なんだ、ただの人間か
スラム街にある盗賊のアジト……そこでは静かな宴会が開かれていた。
「いやぁー成功するもんだなー」
「全くだ。まさか侍女が金欲しさに俺達と手を組むとは思わなかったぜ」
「騙されてるかと思ったもんな。まぁ一人殺られたが足が付かねえ奴だし」
酒を酌み交わす男達の側には布の袋に入れられた何かがあり、もぞもぞと動いていた。
それを男の一人が開け、ニヤリと笑う。
中には口を塞がれた赤い髪の少女が入っており、涙に濡れた目で男を睨んでいた。
「おーおっかねえ。自分の状況がわかってねえみたいだ」
「一発ヤッちまえば大人しくなるだろ」
「はははっ、お前ロリコンか? ヤりたかったらそっちの部屋でやれ」
「まじ? 良いんです? 夜にガキ少ないから溜まってたんだよ」
男が少女を袋から出して隣の部屋に無理やり連れていった。
バタンと扉が閉まると同時に入口の扉もバタンと開いて閉じたが、いつもの建て付けの悪さだと思って気にしていなかった。
「お頭、良いのですかい? 傷物になったら安くなりやせんか?」
「生きてりゃ値段は変わらないって話が付いてる」
「ふーん、血筋の良い奴隷が流行っているのに生きてりゃ良いって、王位の争いはガキの内から始まっているんですかねー」
「あんまり考えねえ方が身の為だぞ」
お頭と呼ばれた男は含みのある笑顔を浮かべながら酒を一気に飲み干した時、隣の部屋では少女の叫び声が聞こえてきた。
「いやぁぁぁ! やめてぇぇ!」
「嫌がる声を聞きながらなんて悪趣味なこった」
「ははは、今更だな……あん? なんか声がおかしくねえか?」
「そうですかい? 変態プレイでもしてるんじゃ?」
「そうか? 死んじまったらおしまいだからちょっと見に行ってくれ」
下っ端の男は渋々隣の部屋を開けると、少女が大きく目を広げながら部屋の隅に居た。
中に居た男は部屋の中心に立っていたのだが、声を掛けても反応が無かった。
「おい、おいってば! どう……なっ……」
近付いて肩を掴むと、首がグルンと反転した顔は青白く生きてはいるようだが明らかに様子がおかしかった。
そして直ぐにゴキンッ、と関節がありえない方向に曲がった。
まるで失敗した傀儡人形のようで、辛うじて聞こえる声は助けを求めていた。
『うふふ』
「──うわぁぁっ!」
「どうしたっ! なんだ、お前は……」
少女の前に綺麗な人形が立っていて、口角を吊り上げながら嬉しそうに手を上げた。
すると様子を見に来た男達が何かに吊り上げられるように身動きが取れなくなった。
人形は少しの間もがく男達を眺めた後、振り返って少女に歩み寄った。
「ひっ……」
だが少女は怖がり、後ずさるが壁に背中が当たってそれ以上進めない。
人形は少女の様子を少し見詰めて、何かを呟いて興味無さそうに歩いて出て行った。
少女は人形が呟いた言葉……『なんだ、ミエナイのか』という言葉を聞いた後、気を失った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
デスちゃんがアジトらしき場所を制圧した後、狼煙をあげて騎士を呼んでおいた。
赤髪の女子は帝国によく居る感じだから貴族か何かかしらね。
私の事が見えなかったから、特に話す事も無し。
しばらくして騎士達が雪崩れ込み、少女を救出した。
『デスちゃん、暇だし追いかけよっか』
『うん、ママ、だっこ』
騎士が少女を抱えて走り出したので付いて行く事にした。
どうせアズサとエイシャはアレしてアレだから暇だしー……ちっ。
おー騎士達が次々と合流していく……結構な規模で捜索していたのかしらねー。
「お怪我は無いかっ!」
「はいっ! 気絶してるだけですっ!」
偉そうな人も合流しているし、ライズが居たら解説してくれるのだが……まぁ散々戦ったから装備で階級はわかるか。
えーっと、副団長が出るって事は公爵以上の可能性が高い。カノンに似ていたしこれで王族だったらウケるよね。どんだけザルなんだと。
騎士達は真っ直ぐ城へ……えー……本当に王族なの?
引くわぁー。
ドン引きだわぁー。
私らが居なかったらどうなっていたんだよ全く……これはお礼を貰うべきなのではないか?
でもデスちゃんが出てきたら騒ぎになるもんなぁ。
『ライズにお礼請求してもらう?』
『うん』
『明日は帝国で聖女業務だっけ。じゃああの女子にも会いそうだからデスちゃんも付いていったら?』
『……わたし、こわがる』
『優しいなぁ。あっ、牢屋にあの男達が居るならライズと一緒に行けばデスちゃんのお蔭って証言してくれるね』
『うん、オカネ、もらう』
そうと決まれば宿に戻って……窓を覗くと……ちっ、まだか。
知り合いも居ないし、暇だ。
デスちゃんが城を指差したのでとりあえず向かおう。
結界移動で空中を歩いていると、騎士がこっちを見ていたのでデスちゃんが手を振った。
「──応援を!」
ありゃ、敵じゃないよー。
面白そうなので騎士達に合わせて移動していると、風の矢が飛んできた。
デスちゃんが反撃したら一撃必殺になってしまうので、ヒョイッと避けた。
『ママ、殺して良い?』
『お金貰えないよ?』
『クソなクニ、どうせコムスメ、はしたがね』
『お上手。恩人形に攻撃するなんてクソな国ねぇ……そうだ、結界張ればこの程度の攻撃は効かないから、お城の前でライズを待とうか』
お城に続く道から少し逸れて、広場みたいな所に着地。
十メートルくらいの結界を張ってデスちゃんを降ろすと、デスちゃんが座って今日買った戦利品を出してチェックを始めた。
この間も結界を攻撃されたり、なんか言ってきているのだが何重にも結界を張っているので聞こえないし響かない。
デスちゃんが作業を始めたので、私も魔法の手を出して土を使って金を作ったりしていると明るくなってきた。
周りを見ると、何やら結界を囲んで詠唱している魔法士団の皆様。お疲れ様です。
その後方には騎士団の皆様。
そしてその後ろには野次馬の皆様。
私達有名人ねっ。
またしばらく作業していると、デスちゃんが私をつんつんした。
おっ、ライズが来たのね。
ライズが魔法士団にあっちいけーとやっているのを眺めながら、結界を一枚まで解除した。
『やっほーライズ、遅かったねー』
「いや……何してんの?」
『昨日の夜にそこで貴族っぽい赤い髪の女の子を助けたのよ。そしたら騎士団と魔法士団が攻撃してきてさー。クソな国だねー』
「あっ、そうなの? クソな国は元々だから仕方ないじゃん。デスちゃん、肩乗る?」
『うん、ライズ、なでがた。カタグルマ』
『ほいじゃあライズ、デスちゃんよろしくー』
「えっ? どこ行くのさ」
『探検』
「えー居てよ。状況わかんないし……デスちゃんカタコトだから説明に時間掛かるよ」
『デスちゃんは恥ずかしがり屋だから、耳元だと普通に喋るよ』
「そうなの? デスちゃん、喋ってみて」
『はぁ? 何を喋って欲しいのか具体的に言いなさいよ。その具体性の無さが私生活にも現れている自覚はある?』
『ねっ』
「……ごめんなさい」
『気にしないで。お母様が見えない奴に興味は無いけれど、貴女は特別だから友達よ。撫でなさい』
デスちゃんは優しいからね。
ライズが遠い目で腕を伸ばして撫でているが、先ずはこの人達をなんとかしてくれ。
「ライザ様……この人形は……」
「私の友達だよ。昨夜、何もしていないのに攻撃を受けたと言っているけど……本当?」
「そ、それは……」
「本当なんだね。私の友達を攻撃した事は許さない。で、赤髪の女の子を助けたって言ってるけどそれは誰?」
「なんと……それは本当ですか……ここは人が居ます。城へどうぞ」
「その前に、デスちゃんに謝って。じゃないと私はここから動かない」
「ライザ様……それは……」
「言っておくが彼女を作ったのは、とある女神様だ。ここにいる誰よりも位が高い。もちろん私よりもね」
そこで初めて騎士達が焦った表情で膝を付き、腕を頭の前にやって敬礼をした。
デスちゃんはライズの肩に立って、腕を組んでふんぞり返っていた。
写真があったら撮りたいよ……あっ作ればいいのか。
『ライズ、みあきた』
「喋りの落差凄いね……痛い痛い痛いっ、ごめんなさいっ! はぁ、はぁ、あー皆さん、もう良いので業務に戻って下さい」
「了解、しました……その、女神様というのは……」
「その女神様は帝国には関わらないみたいだから気にしないで。じゃあ城に案内して」
「ですが……はい、了解しました」
中々にライズも高圧的ね。
それだけ帝国に愛想が尽きている時期なのだろう。
そろそろ獄炎の魔王を討伐して帝国を見限るのだが、まぁこんなもんよね。
さて、私は召喚魔法陣を調査しますか。




