浮遊霊と言い張るよ
……水を飲ませて回復してあげたが、体力の消耗が激しいのか目を覚まさない。
日陰で冷やしてあげるか……砂を固めて洞穴にして、氷を置いて涼しくしてあげた。
滋養強壮剤とか本体の収納指輪にあるから持っていないし、物を持ち歩けないのは不便よね。
「ん……ここは……うっ……」
女性はなんとか上体を起こし、氷を不思議そうに眺めたあと私に視線を移した。
じー……しばらく見詰め合ってから、女性は頭を振ってまた私を見た。
二十代の女性で長い髪が綺麗ね、ボサボサだけれど。なんかユウコに似ているなぁ……先祖とかだったりして。
『まだ寝ていて良いよ。魔物は任せて』
「……助けて、くれたの?」
『うん。ただの気まぐれだから』
「……ありがとう」
『どういたしましてー。水飲む?』
「えぇ……あなたは、精霊? 天使?」
『ただの浮遊霊だよっ』
「幽霊は魔法なんて使えない……いや、詮索はやめておくよ。ありがとう」
確かに幽霊は魔法なんて使わない。エレメント系の魔物なら使うけれど、幽霊は念動力みたいな変な力だ。きっと天使化でもしているのだろうねー、なんつって。
少しだけ誰かと話せたからそれだけで満足したかな。
『本当にただの気まぐれだから。具合が良くなったら転移石で帰りなよ』
「……そうする。ありがとう……あなたの名前は?」
『ルクナだよ。君は、迷い人?』
「っ、そう。この迷宮なら、帰る手掛かりがあるかもって……ははは、でも死んだら意味ないよね」
『そうだねー。とりあえず仲間を集めた方が良いかもよ。いつ来たの?』
「三年前、かな。言葉がわかっただけでも救いだったけど、どうも他人を信用出来なくてね」
迷い人は同族には心を開くがこの世界の人には警戒しがちだ。元の世界の影響が強いと聞いたな……現に名乗らないから警戒はされているだろう。
長い髪がボサボサで日焼けとかのお手入れを出来ていないから、なんかしたくなるけれど……我慢した方が良いかしらね。
『迷い人の人権は低いから仕方がないよね。女性パーティも気が強い人多いし……もう立って大丈夫なの?』
「えぇ、だいぶ良くなった。本当にありがとう。また仲間を集めて強くなったら挑戦してみる」
『そっか。頑張ってね』
転移石を取り出したので、少し離れて手を振った。
ばいばーい。
……女性は深くお辞儀をして、転移石を起動。小さな魔法陣が出てきて吸い込まれるように消えていった。
結局、名乗ってくれなかったな。まぁ良いか。少し寂しさがまぎれたからよしとしよう。
一時間ほど走ったところに次の転移陣を発見した。
オアシスがある綺麗な場所だが流石にここでキャンプをする探索者は居ない、か。
休まずに進めるから、二日くらいみて五層に行くか。五層に行けば良い宝箱がある筈だしねー。
オアシスの側にある転移陣を起動し、三層に到着した。
三層も砂漠地帯で、違うところは岩山が多い乾燥地帯というくらいかな。
赤茶色の岩が陽射しに照らされてキラキラと光っていた。近付いて見てみると少しガラス化していた。確か三層の魔物は火を吐く魔物が多くて、ボスは大きなトカゲのサラマンダーだったか。
私はサラマンダーには気が付かれないから本当に楽だ。あいつ耐久オバケだから持久戦なのよね。しかも転移陣の近くに居るから厄介なのよ。
今回はそれを逆手にとって天使の輪でサラマンダーの魔力を捕捉……はっけーん。
でも三層からの宝箱は良い物多いからなぁ……どうすっかなぁ……
転移石は転移陣の近くにあるから、とりあえず転移陣まで行こう。
……
……空中を走る事二時間。
屋敷くらい大きな真っ赤な皮膚のトカゲを発見した。相変わらず怖い顔してんなぁ……おや? 岩陰からサラマンダーの様子を伺う探索者パーティーを発見した。良い装備をしているから攻略組かな。
頑張れば倒せると思ったので、スルーして奥の転移陣の上に着地っ。
おっと、転移石を回収しないと……魔法の腕を作って転移石を掴み、転移陣に魔力を通して四層へゴーっ!
バシュンと景色が変わると、洞窟の中に出た。
今日はここまでにしようかなー。連続で魔力を使うとだめな気がするし転移石を起動して帰る事にした。
バシュンっ……えっ、なんでみんな私の事見ているの?
「あれ……四層、だよな」「あぁ……攻略組が四層に行ったのか?」「まじかっサラマンダー倒せたのか……すげえなぁ……」
あぁびっくりした。四層の転移陣が起動したから注目していたのね。だれも私が見えないみたいで安心したような寂しいような……という事は四層の転移陣を開いたのは私が最初という事。それなら四層の宝箱は取り放題なのでは?
でも持ち運びがなぁ……町を見ながら考えるかぁ。
迷宮の外に出ると、夜になっていてさっきよりも人が多かった。酒場へ向かう探索者達や、働く人々……これが千年前の光景だなんて想像出来ない。
すり抜けても踏み付けられても誰も気が付かないし、居ないのと一緒だ。本来私は居ない人間だから仕方がないのだが、最近寂しいって思う事が多い。今日の事があったから尚更ね。
「……ルクナ?」
『あぁお姉さん、具合はどう?』
さっきのお姉さんが話し掛けてきた。人混みで幽霊に話し掛けるとか変な奴に見られるぞ。
「良くなった。本当にありがとう。ルクナは、迷宮の外に出れるんだね」
『うん、浮遊霊だから。私と話すと変人に見られるよ』
「別によそ者扱いだから良いよ。少し話さない?」
『良いよー。移動しよっか』
「私の宿に案内するよ」
ファイアロッドの町よりも新しいというか、町の造りがしっかりしている。ここの領地を管理している貴族がしっかりお金を出しているのだろう。千年後のエリスタはお金無かったからなぁ……商家の出資者に助けられていたって聞いた。
宿の部屋はワンルームの個室で、着替えや荷物を見る限り一ヶ月くらい居るのかな?
『お姉さんは恋人は居ないの?』
「あぁ、まぁ、元の世界には居たよ。ところで、気になってたんだけど……」
『なぁに?』
「なんでジャージなの? しかもあずきジャージなんてこの世界で初めて見た」
『伝説の戦闘服だから気に入っているの。お姉さんはちきゅうから来たの?』
「わっ、よく知ってるね。他にも迷い人居るの?」
そんな期待した目で見られてもねぇ……ユウコは居ないし、帝国に行けば居そうだけれど危ないし……転生者は居るけれど紹介したら怒られそう……ミナカには嫌われてもやせ我慢くらい出来るが、ライズには嫌われたくないのよね。
となれば私の答えは知らないと答えるのは良い訳で、でもしゅんとする顔がもろユウコだからなんか親近感があるのよねぇ……
『帝国には多いって聞くけれど、囲われるから自由が効かなくなるんだって』
「……帝国、か。なんか怖いな」
『領土拡大で戦争を仕掛けるから、戦争の道具にされるかもねー。帰る方法を教えるから従えってね』
「……帝国は知ってるの? 帰る方法」
『知らないよ。知っているのはごく僅かだから』
「ルクナ、もしかして知ってるの?」
『うん。知っているけれど会ったばかりの人には教えられない。ごめんね」
「そう、だよね……」
……沈黙が重い。
けれど仕方がないのよ。
無闇に情報を与えて他の迷い人に接触した時に話されたら妖精国が危険になる。
私は迷い人より妖精国の味方だから。
まぁ他の方法があるのなら探したいよね。この迷宮に手掛かりがあるのなら、私も知りたい。
『どうしてお姉さんはこの迷宮に手掛かりがあると思ったの?』
「……有名な占い師に聞いたの。ヴァン王国の北にある大迷宮に求める物があるって」
『ふーん。占い、かぁ……それって幽霊も見てくれる? どこの占い師?』
「お金を払えば誰でも良いみたいだよ。エルフの国エルメルンのエルフの占い館って場所」
『ほえーエルメルンかぁ。行ってみよ。じゃあ助けたお礼で良いからねー』
「いやそんなんで良いの? もっとこう欲しい物とか……幽霊だから持てないか」
『そうそう。欲しい物があっても持てないのよ。迷宮に入ったけれど外には運べないし……』
「……私が運ぼうか?」
……あぁっ! なるほどっ! 一人でやる事しか考えていなかったよ。
ヴァン王国での迷い人の人権なんて無いに等しいし、パーティー組んでくれる人は少ない……となれば私と組めば迷宮のお宝も手に入るし、良いかも。
『良いの? ありがとー。欲しい物は私の声が聞こえる魔導具だから、それ以外はあげるよ』
「声? うん、わかった。よろしくね」
『占い師と喋れないと意味無いでしょ? ところでお姉さんのお名前聞いても良い?』
「ぁ……ごめんなさいっ! 名乗らないとかほんとばかっ、ごめん、本当にごめんっ。私、アズサ。霧沢梓。ごめんねほんとに……はぁ」
『ふふふ、幽霊に謝っても仕方がないよ。よろしくね、アズサ』
「私昔から詰めが甘いというか……はぁ、恥ずかしい」
明日から迷宮に入る事にした。
アズ母を思い出す名前だから、少し嬉しかった。
これも何かの縁なので、頑張ってサポートしよう。
王都には……帰らなくて良いか。
私は居ない方が良い。




