アルセイアの先祖なら優しくしないとね
「アークイリア様、国際大会が楽しみでございますわねっ」
「……えぇ、今年は帝国に勝つわ」
「アークイリア様が居るのなら絶対優勝しますわっ!」
「ええと言いたいところだけれど、帝国は強いわ。一筋縄ではいかない」
なんかさっきの事を無かった事にしてペラペラ喋ってんな。
遠目にライズとミナカが合流したのは確認したので、私はここに居よう。
国際大会とな……確かクィフォンスさんが見付けた資料にミナカの記述があった。この頃かしらね。
学年一位のミナカは交流の名目で帝国に行くみたいだし。
一応ヴァン王国と帝国は同盟があるので仲が悪い訳ではないが、帝国がノースギアに攻め込む時にヴァン王国は利用されてしまう。
この時代は結構殺伐としているからなぁ……
『アークイリア、帝国に行くなら付いていくね』
「あ?」
「ど、どうされましたか?」
「あぁいや、なんでもないわ」
『冗談だよ。帝国には行くけれど、聖女ライザと遊ぶんだー』
「聖っごほっ、ごほっ」
「大丈夫ですかっ!?」
睨んじゃやーよ。私の後ろの人がビクってなっているじゃないか。
直ぐに怒るから王女らしくないぞっ。
まぁせっかく私が見えるのだから、またお喋りしたいのよねー。
「ちょっと、風に当たって来るわ」
そう言ってアークイリアは庭の方に歩いて行った。
……振り返ったな。
……また振り返ったな。
……わかったよ。話したいのねっ。
庭に出て振り返った顔は青筋全開でお怒りみたいだ。
『なにー私と話したいの?』
「名前は?」
『ルクナだよっ』
「そう。ルクナ、私の邪魔をしないで。話し掛けないで。視界に入らないで。以上よ」
『えーさーびーしーいー』
「ふんっ、幽霊の分際で私と喋れるだけありがたいと思いなさい。わかったら今直ぐ消えなさい。今直ぐよ」
『ぶぅー。せっかく喋れる人が増えたのになぁ……まぁ良いや、じゃあアークイリアは今から私の事が見えない聞こえないを通してね。王女ごときが私の行動を制限するなんて出来ないのだから』
「……言われなくてもそのつもり」
ざーんねん。
庭から会場に戻ってライズの所に戻った。ミナカも居て心配そうに私を見ていたが、肩を竦めて首を振り仲良く出来なかったと伝えた。
『アークイリアは幽霊とは仲良く出来ないんだってー。二人はいつ帰るの?』
「そうなんだ……確か希望者はアークイリア様に挑戦する時間があるから、それが終わってからかなぁ」
「何それ。王女って強いの?」
「学院で一番だよ。私達初等部は手も足も出ないの」
「『へー』」
庭の広場でやるみたいね。
希望者は集まってくじ引きし、当たった数名が挑戦するみたい。
中等部の人は挑戦しないみたいで、初等部の子が意気揚々と挑戦し始めた。
どうりで動きやすい格好の子が居ると思ったよ。
てやーぱたって感じで一人目終了。
二人目もそんな感じ。
三人目も粘ったけれど十秒持たなかった。
「はぁ……手応えが無いわね。他に挑戦したい者は居ないの?」
「ミナ、やらないの?」
「えっ絶対負けるのにやる? ライズがやれば良いでしょ」
「やだ。ルクナと仲良く出来ない人と関わりたくない」
『ライズ……もぅっそんな事言ってぇ、嬉しいじゃん』
「わっ、私だってルクナと仲良く出来ない人はやだよっ」
わーきゃーしている間も挑戦する人は倒れていった。
どうやら魔法無しの木剣勝負みたいね。
確かにミナカとライズは魔法使いだから木剣は苦手かもね。
私も身体があったらやるのだがね。
「これは先行き不安ね……」
『ライズなら瞬殺出来るでしょ』
「いやいや、剣は苦手でさぁ……細かい動きが出来ないから一撃必殺なんだよね。普通に負けるよ」
『教えようか? アズサに剣技を教えている所だから相手が居た方が良いし、もちろん他の武器でも良いよ』
「ほんと? ルクナってなんでも出来過ぎじゃない?」
『親の訓練厳しくてさぁ……初等部入る前に上位魔物倒したもん。大魔法無しでね』
「えぇ……それ引くわぁ……」
「じゃあルクナが挑戦してみたら?」
『えー、アークイリアに話し掛けんなって言われたもん。身体無いし』
「じゃあ私に憑依してよ。剣技の練習になるし」
『だってさ。どうするアークイリア? 私と戦ってみる?』
「ふふふっ、上等よ。そんな事が出来るのなら願ってもないわっ」
聞こえないを通すって言ったじゃーん、約束破ったー。
なんて言ったらまた怒るので、ライズの身体を借りるとしますか。
ライズの後ろからにゅるっと入り込んで憑依っと。
よろしくねライズー。
『なんか変な感じだね』
慣れれば直ぐに剣技を覚えられるよ。
「よし、武器は?」
「あそこで好きな物を選んでちょうだい」
「ほいほい。ハンマーが得意なのだが、無いから剣で良いや。軽いやつは……まぁこれで良いか。このドレスも動けない事もないね」
「準備は良い? 掛かって来なさい」
アークイリアが細身の木剣を突き刺すように構えた。
王宮剣術ねぇ……私は片手の木剣なので、特に構えず少し観察。
重心が突きに特化しているから対人戦が得意なのだろう。
まぁでも、王宮剣術は腐るほど見ている。
「先ずは……昇流剣」
「っ!」
曲線の動きで下から掬い上げるように斬り上げ、後退した所を横なぎに振るう。
カッ! と木剣が衝突する乾いた音が響き、私の剣が止まった所で突きに転じる。
アークイリアは体勢を低くして躱し、私の伸びた腕の下を狙って突きを放ってきた。
「残念。清流剣」
「攻撃!? くっ……」
身体を捻って突きを躱しながら首を狙ったが前に出る事で躱された。
お互いの身体が接触する寸前で脇腹にグーパンをお見舞い。
アークイリアは飛ばされたが直ぐに体勢を立て直し、身体のバネを使った渾身の突きを放ってきた。
「うん、自慢するだけの事はある」
「なん、で……」
突きに合わせて剣を滑らせ、刀身を顔の前で止めた。
しーんと静まり返り、だれも声を発せない。
そりゃぽっと出の女子が勝っちゃったらどうしようか悩むもんね。
木剣をポイっと捨ててミナカの所に戻る途中で憑依解除。
『ライズーどうだったー?』
「ドン引き。お蔭で何となくわかった」
『こんな感じで訓練するから。剣で良い?』
「あー自信無いから他もやってからかなぁ……」
「ルクナっ凄いっ! やっぱりルクナは強いなぁ……」
『もう終わりなら帰ろっかー』
「待ちなさい……もう一度よ。ルクナッ! もう一度よっ!」
「ルクナ、もう一度って言ってるよ……」
『えー勝ったじゃん。完璧だったじゃん。おかわりなんてはしたないぞ王女さまっ』
「今のは油断しただけよ……もう一度よっ!」
「もう一回やってあげたら?」
仕方がないなぁ……ライズに憑依して、木剣を持った。
すると直ぐに突きを放ってきたので上からドーンッ!
剣を叩き落として切先を向けた。
「……うそよ」
「あのさ、手加減してあげているのだから素直に負けを認めたら?」
「手加減……ですって……」
「うん、借りた身体でここまで戦える私を褒めて欲しいくらい。霊体の方が強いし」
「……」
「……もう、世話の焼ける王女様だねぇ」
ふむ、まぁ思春期だろうから感情のコントロールなんて難しいよね。人の事は言えないが。
ボコボコにしても良いのだが、これはライズの身体だからアークイリアをボコったエリスタのやべえ奴という噂が回るだろうね。
一歩踏み出すと、アークイリアの眉間にシワが寄った。怒ると美人が台無しだぞー。
まぁアルセイアに似てなくもないから、怒るとちょっとショックでもある。
もう一歩、もう一歩進んで目の前に立ち、更に一歩でアークイリアを抱きしめた。
ライズの方が身長が低いので、背伸びをして肩に顔を乗せた。
「っ……何をするの」
「今しか君を抱き締められないから、お礼を言おうと思っただけ」
「礼?」
「私は幽霊だから、どんな言葉でも、どんな感情でも、一言でも喋ってくれるだけで、見てくれるだけで嬉しいんだ。だからありがと」
「……じゃあ、なんで嫌われるような事をするのよ」
「だって、お別れする時……寂しいじゃん」
離れてから両手でアークイリアのほっぺを引っ張った。
びょーん。
「……いひゃいわ」
「ねぇ、アークイリアって友達居ないでしょ」
「は? たくひゃんいうわよ」
「本当に? こんな事する人居る? 軽口叩いてくれる人居る? いじってくれる人居る? 大好きって言ってくれる人は居る?」
「……」
「ふふふー、まっ王女の君なら居なくても困らないけれどね……私に体温は無いけれど、温かい言葉が欲しかったらいつでも言ってね。また来るから」
パッと手を離して笑い掛けながら頭を撫でてあげると、アークイリアは私を見詰めるだけで言葉が出て来ない。
なにすんだこいつって思っているだろうな。
もう戦う意志は無さそうなので、振り返ってミナカのところに向かいながら憑依解除っと。
『ライズーありがとー』
「どういたしまして。ルクナってさ……モテたでしょ」
『うんモテモテだった。自慢するとライズより断然モテたよ』
「それはわかる。ルクナが生きてたら惚れてたわ」
『えー幽霊の私も魅力的だよ? 見えないし触れないけれど』
「はぁ……なんで死んじゃったのさ……惜しいよなぁ」
『死んでいないよ』
「えっ……」
ふふふーと笑ってミナカの所に戻ると……あら、唇を尖らせて不機嫌だ。
ミナちゃーんどうしたのー?
『ただいまー』
「……ミナ、どうしたの?」
「……なんか、ムカツク」
「えっ、なんで?」
「ライズの顔赤いもんっ! ルクナもなんで抱き締めたのさっ! 私も抱き締めてよっ!」
『良いよ、ほら』
「すり抜けるじゃんっ! 憑依して」
「ミナ、落ち着いてよ……」
『疲れたからライズが抱き締めて。よろしくー』
「ちょっ、ルクナっ……」
さっ、お開きみたいだし帰ろ。




