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嘘吐きエリスタの最後の嘘  作者: はぎま
ノースギア学院編

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327/363

誘拐されてしまったようです

 

 崩れた迷宮から離れた小島にて、デスは1人でマリーナレドの帰りを待っていた。

 デスが1人なのはセイランが天使の圧倒的な重圧により倒れてしまい、ライズと共にルクナの屋敷で休んでいるからだ。

 天使の重圧に何も出来ず、ルクナを置いて行ってしまった自分を責めている時間はマリーナレドの帰還により頭の隅に追いやった。


『マリン……お母様は……』

『……奪われてしまった』


 デスの問いにマリーナレドは首を振り、深いため息を吐いた。

 デスは座り込み、マリーナレドも天使の重圧で精神を擦り減らし、力無く膝を付いた。

 奪われてしまった以上、取り戻しに行く手段すらない。もう二度と会えない可能性もあった。


『ぅぅ……ぅぅ……』

『……デス、これをデスに渡せと言われた』


『……これ、は?』

『知らぬ。何かの素材か?』


 マリーナレドがデスに渡した黒い石は、デスも知らない石だった。

 解析しようにも不明と出てわからず、一度ルクナの屋敷に戻る事にした。

 ルクナの屋敷には、ウォーエルが既に来ていてライズと話をしているところだった。

 デスとマリーナレドが戻り、ウォーエルが泣きそうな顔で直ぐに駆け寄った。


「デスッ、お姉様っ! ルクナはっ!?」

『すまぬ、ルナは奪われた』


「えっ……奪われたって……誰にっ!」

『黒金……そう呼ばれ、わらわよりも遥かな高みに居る者だ』


「黒……どうして、そんな者が迷宮に……」

『迷宮の最深部で大量の悪魔を生贄にした召喚陣が発動した。その際、偶然現れてしまったのだ。正直、皆が生きているだけで奇跡じゃ……ルナは、黒金のところに居る』


 ウォーエルはどうすれば黒金のところに行けるのか聞いたが、マリーナレドにもわからない。違う世界という事だけはわかるが、違う世界に行くにはどこに行くかわからない月の扉を開く必要がある為良い案ではなかった。

 ウォーエルはルクナが戻って来る奇跡を信じて待つ事しか出来ない現状に涙を流し、ライズがそっと抱き締めていた。


『ライズ、ママ、生きてるから。セイランとウォーエル、見てて』

「う、うん……」


 マリーナレドは情報を集める為に月へ戻り、デスはゲートを使ってルクナの秘密基地に向かった。

 異界の天使の状態が気になったからだが、前に見た時と特に変化はなく、まだルクナが無事なのは確かだと思っていた。


 そこで先ほど受け取った黒い石を手に取り、調べながら魔力を流した瞬間……石が輝き始めた。


『……え?』



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ……

 ……あ

 ……そうだ、限界が来て、倒れてしまったんだった。

 ……ん? 花の匂い?

 目を開けると、ベッドで寝ていた。

 ん? 帰って来たのか? でも知らない部屋だ。知らないベッドに知らない文字の本棚。

 起き上がって……えっ? なんか普段絶対着ないネグリジェを着て寝ていた。ちょっとサイズが大きいから、ウォーエルの趣味か?

 まぁ良いか。ベッドから降りて、窓から外を覗いてみた。

 ……

 ……綺麗な庭園ねー。お花がいっぱい。

 ……ってここ、どこ?

 貴族の屋敷? にしては違和感。ハンガーにカーディガンが掛かっていたので羽織って部屋の外に出てみると、部屋が沢山ある廊下……城にはこんなところ無いから、益々わからない。


「すみませーん」

 しーん……こんな豪華な屋敷なのに静かとか怖いよ。

 他の部屋は鍵が掛かっているようなので、廊下を歩いて誰か人が居ないか探してみる事にした。

 ……

 ……誰も居ない。

 ……えー、なにここ。

 あっ、もしかして私死んだ? 天国ってお花沢山あるって聞いたことある。

 いや違うか。

 誰かー。あっ、中庭……おっ、誰か居るから話し掛けようっ。


「こんにち……ぁ」

 天使さん……優雅にティータイム中だったみたいで、私に視線を向けて向かいの椅子を指差した。座れって? えーやだぁ……ってここ天使さんの家? 私はお持ち帰りされてしまったのか……奴隷のような生活が待っているのだろうか……はぁ……

 座らないと殺されそうなので、恐る恐る椅子に座った。


『ここは我の家だ』

「そ、そうですか……凄い家、ですね」


『たいしたものではない、とりあえずあの部屋を使ってくれ』

「は、はい……えっ、あのどうして私はここに?」


『倒れてしまったから連れて来た。安心しろ、ちゃんと帰してやる』

「ありがとうございます……っ」


 天使さんがガラス製の鈴を鳴らすと急にメイドさんが現れ、私に紅茶を淹れてくれた。

 このメイドさん全く気配がしなかったぞ……天使さんにも新しい紅茶を出してから、私にお菓子を出して少し下がって控えている。

 ……飲んだ方が良いよね。紅茶を一口……っ、おいしい……

『気に入ってもらえて良かった』

 少し微笑んだように見えた……緊張していたけれど、今ので少し安心出来たかしれない。でもまだ油断は禁物だ……怒らせたら即死だから。こんな所で死んだら幽霊になっても元の場所に帰れない。


「……あの、貴女様は、凄く偉い女神様なのですか?」

『……ふふっ、女神だと言ってくれるのか。確かに女神の部類だが、偉くはない。ただ他の神より強いだけだ』


「強いという次元ではないですよね……まだ震えています」

『あの世界の者には少し刺激が強かっただろうな。だがルクナ、あの力は凄かったぞ。その神器の力か?』


「はぃ。神気と魔力を発射する武器です。見ます、か?」

 エーテル・バスターを外して天使さんに渡すと、興味深そうに眺めていた。ほぼ透明だから何を視ているのか気になるところ。そういえば記憶を観たと言っていたが、詳しくは観られていないのかしら……だとしたら嬉しいね。恥ずかしい事とか沢山しているから。


『あの世界でこんな物を作れる技術があるのか? 明らかに上位世界の産物だ……これをどこで?』

「他の世界から召喚しました。強い武器が欲しくて……」


『召喚? その召喚を見せてくれないか? なんでも良いのだが』

「は、はい……召喚」


 緊張して日本から召喚してしまったのだが、召喚陣から料理本らしき本が出て来た。

 天使さんは本を開いて……って天使さんの名前知らないな。


『なるほど。人も召喚出来るのか?』

「はい。逆流させればちきゅうにも行けます」


『これを出来るのはルクナだけか?』

「そう、ですね。私しか使えません」


『そうか……ちきゅうに行くのは良いが、他の世界はやめておけ。その世界の神に殺されるぞ』

「ぇっ……あ、はい……わかりました」


 ちきゅうは良いのか……他の世界に遊びも行こうと思っていたから危なかった。むしろルールなんて知らんし、マリンさん達は教えてくれなかったからなぁ。そういうのを勉強しておいた方が良い、のか?


『まぁ良いか。何か、聞きたい事はあるか?』

「お名前を……教えて戴けたら……嬉しいなって……」


『…………すまない』

「ぅっ、申し訳ありませんっ! 聞いてはいけない事だとは知らずっ! 今の質問は忘れて下さいっ!」


『いや……そうではなくて、名乗らなかった事を謝っただけだ。ルゼルと呼んでくれ』

「えっ、は、はぃ。ルゼル様、ですね」


 はぁ、はぁ、ビビった……ルゼル様ね。自然と様と言ってしまうのでルゼル様で良いだろう……否定しないし。女神の部類と言っていたから先輩みたいなものかしら。先輩と言ったら殴られそうね。首吹っ飛びそう。

 ヴヴヴ……ヴヴヴ……ん? なんの音だ?

 ルゼル様が胸元から板を取り出した……あっ、あれって日本で見たスマホってやつか? そのスマホってやつに向かって喋り始めた。


『もしもしーおかぁさーん今どこにいるのー?』

『家に居るが、どうした?』


『お土産渡したくって。じゃあ今から行くねー』

『今から? ちょっと……あっ』


 おかぁさん? 娘が居るのかぁ。なんか嬉しいというか、娘が居るのってなんか安心する。

 ルゼル様がスマホを仕舞って、私にちょっと来てくれと言いながら立ち上がった。

 えっ、なに? 表情が怖いぞ。とりあえず言われるがまま着いて行くと、さっき寝ていた部屋にやってきた。

 なんか周囲を警戒している? 娘が怖い、とか?


「娘さんが、いらっしゃるのですね」

『あ、あぁ……すまないが我が良いと言うまでこの部屋から出ないでくれ』


「あ、はぃ」

 バタン……扉が閉まる瞬間のルゼル様は焦っているように見えた。

 うーん……なんだ? 娘が今から行くと言ってから様子がおかしい。気になる……気になるけれど、この扉を開けたら私に未来は無い気がするぞ。

 扉の前に居たら開けてしまいそうなので、ベッドに座って扉の外から聞こえる声を聞いていた。


「あっおかさぁーん、ただいまー」

『おかえり。リビングに行こうか』


「うんっ、アテアちゃんも来ているから」

『のうルゼル、何か食わせてくれの』

『我の手料理で良いか?』


『殺す気か?』

『あ?』


 ふむ、娘が怖いという感じではないか……ルゼル様の娘ってさぞお綺麗なのでしょうね。おっぱい大きいのでしょうねっ。

 あんな凄い母親が居たら、気負いしちゃいそう。

 本棚の本は読めないし、外を眺めるか寝るかしかやる事は無い……時間掛かりそうだし、寝るか。


 ……

 ……

 ……ガチャ。

『ふぁぁ……寝ようかの……ん? 誰じゃ? まぁ良いか。ふぅ、あったかいの』

 ……

 ……

 ……ふと目が覚めると、白髪の幼女を抱いて寝ていた。

 可愛い……めっちゃ可愛い。可愛すぎて鼻血出そう。すーはー……甘い匂いが最高……

 ……眠くなってきた。

 ……はぁ……幸せ……

 ……

「アテアちゃーん、おやつの時間ですよー。あれ? 帰った? おかぁさーん、アテアちゃんどこー?」

『会議があるから帰ったんじゃないか? 我も依頼があるから少し家を空ける』

 ……

 ……

 ……

『んぅ……あっ、そういえば用事あったの……お主、離してくれんか? おーい…………まぁ、良いか。後でルゼルに返せばよかろう……娘が旅行で寂しいからって愛人連れ込みよって……転移』

 ……

 ……

「あらアテアちゃん、何その可愛い子……愛人?」

『ルゼルの愛人じゃ。離してくれんで連れてきてもうた。助けて』


「へぇー……ルゼルさんの……なんか、アスティに似ているわね」

『観察してないで助けてくれんか? 会議なんじゃ』


「仕方がないわね……自分で出られるくせに甘えん坊なんだから……」

『じゃあ行って来るのじゃ』


 ……

 ……

 ……あっ寝ていたわ。

 起きてみると……また知らない部屋に居た。シンプルな部屋だが、さっきの幼女と同じ甘い匂いがした。

 えぇどこよ……ルゼル様は? 窓から外を覗いてみると……街? どこかの街かしら。

 ガチャッ。

「あら起きたのね。これ着てくれる?」

 部屋に入って来たのはツインテールで凄く綺麗だけれど気が強そうなお姉さん。有無を言わさず服を出されたので、抵抗せずに着替えよう。ピンクの制服? なんか見た事がある制服だな。

 言葉が通じるのは元の世界に戻ったから? でも日本でも通じたから私の女神の能力なのかしら? まぁ便利だから良しとしよう。


「あの、ここ、どこでしょうか……」

「帝都よ。悪いけれどルゼルさんが迎えに来るまでここで働いてくれない? 仕事は簡単だから直ぐに覚えられるわ」


「なんの仕事でしょうか……」

「うーん、まぁカフェの店員よ。貴女、名前は?」


「ルクナ、です」

「ルクナね。よろしく。私の事はヘルと呼んで」


 ヘルさんめっちゃ見てくるから着替えにくいのだが……なんとか着替えて、部屋を出て下に降りると同じ制服の女子達に囲まれた。

「きゃー! 可愛いっ!」「ヘル様っ、新人ってこの子ですよねっ! わぁー!」「超可愛いっ!」

 ビビる。怖いのでヘルさんを見ると、ドヤ顔をしていた。会ったばかりなのにドヤ顔をしていた。この人が一番怖い……


「今日は私が教えるわ。ルクナ、先ずはこの店の説明から始めるわね」

「はい……」


 はぁ……今は逃げられないので受け入れよう。

 こうして私は、知らない世界にあるパンケーキのお店パンパンの従業員として働く事になった。

 ルゼル様、早く迎えに来て下さい。


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