』
「はいっ。では明日お伺いしますっ」
…………セイランと顔を見合わせ、ちょっと顔が近過ぎるので離れて深呼吸。
…………壊しちゃった?
ルゼル様が壊しちゃったなんて言うから、なんか胸がドキドキした。
「……クルル、浮気は駄目よ」
「何言ってんの?」
「だって可愛いって思ったでしょ」
「うっ、それは否定しない。いや仕事の依頼だから。お世話になっている方だから明日行って来るよ」
「ちっ、早く帰って来るのよ」
「はいはい。ちゃんと内容話すから安心して」
「ふふっ、嬉しいわ。にしても変ね、時計くらい他の所にもあるんじゃない?」
「ちっちっち、私をナメてもらっては困るよ。私にしか出来ない技術があるんだ。真似しようとしても絶対に出来ない……デスちゃん以外はね」
私の能力を引き継いでいるデスちゃんなら、完全な歯車と次元遮断ムーブメントが作れる……はず。魔力の少ない地球なら普通の腕時計は流通しているが、魔力のある世界はそうもいかない。人それぞれ魔力があって、型がある。それが身に付ける物に影響するのだが、腕時計などの精密機械は一般人の魔力でも直ぐに壊れる。
でも私の次元遮断ムーブメントなら、内部は遮断されているから魔力の影響は受けない。
物理的に強い衝撃を与えない限りは壊れないのだが……
まぁ、ルゼル様は素手でエーテル・ラストリアを受け止めるくらいだから超馬鹿力なんだろうな……




