少しずつ、変われている気がする
「はぁ……」
大変な事が起きた。
大変というかクレイルとナナリーがノースギアの街を歩いている場面を多くの人が見ていたせいで、クレイルに彼女が居ると話題になった。
その結果、パーリーにクレイルを連れていくのが気まずくなってしまった。私が気にし過ぎているのはわかっているのだが、なんか私が邪魔者じゃないかと思ってしまって……いや別に恋が進展している訳ではないのよ。ナナリーはローザに対して格好良い美人だと思っているくらいだし。
「……ルクナ様、今度は何をお悩みですか?」
とりあえず悩んだら学院に行くというスタイルなのだが、いつも悩みを抱えた残念な子だと思われていそうね。
そういえばエリちゃんにぐるぐるメガネを貸したままだったな。
「交流会に行かないという選択肢はありかなーと思ったのですが、ありですか?」
「……なしの方が嬉しいです。何か、行きたくない理由でも?」
「……私が行かない方が皆さん気楽じゃありません?」
「ルクナ様、こうして一緒に過ごせるだけでも幸せなのにそんな事言わないで下さい。来てくれないのなら私も行きません」
「えっ、じゃあ一緒にどこかに出掛けましょうかっ?」
「えっ?」
……えっ、違った? すっげえ困惑しているから嫌だったかな。そりゃ嫌だよね、私だったら絶対嫌だし。
ルナードさんって学院帰りにクラスメイトと遊びに行くなんて……した事あったか? セイランはクルルと遊びに行ったからノーカンだし、ルナードさんが不憫過ぎる。
「……今のは忘れて下さい。クラスメイトでそんな風に言ってくれる人なんて初めてで舞い上がってしまいました。行く努力はしてみようと思います」
「ぁっ、いや、す、すみませんっ! びっくりしちゃって……わ、私なんかと一緒だとつまんないですからっ」
「結構楽しいかなと思ったから誘ったのですがね……こうやって教室で会話が出来るだけでとても嬉しいですし……まぁ、前に居た所は凄かったのでその反動もありますが」
「ありがとうございます……そんな風に思って戴けて凄く、嬉しいです……前の所って、そんなに凄かったのですか?」
「はい、悪口や無視は日常で毎日私の為に学年中から罵倒の寄せ書きを戴けるくらいには嫌われていました」
「……冗談、ですよね? ルクナ様が、そんな事、想像出来ないです……」
「…………えぇ、冗談ですよ。ママの為に別人として過ごしていたのでルクナではありませんでしたから。付け加えると、私の友達が当事者を粛清してくれたのですが、やっぱり足りないかなーと思ったので前に居たヴァン王国の王妃にアイツらが虐めていたのはルクナ・レド・ノースマキナだったと伝えるつもりです。いやぁー楽しいお茶会になりそうですよ……ふふふっ」
「……」
いやぁーやりたい事が多過ぎるねっ!
王妃に伝えなくてもセイランママが伝えているからお茶会なんてやらなくてもと思うのだが、そこは私の嫌がらせを発揮しておかないといけない。
何人泣いてくれるかなぁーっ、絶望を感じて。もうエリスタは無いのだから、失うモノは無いのだよっ!
ほっほっほ、アルセイアに殴られるのは覚悟しておこう。
授業が終わり、引いているクラスメイトに挨拶をしてエリちゃんの居る6組に到着……おや?
「……ごめんなさい」
「どうしても駄目? 相手居ないんだろ?」
「駄目。それにルクナちゃんの了解が無いと何が起きるかわかんないし……あっ、ルクナちゃん」
「──っ!」
パートナーの誘いがあったのね。あぁそうさ、了解したら許さねえよ。
無言で首を傾けると、男子は一歩下がって下を向いた。
「エリちゃん今日少し時間ある? 友達紹介したいの」
「うん、今日大丈夫だから良いよ。行こ」
「えっ……頼んでくれないのか……」
「ん? 私に何か頼み事?」
「いや、気にしないで。ねぇ、私が望んでいない事を私が頼む義理は無いの。諦めて」
「……」
「ふーん。モテるねー……ふーん……何人目?」
「……たぶん、20」
「──なっ! にじゅうだと!? 私なんかまだゼロだぞっ! そんなにモテんの? 引くわぁー……ねぇ君、なんでエリちゃん誘ったの? 好きだから? 自慢になるから? タイプだから? チビだから? 陰気だから? 口悪いから?」
「後半悪口だからね」
「ぇっ……いやその……好き、なので」
「えっ、それはどの時点で好きになったの? 好きになる接点とかあった? 何がきっかけ?」
「ルクナちゃん、それは酷だと思うよ」
「いやあの……リーエ、ちゃんの、ファンで……」
「えっ、ファンなのに相手居ないんだろって言って誘うの? 本当にファン? 本当に好きなの? 私の友達を半端な気持ちで誘うのだけはやめて欲しいのだが……どうなの?」
「あのさ、逃げた方が良いよ。こうなったルクナちゃんってめんどくさいから、心折れる前に逃げて。ほら早く」
「すっ、すみませんでしたっ!」
……男子は深々と頭を下げて走って行った。
気になっただけなのだが……逃げられたか……周りの生徒は飛び火しないように視線を合わせてくれない。そうかい、怖いかい。つまり私を肯定してくれる人は居ないって訳か? いやあっちから話し掛けるのはマナー違反だったか……はぁ……せめてあっちから話し掛けてくれないかね。
「……行こっか」
「うん、なんかありがとね」
「まぁ、うん。私ってそんなに怖い?」
「そりゃ当然じゃない? 機嫌を損ねたら終わりだもん。でもみんなルクナちゃんの事好きだよ。ルクナちゃんの事よく聞かれるし、仲良くなりたいとか相談されるし」
「そなの? それなら私としては話し掛けて欲しいのよね。私から話し掛けたらみんな固くなっちゃうし、ノースギアの気質なのは仕方がないけれど、そもそも私はヴァン王国で育ったから気にしないのよ。女子達にルクナちゃーんって手を振ってくれたりしたらマジで嬉しいし。男子はダメよ」
「それはノースギア国民にとってハードル激高だね。あー……みんな、せっかくだからやってみる?」
「「「えぇっ!?」」」
「エリちゃんそれはヤバいってっ」「ルクナ様だよ!?」
……ちょっと待て。エリちゃん、いつの間にクラスメイトと仲良いんだい? 私の知るエリちゃんは1人で机に座ってぼーっとしている陰気な女子だぞ。えっ、うそ、まさか……私の見ていない所でクラスメイトと交流を? よく聞かれるって……そういう事? 私が居る時だけ、ぼっちだというのかい? 泣きそうなのだが……私は未だにクラスメイトと仲良く交流出来ていないのに……じぇらしーが私の頭の上で踊っているよ。
いや駄目だ、今エリちゃんに嫌味を言ったら女子達に手を振ってもらえないっ!
憧れなんだよっ、手を振ってキャーキャー言われるのっ!
クルルで経験している事だが、ノースギアのルクナで経験しないと意味が無いじゃないかっ!
「名前を呼んで手を振るだけだから。大丈夫」
「どきどき……」
「「「る、るくなちゃーん……」」」
「やるなら泣きそうな顔でやらないでよ。あーじゃあ私も言うから私に続いてね。せーのっ」
「「「ルクナちゃーんっ!」」」
「……えへへ、はぁーい」
手を振ってルクナちゃーんだなんて無理してやってくれているが、正直めっちゃ嬉しい。私も手を振り返したらみんな笑顔になった。そう、これだよこれ。ヘルさんの気持ちがわかるよ……嬉しいよね。
「ルクナ様……すっごい可愛いです」「嬉し過ぎて鼻血出そう……」「ルクナさまぁ……」
「みんな、ありがとね。あの、ルクナちゃんで良いから……そ、そうだっ。ハイターッチ」
ルクナちゃんと呼んでくれた人にはペチペチとハイタッチをしておいた。キャーキャー言ってくれてご機嫌だよ。
エリちゃん軍団を手中に納めた瞬間だね。
よし、ルクナちゃんを女子達に広めてもらおう。
「る、ルクナちゃんっグレイド試験最高でしたっ! 格好良くて可愛くて大好きですっ!」
「ルクナちゃんとお話出来て幸せですっ」「あぁ……可愛い……」
「ありがとーっ。嬉しいなぁ……」
「あのっ、ルクナちゃんってなんでそんなに可愛いんですかっ。可愛過ぎてヤバいですっ。レド試験も見ましたっ!」
「ほんと衝撃でしたっ。まさか氷神巫女様の娘だなんて思いもしませんでしたよっ」
「あー、それ私もびっくりしたの……まさかウォルママが氷神巫女だなんて思わなかったのよ。レド試験前に知っちゃったから手を抜けなくてさー」
「そうだったんですか!? えっ、じゃああの魔法は誰に教わったんですか?」
「あれは独学だよ」
「「「えぇぇぇええぇぇっ!」」」
私の合成魔法は独学というか、ギフトのようなものというか、普通の理論じゃ出来ない魔法だから異界の天使の魔法なのだと思う。
この反応って新鮮だなぁ……いつもはまぁルクナだしと言われて終わるし、持ち上げてくれるから嬉しいわ。
予定も無いので質問に答えていると、どんどん人が集まってきた。男子達は後方に追いやられ、女子率がエグい。
「ルクナちゃんってサロンに行かないんですか?」
「サロン? なにそれ」
「えっ……入った事はありませんが、貴族や王族が入れる休憩所のような所です。学院の5階にありますよ」
「へぇー、じゃあ私は入れないでしょ」
「そうなんですか? ルクナちゃんなら大歓迎だと思いますよ? ルクナちゃんが初めて来た時なんてみんなサロンで待っていたみたいですし」
「そうなの? いやその前に私はノースギアでは平民だから入る資格が無いのよ。ウォルママとの血縁証明なんてまだ発行していないし、保護者も居ないから税金とか自分で払っているもん」
「え……」「まじすか……」
「家も自分で買ってメイドも自分で雇って税金と維持費を稼ぐのに仕事しているし、用事も多いから結構大変なのよね」
「ルクナちゃんって多忙なのに何故か暇そうに見えるよね」
「……凄過ぎませんか? どんなお仕事を?」
「んー……探索者とデザイナー業と治療依頼とか、魔法の講師とか色々かな……働かないといけないから、週一くらいでしか学院に来られないのよ」
「「……」」
「あのぉ……私になにかお手伝い出来る事って、ありますか?」
「私も何かお手伝いしたいですっ!」「私もっ!」
お手伝いと言われても、家にメイドも居るし私1人で完結する仕事ばかりだから特に無いぞ。
仕事させる? いや流石に親の同意が必要だよ。正直この人数相手に親の承諾貰うのめんどくせえ。
仕事以外かぁ……
「……私、ノースギアの事よく知らないから……勉強会とか、したいなぁ……授業内容とかよくわかんないし、みんなで集まって勉強会なんて、した事無いし……あぁやっぱりいいやっ! 何か考えておくねっ!」
「ルクナちゃん、勉強会したいんでしょ? やろうよ」
「だ、大丈夫っ、なんか怖くなったから他の案を考えるよっ」
「そうやって真面目に考えてまた悩むんだから勉強会で良いじゃん。みんなもやりたそうだし」
「はいっ! やりましょうっ!」「どこでやりますか?」「嬉しいですっ!」
「……ありがと。みんな優しいね……エリちゃん……なんか泣けてきた」
「よしよし……ここでは遠慮しなくて良いんだよ。みんなルクナちゃんが好きなんだから。教室でも良いし、図書館でも良いし、食堂でも出来るし、6組はいつも多目的ホールとかでやっているしさ」
「…………エリちゃん、いつもって、エリちゃんも参加しているの?」
「……まぁ、午後の活動が無い日は……たまに、参加してるよ」
……裏切り者。なんでそれを言わねえんだ。それ聞いていたら勝手に参加したのによぉ……涙引っ込んだわ。
「じゃあ、1時間だけ……良い?」
みんな大きく頷いてくれたので、多目的ホールとやらに行こう。
とりあえず大人数になると危険なので、ルクナちゃんと呼んでくれた6組の女子3人組を引き連れて向かった。
「「「……」」」
多目的ホールは午後の活動でも使う場合があり、結構人が居た。私が入るとしーんと静まり返り、何事かと注目されていた。
にしても流石は王都の学院……かなり広いからスポーツも出来そうだ。
「空いている所なら自由に使って良いの?」
「うん、あそこの隅っこ空いてるよ。机無いけど」
「今日はお話だけにするからそこにしよー」
「「「はいっ!」」」
勉強会と言って勉強せずに好きな話をするのに憧れていたので、椅子を固めてみんなで雑談をしよう。
なんか人が集まって来ているが、気にしたら負けな気がする。
「ルクナちゃんは3組の人で仲の良い人は居るんですか?」
「いや、隣の子と話す以外は特に何も。仲良くなるのって中々難しくない? 結構気にしちゃうから」
「エリちゃんと仲良くなれるルクナちゃんなら誰とでも仲良くなれそうなのに」
「エリちゃんは一目見て同志だと思ったからね。メガネ一緒だったし……見て見て、こうやって髪色変えるとお揃いじゃない?」
「わぁっ、見分けが付きませんっ!」
普通に雑談で1時間なんてあっという間だった。
なんか凄い癒されたというか、私にはこういう時間が必要なのかもしれない。
ルクナちゃんが広まれば、向こうから話し掛けてくれる機会が増えるだろう。
勉強会という名前だけの会は終わり、席を立った時に気が付いたが凄い人だった。
隅っこに居たからなんか追いやられたネズミみたいね。
どけと言いたいところだが、これはチャンスだ。
「皆さんこんにちは。私は誰が私と話したいのかわからないので、話したい人は順番に並んで下さーい。じゃあみんなっ、手伝ってねっ!」
「「「えっ……」」」
「えっ、ってさっき握手会の話したでしょ? 割り振りは教えた通りでよろしくー」
「ちょっ、何人居るのさっ。あーもうっ、みんなやるよっ! 頑張ったらルクナちゃんが家で美味しいお菓子ご馳走してくれるって!」
「ルクナちゃんの家……やるっ!」「やったぁっ!」「わぁいっ! 頑張るっ!」
「おぅおぅエリちゃんも言うようになったのぉ。後で褒美をやろう。はーい名前は一気に覚えられないから名刺がある人はそれでよろしくー。時間は1人30秒でーす。最初は貴女からっ。そこ座って座って」
「はっ、はいっ!」
「はいはい並んでくださーい。順番守らないとルクナちゃん握手会には参加出来ませーん。あっ、男子は駄目でーす。ルクナちゃんが怒りまーす。皆さんで押し出してくださーい、はいありがとうございまーす」
エリちゃんの友達は張り切って並びを整理してくれているので、握手会は成功させよう。
こうやって囲まれるのはわかっていたので、ライズが教えてくれた握手会で正面突破してやるぜっ!
はっはっはっ! ルクナは絶対に失敗しないぞっ!
逃げないさ、場数踏んでトラウマに打ち勝ってやる。




