ナイトクラウンへ
バーベキューは普通に別荘を楽しみ、温泉にも入れて最高だった。これなら週一で来ても良いね。予定合わなくても1人で来れば良いし。
現在ライズと一緒に千年前に戻った。今回は久し振りに幽霊での活動になる。ちょっと最近精神的に不安定なので命の危険が無い幽霊でだらだらしたいとわがままを言ったのだ。
同世代怖い病が再発しているからねっ。
『ナナリーちゃんやっほー』
「るなさまぁ……寂しかったですぅ……」
『いやぁごめんごめん。そろそろナイトクラウンに行こっか』
「はぃぃ……らいずぅ……あれ歌ってぇ……」
「えっやだ。声違うし」
『あぁそうだ、ティナちゃんにも会いに行かないと行けないし、私って忙しいわ』
「今更じゃない? ナナ、地図ある?」
「ぶぅぅ、ルナ様と千年後に行きたいですっ」
『今度ね。今は神気と精神力の充填中なの』
またいつ私が行方不明になるかわからない状態で連れて行く訳にはいかんのよ。パンパンで働きながらライズを帰してあげなきゃっていうのが頭にあって集中出来なくてイライラしていたし、それでなくてもイライラしていたがね。因みにエイシャはエルメルンに帰ったみたい。アズサはもう居ないし、私も中々帰って来なかったからだと言うが……きっとアズサを忘れる為に仕事に戻ったのだろう。
「じゃあ転移するよー」
ライズの転移でやって来た場所は、綺麗な山が見える街の側だった。
ここがナイトクラウンかぁ……国が違えば建物や人の感じも違うし、なにより獣人やエルフが多いから新鮮な感じだ。ヴァンとノースギアと帝国って人間がほとんどだから、この景色はなんか嬉しい。
「ルナ様っ、ここがナイトクラウンですっ」
『素敵ー。いやぁ良いね、あの山はなんて名前?』
「ナイトクラウンのシンボルである聖山マリウスです! あの山に女神パレスが降臨した伝説があるんですよっ」
『ほえー、聖山は登れるの?』
「はいっ、申請すれば登れますっ」
『登りたーい。用事終わったら行こー』
ナナリーはお付きの魔法使いと戦士と合流して、迷宮攻略の報告に行くらしい。ナナリーとは交信が出来るので集合場所を決めなくても良いので、ライズとナイトクラウンの街を散策する事にした。
道行く人々の種族が多種多様なので、私もライズも目移りが凄かった。
「耳……可愛い……触りたい……あっすみません」
『獣人と言っても色々居るのねー。友達は猫人だから犬人とか初めて見た』
「なんでこんなに居るんだろうね。あっ人魚だ。海も近いのかな」
『あんまり種族を言わない方が良いわよ。人間より耳良いんだから』
「ぁっ、そうだね。ルクナと一緒だと気が抜けてさぁ……武器屋見て行く?」
『見るー。さすがは騎士の国というか結構強い人多いねぇ』
「武器の事良く知らないから憑依して良いよ」
『おっ、ありがとー』
獣人達の他にも、歴戦の探索者や魔力の強い人が多く、良い装備を持っている。逆に黒いローブ姿のライズは目立つね。まぁでも子供も多いし……ケモ耳女児とか鼻血出そうなくらい可愛いなぁっ!
ずらっと並ぶ武器屋の中で異様な力を感じた人気の無い武器屋に入ってみると、カウンターにお姉さんが座って観察するように見ていた。頭のてっぺんに角があるから鬼族かしら? 顔に傷があって……歴戦の勇士というか、この街で見た人の中で一番強い。威圧感があるから子供は入りにくそうね。
「いらっしゃいお嬢ちゃん、買い物かい?」
「はいっ、良い武器があったら買おうと思いますっ」
「ふーん……予算は?」
「あっ、帝国金貨が使えるなら良いのですが……ダメなら宝石でも良いですか?」
「これでアレ斬れたら考えるよ」
使い古された剣を渡された。親指であそこで振れと広い場所を指され、鎧の人形が立っていた。
ふむ、この剣凄いな……
「この剣、お姉さんが打ったのです?」
「そうだよ。帝国に比べたら粗末だろ?」
「いえいえ、凄く良い剣です。ほいっと……おぉ凄い」
「……へぇ、冷やかしじゃなかったか。帝国金貨で良いよ」
鎧を両断するとお姉さんが微笑んで雰囲気が柔らかくなった。自由に見て良いのね。私も微笑んで、早速ハンマーを見ようかなーっと、あった。うーん、エリパパのハンマーの方が無骨で良いかしらね。おっ、鉄球ハンマーだっ! あー良いねこの打撃特化のフォルム……鉄球に棒が付いたシンプルなのに振り回されるバランスがゾクゾクする。
値段は50万……この鉄球の値段かな? 確かに綺麗な球体だから相当な技術が必要……というかこれ安くない?
「これ下さい」
「鉄球なんて珍しい子だね。試し振りしなくて良い?」
「持てばわかるので。これお代です」
「40万で良いよ。それ中々売れなかったから」
「いやいや50万でも安いです。こんな良い物私だったら10本買いますよ?」
「ふふっ、お嬢ちゃんはわかってくれるのか」
笑うと牙が見えて普通の子供だったら怖いわね。鬼族の鍛えた武器は凄いって聞いた事があるから、剣も欲しいなぁ……新品の剣も良いけれど、さっき使った剣って売り物かしら。
「あの、さっきの剣って幾らですか?」
「ん? これは訓練用だよ。こんなの欲しいの?」
「はい。鬼族の力が宿る武器なんて中々お目にかかれませんから」
「へぇ……お嬢ちゃん、一戦どう?」
「良いですね。見ての通り私は非力なのでお手柔らかにお願いします」
「あの鉄球軽々持っていたくせに。店閉めるからちょっと待ってて」
お姉さんは店の入り口を閉店にして鍵を掛けている間に、ローブは動きにくいのでジャージに着替えた。裏に合同の訓練場があるみたい。裏口から出てみると、武器屋が並んでいた意味がわかった。裏で訓練や試し斬りをする広い場所があって、探索者達が練習していたり、魔法訓練等もやっていた。
「へぇー合理的ですねー」
「曜日によって戦闘訓練の道場も開催されているし、武器屋の部会で訓練用の武器の貸し出しもしている。一応私は戦闘訓練の講師なんだ」
「そんな気がしました。木剣にします?」
「鉄球でも良いよ」
「そうしたいのですが、この身体は借り物なので鉄球は振り回せません。あっ、私はルクナと申します」
「私はメイラだ。借り物? 憑依術という事は霊族か?」
「まぁそんなものです。メイラさんは好きな武器で良いのですよ?」
「同じで良いさ。お互いに本気で戦えないから」
鬼族って龍人みたいに本気を出すと周りを壊してしまうのだろうね。まぁ私もライズの身体だから自重しないといけないし、頑張るとライズが筋肉痛で動けなくなるから。
ほんと幽霊の身体って便利よね。
木剣よりも素手で良いかしらね。少し離れて対峙すると、他の探索者達が集まってきた。講師と言っていたから有名人なのかねぇ……私は髪を纏めて準備運動をし、人差し指を空に向けて結界を展開した。広がるように展開していき、近くまで来ていた探索者達を押し出して2人だけの空間にしてあげた。
「氷神回復結界。この中なら打撲や斬り傷は治ります。骨は時間が掛かるので折らないで下さいね」
「へぇ……超級魔法を一瞬で……天才って居るんだな」
「ふふふっ、ハンデとして攻撃魔法は無しにしてあげますよ」
「はははっ、ありがたい申し出だねっ! 鬼力解放っ!」
「子供相手に大人げないですねぇ。ていうか本気出す気でしょ……まぁ良いか、ルクナフィストッ!」
ウォーエルみたいに両手にナックルダスターを装備し、拳を打ち鳴らして距離を詰め先制攻撃。
するとメイラさんは楽しそうに笑って私の拳に合わせて殴り付けた。
──バゴンッ! と結界内に激しい音が響き、お互いに拳が弾かれた。
ビリビリと手が痺れ、血が噴き出したが結界の効果で直ぐに治った。
「ぐっ……驚いた、なっ!」
身体を回転させた裏拳が飛んできて腕で受けたがそのまま吹っ飛ばされた。鬼族と戦うのって初めてだが、馬鹿力にも程がある。
空中で体勢を立て直し、着地した瞬間にはもうメイラさんは眼前に迫っていた。笑顔から覗く牙が鬼族の恐ろしさを体現しているようで、殺すまで終わらなさそうな雰囲気があった。
「ルクナシールドっ」
ガキンッ! えっ、素手でそんな音出る? まるで鉄拳じゃねえか……子供相手にそんなもん使うなよ。
──ガガガガッ! と連打が浴びせられ、シールドが浮いたところで蹴り上げられた。
ここでシールドをハンマーに変換。ハンマーに魔法陣をくっ付けて出力を上げる。
「良いね良いね正面突破してやるよっ! 鬼烈功っ!」
「気持ち良いくらい真っ直ぐですねっ! ジェットハンマーッ!」
私のハンマー目掛けて渾身の拳が突き刺さり、手がビリビリと痺れる衝撃と共にハンマーが割れた……拳で割るなや、引くわ。
メイラさんの拳から血が噴き出していたが、回復結界の影響で直ぐに傷が治った。
「……凄いねこの結界。この技を使ったら右手は使い物にならないのに」
「この結界の効果がある魔導具を販売していますよ。上級魔石1つで1ヶ月効果が出ます」
「幾ら?」
「双剣を作ってくれたらタダです」
「買った。鬼族の里に来てくれない? そこに置きたい」
「良いですよ。あとその鬼烈功の反動は改良出来ますがそれも買います? 今回はお試しでどうぞ」
メイラさんの近くに寄って、魔法陣を細長くして右手首に巻いてあげた。反動を拳の前に出す効果があるので、普通に殴っても威力が倍増するという……なんか面白いしと思ったが、今やったらまずいかも。
「……わっ、これ……天才で済む話か?」
「撃ってみて下さい。ルクナビッグシールド」
「お言葉に甘えて……鬼烈功っ!」
──バギンッ! ぎゃー! さっきの比じゃねえっ! 大盾ごと吹っ飛ばされたっ!
よーしやってやろうじゃねえかっ! 大盾を腕を覆うガントレットに変え、魔法陣をがんじがらめに巻いていく。
メイラさんが駆け出し、さっきよりも大きな気を纏った拳を振りかぶった。
「楽しいですねぇっ! スーパールクナパーンチッ!」
「はははっ! これが撃てるなんて思わなかったっ! 鬼烈爆拳ッ!」
拳が衝突し、衝撃波が結界内を巡り砂煙が舞い上がった。
バキバキとガントレットが砕け、メイラさんの拳から腕にかけて血管が破裂して血が噴き出した。治りが遅いから相当無茶な一撃をしたのね。やり切った顔をしているので楽しかったのだろう……もう戦いたくねえな。
「……このくらいにしておきます? そろそろこの身体の主に怒られそうです」
「そう、だね。久し振りではしゃぎすぎた。お茶飲んでく?」
「是非。戻りましょうか」
店に戻った時に氷神回復結界を解除すると、砂煙が引いたみたいで騒めきが激しくなっていた。
お店のカウンターに座って、憑依解除っと。
メイラさんも私を見えるようにしておきたいわね。
「メイラさん、憑依解除しますねー。ぅっ、ルクナ……筋肉痛エグい……初めまして、ライズです」
『いやぁごめんごめん。神気ほいっと』
「っ……君がルクナ?」
『はい。ちょっと本体を家に置いて来てしまったので、友達に身体を借りていました』
「……死んでる訳じゃ、ないのか。種族はなに? 霊族じゃないよね?」
『女神なのですよ。因みに彼女が聖女ライザなのですよ』
「どうも聖女ライザです。あっ、お茶ありがとうございます」
「……驚いたな。凄い人だとは思ったが……女神か……はははっ、この出会いに感謝を。なんでナイトクラウンに?」
『ナナリーちゃんと友達になったのでライズと観光に来たのですよ。ここら辺って温泉とかあります?』
「……里にあるけど、その身体で入るの?」
『魔導具は本体が持っているので近々本体で来ますよ。そういえば探索者とか多いですけれど、近くに迷宮があるのです?』
「何ヶ所かあるよ。ここを拠点に稼ぐと効率が良いから探索者には人気だね。私も武器が売れるから助かるし」
今日はたまたま店番に来ていて、普段は里で武器を作るか訓練場で講師をやるらしい。講師というか戦うだけなので教えを請う人も少ないのだとか……まぁ種族が違うし、鬼族と戦うと強すぎてトラウマよね。今回私がメイラさんを更に強くしてしまったので、もっと恐れられるわね。
反動の向きを変える魔法は買うみたいなので、ライズが持っていた腕輪に魔法を刻んで魔導具にして渡した。
『お代は私とメイラさんとで一緒に武器を作る権利とかどうです?』
「一緒に? 何を作りたい?」
『いやぁ実は本体は宝石や魔導具の職人をしているのですが、作り過ぎて在庫過多なので魔導武器でも開発しようという構想があるのですよ。知り合いの職人は人間なので力が足りないというか……技術は良いのですが、鬼の力が宿ったら凄いかもって』
「魔導武器……迷宮の武器みたいな? そんな事……ルクナなら出来そうだな……面白そうだから良いよ」
よしよし、じゃあ本体で来ないとなぁ……ライズに宿を取ってもらって、そこにアンテナを置いて拠点にするか。
何かをしていた方が嫌な事は忘れるからねっ!




