怒ったもんねっ
会場がシンッと静まり返った。
王の魔圧によって萎縮したのだろう。今まで私に魅せられた人も絶望を感じるほど、魔力が桁違いだった。
王が少し前傾姿勢になった瞬間……フッと消え……
「っ、はやっ……」
反応した時には鉤爪を振り下ろす瞬間だった。
咄嗟に腕で受けたが防御を貫通して腕が斬られ、遅れて痛みに襲われた。
更に脇腹を蹴られ横に吹っ飛ぶ。
視界が揺れる中、飛ばされた方向に追い付いた王が腰だめに構え……腕を振り上げた。
──バギッ……肩が折れる音が身体全体を巡り、姿勢が正せない。どうやら空中にかち上げられていたみたいだ。
まずい、速すぎる……早く王を捕捉しないと……あぁ、まじか……上だ。
両手を構えた王と目が合った。
「終わりだ。虎砲」
王の両手から放たれる莫大な魔力が身体を軋ませ千切れそうな程の渦に呑み込まれた。
はは……本気で死ぬかもって思ったのは、シャフェル以来だなぁ。
地面に叩きつけられてもなお威力は衰えない。むしろ殺す勢いで追撃を放ってきやがる。
「禁、術、身代わり、人形」
ポンッと人形が現れダメージを肩代わりしてくれるがもっても数十秒……でもそれだけあれば充分過ぎる時間だ。
人形の陰に隠れて魔法陣起動。
殺す気で来やがったんだ……まじで腹立つから絶対ぶっ飛ばすっ!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ノースギア王が凄まじいスピードで攻撃し、虎砲を放った瞬間……観客席ではアズリーナが叫んでいた。
「ルクナ!」
泣きそうな顔で叫ぶ顔に、近くに座るノーザン公爵が声を掛けた。
「アズリーナ王女、ルクナせんせは大丈夫だから。ちゃんと魔力を見れば無事だって分かるだろ?」
「……わかっています。でも、見ていて辛いんです」
「はぁ……俺も同じ状況なら叫ぶけど、もっと堂々としとけ。見てみろ氷神巫女様を……手を叩いて喜んでいるぜ」
アズリーナが氷神巫女の方向を見ると、少女のようにはしゃぐ姿に胸が痛くなった。アズリーナにとって氷神巫女には自分の娘を奪われた感覚になっており、あんな姿を見せ付けられるとただただ悔しい思いでいっぱいだった。
「……ノーザン公爵、ルクナは何か言っていましたか?」
「あぁ、まぁ、親の話をしてくれたよ。ほんと、せんせは苦労してんなぁ……心の強さが半端ねえ」
「……そうですか。驚きましたか?」
「そりゃもうびっくり。心臓止まるかと思った。まぁ、なんというか、ねえ?」
ノーザン公爵の微妙な笑みに、アズリーナは表情を隠すように王とルクナの戦闘を眺めた。
白虎が出たら終わるというのは定説で……ノースギア王の一方的な攻撃に、会場が諦めムードになっていた。
わかる人が見れば、王が焦っているのがわかる。どんな攻撃を加えても瞬時に回復し、余裕な顔で適切な対応をしてくる少女に得体の知れないものを感じていた。
「……ノーザン公爵、ルクナの魔力型はご存知ですか?」
「ん? さぁ……本気なんて見た事無いし、王様を超える魔力型なんて見た事無いしなぁ……」
「魔力型は……あぁ、出ました」
「……ぅわ、なんだ……あれ」
──カッ! と王の虎砲を弾き飛ばす大きな光の柱が聳え立った。
周囲の魔法使いが張る結界を突き抜け、氷神結界に届く程の光の柱に、会場の者は口を開いて眺めるしか出来なかった。
「いったぁぁいっ! あぁーもぅー怒ったからねっ! ルクナちゃんごめんなさいって言うまで止めないんだからっ!」
上空に輝く人影は、不思議と皆がはっきりと見えた……まるで全員が見えるように仕向けられたようだった。
銀色の全身鎧に羽飾りの付いた兜、身の丈を超える巨大な大剣を担いだ少女が空中に立ち……バッと翼を広げた時に頭上に輪っかが浮かんだ。
その姿はまるでこの世に降り立った神の尖兵にも見え、ノースギアの民が初めて見る強さの象徴だった。
「ルクナの魔力型は天使です。本当に、ルクナを超える可愛い子は、この世に存在しませんよね」
「……ぉぉ……ぉぉぉおおおおすげえええええ!」
ノーザン公爵が叫んだ瞬間、ルクナが大剣を振り下ろした。
弧を描いた剣撃がノースギア王の居た場所に直撃し、更に地面に衝突。
激しい地響きが鳴った。
後に……ノースギアの民はこう述べていた。
神の戦い、と。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そっちが殺す気でやったんだから覚悟しておけっ!
空中から見下ろす演習場は土埃が舞い、姿は見えない。でもこの天使の輪っかで索敵可能……真下か。
ルクナブレイドを真下に向けて突き突き突き突きっ!
剣撃を集中乱打っ!
演習場なんてぶっ壊したらぁっ!
ルクナブレイドを両手に持って急降下!
砂煙の中、王目掛けて渾身の力で振り下ろすっ!
「ルクナブレイクっ!」
──ギャリッ! と鉤爪で受ける音が響いたが力で押し切るっ!
「ぐぅっ……なんだ、この力……」
弾かれたが止まらねえよっ! 袈裟斬りからの横薙ぎに一閃っ!
剣先に手応えっ! よっしゃぁっ初めて斬ったぜっ!
「はっはっはー! 秘剣・無拍子!」
モーションの無い一撃で更に手応えっ!
と、反撃が来るっ!
「調子に乗るなっ! 白虎爪殺法っ!」
一瞬見えた王の顔は、怒りの顔っ! はっはっはっ! スカしていた罰だよっ!
連撃に合わせて大剣を盾にしながらバックステップ。
「秘剣・無明閃っ!」
「この、剣技っ……」
普通の魔物なら、斬られた事すら気が付かない剣撃だったが鉤爪に阻まれた。白虎の反応速度エグいなぁ……でも、私のフェイバリット魔陣武器、高機動高火力の戦乙女ルクナには敵うまいっ!
また反撃が来るから高速で演習場の端へ行き、ルクナブレイドを天に向かって掲げて光の魔法剣発動っ!
結界を突き破る光のバカでかい剣を、思い切り振り下ろした。
──ズガァァァン! 光の剣が地面にめり込み、演習場が二つに割れた。
天使の輪っかが王の居場所を教えてくれる。
前方、上っ!
ルクナブレイドを形状変化っ! ルクナアローを構えて狙い撃ち。
「秘技・死ね矢」
ばしゅんと放たれた矢が王の肩に突き刺さった。
心臓狙いだが、流石に避けるか。
王はバランスを崩して地面に落ち、膝を付いた。
追い討ちをかけるようにルクナアローを形状変化。
球体の頭に導火線の付いたルクナボムをほいっと投げた。
──ドゴォォォンッ!
ふむ、火力を間違えて耳が痛い。
もう一発行くか。
──ドゴォォォンッ!
『……ッ……ッ』
なんか聞こえたな。
──ドゴォォォンッ!
──ドゴォォォンッ!
先頭の学生とか吹っ飛ばされているが気のせいだ。結界を維持出来ない魔法士が悪い。
まだ天使の輪っかは王の無事を知らせているからもう一発くらい投げたいのだが、誰か入って来たのよね。
『ルクナ様っ! お待ちをっ! 待って投げないでっ!』
投げて良いかな? でも周りがドン引きしているので一先ず待とう。
あっ、係の人が王の安否を気にして入って来て、王にぶっ飛ばされた。かわいそうに。
また係員がやって来たけれど、ウォーエルが笑いながら係員に魔法を放とうとして神殿巫女のみんなに止められていた。
悪あがきしているの可愛い。
でもその悪あがきでも一般人は死ぬからほどほどにしておくれ。気持ちはありがたく受け取るからさ。
『王様の状態を確認しますので試験は中断致しますっ! まっ、氷神巫女様痛いですっ! 王様の安否第一ですからっ! やめて下さ、ぐふっ……』
仕方がないので荒ぶるウォーエルのところへ行ってだめよとジェスチャー。
なに? ポーズ決めろって? 写真撮るのね、ちょっとだけよ。
しばらくすると砂煙が晴れ、王が膝を付いたまま私を睨んでいた。
怪我はまぁ身体に大きな火傷が残る痛々しい状態だが、まだ戦えそうね。
他から見たら重症だが、戦意は衰えておらずまだ隠し玉がありそう……手負いの獣、そう感じさせるゾクゾクとした寒気に襲われた。
まずいなぁ……これ以上は私の魔力が持たん。
調子こきまろ過ぎたわ。
まぁでも満足した……私はグレイドに受かるよりも、リリとの約束を優先する。
「……情けは無用。まだやれる」
「そうでしょうね、でも私はもうやれません」
「これからだろう?」
「誰かさんが中断したのでやる気が無くなったのと、単なる魔力切れです。無理はしないと大事な人と約束したので、私の負けで構いません」
「……それは、俺が納得しない」
「ふふ、だいぶ打ち解けられて満足です。皆さん、私ルクナは敗北を宣言しますっ!」
手を挙げて宣言すると、係員が次々に王へと駆け寄って、それを振り払うように王は一人で立ち上がった。
私は王に一礼し、戦乙女モードを解除すると無表情だがめっちゃ怒っているのわかる。
ははは、私の感情的なところはジジ譲りという事かしら?
『グレイド試験は、受験者の敗北宣言により不合格となりました。素晴らしい試合、感謝致します。お集まりいただいた皆様、ありがとうございました!』
会場の雰囲気は、納得していない人も多数居るだろう。あと少しで押し切れるところを途中で止められて、私が負けを宣言したのだから。
ルールはどちらかが負けを認めるまでとあるので、ルール上仕方がないのだよ。
にしても不合格、か……互角に戦えばグレイドになれると聞いていたが……私の状態をわかっている人がいる。つまりはまぁ……ウォーエルさんが不合格にしろと脅したのだろう。
私には納得していないよアピールをする辺り……あのわざとらしい姿をみる辺り……元々不合格にする気満々だった訳か……はぁ、手の平で激しく踊ってあげたご感想を聞きたいよ。
会場はざわざわするだけで、なんだか変な感じ。
拍手くらいしておくれよ……私頑張ったんだからさぁ……
まぁ良いけれど、あーあ、なんか気が抜けた。
とりあえず各方面に一礼し、振り返ってウォーエルに一礼。
傍らに立つリリにウインクすると、ほっとしたように笑顔を見せた。
はぁ、グレイド試験終わっちゃったなぁ……




