別れは寂しいよね
「……ねぇ、ルクナって本当に12才なの?」
「うん、普通の人よりは濃い時間を過ごしているから精神年齢は高いってよく言われる」
「転生者とかじゃないんだよね?」
「一応前世は氷神巫女の娘だけれど、記憶はほとんど無いからねぇ」
もう辛い修行や幽霊やら迷宮やらのせいで自分の年齢がイマイチわからないが、一応社会的には12才だ。
ピッチピチの12才だ。確か12才だったよな? あれ? 違うわ11才だわ。まぁ11でも12でもそんな変わらんでしょ。
あっ、じゃああと一、二年でアルセイアは婚約者を決めないといけない? 婚約者は私って言えるのか? どうなのだ? いやそれはアルセイアに聞けば良いだけか。ライズが少しむすっとしたので、他の女の事を考えていたのがバレたな。
「……良いなぁ。私も行きたい」
「ん? 私の時代に? あぁ……おかぁさんは行けないけれど、ライズは行けるのか。いや流石にダメか? でも召喚陣に副作用無しに乗れたから行けるのか。ちょっと試してみる?」
「良いの? ほんとっ?」
「じゃあ一旦ナナリーちゃんのところに帰ろっか。アズサを帰してあげたい」
召喚陣で千年前の世界に戻ってきた……ところでこの世界はなんという名前の世界なのだろう……
「ルナ様っ! おかえりなさいませっ!」
「ただいまー。アズサ、決まった?」
「うん。もう帰る事にした。これ以上居たら、帰れなくなりそうでさ……エイシャ、ごめんね」
「ううん、アズが故郷に帰れるのならそれで良い」
「そっか。じゃあ……帰る年代を教えて。えーっと……ちょっと待ってねー……ほいっ。乗って」
「うん……みんな、ありがとねっ!」
「アズサ、ありがと」
『まにあった……アズ、これ』
デスちゃんがゲートから這い出てきて、アズサに人形を渡した。デスちゃんに似ているというか、眷属かな?
別れを済ませ、アズサと共に日本に戻ってきた。
アークイリアやミナカも呼びたかったが、送別会なんてしたら私が泣きじゃくってしまう。
そう考えている内に転移して、アズサの手を引いて外に出た。
「……帰って、きた」
富士山の見える場所にやって来て、アズサは一言……しばらく涙を流しながら富士山を眺めていた。
「アズサ、これ交通費とお土産」
「えっ、こんなに受け取れないよ……あぁいや、ありがたく受け取ります。ルクナ……ありがと……ほんとに……全部ルクナのお陰だ……」
「良いの良いの。これもご縁だから。せっかくだし一緒にアズサの家まで付いて行くよ」
「ありがとぉ……はぁ……これでお別れだと思ったら寂しい……」
「ふふっ、まぁちょいちょい来るからアズサの家にアンテナ置いて気が向いたら遊びに行くし」
「えっ絶対来てねっ! おもてなしするからっ!」
アズサの家はシンカンセンという乗り物で一時間程の場所にあるらしい。
身分証無く乗れるというのでアズサに任せて付いていく事にした。
少し歩いたら駅に着き、切符を買って電車という乗り物に乗ってシンカンセンが来る駅まで行き……切符を買ってシンカンセンに……ってなんかめんどくせえな。いつも転移やらダッシュやらで楽に移動していたツケが回ってきたような、確かに新鮮な乗り物で乗り心地も最高で景色も最高だったが、若干めんどくせえが勝ってしまっているからアズサには申し訳ない。
「これで大量の人を運べるのは便利な世界ですが、事故が起きたら全員死にますよね?」
「まぁね。でも新幹線での事故なんて知らないし、慣れたら気にならないよ?」
「飛行機という乗り物に比べたら安全ですがね……なんですかアレ、鉄の塊が魔法無しに浮いていますよ」
「あれは凄いエンジンで飛んでるらしいよ。私は怖くて乗らないけどね」
「高所恐怖症だもんね」
「そう……ルクナにされた仕打ちは忘れないけどね」
「そんな事もあったねー」
「ほんと、ルクナと過ごした日々が昔の事みたい……つい最近なのに……着いた。ここが私の実家だよ」
「へー。住宅街に馴染む一般的なお宅だね」
「そうそう。普通の家……懐かしいなぁ……泣けてきた」
アズサはちょっと先に入ると言って植木鉢の底面を探って鍵を取り出し、玄関を開けて入っていった。
……アズサが転移した日にやって来たので、失踪している訳では無いがアズサ自体の時は経っているので少し雰囲気は変わっているはず。錬金術や世界樹の美容液で転移した当時の若さくらいには頑張って出来たが、纏う雰囲気は歴戦のそれなので近寄りがたい感じにはなってしまったかしらね。
「……誰?」
「ん?」
横から声を掛けられたので、声の方を見た…………あっ、なんか、凄い見た事ある雰囲気の女子が居る。
「梓さん家に何の用?」
「私はアズサの友達ですよ。ルクナといいます、お名前は?」
「……優子」
ほぉぉ……若かりし頃のユウコりんじゃありませんかっ!
疑いの目を向ける感じが大人になっても変わらないっ!
良いねぇ……私と同じくらいの歳のユウコとか全然イケるっ、ぺろぺろしたいっ! いやぺろぺろなんてしたら警察に捕まるねっ! いやなんとかして1ペロくらいしてやるっ!
「ルクナっ、お待たせっ。あっ、優子ちゃん」
「こんにちは。外国の子とも知り合いなんですね。ルクナは日本語上手だけど……ロシア人?」
「あっ、ごめん優子ちゃんっルクナには無理言って来てもらっただけだからっ。また今度ねっ! ルクナおいでっ」
「はーい。ではまたお会いしましょう」
「えっ、あ……はい……」
アズサに手を引かれて、階段を上って部屋に入るとアズサの部屋って感じの可愛いものがいっぱいだった。ちゃんとデスちゃんにもらった眷属はぬいぐるみ達のセンターをキープしているというか、喋るタイプだったので魔力回復出来るアクセサリーを着けてあげた。
『創造主様、ありがとう、ございます……』
泣くな、アズサが引いている。
「まさかと思ったけど……寂しさは紛れそうだね、ははは……」
「良かったじゃん。ところでさっきの子は?」
「親戚の優子ちゃん。近所に住んでるんだ」
「へぇー。実は彼女、会った事あるのよ」
「えっ、そうなの? どこでっ?」
「千年後」
「……まじ?」
「うん。帰る気無いって言っていたし、楽しそうだからそっとしてあげてね」
「えぇ……でもさぁ……」
「家には居場所無かったみたいでさ、今は生き生きしているよ」
アズサはそっかぁ……と一言。思い当たる節があるのだろう。まっ、私は未来のユウコと仲良くやれたら良いので今のユウコには……チャンスがあればアタックします。
アズサの家にアンテナを設置したが、さっきと年代が少し違うから中々来られない。
もしかしたらこれで最後の別れになる可能性だってある。
それはアズサも感じているようで、深々と頭を下げていたのが印象的だった。
「るくなぁぁ! さびしいいぃーー!」
「あずさぁぁぁぁぁぁ!」
泣きました。めっちゃ泣きました。
これでもかって泣きました。
はぁ……寂しい。
でもアズサの嬉しそうな顔を見たら、良い事をしたって思える。
その日はアズサの家に泊まって、語り明かした。アズサの家族は普通に良い人だったよ。
そして、アズサと別れライズ達の所に戻り、試しにライズを連れて元の時代に行ってみたのだが……
「……で? その女は誰?」
いきなりノースギアに行ったら少女時代のライズにウォーエルの鼻息が荒くなるだけだし、グニアに会わせてあげようとヴァン王国のステラ邸に行ったは良いが……帰省していたのよ……セイランさんが……個人的には嬉しいのだが、ライズには刺激が強かったようで。
「ライズ、気をしっかり持ってね。彼女はミナの姿をした大魔王だから」
「ぁあ?」
「──ひっ、る、ルクナ……怖い……怖いよ……ミナなのに、ミナじゃない……」
「セイラン、彼女は私のお客さんだから喧嘩売らないで」
「売っていないわ。質問しているだけ。少し目を離すと知らない女が増えているから身元をしっかり把握しないといけないの。情報を共有すればその女を守る事にも繋がるのだから教えなさい。貴女、名前は?」
「……ラ、ライズ、エリスタ、です」
「ふーん……ライズ・エリスタ? 確かに……見覚えがあるわね。私の知るライズ・エリスタで良いのかしら?」
「うん。ねぇねぇセイラーン」
「なに?」
「おかえりっ!」
セイランの口がへの字に曲がった。
嬉しいのにプライドが邪魔している顔だな。どうせ帰省しているのに家に帰っていないのだろう。家での居場所が無いと自覚しているし親と話したくないからここに居るのだろう。
王国に帰ったら真っ先に仲間に会いたい気持ちは痛いほどわかる……ここがセイランの居場所だから。
「見透かされるのはムカつくわね。ただいま」
「嬉しいくせにー。今日は家に帰るの?」
「帰らない予定だったけれど、貴女が居るのなら帰ろうかしら。来る?」
「うん。ライズ、セイランの家行こっ」
「う、うん……邪魔じゃない?」
「大歓迎よ。聖女ライザを家に招けるなんて最高じゃない。ふっ、ふふふふ……楽しみねぇ……じゃあ準備してくるわ。グニアも誘いなさい」
「ほーい。じゃあお菓子作って持っていくね」
セイランは珍しくご機嫌を隠さずに家に向かっていった。
グニアはステラ邸集合と念じたら返事が来たのでその内来るだろう。
ふむ、何作ろうかな。
「ねぇ、ほんとにルクナと同い年? めっちゃ大人だね」
「セイランは同年代ではトップレベルの女子だから……あっ、これカタログ見る? 私の友達しか出ていないから」
「ありがとっ。うわぁー! かっわいー! うわっ、うわっ、みんな友達なの? わぁ……」
「ふふふ、ライズも撮る? セイランとグニアに言えば直ぐ撮影会になるよ。ライズとして雑誌に載るのも面白くない?」
「ふふっ、それも良いかもね。ねぇお菓子は私が作って良い? 実は得意なんだよねー」
「おっ、ありがと。私が作ると硬いクッキーになるから助かるよ」
材料はほとんどステラ邸にあるので、ライズはキッチンの設備に驚きながら早速お菓子作りを始めた。
鼻歌を歌うライズの後ろ姿を眺めながら、誰に会わせるか悩んでいた。
聖女ライザだからなぁ……まぁ誰もわからないけれど、わかる人にはわかるし……
「ルクナー、何人分作れば良い?」
「十人くらいかなぁ。あっちにもお菓子は大量にあるし……あっ、そうだどうせバレるから言うけれど、私って聖女ライザの子孫なのよね」
「…………えっ? 私の、子孫? いやその前に私って結婚するの? ルクナの先祖なの?」
「うん。そだよ。だから幽霊になった時に会いに行ったのよ」
「……全く実感出ない。えっ、ちょっとショック……まじか……」
「お相手は私じゃないから。って泣かないでよ」
普通にガチ泣きされると困るが、現実はそうだからねぇ……
というか未来に行きたいのなら知りたくない事実も知るリスクも考慮してもらわないと。
仕方がないから慰めてあげようか。未来の自分は失恋しているとわかってしまったのだから。




