歩み寄っても仕方がないから許しとかは無いのよね
サーレス公爵は申し訳なさそうな顔を見せ、ルビー夫人は私に何かを差し出した……受け取らずに黙って見詰めてみる。
あの時と違って、二人は私を見ていた。
立場が違えば、こうも違う。王侯貴族なら当然の行動なのだが、あの時少しでも優しい言葉を掛けてくれていたら……家出なんてしなかった。
北区に行ってウォーエルの家を買って、モニカちゃんに出会って、憧れのウォーエルに会えた。友達も出来て、グレイド試験でノースギア王とアズ母と家族写真が撮れた……
……
……
……私はこの二人を恨んでここまで来られたんだよな。
「改めまして。ルクナ・レド・ノースマキナと申します。申し訳ありませんが、贈り物は受け取らぬよう言われております」
「そんな事言わないで……あのね、あの時の事、謝りたいの。貴女の事を知らなかったから」
「お二人はアズリーナ王女を守る為に孤児を切るという当然の事をしたまでかと思っております。私が何者かを知らなかった訳ですから」
「そう……アズには後から聞いて……本当に、申し訳ない事をした。お詫びに最上級のおもてなしをしたい。もちろんアズも来るから」
ほっとした顔をされても許している訳ではないのだよ。あの時の純情なルクナちゃんの心に火を付けた事は根に持っている。結構根に持っている。いやかなり根に持っている。
「あぁ、申し訳ありませんがウォル・ノースマキナを通して下さい。私を独占したくて堪らないみたいなので」
「それも、とても驚いた……まさか大聖女だけでなく氷神巫女様の娘だなんて……だから、自分の行いを悔いている」
「私も、貴女の事をわかってあげられなくて……恥ずかしいわ」
「ふふっ、後悔する必要はありません。あのまま私があの家に居たら、お二人のお子さん達を含め屋敷中の人間をボコボコにしていたと思いますよ? ノーザン公爵様のお子さんみたいに」
「それは……ブランカ・ノーザンは何をしたのか聞いても? 息子の話では言い掛かりを付けられたと聞いて……」
「ふふふ、よくある話ですよ? 妹が大事にしていた物を壊した。それが妖精国との関係を揺るがす物だったので、私がボコボコにする事で収めただけです。言い掛かりという事は、お子さんはブランカ側という事ですね」
「あぁいや気になっただけでっ……」
ブランカは東と仲が良いという事がわかっただけで良い情報を得られた。
東と仲が良いという事は、モニカちゃんを陰で馬鹿にしていた奴らと仲が良い。という事はという事はブランカは妹を馬鹿にしていたという事……滅するか。
私の眉間にシワが寄った所でサーレス公爵が慌て出した。別にあんたの息子の話じゃないから関係無いのだが……関係あるか。
せっかくだし教えてあげよう。
「あぁすみません、私の愛弟子モニカ・ノーザンが東の生徒にノウドやノレドという差別用語で呼ばれていたのを思い出しただけです。いやぁ良かったですよ、東の生徒は誰か知りませんが愛弟子はレドになって見返す事が出来ました。ふふ、余談でしたね」
「東の生徒が、ノウドと? それは、本当?」
「えぇ、私が聞けばみんな答えてくれますよ。東の生徒よりも私とモニカ・ノーザンに嫌われたくない筈なので……あぁもう学院の生徒達は戻ってしまいましたね。残念」
「公爵家にそんな事を言うのは見過ごせないから私も聞いてみるわ。ルクナ、ちゃん? 今度アズと私と三人でご飯でもどう? それなら氷神巫女様を通さなくても良いわよね?」
不敵に笑うと、何かを察したのかルビー夫人が話題を変えた。
ルクナちゃん? 鳥肌凄えんだが。
んー……どうしようかなー。ルビーババァがここまで私のご機嫌を取るなんて思わなかったし、アズ母の姉ポジだった訳だから私の感情はさておきアズ母の面白い話が聞けそうね。
あくまでも私の感情を無視したらだが。
「んー……ウォルおかぁさんが来るかもしれませんよ?」
「ね、願ってもないわ」
「では先に王様からお誘いを受けましたので、王様の予定が決まり次第となります。詳細はアズリーナ王女に伝えて戴ければ良いかと……あっ推薦者のノーザン公爵様が帰るようなので、一緒に帰ろうかと思います。またお会いしましょう」
「ありがとう……ルクナちゃん……許して、くれるの?」
その問いは、割と禁句だが……私の意志は伝えておかないといけないね。
言葉にしておかないと、許してもらったと思われちゃうから。
「……私の夢は、アズリーナ王女と二人で静かに暮らす事でしたが、その夢はお二人のお蔭でもう叶いません。あの時のルクナの言葉を借りるならば、絶対に許さねえ。ですが今は……検討中とお答えします」
「「……」」
サーレス夫妻の返事を聞かずに歩き出し、ノーザン公爵の元へ向かった。
私も少しは大人になったかしら。でも許さねえとか言った辺りそんなに変わらないかもね。
もしサーレスに残っていたのなら、次の日には謝られて学校にも行けたかもしれない。まぁでも、家出した方がルクナらしいよね。
「ノーザン公爵様、帰られるのならご一緒します」
「あっ……ごめんせんせ、サーレスに隙を取られた。大丈夫だった?」
「はい。言いたい事は言えました。謝罪は受け取りませんでしたがね」
「あぁ……流石せんせだなぁ。諦めないと思うから、何かあったら言ってくれ」
「一応アズリーナ王女とルビー夫人と私の三人で食事はするかと思います。心配したウォルおかぁさんが来ない事を祈るばかりです」
「……来たら、ぶるっ、俺なら身震いしちゃうよ」
「私としては二人に仲良くしてもらいたいので盛り上げますが……まぁ喧嘩するでしょうねぇ」
「想像出来るから怖いよ……」
仲良くしてくれたら二人の母を堪能出来るのだが……性格合わなそうだから無理っぽい。
公爵と魔導馬車に乗り込み、演習場を後にした。
これでひと段落、かな。
「公爵様、私の盛大な暇つぶしに付き合って戴きありがとうございました。お蔭で家族写真が撮れました。大満足ですっ!」
「ぐすっ、まじで感動しちゃったよ……あぁ思い出したら泣けてくる」
「ふふっ、言えて良かったです。これでやっとこの眼鏡ともおさらばですかね」
「どうかな、貴族街と真王都なら外しても良さそうだけど、それ以外は混乱するかも……全員がせんせを認識している訳じゃない」
「それだけでも充分です。親と街を歩くのは、ずっと憧れていましたから」
「はぁ……その手伝いが出来たのが、とても光栄だよ……はぁ……息子を思うと恥ずかしい」
まぁそうよね。
公爵が軽薄な長男と粗暴な次男に悩んでいるのは事実。超絶可愛い妹が居なかったら私は公爵家に近付きもしなかったし。
公爵家に到着し、挨拶をして自宅に戻ってきた。
既にリリは帰っていて、直ぐに出迎えて抱き締めてくれた。
「ルクナ……ありがと。約束、守ってくれた」
「うん、グレイドよりもベルちゃんの約束の方が大事。まぁあのまま戦っていたら負けていたのは事実だけれどね」
「ハラハラしちゃった。そうだ、アズさんと何話したの?」
「挨拶程度だよ。でもね、これから一緒に王都を歩くんだ」
「ルクナ……良かったね。ふふふ、そうだ……ウォル様がヤキモチ妬いていたから、良い子良い子してあげてね」
「もちろんっ。本当は二人に仲良くしてもらいたいけれど……」
「「……難しいよね」」
リリも同意見で嬉しいよ。
少しお腹が空いたのでおやつをつまみながら、王の話をしていた。
どうやらリリも少し王についてウォーエルから聞いていたらしい。
「王が子供を選ぶけれど、血筋が変わるでしょ? だから王になると氷の因子という物を受け継ぐらしいの。その適性が高いほど強い王になれるみたい。グレイドの救済策みたいなものね」
「ふーん、普通のレドでもグレイド並みに強くなれるって事かな。じゃあアズ母が氷の因子を受け継いだらめっちゃ強くなるじゃん」
「まぁそうなるわね。だからそうやって歴代の王の強さを保っているみたいよ? 完全に身体に馴染めば因子を取り出しても強さが落ちないから、王の選定はそれに合わせている事が多いの」
「へー、だから自分の子供じゃなくても王に選べるって事ねー。氷の因子かぁ……見たいなぁ」
「そういえばウォル様も女王だったから受け継いだって事よね?」
「そうだよねぇ……あれ? でも女王になる前でもノースギア王より強かったよ?」
ん? じゃあウォーエルはあの時よりもかなり強いって事? そうなったら勝てないじゃん。私は王より弱いのよ?
という事はだよ……ヴァルヒートって今の私じゃ逆立ちしても勝てないって事じゃん。
やっべぇ、気落ちしてきた。
とりあえずヴァルヒートを見に行ってから考えよう。
「……ルクナ、今危険な事考えたでしょ」
「いや? まさかぁ。あっそういえばステラちゃんとメティオちゃん見ていないね」
「メティオ様は帰ったわ。ステラちゃんはウォル様の色気にやられてベッタリよ」
「なんだろう……なんか腹立つ」
「うん……でも居ても邪魔だから」
「そうなのよね。居ても邪魔だけれど、居なかったら腹立つ」
幼女妖精がどこか捕まっていたらウケるとか思っていたが、安全な場所にいて安心よ。
リリと過ごしてから、時間が来たので中央公園にやって来た。
……まぁまぁ人は居るが、貴族関係っぽいからまだましか。
きっと私とアズ母の話を聞いて見に来た人たちだろうね。私には話し掛けられないが、アズ母には話し掛けられるから。
おっ、来た来た。
「ルクナっ、お待たせっ」
「へへ、行こっか」
「どこか行きたいところある?」
「貴族街から出たら人が凄そうだから、少し歩くだけで充分だよ」
「そうよね……はぁ、どこで間違えたかなぁ……地方の町でゆっくり過ごそうとしたのに、気が付いたら王都でルクナと違う立場でこうしている」
「アズリーナ王女は国の宝だからねぇ」
「ルクナも、国の宝になってしまった。氷神巫女様の娘になるなんて……どうしてそうなったの?」
「いやぁ……まさか氷神巫女様があの人だなんて思わなくてさぁ……感極まっちゃって、大泣きしたらこうなった」
「あの人?」
歩きながらアズ母の耳元に顔を近づけ、小声でこっそりウォーエルと言ったら……アズ母は立ち止まって天を仰いだ。
エリスタに居た時よりも、髪も綺麗でお洒落して……本当に王女様が似合うよ。
遠い……遠いなぁ……隣に居るのに、母なのに、遠い存在に感じる。
山奥へ行ってお母さんって叫びたい……はぁ。
……アズ母は立ち止まったまま動かない。
おーい。
「……」
「アズリーナ王女?」
「……本当?」
「うん。本当」
「……ルクナ、逃げましょう」
「やだよ。逃げられる訳ないじゃん。諦めて仲良くしてよ」
「やだっ!」
「わがまま言わないでよ。まぁ良いじゃん、こうして素顔で王都を歩けるなんて夢みたい」
ふふっ、むすッとした顔はエリスタに居た時と一緒だ。
そりゃ怖いよねぇ……歴代最強、氷の悪魔、極悪非道、鬼畜女王……まぁこれは貴族達が言っていた事で国民には慕われていたらしいよ。イチカさんが言うから間違いないと思う……多分。
まぁ良いじゃないの。これも運命なのだから。あのままエリスタに居ても、引き篭もるだけの詰まらない人生になっていたと思う。
今の方がずっと綺麗だよ。お母さん。




