本当は恋占いがしたいのだが……
ファッションショーを楽しんだあとのアズサは夜更かしをしていたのでしばらく起きないだろう。
パジャマに着替えたデスちゃんを抱きながら寝ているので、良い感じの悪夢を見ていると思う。
『デスちゃん、ちょっと隣に行って来るね』
『ワタシも、行きたい』
『アズサが起きた時に寂しがるから、一緒に居てあげて。寂しがり屋だから』
『ふふふ、アズ、サビシイ、イテあげる』
『いいこいいこ』
『いってラッシャイ』
デスちゃんは私が居なくても頼りになるから。
実際いつあっちに戻るかわからないのよね。いつもの感覚だと天に還るみたいになって切り替わるのよ。
扉をすり抜け、廊下に出るとまだ暗い。深夜と早朝の間くらいの時間だが、起きているだろうか……隣の扉に顔を突っ込んでみると、ダウンライトだけ付いているみたい。
そろりそろりと中に入って、少しドキドキしながらベッドをチラリ……ライズが寝ていて、エイシャがライズの顔を眺めていた。エイシャは木の仮面を外していて、綺麗なお顔が微笑んでいるので良い絵ね……その長い耳をはむはむしたいわ。
……ドキドキ。
……ドキドキ。
……あっ子供だしナニも無いか。
近付いてみると、エイシャの顔がよく見える……あら、目に傷があって片目が閉じていた。見えないのかしらね。
私の声が聞こえないので文字で話す予定だが、ライズに気が付かれずにお話したい。
ベッドで話すよりはテーブルが良いので、テーブルにお話しましょうという石板をコトリと置いた。
直ぐにエイシャの耳がピクッと動き、テーブルまでやってきて石板を読んだ。
「……ルクナ様、ですか?」
『あら、ライズから聞いたのか。先程は娘が失礼しました』
「い、いえ……怒らせてしまった私が悪いので……ルクナ様、私はルクナ様を探しておりました」
『私を? なにかご用?』
「エルメルンに来て戴けないでしょうか。ハイエルフ様が是非お会いしたいと申しております」
『会う理由が無いね。どうせ上位精霊だなんだって言うのでしょ?』
「っ、はい。ルクナ様が精霊神なのではないかと……少しだけでもお願い致します」
『精霊神ではないよ。それに精霊樹を媒体にした秘術に霊体を閉じ込めるものがある。その少しで、私は何年囚われるの?』
エイシャが口を閉じた。
エルフの秘術までは詳しく知らないのだろう。言っておくが私はライズの記憶とウォーエルの記録がある。特にウォーエルの記録はエルフの秘術を沢山書いてあって、神殿に泊まりに行った時に読んでほぼ暗記しているのだ。
だから私に死角は無いよっ。
「……あなたは、何者ですか?」
『ただの浮遊霊だと言いたいけれど、女神とか天使の部類だと思って良いよ』
「女神……この世界に何を為すおつもりか、聞いてもよろしいでしょうか」
『ふふっ、何もしないよ。女神と言っても万能じゃないし、むしろ貴女に占って欲しい事があるくらい』
「……私の事がわかるのですね。ルクナ様を直接占って良いのならお望みの事を占いましょう」
『良いよ。お先にどうぞ』
エイシャが紙を出して、私の方を見ながら紙に手の平を押し当てた。
ほーこれは星読みの占術……かなり上位の占い師さんだ。エイシャを派遣するのはそれだけエルメルンは本気という事か。
本体であれば会いたいが、この身体はリスクしか無いのよね。
しばらくすると、手を離して紙に書かれていた言葉を読んでいた。
私も読もう……えーっと、、、彼方より来訪した幸せを振り撒く幸運の女神。世界を救う英雄神にも世界を滅ぼす破滅神にもなりえる。己の運命を求めるのなら月の意志を聞け。
的な事を書いてあるね。やっぱり女神なのね。ほっほっほ、崇めなさい。
寿命の事を書いていないのできっと霊体での占いかな……本体の占いではないのなら、月を目指せば良いのかしら。
というか幸せを振り撒くよりも呪いを振り撒いているのだが……呪いって幸せになる為の手段でもあるからある意味正解かしらね。
「……女神様」
『じゃあ私の望みを占ってもらって良い?』
「結果を、聞かれないのですか?」
『読んだから大丈夫』
「っ! わかりました。望みをお聞きします」
『二つある。一つはライズと直接喋りたいんだ。だから霊の声が聞こえるような魔導具の在処が知りたい』
エイシャは頷くと、また紙を出して手の平を当てた。
この時に話し掛けたら怒られそうとか思っていたらあっさり終わったみたいだ。
どれどれ……候補が幾つかあるな。ヴァン王国はファイアロッドと南の迷宮、帝国は帝都に何個か……近隣にもあるし、エルメルンにもある。結構あるのね……帝国が一番探しやすいか。
「どう、でしょうか?」
『ありがとー。帝国に行ってみるよ。もう一つはね、私の連れのアズサは迷い人なのだけれど元の世界に帰る方法や魔導具がどこにあるか、かな』
「わかりました」
またまた紙に手の平を当てて、しばらくしたら手を離した……どれどれ。
……ほへー方法は一つじゃないのか。
召喚儀式の逆流。次元転移術。月の扉。わーぷ装置。
召喚の儀式は帝国に行けばわかる。次元転移はライズの転移術の上位の上位の転移術だから難しい。月の扉は月にあるし、わーぷ装置? 魔導具かな?
『わーぷ装置ってどこにあるの?』
「それはわかりませんでした。力及ばず申し訳ありません」
『大丈夫。ありがとう、目的地は帝国だ』
「……私も、ご一緒したいのですが」
『エルフは危険だよ。ライズが許すと思う?』
「……それでも、ルクナ様の動向を追うのが役目ですので……それにハイエルフ様は直接会わないと納得しませんし」
ハイエルフってしつこいイメージなのよね。
精霊樹の森から出てくれたら考えるけれど、あいつら出ねえからなぁ。
『まっ、とりあえず精霊神じゃなくてただの女神だったって報告しておいで』
「……その間にどこかに行かれてしまいます」
『大丈夫、アズサが観光したいって言うから三日は居る。それと、その目はケガ?』
「……ありがとうございます。この目は十年前に帝国の者にやられました」
『そう。占ってもらったお礼にその目を治すよ』
「いえ、これはハイエルフ様でも治せませんでしたから」
『私を誰だと思っている? 幸運の女神に任せなさい。まっ騙されたと思って動かないでね』
「……」
エイシャに近付いて傷に手を当てて魔力を流した。
あーこれは神経が切れているのね。少し麻痺させて傷の塞がった神経をシュパッと切ってから直ぐ回復で繋げる。あとは傷痕を削って回復、削って回復、削って回復、ほいほいほいほい。大聖女ルーはこの程度の事は沢山やってきたので慣れたもの。
妖精国の薬草があれば完璧に綺麗なお肌になるのだが……デコボコは無くしたから化粧をすればわからないか。うーん完璧主義のルクナちゃんにはもどかしいわね。
『終わったよ。鏡で見てみな』
「………………見え、る。はは……奇跡というものは、本当にあるのですね……」
『じゃあ戻るねー。おやすみー』
「えっ、待って下さいっ! お礼をさせて下さいっ! なんでも致しますっ!」
『いや、占ってくれたじゃん。納得出来ないのなら、アズサの友達になってあげて。良い歳こいて幽霊と人形しか友達居ないとか不憫でさ。言っておくけれど対等な関係って意味だよ。合わなかったら別に良いし』
「わかりました。明日、伺います」
用は済んだので部屋に戻ると、デスちゃんがベッドから這い出て窓から星空を眺めていた。
『デスちゃん、眠れないの?』
『うん、ねえママ、アズも、ママも帰ったら、ワタシ、ヒトリ』
『……アズサに付いて行っても良いよ』
『だめ、チキュウ、マリョク、すくない』
『そっか……私と出会えるのは千年後。それまでに、デスちゃんの身体はもたないかも……待てよ』
『ヒトリ、サビシイ』
『もし、急に一人になっちゃったらここから北の国ノースギアに居る、ウォーエル・レド・ノースギアに会いに行って。千年後に私のお母さんになってくれる人だから』
『ウォーエル、やさしい?』
『もちろん。ウォーエルは可愛いものや綺麗なものが好きなの。デスちゃんが可愛くなればなるほどウォーエルは気に入ってくれる』
『ホント?』
デスちゃんがキリキリと音を立てながら笑顔を浮かべた。
これが私のただの夢じゃなくて、本当にあった出来事ならばデスちゃんにまた出会える。
『千年後、ノースギアで会おう?』
『うん、またアエル。嬉しい』
『千年分の服も作らなきゃ。でも容量がなぁ……必要なのはデスちゃんの収納リングか』
『だいジョウブ、ジブンで、作る』
『えっ、デスちゃん服作れるの?』
『うん、ツクレル、まどーぐも、作れる』
魔導具も?
もしかして私の技術を受け継いでいる?
面白そうなので作って貰おう。
アズサの鞄から使わない魔導具や素材を出しておいた。
デスちゃんはキリキリと笑顔を浮かべ、素材を手刀で切り分けて……魔法で形を変えて……ってまんま私のやり方じゃん。
ちょっとノースギア編が長編になるので、あと10話ちょっとで区切ろうかなと思います。




