学院交流会
ノースギア王都の中央公園にて、学院交流会が開催された。
学院だけではなく、王都の学校でも参加権がある学生にとって大イベントの1つだ。
計3日間開催され、初日は初等部、2日目は中等部、3日目は高等部と分けられ、それぞれお洒落を楽しむ生徒やパートナーを自慢する生徒が多く、ベストパートナー賞等のイベントがあるのでパートナーの居ない生徒を見る事は少ない。
それでも相手が居ないのに参加する生徒は……
「見てあれ、恥ずかしくないのかしら? ふふっ」「はははっ、うわー勇気あるなー」「今年はサーレス公爵だから厳しいのによく来たな……ぷぷっ」「しかも学院の制服ってやっば」
嘲笑され、関わらないように遠巻きに見られる。
交流会は元々貴族の子供達が交流を深められるように開催したのが始まりで、そこで出会った子供同士でパートナーを探すイベントだったのが、いつしかパートナーと共に行くイベントに変わっていった。
そしてパートナーの居ない者を見下す王族が現れ、周りにも伝染していった。
だからパートナーが居る者にとって、会場内を歩く4人組は格好の的だった。
「うわぁー想像以上に笑われてるねー」
「うぅ……トラウマが……」「エリちゃん、怖いよぉ……」「ど、どこまで行くの?」
「ルクナちゃんはど真ん中って言ってたから、あそこら辺じゃない?」
「えぇ……なんかイケイケグループいっぱい居るぅ……」「あそこ眩しいよぉ……」「あれキャロリア様じゃない?」
「うわっめんどくせっ、ちょっと向こう行こ」
「めっちゃ見てるよ……」「来ないで下さい来ないで下さい」「エリちゃん、そっちはシャーリー様が……」
現在ぐるぐる眼鏡を掛けている先頭の女子は、キャロリアが居る方向に歩いていたが違う方向に居るシャーリーを見付けて伝言を伝える為に向かった。4人とも学院の制服を着ているように見えるのだが、実際は魔導具で学院の制服に見せているのでキャロリアは絶対嫌味を言うのでルクナから逃げろと言われていた。
シャーリーとパートナーの男子の前に到着したので、シャーリーは知り合いが目の前に来た以上嫌そうな顔を隠しながら話し掛けた。
「……あらエリ、パートナーは?」
「こんにちはシャーリー様、私達はパートナーが居ないので来る予定ではなかったのですが、友達の為に来ました。パートナーの方は喋らない方が今後の為だとお伝えしておきます」
「……まさか」
「君達、その口の聞き方はなんだい? 喋らない方が今後の為? 名前は?」
「やめてウディ、喋らないで」
「いやいや、君は王族としての自覚はあるのかい? この子達は1年でしかも平民じゃないか? 貴族会で見た事が無いよ? だとしたら問題だ。皆も問題だと思うだろ?」
「平民? それはまずいな……しかも制服? ふふっ」「シャーリー様、資格無しには罰を与えるべきでは?」
「……エリ、退いてくれない? ちょっとまずいわ」
「私は友達の伝言を伝えに来ただけです。文句があるのなら私の友達に言って下さい」
「はっ、友達? それは誰だい? その友達にも相応の罰が必要になるよ」
ウディと呼ばれた男子は顔は良いが少し選民思想が強い家柄だった。シャーリーは顔だけは良いしまぁ良いか程度でパートナーの申し入れを受けたのだが、ここに来て自分の予想が外れた事に危機感を覚えていた。
ルクナ・レド・ノースマキナはクレイルをパートナーに参加するという噂と、1人制服で参加するという噂……普通に考えて前者の噂を信じてしまい、制服参加するとは思っていなかった。
そこに制服で現れた先頭の少女が、これがパートナー? というような声色をしていて、恥ずかしい思いでいっぱいだった。
今直ぐにでも頭を抱えて叫びたい気持ちでいっぱいで、今からどう動けば最善かを考えるのに必死だった。
「……伝言? 教えて」
「はい、それは……あっ」
「あらあらシャーリー、困り事かしら?」
少女が伝言を伝えようとしたところで、薄い笑みを浮かべたキャロリア・レド・ノースギアが現れてしまった。
少女が舌打ちをするような嫌そうな口元を見て、シャーリーも嫌そうな顔でキャロリアを見詰めた。
「何も困っていないわ。あっち行ってくれる?」
「あら冷たいわねー。資格無しに絡まれていると聞いたから助けてあげようと思ったのに。どうするの? 追い出すの?」
「……キャロはそっち側なのね。ウディ、ごめんなさい。私は貴方のパートナーを降りるわ」
「なっ……何を言っているんだいっ! 僕以外に君のパートナーに相応しい男は居ないだろうっ!」
「はぁ……私が間違っていたわ。ウディごめんなさい。みんなもごめんなさいね、私も一緒に笑われるから……仲間に入れて?」
「ふふっ、シャーリー貴女馬鹿なの? 自分で落ちぶれる道を選ぶなんて。見てみなさい皆の反応を……哀れみの目よ」
「……ふふっ、ふふふふふふっ。ふっふっふっふ」
「……エリ?」
異様な空気感の中、突然笑い出した少女がシャーリーの元へ歩み寄り、変身解除と言った瞬間……金髪から銀色の髪に変化し、他の3人と共に制服が見たことも無い服に変化した。
周囲がびっくりしていたのは当然だが、後ろの3人はもっとびっくりしていた。完全にエリだと思って話していたのはルクナだったのだから。
「シャーリーさんっ、最高ですっ! 満点越して超満点ですっ! もちろん良いです一緒に笑われましょうっ! シャーリーさんと友達になれて本当に良かった!」
「えっ? えっ、もしかして……ルクナちゃん?」
「「「っ!!!」」」
「私の友達セイランからの伝言ですっ! 『今直ぐ家に来い』」
「わかったわっ!」
「あっ、みんなもシャーリーさんに付いていって。ここは私一人で充分よ」
「う、うん……」「わかったっ!」「頑張ってねっ!」
シャーリー達が破顔しながらルクナの家の方へ走っていき、仁王立ちするルクナを囲んで沈黙が流れた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「「「……」」」
……気まずっ!
セイラン制服の私を囲んで、誰も喋らない。いや誰も話し掛けられないというのが正解か。
ここは貴族達の中心部。暗黙のルールをよくわかっている人達しかいないから話し掛けられないのだね。
仁王立ちする時にキャロリアを視界に入れないように立ったので私の心は穏やかだ。
絶対怒っているぞっ、はっはっはっ、ざまぁっ!
にしてもシャーリーさん凄いな……普通この場所であんな事言えねえぞ。
パートナーを解消された1つ上の男子には悪いが、いや別に良いか……めんどくせえタイプっぽいし。
ふむ、貴族達の中心部なだけあって、ここは良い場所ね。司会席も割りと近く、来賓席も近いし見渡しやすい。
ぐるぐる眼鏡だから誰とも目が合わないし、良い感じねー。
にしても待ち時間が長く感じるな。暇なので少し周りを見渡していくと、皆一様にビクッとした。
もうルールとかどうでも良いから話し掛けてくれんもんかね? ごめんなさいって言ってくれたらそれで済む話なのだよ。キャロリアも話し掛けない辺り、探り合いをしているのか私から話すのがマナーなのかよくわからない。
それすら誰も教えてくれないもんなぁ……あほらし。
まぁここには上級生しか居ないから、私の事なんて噂程度にしかわからない状態だろう。
上級生の貴族の子ほど、私の事は怖いと思う。
氷神巫女の娘っていうパワーワードは年を重ねる事に強力なのだろうね。
だからどうせ私が喋っても答えてくれない。
「……誰でも良いので答えてくれると助かりますが、『資格無し』とは私のようにパートナーの居ない者を指すのでしょうか?」
「「「……」」」
「そうですか……私は資格無しの平民に該当しますが、友人と話しただけで罰を受けるのですね。資格無しで参加した罰を受けなければならないと、母に報告しないといけません」
「「「──っ!」」」
「それと……」
「申し訳ありませんがどいて下さい、何かありましたか……あっ……」
騎士さんが現れて私を発見し、直ぐに戻っていった。
そして直ぐに現れたのは、おぉ……サーレス公爵さん。
「……少し、良いかな?」
「はい邪魔でしたね。失礼しました」
「いや待ってくれっ……お願いがあって、来たのだが……その、服は?」
「制服です。話に聞いていましたが、本当に皆さんは制服で来たら私達を馬鹿にして笑うのですね。正直ガッカリしましたが、お願いとはなんでしょうか?」
「……ここに居る者達が馬鹿に、したのか? ノースギアの宝を侮辱したのは誰だ?」
「それは……」
「ふふっサーレス公爵様、皆さんは交流会の慣習に従ったまでですよ。資格無しの平民を嘲笑しなければならないみたいで、嫌々でもやらなければいけない貴族の方々は大変ですね。まぁそれはどうでも良いので、お願いとはなんでしょうか?」
「……その慣習については調べておこう。お願いは、生徒代表として、一言貰いたかったのだが……」
「あら、それは構いませんが……私で良いのです?」
「もちろんっ、貴女が発言してくれれば皆の励みになる」
「そうですよね、私のようなパートナーの居ない者が喋れば下には下が居ると思いますから励みにはなりそうですねぇ」
励みというか、気まずいだけだと思うのだが……私に喋らせたら大変だぞ。
にしてもサーレスからノースギアの宝とか言われたら吐きそうになるが、ここは我慢しておこう。
サーレスが辺りを見渡し、怪訝な顔をして私にパートナーはどこかと聞いた。
そして私が答える前に、後方から歓声が聞こえてきた。
「「キャーッ!」」「クレイルさまぁー!」
「隣の方も素敵……」「あの子誰? えっ? セイラン・オレ!?」「うそぉっ!」
自然と人波が割れ、セイランさんがドヤ顔で歩いてきた。両脇にクレイルとナナを連れ、後ろにはファンクラブ会員の制服を来たエリちゃん達、そして嬉しそうなシャーリーさんも居た。
ここでサーレスとあの集団がかち合うとセイランが暴走してしまうので離れねばっ。今のセイランさんは私よりめんどくせえから。
「それでは後程お呼び下さい。失礼します」
「出来れば紹介を……」
「サーレス公爵様っ、お時間です」
「……わかった。あれはオレイドス家の……それに……いや、まさかな……今行く」
ふむ、一言とな。
何を言おうかなー。
誰かがセイランに話し掛ける前に、ぐるぐる眼鏡を外してセイラン制服に合うアクセサリーを着けてヘアピンをセイランに渡すと、セイランが私の前髪にヘアピンを挿してくれた。
「何か一言お願いだってー。何言おうかしら」
「あら、パートナーの居ない女にカップルだらけの会で挨拶しろとか公開処刑ね。あれはどこのどいつよ」
「サーレス公爵だよ」
「へぇー、あれが大聖女ルクナとアズリーナ王女を引き離したサーレス公爵ね。ヴァン王国のパーティーで見た事があるわ。そうだ、シャーリーもルクナファンクラブに入ったわ」
「流石イケてるグループ代表はお似合いですね。クレイル兄さん、シャーリーさんにこれ着けてあげて」
「了解。シャーリー、ちょっとこっちにおいで」
「うぐぅっ、ルクナちゃん酷いって! 恥ずかし過ぎるっ! きゃぁぁっ!」
「うるさいわね。それくらい慣れなさいよ。で? 貴女の挨拶はどこで見れば良いの?」
『お待たせしました。王都学院交流会を開催します。来賓席をご覧下さい』
「さぁ? あそこの司会席じゃない? あっ、来賓が来たよー」
──ざわっ! としたのは理由があった。先ず最初に現れたノースギア王がクレイルとナナが着ている制服と同じだったからだ。そして更に後に続いたアズリーナ王女は私達と同じ制服だった。その後に来たおっさんやらは正装で、生徒達は王達と私達を交互に見ては困惑していた。
「ふむ、流石はノースギア王ね。普通に格好良いわ。アズリーナ王女はなんか、若くなったわね」
「私の化粧水と美容液使っているからね。20歳くらいには見えるよ」
「ね、ねぇルクナちゃん……なんで王様とアズリーナ王女も制服着ているの?」
「2人ともファンクラブ会員なので」
「えぇっ!? すごっ……それって、ノースギア手にしたのと一緒じゃん……セイラン、これからどうなるの?」
「どうって、ルクナが楽しければそれで良いわ。私達ルクナファンクラブ会員はルクナの事を好きでいれば良いだけよ」
セイランさん、わざと大きな声でルクナファンクラブって言っているから後が大変じゃないのよ。
とりあえず後ろで私の視界から隠れようとしているエリちゃんの手を引くと、エリちゃんが嫌がって助けを求めて手を伸ばした先がナナだったので私がパッと手を離すとナナと手を繋ぐエリちゃんの出来上がり。
はいピース。
「るくなちゃぁん……」
「嫌がった罰だ、受け入れろ。セイラン、新作着けてあげる」
「ふふっ、ありがと。またエグいの作ったわね」
「最近良い職人と出会ったから楽しいのよ。今はそっちとこっちで作品作り。いらないのはリューメイ魔導具店に流しているから売り上げは良い感じかなー」
「ルクナは自立しているから働かないといけないものね。衣食住全部自分で働いたお金で払って、税金まで納めているから親のお金で着飾る人は子供に見えるんじゃない?」
「あーどうだろ。そういう人と関わらないからわからないや。えっ、でもセイランもグニアも働いているから貴族の子でも普通に働くんでしょ?」
「普通働かないわよ。貴女の周りが異常なの。シャーリーも働くようになったのは貴女のせいよ」
「私が悪いみたいに言わないでよ。セイランとグニアが異常な仕事量を持ってくる結果よ」
「仕方がないじゃない。大人気だもん。まぁ名前は売れたから仕事は絞っていくわ。オーダーメイドだけで食べていけるもの」
セイランは家を継がない場合の道も視野に入れているが、余程の事が無い限りセイランになるだろうね。
最近カサンドラを見ていないが、何をしているのかね? まぁ普通に学生をしているだろう。もう関わらないし。
『はい、ありがとうございます。それでは生徒代表で一言お願いしたいと思います。ルクナ・レド・ノースマキナ様よろしくお願い致します』
「呼ばれたわ。行って来るねー」
「最前列に行くわよっ!」
少し小走りで司会席まで行くと、スタンドマイクに案内された。
頭の上にマイクがあるので……これどうやんだ? あっ、スタッフさんが直してくれた。ありがとうございまーす。
目の前にはセイラン達が陣取っているのだが、その後方には沢山の生徒が居た。みんな相手が居るので、セイラン達が非常に浮いていた。
さて、何を喋ろうかねぇ……何を話すかも教えてくれなかったので、適当でいいのかしらね?
『皆さんこんにちは、ルクナ・レド・ノースマキナと申します。パートナーの居ない平民なので親友のデザインした制服で参加したのですが、生徒代表という大役を任され大変恐縮に思います。えー……パートナーの居ない私がお相手に恵まれている皆様に申し上げる資格は無いので、この場を借りて王様に質問して良いですか? あっ、ありがとうございます……学生時代、モテました? 『……まぁな』 やっぱりー、恋文とか何通くらい貰いました? 『……忘れたな』 忘れるくらい貰ったんですねぇー羨ましいですねー私なんて嫌がらせの悪口でしたよ。じゃあ最後に、なんで私がモテないと思います? 『ウォル様の娘は国宝のような扱いだからな』 つまり王様は私の事が大好きなのですねっ! 『あぁ、可愛いからな』 皆様聞きました? 可愛いって言ってくれました。ご回答ありがとうございます、満足したのでこれから一緒に笑われてくれた友人達と記念撮影の為に失礼致します』
『そうか、これからベストパートナー賞の審査があるらしいが帰るのか?』
『私が居る意味あります? ベストぼっち賞なら受け取りますよ』
『くくっ……ここに席が1つ空いているから聞いただけだ。俺とアズの間で良いならな』
『……セイラン、良い?』
「えぇ、写真くらい撮ってあげるわよ。疲れたらみんなで家に帰るし」
『ありがと。ではお言葉に甘えてそちらにお邪魔しようと思います』
じいじと母の間に座れると聞いたら無理してでも審査員くらいやりますよ。
来賓席に向かうと、セイラン達もぞろぞろと移動し、他のカップルも移動を始めた。
ちゃんと椅子があったので、座ってアズ母に引っ付いた。はぁー落ち着く。頭撫でちゃ駄目よ、お母さんって言っちゃうから。
「お誘い戴きありがとうございますっ。審査って何をするのですか?」
「エントリーしたペアの合作を審査するから、ペアのレド試験のようなものだな。お題はノースギアの番の生き物、だそうだ」
「カップルを作るのですね。でも王様が居るから緊張しません?」
「だろうな。いつもなら行かないが、ルクナが参加すると聞いて気になってな」
「お父様はルクナがどんな男と来るのか知りたかったみたいよ?」
「私が男と並んだだけでセイランが暴走するので。見て下さいあの幸せそうな顔……ヴァン王国では冷徹令嬢とか大魔王とか言われているんですよ? 私の事が好き過ぎてノースギアまで来てくれるセイランを差し置いて、あの中に混ざるなんて出来ません」
「そうか……良い友達を持ったな。良い友達過ぎてルクナの婚期が遅れそうだ」
「あー……セイランちゃん凄いもんね……お父様、ヴァン王国では悪魔セイランと天使グニアを従える女神ルクナがヴァン王国の女子達の頂点に立っているという噂が流れているくらいですから」
なのその噂……大体合っているのが怖い。
悪魔って……両方天使にしてあげなよ。悪魔みたいに笑うけれど、天使みたいに可愛いのよ。




