日常に、戻れた気がする
「ただいまー。あっ、ライズー」
「ルクナっ!」
無事に家に帰ると、ライズに抱き締められた。家に神殿巫女達が居て泣いていたから結構な騒ぎになっていたらしい……
「なんとか帰れたよーごめんね心配かけて」
「ほんともうダメかと思った……あっ、ちょっと来てっ! セイランが倒れちゃってっ!」
まじかっ、そりゃルゼル様の気に当てられたら正気を保つのは辛い……私の部屋に入り、ベッドで眠っているセイランの状態を確認……眠っているだけ、かな。
「大丈夫だと思う。その内目を覚ましそう」
「そうっ、よかっ、たぁ……」
「えっ? ライズ?」
ライズも倒れてしまったので、ベッドに寝かせておこう。だいぶ疲労が溜まっていたと思うし。ほんと無理しちゃって……いいこいいこ。
神殿巫女はウォーエルに報告に行っているだろうし、私は少し外に出て確認する事があった。
北区の大通り、リューメイ魔導具店に向かう道沿いに……あった。
パンケーキのお店『パンパン』ノースギア支店。ロゴも、制服も一緒。
まさか世界間規模で支店があるなんて思わなかった。どこかで見た制服だと思ったよ。
いつものように行列が出来ていて、入るには待つ必要があるけれど確認したかっただけなので今回は見るだけ。
入口の店員さんと目が合ったが、あのお店には居なかった人なので目を逸らした。
次はウォーエルのところに行くか。きっと神殿で待っているだろうし。
北区から中央の真王都に向かっていると、道行く人は私を見て祈っていた。
……私は国民が手を振ってくれるような人柄ではない事はわかっているが、絵に描いたような皇女を見せ付けられたら何か心に来るものがあるね。
「あぁイチカさん、お久しぶりです」
「ルクナ様……お待ちしておりました。どうぞ」
なんかめっちゃ久し振りにイチカさんに会ったな。忙しかったんだろう……そっと手を繋ぐと、涙ぐんて頷いてくれた。神殿の中に入ったら直ぐにウォーエルが駆け寄ってきて、ギュッと抱き締めてくれた。
「ルクナっ……良かった……もう駄目かと思って……わたくし……」
「ご心配をお掛けしました。流石にあの強さは予想外というか……」
「生きて帰って来てくれただけで良いの……お姉様でも無理な相手だったのでしょ……」
「ん? ぅん、確かに天竜達が束になっても無理だね」
「良かった……よく戻って来てくれた……ルクナが奪われたと聞いた時は凄く後悔したの……わたくしも行けば良かったって……」
「……ぅん? 奪われた? どういう事?」
あれ? みんなを帰してルゼル様と2人きりだったよな。奪われた……?
「デスの話を聞いて直ぐにマリンお姉様が迷宮に向かったの……帰って来た時、お姉様が震えていて……」
「向かった……? あの距離を一瞬で……おかぁさん、マリンさんは行ってからどれくらいで戻ってきたの?」
「わたくしが着いた時に、戻って来たから5分から10分かしら……どうしたの?」
「私が居たのは迷宮の最深部だよ。転移陣の無い迷宮なのにどうやって行ったのかなって」
「転移くらい出来るでしょ?」
「マリンさんは海から海にしか転移出来ないよ。最深部は海なんて無かったし……」
直ぐに最深部に行けるのなら、どうして最初から連れて行ってくれなかったのだろう。
攻略が目的だから、最深部だけよろしくでも良かった筈だ。それならマリンさんと人魚達だけで攻略も出来た。
それに、最深部はボスというか、迷宮の罠みたいだった。沢山の召喚陣で魔物を呼び寄せ、超位級の悪魔達……そういえば、帝国の闘技場みたい……デスちゃんも迷宮の造りを不信に思っていた。理論上は可能って……なんだ、何か嫌な想像をしている気がする。
でも、こういうの気になっちゃうから調べたい。
「氷神様ですもの。凄く心配していたわよ? 調べ物をすると言って月へ行ったから、帰って来た事を報告に行かない?」
「ぅーん……セイランとライズが倒れちゃったから、目が覚めてから予定を決めるで良い? あっちで色々あったのよ」
「もちろんっ、わたくしはルクナのお家に泊まるわっ」
「ありがとね」
先に家に戻ると、フランさんがライズの髪を結っていた。ライズはドレスを着ていたので、着せ替えタイムに付き合わされていたのか。私もよくあんな感じだし、むしろ美少女を連れてくればフランさんとミレイさんの目の保養になる。
同じ黒髪のサエさんも似たような格好をしているので、姉妹コーデがしたかったのだろう……
「おかえりー」
「ただいまーライズは元気そうだね。そうだサエさん、もういつでも帰れるから帰りたくなったら言ってねっ」
「えっ、わ、わかりました……あのぉ、もう少し居ても良いですか?」
「もちろん良いよっ。あっ、それならメイド協会の上位試験受けてみたら? こっちの文字も書けるんでしょ?」
「そう、ですね。挑戦してみようかな……」
「サエー、私が教えるぞー。ミレイも喜ぶと思うしー」
「上位になってくれたら給料上げられるから頑張ってねー。私はセイランのところに居るからお茶だけお願い」
セイランのところに行くとまだ眠っていたので、ベッドの前に椅子を置いてセイランの寝顔を眺めていた。
ほっぺつんつん。つんつん。
「ねぇセイラン、あっちの世界に行ってさぁ……なんか自信無くなっちゃったんだよねぇ……強い人いっぱい居るし、同世代の輪に入れないし、自信に満ち溢れている人とか見ると億劫になるっていうか、自分と比べちゃって暗い気持ちになるし……最後は耐えきれなくて逃げちゃってさぁ……はぁ……」
つんつん。良い経験だったよ。カフェ店員さんってやる事多いから大変なのだと知ったし、ルクナ個人として見てくれる環境って中々無いから少しだけ嬉しかったし……ご飯美味しかったし。
セイランの頭を撫でていると、ノックの音が響きウォーエルがお茶を持って来た。
「お茶にしましょ」
「ありがと」
「セイランは大丈夫?」
「うん、眠っているだけ。もし起きなかったらリリたんに頼むよ」
「そうね……ねぇ、マリンお姉様が恐れる存在とは、何を話したの?」
「んーーーーあんまり話せなかったけれど……なんか、思ったより優しかったというか、何を言っても許してくれそうな雰囲気がある理想の上司みたいな感じ?」
「なにそれ。きっとルクナが可愛いから甘くなったのかしらねぇ」
「あははっ、そうかも。娘が居るって言っていたし、みんな優しかったし……」
ウォーエルには話しておこう。知らない世界のパンケーキ屋で働いていたという謎な話を。
「…………パンパンってあそこよね? よくテイクアウトをお願いしているわ」
「そなの? いつも行列で入った事無いのよ」
「セイランと行ってきたら? わたくしはライズと出掛けるし……おはようセイラン」
「……おはようございます。痛っ、身体中が痛いわ」
「セイランっ、良かった起きたんだねっ」
起きたが顔色わるっ、抱き締めて回復魔法をじんわり馴染むように施した。
あー良かった良かった。セイランの目を見ると、そっと目を閉じて唇を突き出したのでいつものセイランに戻ったみたいだ。
「目覚めのキスくらいしなさいよ」
「はいはいちゅっちゅっ」
「ムードのカケラも無いわね。まぁ良いわ。ルクナがパンケーキを口移しで食べさせてくれるらしいし」
「恥ずいから絶対しないよ。明日食べに行こうね。今日はお粥です」
「ふーふーしてね」
「ノースギアのお粥は熱くないよ」
「なんでよ。貴女の髪の毛食べるわよ?」
「やめてよ怖いから。とりあえずセイランくちゃいからお風呂入ろ」
「洗いっこだなんて積極的ね。貴女から知らないメスの匂いがするから丁寧に洗ってあげるわ」
「こわっ。立てる?」
お風呂は普通に入りましたよっ。
ライズとウォーエルも入って来たので、まじで狭かったとだけ言っておこう。
次の日、セイランの体調は良くなったので一緒にパンケーキのお店パンパンに並んでみた。
一応変装というかいつものぐるぐる眼鏡をして気配を薄くしているので、ルクナだと気がつかれていない。
セイランは並びで渡されたメニューを眺めてずっと悩んでいた。
「……決められないわね。毎日来れば食べたいのはいけるけれど、太りそうよ」
「じゃあ友達呼んでシェアする?」
「うーん、そうねぇ……あら、あそこを歩いている人は見た事があるわね」
「あぁセイランが喧嘩売ったシャーリーさんだよ。リューメイ魔導具店に行くみたいだね」
「あぁあの時の……声掛けたら? 友達でしょ?」
「それもそうか。シャーリーさーん」
シャーリーさんが声に気が付いてこちらを見て、一瞬ギョッとしたな。仁王立ちのセイランを見てしまったのだろう。手を振ると来てくれて、挨拶をした後セイランに頭を下げていた。シャーリーさんは王族で有名なので、いきなり頭を下げた事に周りの人もびっくりしていた。
「セイラン、ありがとう。貴女のお蔭で毎日が楽しいわ」
「私は何もしていないわ。楽しいのは貴女が良い生活を送っているだけ。暇だったらお茶しない?」
「えぇ、喜んで。と言いたい所だけれど、並びを乱す事は出来ないわ」
「じゃあ並び直しましょうか。すみません最後尾に行きます」
「並ぶわよ。遠慮したらぶっ飛ばすから」
セイランさん野蛮ね。
あと2組で呼ばれる所だったが、列の最後尾に並び直した。店員さんは大丈夫と言っていたが、割り込みは気分が良いものではないのでね。
「セイランは、撮影で来たの?」
「撮影は終わって観光に来ただけよ。長期休暇中なの」
「とりあえずお茶しながら予定を決めようと思いまして、まだここに入った事が無かったので並んでみたのですよ」
「そうだったのね。ここって人気で、ほんとパンケーキ美味しいし、制服可愛いから妹達とよく来るわ」
「へぇーよく来るのですね。私はいつも入るか悩んで結局隣の喫茶店にしていたのですが、最近私が通うせいか混むようになってしまって、エリちゃん家の隣の喫茶店に行くようにしています」
「だってルクナちゃんとクレイル様が来た喫茶店よ? その噂でかなり人気になったのよね」
「あぁそっかぁ……ねぇセイラン、帝国学院が長期休暇に入ってみんなの予定って聞いている?」
「いいえ、ローザ様にヴァン王国に帰ると言ったくらいね」
もちろんアルセイアの予定は記憶済みなので合間に会いに行っているが、他のみんなの予定を知らない。しばらく雑談しながらあと1組というところで、大通りの向こうからキラキラした空気を感じた。
「……セイラン、シャーリーさん、友達を発見したのでまた並び直して良いかしら」
「あら、良いわよ」「友達? うん良いけれど……」
「お待たせしましたーっ!」
「あっ、すみません友達を見付けたのでまた並び直します」
「えっ……だ、大丈夫ですよっ! 追加で席をご用意出来ますのでっ! ほんと大丈夫ですからっ!」
「いえ、並びます。お気遣いありがとうございます」
店員さんが引き留めてきたが、お断りして列から離れた。
後ろを見ると、結構並んでいるなぁ……とりあえず大通りの真ん中で仁王立ちをすると、セイランも隣で仁王立ち、シャーリーさんも見よう見まねで仁王立ちをすると、向こうからサングラスを掛けたスーツ姿のイケメン……クレイルが歩いて来た。
帝国に行く手間が省けたというか、よく休み取れたなぁという感想だね。隣のシャーリーさんの足がガクガクしているが、頑張ってくれ。
あれ? もしかして1人で来た? こういう場合って何かあったと思うけれど、イシュラ関連か? なんにせよ帝国第一皇女が1人で来るって余程の事が起きたと思う……
「やぁクレイル兄さん。休み取れたんだね」
「いやぁ頑張ったよ。ミレイさんがここに居るって聞いたから来たけれど……凄い行列だね」
「隣にする? 直ぐ入れるわよ」
「セイランが良いなら隣にしよっか。流石に待つよねぇ……」
クレイルを見た女子達が一気に並んだせいで行列がエグい……今から並んだら二時間待ち以上だぞ……店員さんに断りを入れると、何か必死に引き留められたが立場上特別扱いをされたくないので明日行けたら来ると言ってさよならー。
さて、隣のカフェに行こうかしら……シャーリーさんは挨拶をしたが緊張して挙動不審なので落ち着くまで手を引いて誘導していこう。
「きゃーっいらっしゃいませっ! こちらにどうぞっ!」
奥のソファータイプの良い席に案内してくれたのでこっちの方が良かったわね。クレイルはみんなから見える場所に座ってもらって……セイランは私の隣じゃないと怒るからなぁ……
「……シャーリーさん、そっちに座って下さい」
「むりぃ……」「私はルクナの隣じゃないと暴れるわよ」
「そうだクレイル兄さん、これ一緒に行かないか聞こうと思ったのよ。シャーリーさんセイランがキレそうなので座って下さい」
「ぅぐぅ……」「早く座りなさいよ」
「ん? 交流会? 私が行く意味ある? ほらシャーリーおいで」
「うん、パートナーが居ないと肩身が狭いらしいのよ。私の友達は平民だし、誘ってくれる男子はゼロだからどうかなーって。シャーリーさん写真撮りますねー」
「ぅぇっ! やだぁっ」「うるさいわね」
「ピース。ルクナを誘うって勇気くらいじゃどうにもならないもんね。まだノースギアに居るから良いよ」
「ありがとっ。忙しいから途中参加の途中退場になるから、その日に迎えに行くねっ。あー良かったぁ、ぼっちパーティーなんてこりごりだもん。あっすみませーんパフェ2つに紅茶4つお願いしまーす」
「はーいっ! 喜んでっ!」
撮った写真を現像して、保護シートに挟んで硬質シートに挟んでパチン。シャーリーさんに渡して完了。ついでにセイランとツーショットを撮って、クレイルとシャーリーさんの間に座ってセイランに写真を撮ってもらった。
おっ、このカフェも行列になったな。クレイル効果は凄い。
「兄さんはいつまで居られるの?」
「父と母にルクナに会いに行くって言ったから長居できるよ。北区で良い宿ある?」
「ははは、よく許してくれたね。私の家泊まって良いよ。あぁ来た来た」
「お待たせしましたーっ! どうぞっ!」
紅茶4つにパフェ2つ……シャーリーさんが凄い目でこっちを見ていたので、にこりとしておいた。
はいセイランあーん。幸せそうね。
「泊まって良いの? ママ様怒らない? シャーリー、あーん」
「ふぅっ、ぅぅ……」「ルクナ、あーん」
「美味しいねー。クレイル兄さんは良いよ。クレイル兄さんはね」
「あぁなるほど。ありがと、嬉しいよ……ちょっとあってね。あっ、クリーム付いているよ」
「……っ」「ルクナ、口にクリームが付いたから舐めなさい」
「やだよ。そうだ、セイランママに別荘貰ったから明日バーベキューしない? 道具はあるのに使う暇無くてさー。このメンバーと……家のメイド達とママ達とライズとアルセイアかなぁ……セイランさん痛いわよ」
「ただの私怨よ。アズリーナ王女は?」
「直ぐママとケンカになるからダメですー。明日バーベキュー終わったら夜にライズを送って行くから、朝に帰って来るね」
「朝帰りなんて酷いわ。私が寂しいじゃない」
「どうせフランさんとミレイさんと夜更かしするのでしょ? トランプあげるよ」
仕方がないので帝国土産のエロトランプをあげた。パフェを食べてゆっくりしてからカフェを出て……おぉ凄い人。クレイルがふっと笑って手を振ると、「「「きゃー! クレイルさまぁーー!」」」と黄色い歓声が上がった。
はいはい、付いて来ないでねー。
「とりあえず私の家に行こっか。シャーリーさん、泊まって行きます?」
「えぇっ!? いや、流石にそれは……でも行きたい、でもでもでも……」
「はいはいシャーリーも参加ね」
「みんなでお泊まり会ですねー。他に誰か誘うかなぁー……ぁっ……」
……パンパンの方を見たら、店員さんがこっちを見ていた。知らない人だけれどなんかビクッとしてしまう……入らなくて良かったと思ってしまった。
こう思ってしまったら絶対入らないのよね。
パンパンにはもう戻りたくないし、そもそも望んでパンパンに行った訳でも働いていた訳でもない。
はぁ……それなのにどうしてビクビクしてしまうのだろう。
そろそろ学院編は終わって、長くなりそうなので追加で身辺整理編を入れようかと思います。




