大金持ちになれるわね。幽霊だが
アズサの部屋に帰ると、エイシャも来ていたが具合が悪そうだった。
フラフラしながら横になってうーうー唸っているアズサの横に添い寝する形で、エイシャも呻き始めた。
「あっ、ルクナ、おかえ……りぅぇっ」
「る、ルクナさま、この格好で、失礼、いたします」
『……朝まで飲むとかお肌に悪いよ? 回復してあげようか?』
「えっ、できんの? おねがい……」
『見苦しいから回復してあげるよ。ダブルヒール』
「……えっ、えっ? すごっ!」
「あっ、二日酔いが無くなりました……ルクナ様っ、ありがとうございますっ!」
ったく、限界くらい把握しなさいよ。
二人とも羽目外しやがって、こっちは気分がモヤモヤしているっていうのに。
『さっきライズと帝国に行って私と話せる魔導具を買ったから、エイシャにライズから貰ってねって言っといて』
「えっ、行ってきたの? エイシャ、ルクナの魔導具手に入ったってー」
「本当? ルクナ様とお話出来る……」
「ルクナって、様って柄じゃないよね。ジャージだし」
『一応女神だぞ』
「またまたー。エイシャ、ルクナが女神とかあり得なくない?」
「ルクナ様は女神様よ?」
『いえーい』
「私は信じないっ!」
『まぁ元々人間だからどっちでも良いよ。今日は自由行動って事でちょっと散歩してくるね』
「いってらー。ルクナは散歩だって」
「ルクナ様、行ってらっしゃいませ」
この一年、私の日課は徘徊と人間観察になったのだが、行っていない場所もある。結界が多い所は霊避けでもあるのかってくらい行きたくない気持ちになるので、特に城とかには行っていなかった。
でもデスちゃんを作った辺りから更に格が上がったと思うのよ。今なら行ける気がする……恐らく強力な眷属を作ったせいだろうね。
デスちゃんが眷属を沢山作ったらもっと格が上がりそうよね。
ってな訳で城に行こう。
目指すは禁書庫。
結界移動で空からシュタタタっと、結界の薄いところをにゅーっとすり抜ける。
今までなんで行かなかったと思うくらい直ぐに着きました。
近くに行ったら城は千年後よりも綺麗なのがわかるなぁ……写真撮りてぇ……微妙に違うから増築しているのね。
門番の騎士に敬礼しながら通り抜け、広いエントランスのど真ん中に立って辺りを見渡した。
使用人やらが何かの準備で忙しそう……今日はパーリーでもあるのかしらね。
どこかにイベント進行の冊子があるはず……会場の方かな。使用人に付いて行って、受付の設営をしていた場所で冊子を発見した。なになに? アークイリア王女主催の立食会。
アークイリア王女とは、中等部の王女様。一回ストーキングしようとして城の結界に阻まれて未遂に終わったので覚えている。
ストーキングしようとしたのは可愛いからもあるが、目が合ったのよ。
気が付かない振りをしたのかなって思ったが、話し掛けても無反応だった。
「あと三時間だから料理長に状況を聞いてきてくれ」
「はいっ。アークイリア様も張り切っていますねっ」
「あぁ、今日は学院の生徒も来るからな。ははっ、姫様は良い指揮官になれるぞ」
「指揮官だなんて本人の前で言ったら怒られますよ?」
使用人の視線を追ってみると、アークイリアが会場の真ん中で指示を出していた。
指揮官と言われるのも納得の軍服みたいなカッチリとした服を着て、腰に細身の木剣を装備していた。訓練帰りかしらね。
腰まで届く長い髪を後ろで纏めて……可愛いけれどドライな印象があるからアルセイアとは全然違う雰囲気。
「そのテーブルはもう少し右……そうね。ありがとう。後は……」
……今、目が合ったな。でも直ぐに逸らされた。
一年以上幽霊やっていると、見える人って直ぐわかるのよね。
怪談話に出て来る『ねぇ見えるんでしょ?』って言う幽霊の気持ちが痛いほどわかるのよね。
見える人が居なさ過ぎて寂しいもん。見える人が現れたら話し掛けちゃうもん。
まぁ私にはアズサが居るので気にしないのだがね。
気にしないのだが、無視は普通に傷付く。
なので近付いて見詰めてみた。
じー……プイってされた。
回り込んでじー……プイってされた。
『……ねぇ、見えているんでしょ?』
「っ、そろそろ着替えるわ。よろしくね」
「はいっ、行ってらっしゃいませっ!」
……逃げたな。学院の幽霊がこんな所にいたのが怖いみたいね。
面白そうなのであとでパーティーにお邪魔しよう。
禁書庫はどこかなー……ここは便利な天輪サーチ。
三階、奥。エントランスに戻って……あっアークイリアに追い付いた。ほっほっほ、ここは追い抜かしてやろう。
アークイリアを追い抜かして、階段を登って三階へ。
おー、奥に鉄格子があるのだが、結界が分厚いなぁ。
壊すの簡単だが、警報が鳴ったら人が来る。
結界と同じ結界を作ってすり抜けるか……解析……同じ結界を作って、ひょいっと。
よし、私天才っ。
「……ねぇ、どこに行くの?」
『……』
あらアークイリアちゃん、気になって追い掛けて来たのかな?
質問の答えは笑顔で返してあげるよ。
無視されたから無視で返すもん。
「その奥は危ないわ。霊は浄化される」
『あら、優しいのね。私の心配してくれるの?』
「別に。忠告を無視するなら勝手に浄化されたら良いわ」
『確かに普通の霊なら一発だね。ご心配ありがとう』
「そこに何の用?」
『用は無いよ。私は暇幽霊だからただの暇つぶし。じゃあね』
私なら大丈夫。奥にある結界をすり抜け、奥の扉にぬーっと入った。
話をしたいが、パーティーの時に話し掛けた方が楽しいのでね。
さて念願の禁書庫。千年後は入れないし、王妃は嘘を言っていたと思うからこの目で確認したかった。
中は極秘資料、魔法書関連やら呪いの本もある。図鑑もあるなぁ……毒草図鑑ね。
変な表紙の本を発見……紙じゃなくて何かの皮で作られた本、、、人間の皮かな?
表紙が掠れて半分読めないが、なんとかの錬金術書と書かれていた。
錬金術か……派生に金術があるというから読んでみよう。
錬金術とは、この世界にはない技術……? 金の錬成方法……あっこれ使えば金術し放題じゃね?
えーとなになに? 分子配列を変えて? あ? 意味わかんねぇ。
おっ、次のページに魔法でやる場合の解説があった。必要なのは上位土魔法の素質だから、これなら出来そう……手の平を当てる場所があって、覚えたい場合はここに手の平を置いて魔力を通せと……試しにやってみた。
……
……あっ、床が金ピカ。出来たわ。
ここ一年で一番の収穫かも知れない。
だっていつもの擬似的な金じゃなくて、消えない金を作れるのよ。大金持ちよ。
他のページはっと……
『あっ……ホムンクルス錬成』
ニセヒトは擬態型ホムンクルスと出た。
ウォーエルの言った通り錬金術で作ったのか……特徴は一致しているし、間違いない。
錬成方法は……命の種をアムリタの培養液でぇ……全部おとぎ話のアイテムじゃん。作るのは無理無理。魔法での作り方は載っていないか……考察は後でするとして他に何かないかなー。
……
……なんか、私が迷宮で手に入れた設計図に似たものとか多いわね。
……還魂の法とか理論は書いてあるけれど実現は不可能と書いてあるし。
……月の涙の錬成方法。これも理論だけ書いてあるが、錬金術の最高峰と書かれていた。
ふーん……最後にこの本の作成者の言葉が書いてあった。
最高の錬金術師になる為には、賢者の石、月の涙、不老不死の宝珠……そして神の錬成。
……錬金術ってなんとも強欲な人が作った術なのね。
他に錬金術書は無かったから、貴重な本なのは間違いない。読めて良かった。
今日はこのくらいにしておこう。
禁書庫を出てエントランスに戻ると、なにやら人が沢山。そういえば学院の生徒も来るパーティーだったか。
みんなおめかしして可愛いわね。
その中心であずきジャージの女神が居るだなんて誰も想像していないだろうなぁ。
アークイリアはどこかなー……まだ控室かしら。
暇だし会場のど真ん中で仁王立ちでもするか。
……
……あっ、ミナカが居た。
学院の生徒が居るなら居て当然か……あっ珍しいライズもいるじゃん。不機嫌なご様子なので無理矢理連れて来られたのだろう……黒髪だからライズとわかるが、髪を纏めて化粧をしているので顔を初めて見た人も居るのでは?
二人で手を繋いで仲良しね。仲良い様子を見せ付けられて普通にジェラシーなのだが……
ふんっ、ここで逃げる女ではない。
会場の中心で仁王立ちをすれば話し掛ける事も出来まいっ。
ほっほっほ、話し掛けられるものなら話掛けるが良い。
変な奴に思われるぞっ!
「あっ……ライズッこっち来てっ!」
「うん? どしたの?」
「ルクナが居るっ!」
「どこ?」
「真ん中に立ってるっ」
「えー散歩にしては自由だなぁ……」
「ルクナッ!」
『やぁミナ、ひさしぶりー』
「あの、ごめんね……私……」
「あーミナ、ルクナも移動しない? みんな見てるし」
『しゃあない。隅っこに行こう』
私は恥ずかしくもないのだが、ライズが嫌そうにミナカを引っ張るので仕方がなく隅へ移動した。
移動したあと、ミナカは私に触れようとしてすり抜けた。
泣くなよ、せっかくの化粧が台無しになるぞ。
「ルクナ……ごめんなさい、私ルクナに酷い事言った……ごめんね、また三人で一緒に居たいから……戻って来て」
『私の方が悪いから気にしないで。私はミナに頼り過ぎていたって気が付いたんだ。ごめんね』
「……一緒に、居てくれないの?」
『うん。私はずっとここに居るべき存在じゃないのだよ』
「……ぐすっ、やだ。ルクナ、一緒に居てよ……」
『元々出掛ける予定はあったからね。それにずっとお別れって訳じゃあない。ちゃんと会いに来るから』
「ミナ、ルクナは帝国に用事があるんだ。私がルクナを連れて来るから」
「……ほんと? また会ってくれるの?」
『うん。だからミナはミナのやるべき事をして』
まぁ私が嫌がってもライズが私を連行するだろうから、ここいらが落とし所かしらね。
三人で話していると、司会の人がアークイリア主催立食パーティーの案内を始めた。
「あっ、始まったみたいだね。ルクナはまだ居るの?」
『んー二人がパーティーに出るなんてもう見られないかもしれないから最後まで居るよ。私はそこら辺に居るから行ってきて良いよ』
「ミナはみんな待ってるから行っといで。ご飯食べに来ただけだし」
「じゃあ後でねっ」
ミナカは私達から離れて学院の友達の輪に入って行った。
『ライズ、ご飯取って来て良いよ。ライズの横に居るから』
「うん、そうする。ねぇルクナ、来てくれてありがと」
『あーいいよいいよ。ここに用事があったついでだし』
「用事って?」
『禁書庫を見に行ってさー結構収穫あったのよ』
「きんっ……ご飯取るから待って」
つまめる物を取って隅っこへ移動した。
ライズも禁書庫は気になっていたようで、目がキラキラしていた。
『ふっふっふー。実はねー錬金術書があったのっ』
「おぉっ、まじで? 内容は?」
『……あんまりリアクション取るともっと変な目で見られるよ?』
「今更だし。ほら見てよ、私を見てヒソヒソしている」
『ふふっ、帝国の皇子が居たら大変だったね』
「ぐっ……それ言わないで。デート断るの大変だったんだから」
聖女ライザはモテモテだねー。
まぁ周りのヒソヒソはミナカと手を繋いで来た美少女は誰だ程度の話だから、マイナスな話ではないのよ。それを言っても否定するだろうけれど。
『錬金術書には金の錬成魔法とかホムンクルス錬成とか倫理や法則に反する物ばかりだった。ちきゅうにもあった?』
「あったけど、眉唾物だね。出来ない事をそれっぽく書いてるだけ。そっかぁ……読みたいなぁ……」
『人が入ったら警報が鳴るから、転移して一分以内に錬金術書を持って転移で逃げれば良いと思うよ』
「じゃあルクナ手伝って」
『うん。私もゆっくり読みたいし、金の錬成魔法出来るようになったから金術し放題だよ』
「まじ? やった。あれ気にはなってたんだよ」
他人から見たら独り言を言って笑っている女は怖い。
でも、私が見える状態ならライズと私が楽しく談笑しているように見える。
そう、アークイリアがこっちをガン見しているのだ。
生徒達がアークイリアの方に並んで会話待ちをしているので、アークイリアは動けない。でも視線がずっとこっちだから会話している人もチラチラこっちを見ているのよね。
会話している人の顔を見ないとか普通に失礼よね。
『ねぇライズ、アークイリアがこっち見ているよ』
「ん? 本当だ。でも中等部だから面識無いよ?」
『なんか私が見えるっぽいよ』
「そうなの? やったじゃん」
『うん、だから私と談笑しているライズは目を付けられたって訳ね』
「別に学院あんま行かないし。何も話す事無いよ?」
『そうだね。多分どうやって話し掛けるか考えていると思う。上のバルコニーに行けば王女イベント発生だねっ』
「絶対やだ。死角に行こう」
アークイリアの反対側へ行くと見えなくなった。
これでライズは安心ね。
私からは見えるのだがね。
『ところでこのパーティーって何のパーティー?』
「王女が定期的にやってる交流会って話だよ。ドレスやアクセサリーは必要だし、お金がある家しか来ないけどね……そうだこのドレスね、デスちゃんが作ってくれたんだ」
『あーやっぱりそうか。これ私のデザインだもん』
「ルクナも作れるの?」
『まぁねー人間時代はデザイナーだったのよ。こっち来たよ』
「まじ? でもデザイナーの方が気になる。他に肩書きあったの?」
『魔導具職人だったよ。腕時計くらいなら作れる』
「うっそーっ凄過ぎっ。えっ、えっ、作って作って。お願いっ。欲しかったのっ」
「……」
『夜は暇だし良いよ。でも材料が帝国でしか採れない鉱石なのよ』
「帝国なら任せてよっ。デザインって希望しても良い?」
「……貴女、見ない顔ね」
『うん。じゃあ最初にデザイン描こうねー。ミナとペアにする?』
「どうも王女様っ学院にはあまり行かないのでっ。ペア? なんか恥ずいじゃん……でも良いかも」
ライズの顔が少し赤くなって、ミナカの方を見て嬉しそうね。
目の前にはアークイリアが居るのだが、ライズに適当な返事をされて固まっていた。ライズにとってはそれどころじゃないもんね。腕時計ねぇ……眠らないせいか夜がマジで暇だから目的があれば嬉しいよ。
『ねぇアークイリア、邪魔だからあっち行って』
「なっ……なんですって……」
『邪魔って言ったの。今大事な話をしているから後で来て』
「大事な話は興味があるわね。私も参加するわ」
……私が邪魔って言った時にライズが二歩横に動いていたので、壁に向かって喋っているのよね。
アークイリアがそれに気が付いた時には、周りがえっ……という顔で見ていた。
仕方がない……救済の奥義をお見舞いしよう。
私が手の平で口元を隠して……
『……ぷぷっ』
と笑ってあげた。
「──っ!」
『王女さまが壁に向かって喋ってるーっ! きゃーこわーいっ! 誰か居るの? あれれ? 誰も居なーいっ!』
「……」
「ア、アークイリア様? どうされました?」
『どうしたんだろーねー? 壁に向かって喋ったもんねー。あっち行こーっと』
「なんでも、ないわ。疲れて、いるみたい」
「そ、そうですか……あっまだご挨拶がありますよっ。行きましょうっ!」
ふむ、ミナカを見ると顔が引きつっていて私に妙なアイコンタクトをしたがスルーしよう。ライズを見ると顔を抑えてプルプルして、耳が真っ赤ね。そんなに腕時計が嬉しかったのね。
さて、アークイリアの隣に立とうか。




