浮遊霊ルクナちゃんです
「幽霊? お化けなの?」
そうそう。触れないでしょ? 幽霊だから喋る以外なーんも出来ないの。すり抜けるでしょ? 魔法だってほらー……あっ出たわ。
魔法が出るっておかしくね?
魔力どっから出てんのよ……もしかして今寝ている私本体から? んなバカな……でもこの氷の密度は劣化していないし……そう考える方が良い、か。
「わぁ……氷魔法なんて初めて見たっ」
魔法は使えるみたいだねー。とりあえず出よっか。ここエリスタ家の中だから見付かったら大変だよ?
「あっ、う、うん。うちに、おいで?」
『いくいくー。おっ? 『』が付いたっ。格が上がったのかしら』
「格? 早く行こ? こっちだよ」
『ほいほーい』
まぁ、今の状況を楽しむか。気の弱いセイランみたいで新鮮だし、ミナカに取り憑いてしまった感がある。ライズが聖女活動をしている間はそんなに帰って来ないはず。ライズが帰って来たら取り憑いてみよう。
エリスタ家を出て、オレイドス家を目指していく。何気に千年前の王都を歩くのは嬉しい。いつも突っ立っている感覚でライズに取り憑いている感じだったし。
オレイドス家はまだ公爵家じゃない時代だから、場所が違う。貴族街の端っこだ。代々宮廷魔導士の家系で、有名な魔法使いを多数輩出している。セイラン……間違えた、ミナカはオレイドス家の長女として期待されている部分が多いのね。
「ここが私の家。入って」
『お邪魔しまーす』
ふむふむ、ライズの家より良い家だ。
庭は倍以上あるし、家の作りが千年前の当時としては最新だ。
家の中に入り、直ぐに出迎えたメイドさんに挨拶をしてから真っ直ぐミナカの部屋にやってきた。
「お茶でも飲む? あっ、ルクナは幽霊さんだったね」
『お構いなくー。どうやらミナカにしか私は見えないみたいだ。迷惑だったら言ってねー』
「迷惑とかはわかんないけど、なんでライズに取り憑いてたの?」
『取り憑いていないけれどお世話になったんだ。ライズは知らないけれどね。ミナカはライズの魔法を見たの?』
「そうなんだ。魔法は見た、というか……難しい授業で平気な顔してたの。それから観察するようになって、わかったのは手加減してるって事」
『そりゃレベルが違い過ぎるから、普通に魔法を使うのも出来ないのだよ。手加減するのも修行にしていたよ』
私はライズの事を誰よりも知っている自信がある。だからミナカの質問には答えられるのだが、あんまりペラペラ喋るのはライズに悪い気がした。
でも聖女になるって言っちゃったからなぁ……すまぬライズ、口が羽のように軽い私を許しておくれ。
「なんか、違う世界に生きてるみたいで……話し掛けるの凄く緊張した」
『まぁ普通に怖いもんね。また頼んでみなよ。根気良く言えば折れると思うし』
「うん……これも、返さなきゃ」
ミナカが青い髪飾りを見て、ため息を吐いた……高価に見えるもんね。
でもこれは会う口実になるから、次も頑張れ。
ライズの魔法を幽霊状態で見たせいか、私の修行にもなりそう。ちょっと真似しよ。
『あの一瞬でこれを作るのは流石だねー。私なんてこだわっちゃうから一瞬なんてプライドが許さないっと、ほら』
「わっ、わぁぁ! きれい……」
対抗心でちょっとこだわった髪飾りを作成した。氷の結晶がキラキラして可愛いね。ミナカに着けたいが、触れないのよねー。自分で作った物は触れるみたいから、髪のところで留め具を閉めて手を離した。
『良いね。鏡見てみて』
「わぁ……こんな綺麗なの着けたの初めて」
『ふっふっふ、私のアクセサリーは人気なのだよ。暇だし沢山作ってあげるねー』
「良いの? あの、ルクナ……私に魔法、教えて欲しい。だめ?」
『私が教えたら歴史が……あぁいや、ライズに教わった方がミナカの為というか……でも基礎くらいなら、良いのか?』
「基礎でもなんでも良いのっ。私、なんか合わないというか、なんて言ったら良いかわかんないけど……」
『うーん……一つ約束して。ライズに魔法を習うのは諦めないでくれるのなら、良いよ』
「うん、約束する」
セイランもこれくらい無邪気に笑うようだったらもっとモテるのになんて今更だが、私がミナカの修行をするなんて思いもしなかったなぁ……これで歴史が変わるとか無いよね? 戻ったらセイラン居ないとか泣いちゃうし、私も消えるとかになったら困る。適度に、感情に流されないようにしないと。
そういえば、セイランも時々ミナカの夢をみているんだよな……私の事を見てびっくりするかも。
でも確か、セイランが見たのはもう少し後だったよな……聖女ライザが、魔王を倒した頃だったか?
それまでに消えればセイランが私を見る事も無い、か。
……
……
あれから一週間が経った。
未だに私は戻れず、ミナカに付き纏っている状態だ。
ミナカはセイランと似たようなタイプなので、魔法を出す寸前で流れを良くするだけで教えるのは簡単だった。
そりゃ千年前と文明は似ているとしても魔法の技術は現代の方が遥かに進んでいる。ライズが異常なだけだ。
だから一週間で、オレイドス家が納得するくらいにはなったと思う。
一応家庭教師とミナカのやり取り見たけれど、上達したから普通に褒められていた。
さすが私。
「ミナカっ、おっはよー!」
「おはよーレリッシュ。ご機嫌だね」
「バレたかー実はねー、昨日ご馳走だったんだっ。兄さんが騎士の試験に合格してさっ」
「わっ、おめでとっ。一発合格なんでしょ? 凄いねー」
「ミナカーおはよー。今日も可愛いなぁもうっ」
千年前の学院は全然違うから、新しい学院みたいで新鮮だな。
ミナカは友達が多いねぇ……羨ましいよ。
貴族じゃないから取っ付きやすいのかもね。
恐怖の大王セイラン様とは正反対だよ。
ライズは今日も休みかな。あれから見ていないし……おっ、来た。
教室が少し静かになって、ライズが廊下側の席に座るとまたみんなが喋り始めた。
とりあえずライズに私が見えるか試そう。
『ライズー、ライズー。私が見えるかなー』
ふんっふんっふんっ、ライズにパンチキックっ!
ふんふんふんっ!
あっ、こっち見た。
「……」
ドキドキ……
ドキドキ……
『……はろー』
「……気のせいか」
ふむ、なんとなく気配はあるが見えないか。
やっぱり私は幽霊なのね。
試しに取り憑けるのかライズに重なってみる……うーん、だめか。
ミナカがこっちをギョッとした顔で見ているので、肩を竦めて見えないアピール。
魔法なら、気がつくかな。
廊下に出て、小さい氷を出してみた。
『ちっちゃいアイス。ほいっと』
「っ……?」
おー、こっち見た。
カランと落ちた氷を見ている……氷は見えるとなれば、魔法で字を書けば通じるのかしら。
試しに氷でおはよーと書いてみる……
ドキドキ……
ドキドキ……
ライズは見ているだけだ。
ちなみに文字はそんなに変わっていないから通じるのだが……反応に困っているだけかしら。
じゃあ近くに行けば反応してくれる?
ライズの机に土魔法でおはよー書いた。
「……誰?」
おーっ反応してくれたっ!
興奮ですよこれっ!
ずっと見るだけだった人と交流が出来るなんて夢みたいっ!
いや、本当に夢なのかもな……私の都合の良いようになっている可能性があるし。
まぁ夢でも良いさ。
とりあえずライズの横に立って、筆談での会話を試みる事にした。
『筆談でお喋りしよっ。私、ルクナ。浮遊霊だよっ』
「私はライズ、よろしく。浮遊霊がなんの用?」
『君とお喋りしたかったの。格があがったのか魔法が使えるようになったから、早速来たのよ』
「ふーん。討伐されないようにね。どうして喋りたかったの?」
『聖女ライザと喋りたいと思うのは当然じゃない?』
ライザがバッと前を見た。
そこに居ないのよね。せめて面と向かいたいが、学院じゃ難しいか。
「なんで知ってる?」
『ふふふー、君のファンだからね。私に興味湧いた?』
「うん。湧いた」
『やった。私の事知りたい?』
「うん、知りたい」
『仲良くなったら教えてあ、げ、る』
いきなり千年後から来たって言ったら不審に思われるし、もっと私に興味を持って欲しい。
まだ敵かと思われていそうだし……まずミナカと仲良くなってもらえたら通訳してもらえる。よしっ、私が引き合わせよう。
「じゃあ、目的を教えて。喋りたいだけじゃないよね?」
『うんっ! 強くなりたいんだー。魔法の修行でもしない?』
「修行……か」
『まぁ私の魔法を見てからでも良いよ。学院終わったら暇?』
「今日は、少しなら空いてる」
『じゃあ終わったら王都の外で待ち合わせねー。ミナカも来るからよろしく』
「なんでミナカ・オレイドス?」
『ミナカは私が見えるのよ。魔法理論を話す時に通訳が必要だから呼ぶね。じゃあちょっと散歩してくる』
今、ため息吐いたな。
嫌なのね。わかるよ、仲の良くないクラスメイトとプライベートで会うの嫌だよね。
でも必要な事だから我慢してくれ。
私は美少女を探すというミッションがあるのだ。
という事で他のクラスを確認……
……ふむ。
……ふむ。
……おっ、グニアそっくりの子を発見。先祖かな? 名前はレグニ・マーガレット。至近距離で見詰める……ふむふむ、可愛い。魔力を覚えて他のクラスに行こう。
……ふむ。
……ふむ。
──キーンコーンカーンコーン。
ふむ、可愛い子は何人か居た……学院は午前中で終わるので、今日はおしまい。明日は上の学年をチェックだな。
教室に戻るとライズはもう居なかった。
ミナカはクラスメイトと喋りながらキョロキョロしていて、私を見付けて安堵した表情を見せた。
帰るよーと手招きすると、ミナカは直ぐに学院の外へ向かい私も一緒に出た。
「どこ行ってたの?」
『学院の見学だよー』
「なんかずっとライズの所に居たけど、どうしたの?」
『筆談出来るかなーって思ったら出来たからちょっと喋ったの』
「えっ、何話したの?」
『雑談かなー。これから王都の外で会うからミナカも来て。通訳して欲しいのよ』
「ほんと? 行くっ!」
セイランもこれくらい無邪気に笑えたら……いやもうよそう。次に会った時に目で刺される気がするから。
ミナカと一緒に急いで王都の門をくぐって外に出ると、遠くで座っているライズを発見した。
来てくれるって事は私が気になるのね。
『ミナ、ライズに声掛けて』
「うん。ライズ・エリスタ、待たせてごめんね」
「あぁ……ルクナは?」
「ここにいるよっ。ルクナが来てくれてありがとだって」
「まぁ、変な幽霊に憑かれたら嫌だし……どんな姿?」
「私達より年上の女子で……すっごく可愛いの! 学院の誰よりも可愛いよっ!」
「女子なら少し安心か……ミナカ・オレイドスの魔力が上がったのは、ルクナが教えたから?」
「そうなのっ! ルクナ凄いんだっ。教えるの凄い上手なのっ」
「ふぅん、よかったね」
ミナカは前よりも自然と話せている。ライズも悪い気はしていないみたいだし、最初は良い感じに出来たかな。
「ルクナが人の居ない場所に連れてってだって。魔法を使ったら目立つからって」
「じゃあ、私の修行場に行こうか。転移」
バシュンと景色が変わり……高い山の頂上。あぁここたまに見る場所だ。修行場だったのね。
ミナカがぺたっと尻餅をついた。初めての転移で腰が抜けたのね。
「本当に、転移魔法だ……」
「秘密にしてね。じゃあルクナ、見せてよ」
ほいほい。
何にしようかなー。
全力全開にした方が良いかなー。
……よしっ。
両手にそれぞれ黄色の魔法陣を出して、重ねながら目の前に固定させる。
そして白い魔法陣を出して、目の前の魔法陣に重ねた。
「おわーまじか……」
『光り輝く宝石よ、色褪せないその身体をもって私に力を貸しておくれ。お礼に私が大地を駆ける足を、岩をも粉砕する腕を、大空を翔ぶ翼を与えてあげる……魔法合成・金剛天使改っ!』
魔法陣が光り輝き、球体魔法陣に変化した。そして球体から人型へと形を変え、翼が生えて天使の形になってきた。そして身体はダイヤモンド製になり光り輝き始め、私が金剛天使に重なるとあら不思議。自由に動かせるようになった。
二人とも驚いている様子だったので、おでこに手をやって敬礼ポーズ。
声は聞こえないが、見えるだけましかな。
「……ルクナ?」
『ミナ、ライズにどう? って聞いてー』
「……ライズ、ルクナがどう? って……これ、魔法なのかな……」
「……ははっ、凄いっ! これは何が出来るの?」
「……戦える、だって。ルクナは霊体だから本気でやっても良いって」
「本当? 本当に? 本気出して良いの?」
初めて、ライズが笑った。
今まで、本気で戦うなんてしていなかったのだろう。凄く嬉しそうだから。
私も嬉しいよ。
伝説の魔法使いと戦えるのだから。




