グレイド試験
係員にマイクを渡し、軽く身体を伸ばしながら辺りを見渡した。
周囲に魔法使いが透明な結界を張り、戦える範囲は広いから中央で魔法をぶっ放せば会場に影響は無さそう。
学院の方を見ても、モニカちゃんは見えなかった。きっと見ていてくれる。
ウォーエルの方には神殿巫女達に混ざってリリが心配そうに見ていた……頑張るからね。
『それでは、準備はよろしいでしょうか? グレイド試験、開始っ!』
試験が始まった。
王に勝てばグレイドになれる。
正直、グレイドになってもならなくても私の人生に影響があるかと言われたらそんなに無い。
これから王になる人の障害になるだけだが……正直少し悩んでいる。
「先手を譲ってくれるなんて、優しいですね。先ずは結界を崩すか」
地面をつま先でトントンと叩き、魔法陣を多数展開。
魔法陣から青い鳥が次々と飛び出し、王へと羽ばたきながら向かっていく。
普通の戦いなんてする気は無い、可愛くて強い代表になるのだ。
「……器用だな」
一羽が先陣を切って高速で突進したが王はまだ動かない。
上級レベルの威力だが、透明な結界に阻まれ青い鳥が砕けて消え去った。
それから次々と突進していくが、透明な結界に阻まれていく……あれが王の絶対防御と呼ばれる結界か。
王を包む球体の結界と、ガラス板のような結界が沢山……
「……硬いなぁ。っ!」
真後ろから氷の塊が飛んできた。
直ぐに避けたが、気がつかなかったら後頭部に直撃していた……うわ、周囲に攻撃的な魔力を感じる。
無詠唱の変化技だが、ただの氷塊なんて舐められたもんだ……ふっふっふ、良いよ。舐めた態度取るなら、私も舐めた態度で攻めてやる。
氷でハンマーを作り王に突進。
進行方向に出た氷塊を打ち返して王の結界に当てるが当然砕け散り……
大きく振りかぶって……ドゴンッ! 王の目の前の地面を叩き付けた。
地面が陥没してヒビが入り、小さなクレーターが出来たところで掬い上げるように下から結界を叩いた。
腕がじーん……びくともしねえ。
「その程度で動くとでも? 氷刃」
直ぐに離れて氷の刃を打ち返し、ハンマーを鋭い槍に変化。
振りかぶって、ぶん投げた。
ギャリっと突き刺さる事無く結界を滑って王の後ろに行ってしまった。
うーん、硬いし滑らか。
あの結界って私の結界と似てね?
「困りました。その結界、氷無効に近いですね」
「ならば氷以外も試してみるか?」
「それも、良いかもしれませんね。剛体術」
拳に私の結界を展開しながら板状の結界をぶん殴ると、少し亀裂が入った。
やっぱり、私の結界と似ている。
「……」
「ふふ、驚きました?」
また板状の結界を殴ると、パリンッと割れた。
二撃で割れるくらいならなんとかなるけれど、数が多いしまた作成されたらただ疲れるだけ。強度がわかれば、それに応じた魔陣武器を作れば良い。
まぁそこまでの魔陣武器を作る時間をくれるか、だが。
──ドゴッ!
痛ってぇ!
至近距離で大量の無詠唱魔法とか反則だろっ。
一個二個なら対応出来るが、十個とか無理よ。
しかもつま先狙いとかやらしいわぁ。
まぁこれくらいなら回復出来るから良いけれど。
離れて残りの氷塊を殴り飛ばし、次に備えて構えると王は割れた結界部分を眺めていた。
「聞かせてくれないか? どうやって割った?」
「あら、少し心を開いてもらえて嬉しいので教えましょう。その結界よりも硬い結界を作れば良いだけです。得意なので」
「流石は、ウォル様の娘か……」
「私はウォルおかぁさんに魔法を習った事はありませんよ。むしろつい最近ウォルおかぁさんが氷神巫女だと知りました」
「……師は?」
「敢えて言うのならアズリーナ王女でしょうか。でも、これは独学です」
ありがとう王よ。
私に時間をくれて。
こっそり作っていた白銀の魔法陣を二つ重ね、白い魔法陣を重ねた。
ぎゅいんと伸ばして立体に。
「これは……っ、氷刃演舞」
はっはっは、氷刃なんてもう遅いっ!
私も真似して結界で防御。
先ずは最初の魔陣武器っ!
「ふふふふふ……結界なら負けませんよ。凍りつく世界を生きる白銀の龍よ、氷雪を己の糧とする鱗を私に分けておくれ。私は君を喜ばす踊り子となろう。魔法合成・氷龍の扇子」
立体魔法陣にダイブっ!
あずきジャージは好きだがもう少し可愛くなりますよっと。
神殿巫女をイメージした白と青の巫女服に、龍を象った銀の髪飾りを装備。
迫り来る氷刃を払いながら、両手に持った白銀の扇子をバッと広げて片足を上げて決めポーズ。
強くて可愛いを目指す私のスタイルは崩さないよっ!
──ワァァァァァ!
おおっ、急に歓声が響いた。
そーっと周りを見ると観客が立ち上がって係の人が静止している光景……神殿巫女のみんなが横断幕で応援しているのはちょっと恥ずかしい。
「見事なものだ。数分の戦いで民の支持を得る、か」
「言っておきますが、これはレド潰しです。試してみますか?」
「あぁ……久し振りに、楽しめそうだ。氷刃乱舞」
さっきよりも大きな氷刃が……うへぇ、全方向に現れた。
迫る氷刃に合わせるように回転しながら舞い、氷龍の扇子で撫でるように触れていく。
するとあら不思議、扇子が氷刃を吸収していくのだ。
大きな刃も両手の扇子で吸収し、氷刃が途切れた瞬間に両手の扇子を前に出し反撃準備。
「吸収した魔力はお返ししますよ。氷龍の息吹」
扇子から放たれる氷の吹雪は王の結界に触れると、結界が徐々に崩れていった。
私の結界入りの氷龍のブレスに初めて王が笑った気がした。
「その年で、龍を取り込んだか……ふふっ、面白い。魔力覚醒」
「ん? えー……結界意味ねえじゃん……生身で受けるか普通」
結界が崩れ、氷龍のブレスを受けても涼しい顔で立っていた。ちょっと、少しぐらいダメージ受けなさいよ。
なんで今まで結界なんて張っていたんだよ……嫌味か。
ブレスを中断。防御の型で様子を見る。
……どうした?
「問おう。何故そこまで強さを求める?」
「守りたい人が沢山居まして。それと、超えたい人が二人居ます」
「聞いても良いか?」
「一人は……グラン・エリスタ」
「グラン……今、奴は何処に?」
「数年前に亡くなりました。ご存知で?」
「そうか、死んだか。30年前に戦った事があってな……決着はつかなかった」
「ふふふ……嬉しいですね。私の英雄と互角に戦った方と戦えるなんて……ふふふふふ……息吹の極意」
片足を上げながら決めポーズ。この氷龍の扇子、決めポーズを決めていかに周りを魅了出来るかで効果が変わる。
──キャー! 素敵ー! ルクナ様ー!
だからこの環境には最適と言えるのよ。
「もう一人は?」
「絶望の魔女、殺戮の禁術士、人間の魔王とも呼ばれた伝説の魔法使いです」
「……ライズ・エリスタか。もう居ない人間を超えたいとは滑稽なものだ」
「はい。だからこそ、どこまでも強さを求めてしまいます。朧の舞い」
「ならば、大きな壁となろう。絶技・氷雪崩」
ゴゴゴゴゴゴ……この音は、嫌な予感。
あーもうーどんだけ魔力あんだよ。
鋭利な氷が折り重なった巨大な壁が現れた。流れるように移動する壁は私を囲むように移動して距離を詰めていく。
吸収しようにも壁がデカすぎる……逃げ場所が上しかない。
っ! まじかっ!
壁で蓋しないでー!
バタンと閉じ込められた。上は無理、横も無理。それにどんどん狭くなっていく。
「しゃあない。奥義・氷龍顕現」
扇子を回しながら回転し、氷の壁を吸収しながら真上に向けてエネルギーを爆発させる。
私を包む白銀のオーラが龍の形に変化し、壁を喰い破りながらうえ上へと昇っていった。
天井の蓋をも喰い破り、空中に躍り出ると龍のオーラを王目掛けてぶっ放す。
「……見事。氷壊」
龍のオーラは王目掛けて真っ直ぐに進み、王は拳で受け止めた。
ちょっと……氷龍顕現で結構な量の魔力を喰らって放った超位級の一撃なのよ。
そんな簡単に拳で受け止めて壊さないでよ……すげえショックなのだが……あぁ、氷龍の扇子が壊れてあずきジャージに戻ってしまった。
「はぁ、はぁ、やっぱり可愛い重視じゃ駄目ですか。魔法陣起動」
「おっと、氷陣乱舞」
「わっ……」
まだ準備中でしょうがっ!
今度は氷刃が高速回転しているから受けたら深く斬られるっ。
結界で防御っ!
わっ結界が斬られたっ!?
うひぃっまじか私の魔法に結界を混ぜる技パクられたっ!
「上手くいくものだな。礼を言おう」
「はぁ……どういたしまして。オートマジック」
「まだまだ楽しませてくれ。お礼に俺の魔法の型を見せよう」
「うーん……やっぱり決め手は攻撃力だよなぁ……なんだ?」
王の傍らに、白い虎の魔獣……いや、これ魔法の虎だ。
という事は、王の魔法型が虎なのか……格好良いじゃねえか。
魔法の型を持てる者は魔法使いの中でもほんの一握り。
イシュラとローザの龍の型や、ユウコの桜など色々あるが虎は初めて見る。
単純に強い型を持てる人は強力な魔法や恩恵を得られ、特性も得られる。虎は、まぁきっと強いよね。
そう考えるとみんなの魔法型とか気になるけれど、強くても必要ないと思っている人は無いし。
「俺の魔法型、白虎だ」
白虎が王に寄り添うと、右腕と同化していく。
白い鉤爪に変化……魔陣武器に似ている。なんか、嬉しいな。
でも喜んでいる時間は無さそう……ピンッと張り詰めるような空気に変わった。
強さがまた跳ね上がったような気がするのは、気のせいに思いたい。
うん、めっちゃ強い。
これ油断したら直ぐに負ける。
でも、簡単に負けてやらねえからな。




