千年前の妖精国へ
『すみませんでした』
恐らく幽霊でここまで綺麗な土下座が出来るのは私くらいだろう。
見よこの洗練された美しい型を。
見ていてデスちゃん、これが完璧な土下座だよ。
「……反省してないでしょ」
『していますとも。大変申し訳なく思っている所存であります。ご馳走様でした……いえ間違えました。すみませんでした』
「「……してないね」」
『人肌恋しくて、ついカッとなってお二人の初めてのチューを奪ってしまった事を深く反省しております』
「わざわざ言わなくて良いよ……はぁ、私には何しても良いけどミナはだめ」
『はい』
「ら、ライズもだめだよっ」
『はい』
……ゆるちて。
昨日楽しかったからお礼したいじゃん。
魔法の手で時計作るの大変だからまだお礼が出来ないし、ありがとうだけじゃ足りないの。
良いじゃん良いじゃん、ライズがミナカの部屋に来たからとりあえず憑依してミナカにチューしたけれど、ライズにチューしないとダメだと気が付いてミナカに憑依してライズにベロチューしただけじゃん。
ライズも舌絡めたクセにミナカの味方になりやがって……
「……ライズ、どうする? 許してあげる?」
「まぁ……許してまたされたら嫌だけど」
「ぇ……嫌、だった? 私と、その……するの」
「ぁいや、そうじゃなくてするならルクナ無しでしたいでしょ」
「ぁ、ぅ、ぅん……私も、そぅ、かな」
「……あー、えっとー……あーもう……ルクナのせいだよ」
『私、二人が大好きだから……チュー出来て嬉しかった。嫌、だったよね……ごめんね、もうしないから……』
しゅんっと土下座からミナカのベッドの隅に移動して三角座りにチェンジ。
しくしく、しくしく。黙って見ていたデスちゃんが私の頭を撫でてくれた……デスちゃんだけが味方だよ。
ミナカがライズに私の状況を耳打ちしていた。おいでおいで……
「泣かないでよ……」
『だって……大好きだもん。二人は私の事大好き?』
「もちろん、大好きだよ」
「うん、大好きだよ」
『ミナはライズと私が大好きで、ライズはミナと私が大好きで、私はミナとライズが大好きなら……みんなでチューするのは普通じゃない?』
……おっ、否定されると思ったがミナカが考え始めた。ライズはミナカの様子を伺っている……あーっ私に同意しているけれどミナカに嫌われたくないから答えを先延ばしにしてズルいっ!
ライズを睨むがライズは私が見えない……くっ、もどかしいっ。
少し待っていると、ミナカが首を傾げながらベッドに座った。
「確かに、ルクナの言う事は合ってるかも……でも、ルクナのチューってさ……ちょっと過激」
『そう? じゃあミナはどんなチューが良い? ライズにしてみて』
「えっ、えー……しなきゃだめ?」
『うん。ライズもミナにしてね』
「いやいや、恥ずかしいって」
『だって私は二人にしたもんっ! だからライズとミナがそれぞれするべきじゃないっ? してくれないとリアちゃんに憑依してライズにチューするよ』
「それもっとダメでしょ……」
「リアちゃん? 誰?」
『アークイリアだよ。昨日ライズとリアちゃんが帝都に買い物デートに行ったんだ』
「アークイリア様とデー……ト」
「誤解を招くような言い方しないでよ。ルクナが憑依してたからルクナとリアちゃんがデートしたんじゃん」
「リアちゃん……ちゃん付け、なんだ……」
私が言うのは自然だが、ライズがリアちゃんと言うのがショックだったみたいね。ミナカはちゃん付けなんてされた事ないもんねっ。
ライズが焦って私がどうこうとか言っているが、ミナカの気持ちは落ち込んで行った。
デスちゃん、どうしたの?
『ママ、ダイスキ』
『私も大好きだよっ。ちゅっちゅっ』
『うふふ、ママ、オネガイある』
『なぁに?』
『ママと、ようせいのクニ、イキたい』
『おっ、じゃあ一緒に行こっか。ライズーデスちゃんとお出かけに行くから帝国まで送ってー』
「えっ、良いけど……」
逃げるなら今なので、ミナカに待ってもらってライズに帝都の前まで送ってもらった。
『ありがとー』『ありガト』
「ルクナ、あのさ……」
『またミナに憑依してチューしてあげるねっ。実は嬉しかったでしょ?』
「まぁ、うん、ありがと……めっちゃ嬉しかった」
『ライズ、ミナ、らぶ』
『今度は自分からチューしてみたら? 喜ぶと思うよ』
「いや、勇気が出ないかな。今度さ、魔王討伐に行く事になったんだ。一緒に来て欲しいなって……」
『魔王って、獄炎の魔王?』
「うん、凄い強いみたい」
『ライズと二人で行くなら良いよ』
「えっ、怒られない? 勇者ってやつが張り切ってるし……騎士達もその為に訓練してるし、貴族が沢山お金出してるし……」
『だから? 私達には関係ないでしょ? 私は聖女ライザが主役にならないとやだから勇者をぶっ飛ばして二人で迷宮行こっ』
「……主役、か。聖女は勇者を支えるものだってのはもう古いよね」
そうそう。歴史が変わる気がするが、まぁ私が消えればそれっぽく改変されそうな気もする。
じゃあ私が見ていたのは改変されたライズ・エリスタという事? 考え過ぎか……
それに、チューしたら力が増した。魔力というか別の何かだから神気が増したのだろう……つまりチューすれば女神として強くなれる?
ライズにさよならして、デスちゃんを抱えて妖精国を目指す事にした。
本気の結界移動で向かえば直ぐに着く……これはかなり高い所から急降下するので生身では使えない。因みにデスちゃんは頑丈なので落ちても大丈夫。
『ママと、オデカケ』
『嬉しいねー。何したいの?』
『ゲート、つくる』
『ゲートって転移ゲート?』
『うん、デスも、ライズミタイに、テンイしたい』
『デスちゃんも可愛いから沢山旅しないとねー。よーし行くよ』
……
……
ゲートの件を知っていたのは単にデスちゃんには、私の記憶の一部分がある。それはなんなのかは知らないがね。ウォーエルや家族の事は知らなかったから、人関連はわからないかもね。
千年前の妖精国は、入国審査が長い影響か国の前に小さな街があった。
千年後よりも規模が大きいから、何か悪い事でもしたのだろう。
一泊五千ゴルドの三ヶ月待ちだとして、五十万近く消費するのは大変だよなぁ……試しに妖精用の入口に行ってみた。
ゴブリン兵が立っていたので、先ずは私だけ通ってみる。
……通れた。デスちゃんはどうするかなぁ……めっちゃデスちゃん見ているもんなぁ。
あっ、デスちゃんが歩き出してゴブリン兵に手を振った。
『とおって、イイ?』
『……とおれ』
……呪術でゴブリン兵を洗脳したな。
バレたら処刑だが、入ってしまえばこっちのもん。
デスちゃんが門をくぐったら抱っこして転移陣に乗り込む。
バシュンと転移した先、首都フェアリーサンクに到着した。
『おーっ! 時計台は変わらないから面影そのままだっ!』
『うふふ、ママ、かいものしよ』
『買い物? お金無いよ?』
『ふふ、ミテ』
『な、収納リングっ!? なんで持っているの!?』
『ママにだけ、おしえる、ツクッタ』
まじかっ!!
…………なんという逸材……もう私を超しているなんて……えっ、待って……収納リングって理論上は作れるけれど、空間属性が無いと作れない……
『デスちゃんって、空間魔法使えるの?』
『チョット』
『うぉぉぉぉ! すげぇぇぇぇ! なんでっ? どこで手に入れたのっ?』
『? ママ、ツカエルよ? メイドリンク、クウカンマホウ、つかう』
『……そうなの? でも量産出来て……あっ、心臓部分の石だけ私が作っているか』
『そう。ママがスゴいの、きんかセンマイと、ホウセキある』
おっかね持ちー。
えーじゃあ薬草とかここで買えば良かったー。
まぁ良いか……とりあえずお店に行こう。
デスちゃんには歩いてもらっているが、この街によく馴染む。
色々な種族が居るから、人形族のデスと言っても納得されそう。
デスちゃんは路地裏のお店に入った……ここは確か行った事がある。
「いらっしゃーい……人形さんが来るのは珍しい。主人はどこのゴーレムマスターだい?」
『ママ、めがみサマ』
「おー女神の使いか。こりゃ良い事があるねー。何が欲しいんだい?」
『……ヒクイドリの、しんぞう。やみのころも、はんてんタケ』
「はいはい。何に使うのー?」
『やみのホノオ、たべる』
「ありゃ、博識な女神様だこと……じゃあこの素材はどう使うかわかる? 私にはさっぱりでさー」
お姉さんが取り出したのは白い円盤。
これはシャインロードゴーレムの核……これを使うとなれば……
『これを媒体に光の身体にする魔法があるよー』
『ヒカリのからだ、なる』
「……光の身体? 薬にはならないから、術かな……あー、あーっ! 出来るっ! 良いかもっ! ありがとうっ!」
『うん、マケテ』
「良い良いっ! 貰って良いよっ!」
『アリガト。じゃあね』
「人形さんの名前は?」
『デスです』
「デスちゃんね。またおいでっ! これポイントカードっ!」
ただで素材を貰ってポイントカードも貰った。
デスちゃんは買い物上手なのね。
お姉さんに向かってニタァと笑顔を向けて次の店へ。次は魔導具店かしら……妖精国の魔導具店ってサイズが小さいのしか無いから人間向きじゃない。でも人形サイズなら色々使えるものが多い。
「いらっしゃーい……人形さんなんて珍しい。主人は?」
『ママ、めがみサマ』
「女神の使いかい? かなり強い眷属だから高位の女神か。よしっ、何が欲しいんだい?」
『ゲート、みたい』
「ゲートならこれだが、人形さんでも入れないよ?」
『イイ。コレクションだから』
「はははっ、良い趣味だ。何で払う?」
『ホウセキ、たりる?』
デスちゃんが大きな宝石をコロコロと出した。店員さんは三つ取って、ゲートを二つデスちゃんの前に置いた。
「この二つを行き来出来るから。魔石が切れたら使えないから気を付けて。この金貨はお釣りね」
『ワカッタ、ありがと。あと、ホウセキのケンマき』
「研磨機ね。女神様は宝石が好きなのね」
『うん、ダイスキ。あとは……』
研磨機とな……確かにカットは魔法だと綺麗にやるのはかなりの技術だし、魔力消費が激しい。考えているな。
あとは裁縫機と背負い型のジェット……ジェットで移動する気なの? 格好良いじゃん。
女神の使いが買い物に来ても驚かない所をみると、よく買いに来るのかしら?
野良女神でも受け入れられるのは良い事だと思っておこう。
三件目は妖精族の服屋さん。
「いらっしゃーい。あら可愛い人形さんこんにちわ」
『こんちわ、フリル、ほしい』
「はーい。そっちにあるから見てってねー」
『りょ、ママ、えらぼ』
妖精族のフリルは人間のものより小さくて細かい……デスちゃんの服が可愛くなること間違いなしだ。
デスちゃんも真剣な表情で布とフリルを大人買い……選ぶ必要あったか?
「まいどー」
『おおきに。ツギ』
次のお店は妖精の家具屋さん……ここでもポンポン買って……もしかして、工房でも作る気?
『デスちゃん、工房作るの?』
『おウチと、コウボウ、つくる』
『デスちゃんもお家欲しくなったのね』
『うん、しゅうのう、おウチ』
ほーほー収納リングに入るお家を作るのね。
これは楽しみだ。でもデスちゃんサイズだから小さいお家よね。
もう買い物は無いようなので、帰る事にしたが帝国に戻った頃には深夜になっていた。
魔力を辿ってアズサとエイシャの宿を目指し、大きな宿の窓から覗いてみると……
「──っ」「──んっ」
…………アズサとエイシャは、なにやらお取込み中だったので深夜の帝都を徘徊する事にした。
深夜の帝都は静まり返っていて、時折聞こえる酔っぱらいの叫び声が雰囲気を台無しにしていた。
その中で一台の馬車がゆっくり進んでいたのだが、デスちゃんが闇の手を伸ばして車輪をゲットしていた。
ガタッ! と馬車がバランスを崩して車体を引き摺り、馬がヒヒーンと鳴いて立ち止まった。
『デスちゃん、走っている馬車は危ないからだめ』
「どうしたっ! 何か轢いたのかっ!」
『だって、ホシかったカラ』
「お静かに。どうやら車輪が外れたようです」
『可愛いから許す』
「ちっ、運が悪いぜ。まぁそれも想定内だ。この馬車は任せた。俺はブツをあそこに運ぶ」
「了解です……なんだ、人形? 高そうだな」
『ママ、ありがと』
男が何かを抱えて去っていき、もう一人がデスちゃんに近付いて掴もうとした瞬間……バシュッと男の腕が千切れた。
声にならない叫びを上げ、のたうち回る男にデスちゃんが追い討ちの闇の手パンチ。
グシャっと膝下が潰れていた。
「──ぁぐぁっ……ぐが……なん……だ……」
『あーそんな乱暴に掴もうとしたらデスちゃんが怒るじゃん。繊細なのよ? って聞こえないか』
『ママ、殺す?』
『殺す価値も無いから生かしておこ。ヒール。あっ気絶しちゃった』
『ママ、オイシソウなの、はこんでた』
『美味しそうな物? 暇だし見に行こっか』
『うん』
そういえば夜の帝都って治安が悪いで有名よね。
だから男が死にかけていても大丈夫って事で美味しそうな物でも見に行くか。




