やっと話せた……
貴賓席の近くまで行くと、ウォーエルが腰に手を当てながら私を見下ろしていた。仮面で顔はわからないが、どこか誇らしげにしていたのでどうやら満足してもらえたようだ……ウォーエルの評価ってマジで厳しいからね。世界最高峰の魔法使いの相方だった人に満足してもらえる事は、私にとってグレイドになるより光栄な事だよ。
きっと私が不合格になった事が嬉しいのね。
「どうおかぁさん、可愛かったでしょ?」
「さいっこうに可愛いわ。それで? わたくしの天使はどんなわがままをいうのかしら?」
「へへ、アズリーナ王女と話して来て良い?」
「ん〜……どうしようかしらねぇ〜」
「今日は満月だから、一緒に見よ?」
「あら、お月見デートの誘いね。晩御飯は用意しておくわ」
夕方まで自由にして良いって?
ありがとね。こんなチャンス滅多に無いしさ。
ご機嫌な内にアズ母と話しておかないと、また逃げちゃうから。
ただちょっと着替えたいのよね。
私の意図を察したのか、神殿巫女のみんなが横断幕を持って私を囲んでくれた。
「ルクナ様っ、すっごい可愛かったですっ!」
「えへへ、みんな見ているから張り切っちゃった。っとありがとう」
スポッと着替えて、アクセサリーを着けているとサンゴさんが櫛でぼさぼさ頭を整えてくれた。
そういえば今日はイチカさんが居ないなぁ……神殿で居残りなのかしら?
横断幕が外され、アズ母の居る方向へ向かいながら会場を見渡してみると……まだみんな帰らないわね。まだ何かイベントがあるのかしら?
「せんせぇーー!」
あっ、モニカちゃんがぶんぶん手を振っていたので寄り道しよう。
モニカちゃんの方に近付いて行くと、他の生徒達も注目してくる……なんかみんな目が怖いぞ。
「モニカちゃーん、負けちゃったー」
「ううんっ、せんせはそんなに戦えないもんっ。すっごかったっ! すっごい格好良かったっ!」
ツインテールがぶんぶん暴れて喜んでくれている。可愛いから抱き締めておこう。
アズ母に会う前に、モニカちゃんを補給出来て良かった。結構緊張しているから……多分私のドキドキは伝わっているだろう。
「ありがと。あのね、これからアズリーナ王女と話して来るんだ」
「……いってらっしゃい。応援してるね」
モニカちゃんを抱き締めていると生徒達の一部が近付いて来た。ぞろぞろと歩いてきて先頭には初めて見る偉そうな女子だ。
正直早くアズ母の元へ行きたいのだが、貴族って無視したら面倒なのよねぇ……貴族の子供だから貴族ではないけれど、面倒なのはかわらない。女子が来る前にアズ母を見ると、公爵らしき人と話していたがアズ母は私から視線を外さない。ウインクしたから待っていてくれそうかな?
「ルクナ様、素晴らしい試合でした。初等部五年マーチス侯爵家レオニー・マーチスと申します。先日は学院の生徒を助けて戴きありがとうございました」
「あぁ別にお礼はもらっているから気持ちだけ受け取っておくね。モニカちゃんのお蔭でなんとか助けられたから、あっ本当にお礼はいらないから。そういうの止められているの」
「存じております。我々は同世代としてルクナ様と是非とも交流をしたいと思っております……個人が独占して良いものではありませんから」
モニカちゃんがビクッとした。
めっちゃ嫌味言うやん。というか後ろに居るの宿泊研修でモニカちゃんと相乗りで来たリクーレじゃね? ははーん、レオニーって女子がリクーレのボスか。
良いぞ良いぞ。私と戦おうっていうのね。セイランに浴びせられた嫌味に比べたらひよこ程度のもんさっ!
きっとこいつはモニカちゃんには荷が重いだろう。だから見ていなさいっ!
「勘違いしては困るけれど、私がモニカちゃんを独占しているの。私の予定に合わせるように友達を作るなと言ってあるし、交流って私と戦いたいの?」
「い、いえルクナ様に敵う者など居ません。ただ、ルクナ様の事が知りたいのですっ」
「「「お願い致しますっ!」」」
上手く統率が取れている。
でもパーリーやら交流会を私に直接交渉するのはダメなのよね。貴族達には通達されている事なのだが、子供にまでは伝わっていないのか。
どう断るかなぁ……私がモニカちゃんを独占しているように、氷神巫女のウォーエルさんも私を独占しようとしているのよ。
だから私がウォーエルにアズ母と話して良いか聞かないといけないのよね。ウォーエルが暴走したら何するかわからないから……だからキャロリアも慎重になって私が暇な時しか接触しないし……うーん、困った。
おっ、噂をすればなんとやら。私より性格の悪いキャロリアがやって来たではありませんかっ。
ため息吐くな。怒られるのはこいつらなんだぞ。
「ルクナ、ドン引きする試合だったわ。で? レオニー・マーチスはルクナを引き止めてどういうつもり?」
「キャロリア様……私達はルクナ様と交流したいだけですっ! こんな素晴らしいものを見て黙っていろと言うのですかっ」
「えぇ、黙っていなさい。あなた達知らないの? ルクナに直接交渉したら罰則よ?」
「「えっ?」」
思わずレオニーと同じリアクションを取ってしまったではないか。罰則? 怒られるだけじゃないの?
「はぁ……こんなみんな見ているところで直接交渉なんてしちゃって、ざま……げふんっ、親に叱られるどころじゃないかもね。しかもマーチス家は東じゃない。もっとまずいわ」
「ど、どういう事でしょうか? なぜ、まずいのですかっ」
「だってルクナは前にサーレス公爵に酷い扱いを受けたのよ? 未だにサーレス公爵に謝罪すらさせない状況下で東の者が直接交渉だなんて、サーレス公爵の顔に泥を塗るどころじゃないし……やっばいわぁ。悪い事は言わないから戻りなさい」
「わ、わかりました……失礼、致しました」
おー……レオニーが悔しそうに去っていった。
リクーレは東と仲が良いのがわかったので今後話す事はないだろう……前に東の事は言ったのになぁ。まぁ良いか。
また接触するだろうが罰則の件を聞いたから堂々と断れるねっ。
ふんっ、と鼻を鳴らすキャロリアがなんと頼もしい事か。
性格の悪さも捨てたもんじゃないねっ。
「キャロねえありがとん」
「えっ雑過ぎない? まぁ良いけれど……モニカ、みんなルクナと喋りたいのに我慢しているのだから、自制しなさい」
「だってせんせ格好良かったんだもんっ!」
「気持ちはわかるわ。でもだめよ。ルクナはアズリーナ王女のところへ行こうとしていたのだから、足を止めてはだめ」
「……うん。せんせ、ごめんね」
「ううん。モニカちゃんのお蔭で緊張がほぐれたよ。キャロねえも、ありがと」
「……ええ。じゃ、またね。暇な時に家に行くわ」
キャロリアはモニカちゃんを連れて戻って行った……なんか優しいから気持ち悪い。
鳥肌やべえもん。
きっと姉としての行動を心掛けているのね。また助けてもらおうっと……アズ母はまだ待っていてくれたから良かった。
うーん……直接交渉がダメということは、私に話しかけるのがダメって事だ。
だから私に話しかけられないと会話をしちゃいけない暗黙のルールがあるのね。それ先に言えよウォーエルさんよー。
街でもみんな話し掛けて来ないから少し寂しかったんだよー。そういう事かよー。
うっすら聞いたのは、ノースギアは目上の人に話し掛けられるのを待つ傾向があるみたい。
心の中でウォーエルに文句を言っていると、アズ母の元に到着してしまった。
周りは静まり、みんな私に注目していた。そしてアズ母は会話をやめて私を真っ直ぐ見詰めていた。
なんか、凄い久し振りで……一回深呼吸。すぅー、はぁー。
「アズリーナ王女、私、可愛かった?」
「……ぅんっ、最高よっ!」
「えへへ……あのね。友達、出来たよ」
「ぅん、良かった。ご飯、ちゃんと食べてる?」
「うん、リリが来てくれたからご飯は食べさせられているよ」
「リリちゃんが? 仕事は?」
「辞めた。でも凄いんだよ、リリは今度聖女の試験を受けるんだ」
「えっ、凄いっ。もしかして、アルセイアちゃんの為?」
「そう。アルセイアと親友になる為……ふふっ、ほんと私と同じでさ、笑っちゃったよ。アズリーナ王女に近付く為に、レドを目指した私と」
「るくなぁ……」
泣いたら、私まで泣いてしまうから泣かないでね。
我慢してんだからさ。
でもさぁ……近くに居るノーザン公爵が泣いてんのが腹立つんだよ。冷めるわぁ……おっさんのえぐっえぐっていう嗚咽とか聞きたくねえよ。おっさんが泣くポイントどこにあった?
……ん? 王がこっちにやって来た。
なんだい? あぁ回復が終わったから話し掛けに来たのね。
もう話す事無いぞ。私は内気なんだから初対面の身内とか難易度高いのよ。
アズ母の表情が固くなった。やっぱり身内にも畏れられる存在なのかね?
「また、グレイドは受けるのか?」
「いえ、受けません。こんなに人が集まると思っていなかったので、恥ずかしくてもう無理です」
「そうか、残念だ。お願いがあると言っていたが、聞いても良いか?」
「あー……良いのです? じゃあお言葉に甘えて……あの、アズリーナ王女と仲が良いのですが、記念にですね……その父上である王様と、アズリーナ王女と、私の三人で写真を撮って戴けないかと……というお願いでした」
「なんだ、そんな事か……写真機は持っているのか?」
「えっ? はい、えっ良いのです?」
「あぁ、それくらいなら聞いてやる」
「ありがとうございますっ。アズリーナ王女っ、撮りましょう!」
「えっ、あぁ……うん……」
えっ、なに? 凄い微妙な顔しないでよ。
一緒に写真撮りたいのっ。
家族写真欲しいのっ。
王の側に居た人に写真機を渡して、三人で並ぶ……真ん中が良いので私を挟むように王とアズ母が立った。
カシャ……二人の顔を見てみる……笑ってねえ……少しは笑えや。
「笑ってくれません? 嘘でも良いから、無理やり笑って下さい。私の一生の思い出なのにそんな顔されると悲しいです。ほらっ、笑顔笑顔っ!」
カシャ……もう一枚。カシャ……写真機に仮で映る画像を確認……まぁ、口角は上がっているから良いか。
焼き増ししてみんなに自慢しよう。
「ルクナ、一枚ちょうだいね」
「もっちろん。現像出来たら王様にも届けますねっ」
「……あぁ。今度会食をするから、招待状を送る」
「アズリーナ王女も居るのなら、良いですよ」
……王はフッと笑って、魔導馬車の方へ歩いて行った。
気に入られたで良いのかしらね? なんかスカしているからよくわかんねえな。
王が魔導馬車に乗り込み、会場を後にしたところで解散の合図なのか片付けが始まった。
「……ルクナ、あなた、凄いわね」
「えっ? なにが?」
「写真よ。お父様は滅多に写真を撮らないの。私でさえ一緒に映るのは二回目くらいよ」
「あっそうなの? 勿体無いね、イケメンなのに」
「それが嫌みたいよ。この後は? 時間ある?」
「うんっ夕方まで大丈夫。あのね、王都を一緒に歩きたいっ。アズリーナ王女と王都を歩くのが私の夢なんだっ」
アズ母は少し驚いたような顔をして、深く頷いた。
涙ぐんでいる顔の後ろでノーザン公爵がハンカチで顔を抑えてぐすぐすしているから早くここから離れたい。
「先に挨拶を済ませれば時間が取れるの。ルクナも挨拶あるでしょ? 二時間後に待ち合わせでどう?」
「んーじゃあ、中央公園ねっ。はいっこれ持っていて」
「これは、メイドリンク?」
「ルクナリンクだよ。ヴァン王国くらいの距離なら繋がるの」
メイドリンクの強化版を渡すと、そのままアズ母に抱きしめられた。
きっとアズ母は私が心配で心配で仕方がないはずなので、これがあれば少しは安心してくれるはず。あんな泣きそうな顔されたら嫌だけれどルクナリンクを渡さないとねぇ……
「ルクナ……ごめんね……」
とりあえずここで抱き締められると恥ずいのだが……ノーザン公爵、こっち見んな。
ここで話していたら時間が過ぎてしまうので、母と離れて一礼してその場を離れた。
あと挨拶する人は居ないかなぁ……周りを見渡して、なにか嫌なものが見えたのでさささっと早歩き。
「待ってくれないか?」
しかしルクナは回り込まれた。
なんだよせっかくアズ母と話せたんだから放っておいてくれよサーレス公爵よ。話し掛けるのはルール違反だぞ。
頼りになる人は……くっ、アズ母はノーザン公爵達と話しているのでダメか。
「ルクナ、貴女とちゃんと話したいの。お願い」
サーレスは仲間を呼んだ。
ルビー夫人が現れた。
あー逃げてえが、良い機会だ。




