あっちの私はどれくらい寝ているのだろう
一年が経った。
私はまだ帰れない。
今、焦りが凄いのだが……それを言ったら二人を悩ませてしまうから言えていない。
この一年でミナカは学院でも指折りの実力になり、友達が爆増していた。
ライズは相変わらず学院を休んでは来ての繰り返し。
私はというと、浮遊霊の友達が出来た。
馬車に轢かれて死んだカランちゃん。たまに腹から内臓が出ているが、慣れると気にならなくなった。
『ルクナー、今日はなにするのー?』
『えっとねーレグニちゃんのストーキングかなー』
「……」
『あの子お気に入りよねー。お洒落だし、ルクナとは大違い』
『ダサくねえし。機能的だし』
「……」
『じゃあ私はミルコ君のストーキングでもしようかなー。彼可愛いし』
『先週もミルコ君じゃん。あっそうだ王都の外に白いゴブリン居たんだけれど一緒に見に行かない?』
「……あの」
『白いゴブリンとかキモくない? 血管浮き出てそうじゃん』
『そこが良いのだよ。観察すると意外とプリケツで可愛いよ?』
「あのっ!」
授業中に急にミナカが大声を出し、教室のみんなが注目した。
あっ、という顔をして恥ずかしそうになんでもないです……というミナカをカランちゃんと一緒に眺めた。
『ミナ、急に大声だすとかびっくりして心臓止まるじゃん』
『死んでるくせになに言ってんのよ。あっ、そうだ今日はピクニックにしましょ。綺麗なお花を探すの』
『良いよー。ミナも来る?』
「……」
『授業中に話し掛けるなんてだめじゃない。ミナが怒ってるわ』
『だって私は幽霊歴一年の新人だよ? 人間だったらまだ赤ちゃんだから私は赤ちゃんなの。赤ちゃんにだめなんてだめなんだからね』
『随分屁理屈を言う赤ちゃんね。じゃあ抱っこしてあげまちゅよールクナちゃんおいでー』
「……」
『ばぶー。カランママーおっぱーい』
『はーい良いこでちゅねー。あっ、今日肺出てるわ』
「……」
『内臓くらい仕舞ってよ。回復してあげようか?』
『やめてよ浄化されたら死ぬわ』
「……」
『ちょっとだけ試してみない? 死なないかもよ』
『嫌よ。私はもっとロマンチックな場所で死にたいの。やるなら大教会のステンドグラスの下で死ぬわ』
「……」
『じゃあ今度行こっか? このまま浮遊霊で居るより生まれ変わった方が良くない?』
『言葉を返すわ。ルクナはどうなのよ』
「……」
『なんか格が上がって……』
──キーンコーンカーンコーン。
喋っていると授業も終わり、生徒が立ち上がって一礼してざわざわし始めた。
こうなると気の多いカランちゃんはさっきのピクニックの話を忘れて男子の尻を追っかけ始めるのよね。
カランちゃんを眺めていると、ミナカは帰る準備をして早足で教室を出て行った。
去り際にうるさいと言われてしまったな……ふむ、ぷんぷんだ。
真面目な性格のミナカにとって、私とカランちゃんは水と油だもんねー。
とりあえずミナカの後をついて行って、謝っておかなきゃ。
でも相当ぷんぷんなご様子でズンズンと家まで直行する姿に私を含めて誰も声を掛けられなかった。
結局家まで喋らず、ミナカは家の中に入らず庭のど真ん中で立ち止まり……バッと振り返った。
「前も授業の邪魔しないでって言ったよね?」
『ぅ、ごめん。カランちゃんに会うの一週間振りでさ……嬉しくて』
「それなら別の場所で喋れば良いでしょっ! いつもいつも私の目の前に来られると気分が悪いのっ!」
『……ごめん』
「謝るだけでなんにも変わらないじゃんっ! もう話し掛けないでっ! 顔も見たくないっ!」
『……わかった』
……そうだよな……何も言い返せない。
この一年ずっと付き纏われたら誰だって嫌だ。
嫌われるのは当然か……
ミナカは私を睨んだ後、家に入っていった。
……
……
……ごめんね。
良い機会だ。私がここに居る意味はもう無いし、元に戻る方法を探そう。
情報は無いから、迷宮にでも行ってみるか。
……千年前に有名だった迷宮は……あー覚えて無いなぁ……あっ、そうだファイアロッドの大迷宮ならあるか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ファイアロッドの大迷宮……この時代では北の大迷宮と呼ばれていた。
『ほー。千年前でもちゃんとファイアロッドだー……この頃はファイアロッドなんて無いから、魔法使いが多いなぁ』
私の時代と一緒で、小さな町が出来ていて活気があった。なんか嬉しいなぁ……早く帰りたいなぁ……悲しいなぁ……
迷宮の入り口には行列が出来ていて、受付に探索証を出していた。
幽霊とは便利よね。探索者証が無くても良いのだから。一応子供の姿もあるからこの時代も入れるのかね。
中に入ってみると転移陣があって、そこに探索者が入っていったりパーティー募集や武器の手入れなど準備をしていた。
それを眺めながら、転移陣の上に乗ってみた。
……
……
……
転移しねえな。
私をすり抜けて探索者が転移していく。一緒に転移出来るかなーとやってみても転移出来ない。
どうするかなー。転移陣を解析……魔力に反応する、か。魔法を使ってみると、おーやった。
バシュンと景色が変わって転移出来た。
森の中……千年前も変わらないね。
「ここってなんでこんなに広いんだろーなー」
「さぁ? 迷宮になんでは通用しないだろ」
「はははっ、稼げりゃなんでもいいだろ」
探索者が居ても気が付かれないのは、幽霊って便利ね。
魔物にも気が付かれないし、一層のボスですら私をスルーしている。これって攻略簡単じゃね?
でも魔物にすら認識されないとか少し悲しい……話せるミナカが恋しいよ。
話したいなぁ……だめだ、頼ったら迷惑になる。
物思いに耽っていると、二層への転移陣を発見した。
転移陣の周りにはテントがあり、探索者達が居たので話を盗み聞きしておこう。
……うえっ、下ネタばっかり。
聞いても仕方がないので二層に行こう。
二層に行くと、砂漠地帯……懐かしいなぁ……
「ぎゃあぁぁぁぁぁあ!」
ワームちゃんも楽しそうに探索者を襲っているし、砂漠を照らす太陽っぽいものもジリジリと大地を照らして探索者の体力を削っている。
私は幽霊なので暑さは感じないし、水も飲まなくても良いから凄い楽。
いやぁ……迷宮攻略には最適の身体よね。
「ぐあぁぁ!」
サソリの魔物も楽しそうに探索者を襲っているし、良い天気ねぇ。
五人パーティーは四人が毒にやられて壊滅状態。
六体のサソリパーティーも五体やられて接戦だ。
『キシャァァアァ!』
「ひっ……」
探索者は逃げるがサソリの方が速いなぁ。
頑張れ探索者。
あっ、刺された。パタリ。
サソリの魔物は探索者を砂の中に運んで行った。
助けるのは簡単だが、ここに来たのなら死ぬ覚悟が無いとね。
天輪を起動して転移陣を探す……千年後も同じ魔力なら……あった。
一度攻略していると楽だな。
転移陣の方向に歩いていると、また探索者を発見した。
今度は黒髪の女性が一人で倒れていたので、少し観察……荷物を見る限りソロだから、パーティーからはぐれた訳ではないか。女性が一人で二層なんて何か訳があるのかな?
眺めていると、魔物が近付いて来たのでアイスランスでサクッと倒しておく。
うーん、なんか気になるな。ユウコと雰囲気とか顔の系統が似ているし……迷い人、とか?
「……ぅ……だ、れ……」
『うん? 私が見えるの? 声聞こえるの?』
「……ぅ……ぅ……み、ず……」
『水ね。名水百選』
美味しい水を出して飲ませてみた。
助ける気は無かったが私が見えるなら話は別だ。
だって寂しいもん。




