グレイド試験へ
部屋に戻りモニカちゃんとサイリーさんと三人で話していると、ピンポーンと呼び鈴が鳴った。
サイリーさんが入り口まで行き、戻って来たらテシアが手を上げて入って来た。相変わらず私と居る時は軽いノリね。
「モニカちゃん、私の友達のテシア。神殿巫女見習いなんだー」
「えっ凄い。神殿巫女? モニカ・ノーザンです。よろしくお願いします」
「テシアさん神殿巫女になられたのですか? おめでとうございますっ!」
「……いや、私はただの男爵家の娘なので……サイリーさんもやめて下さい。ルクナ……私の困った顔を見て楽しまないで」
「だってぇ、どうも……なんて言うんだもん。こんなにテシアが好きな私の想いは一方通行なのかなぁって悲しくて悲しくて……」
「はいはい。まさか素顔で来るなんて思ってなかったからあの後大変だったんだから。前より紹介してコール凄かったよ」
「でも断ったのでしょ?」
「もちろん。友達の嫌がる事はしないわ。そうだ、ウォル様から伝言があるわ。ルクナがモテモテで嫉妬が凄いから早く抱き締めたいってさ」
「二日は覚悟しておくか……」
「それは前置きで、グレイドの試験は明後日だって」
「えーはやーい。心の準備出来てなーい」
テシアよ、要件が済んだからって帰ろうとすんな。
一歩後ろに下がった瞬間に腰にしがみついて拘束。私の粘着は知っているだろう?
「離して。私当番あるから忙しいの」
「もうしなくて良いじゃんっ。神殿巫女だよ?」
「学院には言っていないのよ。イチカ様が一人前になるまで秘密ってね。親だって周りに自慢したくて仕方がないのに我慢しているし……なに?」
「やだ」
「何が?」
「テシアがどうでも良いやつにキャーキャーするのやだ」
「そうは言ったって……当番が回って来るのよ」
「じゃあそれを私が止める」
「波風立てないでよ。ただでさえ上級貴族組に目を付けられているの」
「私の当番になれば良いじゃん」
「ルクナ学院に居ないじゃない」
「やーだー。当番断って。それかキャーキャーしないで。いつものテシアで居てよー」
私のわがままに、テシアは鼻でため息を吐きながら頭をわしゃわしゃしてきた。
それでも離さんよっ。
「じゃあ当番の時は自然体でいればルクナは納得する?」
「うんっ、キャーキャーだめ。モニカちゃん、もしテシアがキャーキャーしていたら私に報告ね」
「はいっ」
「わかったから。じゃあ行くから離してってこんな高そうなブローチ付けないでよ」
「これを地面に叩き付けたら魔法の煙幕が出るから逃げる時に使ってね」
「はぁ……わかった。サイリーさん、ルクナは美人の言う事は聞くのでお願いします」
「えっ? 美人……?」
「テシアさんっ。せんせは可愛いじゃダメなんですか?」
「可愛いの場合は支配したくなる筈なので、言う事を聞かせようとあの手この手を使います」
よくわかってらっしゃる。
テシアが私を抱き締めたので、粘着はやめてやろう。
肩に噛み付いたら首をチョップされた。それやめれ。
ばいばーい。
「テシアさんってせんせと凄く仲良いねっ」
「まぁ私の正体知らなかった頃からの仲だし……ん? 誰か来た」
テシアが帰ってすぐ、また呼び鈴が鳴った。
サイリーさんが入口へ行き、すぐに戻って来たがサイリーさんだけ。
「ニセヒトの件で助けた生徒からお礼を言いたいと来たのですが、お断りしました」
「ありがとうございます。面白そうなので入口に私への手紙コーナーでも作ります? 神殿巫女のみんなの楽しみが増えそうですから。もちろん返信無しで」
「……やってみますか。設置して参ります」
……設置して一時間。五十通の手紙が入っていた。どうせ暇なので一通読んでみた……もう一つ、もう一つ……モニカちゃんも気になったのか一通手に取った。
サイリーさんにも一通渡してみた。
「「「……」」」
なんか、みんな定型文なのか入りが一緒でつまらん……いや折角書いてくれたのに文句を言うのはあれだが、書いてある事が似ているのよ。ご機嫌どうこう自己紹介になんかの誘い。まぁ予想はしていたけれど……封筒の色によって派閥が違うのかしら?
「失敗しましたね。母の気持ちが少しわかりました」
「うん。でも嫌いな奴がせんせに媚び売ってんのウケる」
「普通手紙というのはこういうものかと……」
「魔力くらい込めて書いてくれないとどんな人か分かりませんよ。そうだモニカちゃん、明後日グレイドの試験があるから明日早めに帰って買い物デートしよ」
「デートッ!」
暇だからって無闇に何かをしてはいけないね。はぁ、ますます生きづらくなって来た……ノースギアで暮らすのも帝国で暮らすのもそんなに変わらなくなってきたなぁ。まぁノースギアは母が居るから良いけれど、謎の勢力が私を狙っているとしたら面倒だし……帝国はローザやイシュラが居るけれど、欲に塗れた人間が多いので……私もそうか。
ニセヒトの事件は生徒達には簡単に伝えられ、レド達には重大な案件として調査が進められるらしい。
貴族達にも伝達され、もちろんルクナ・レド・ノースマキナが対処しモニカ・ノーザンがニセヒトにとどめを刺したという事も伝達されている。ニセヒトに関してもやもやする事があるが、考えても何もわからないだろうな。
早めに帰ってモニカちゃんとのデートも終わり、ウォーエルに捕まっていたらグレイドの試験当日になるのは早かった。
現在私の家でリリに説教されているのだが、チューしたいが頭を占拠して話が入ってこない。
「ルクナ、良い? 絶対、無理しちゃだめだよ」
「うん大丈夫大丈夫。魔力はずっと溜めてあるから大魔法なら十発くらい出せるよ」
「本当は?」
「だ、大丈夫だって」
「……負けても良いんだから。ルクナの身体が一番なの。約束して、無理するくらいなら負けるって」
「わかったから。爺ちゃんに会ってみたいだけだし……私ね、本当はグラン・エリスタと戦いたかった。もう死んじゃったから爺ちゃんが誇れるルクナになる為に、自分で自分を誇れるように戦いたい」
私にとってグラン・エリスタは英雄だ。英雄に少しでも近付きたい。その為にもう一人の爺ちゃんであるノースギア王と戦う事は必須だ。
正直どんな人かもわからない。アズ母は近寄り難い雰囲気と言っていたが、まぁ会ってみればわかるか。
「……私も行くからね」
「ありがと。ベルちゃんが来てくれたらもっと頑張れる」
「あーあ、私も早く大教会に行かないとなぁ」
「妖精語が習得出来たから目標までは早いでしょ?」
「まぁね。ステラちゃんに印を貰ってから凄い進歩……回復魔法は下手くそなのが不安というか」
「回復魔法には限界があるからね。ベルちゃんならそこら辺の草を上級薬草に変化出来るでしょ?」
「回復魔法よりも魔力の消費が少なくて早くて効果が高いとか、おかしな術だなって思う」
「それが妖精の秘術というものだよ。今日の試験が終わればひと段落だから、ベルちゃんに私の魔法を継承するからね」
待ちに待ったグレイド試験だ。リリは神殿巫女と共に会場へ行くので私は紹介してくれた公爵と行く。
あずきジャージと呼ばれるいつもの伝説の戦闘服に着替え、公爵家へと向かった。最初から素顔で行くよ。決意の表れとして。
巡回中の騎士が敬礼し、道行く人は注目してくる。今日グレイドの試験がある事が北区で話題になっているのだろう。公爵家の前に到着すると、ビルさんが怖い笑顔で迎えてくれた。
「やぁルクナせんせ。公爵様がお待ちだ。頑張っておいで」
「はい。楽しもうと思います」
公爵家の玄関には、公爵が正装で待っていた。いつもの柔らかい雰囲気とは違い、真剣な表情で私を見据えていた。
「せんせ。めっっちゃ可愛い」
「第一声で全てが台無しになるところも公爵様らしいですね。ウォル・ノースマキナの娘というのは広まっているので、素顔にて会場へ行こうと思います」
「会場は王都の近くの騎士団演習場だから、馬車に乗って行こう。見学者が多いからね」
「いつも多いのですか?」
「いいや、今回は見学希望者が多過ぎてね。レドの大半と学院の生徒が全員、後は貴族関連と抽選で選ばれた市民やら……結界内を囲んで結構大規模になるなぁ。結界壊さないでね」
「それは保証出来ませんが……少し緊張して来ました」
みんな来るのかぁ……アズ母、見ていてね。私、強くなったんだから。
会場に近付くにつれ、多くの人が行き交う騒めきが聞こえてきた。
「そのまま演習場に馬車を停めるから、降りたら来賓……氷神巫女様の挨拶があって、せんせと王が挨拶をして試験開始。勝敗はどちらかが負けを認めたら終わる。勝敗が付かなくても互角に戦えれば良いが……」
「十年以上グレイドになれる人が居なかったくらいですから、強いのでしょうねぇ……」
「一番グレイドに近いとされていた東のレドは、王が本気を出した瞬間に敗れたよ」
「防御と逃げ足だけなら超一流なので、本気にさせる事は出来そうですが……王様も防御が硬いと聞きました」
「割れない氷。動く要塞。殺戮戦艦。数々の異名があるからね。俺も余興で戦った事あるけど瞬殺だったよ」
「そうだったのですね。王様と会えるだけで満足だったのですが、気が付いたらこんな大事になりましたねぇ……」
「何か言いたい事でもあったの?」
公爵が質問した時、演習場に到着した。
会場の騒めきが歓声に変わっていく。
さぁ、公爵に礼を言って出るか。
「あの時はノースギアでは平民でしたから、祖父に会うにはこの方法しか思い浮かびませんでした」
「ん? 祖父?」
「隠していて申し訳ありませんが私を産んだのは、アズリーナ王女です」
「……は?」
「ここまで来られたのは、公爵様のお蔭です。本当に、ありがとうございました」
「……そうだったのか……こちらこそ、感謝してもし切れない。ありがとう……本当に……あっなんか心臓痛い」
「ふふっ、アズリーナ・レド・ノースギアもウォル・ノースマキナも大事な母です。自慢の娘になる為に戦って参りますね」
さぁ行こう。扉を開けて外に出ると一瞬の静寂の後……
──ワァァァァァ!
と大きな歓声に包まれた。
演習場はとても広いのに、ここまで響く歓声で私がいかに期待されているか実感する。
初めてこの国に受け入れられたような気がした。
「凄いだろ、みんなせんせを見に来たんだ」
「はい。帝国の闘技場も凄かったですが、ここまでの熱量は初めてです……あの人が、王ですか」
前方に立つ銀色の髪の男性……クロウカシス・グレイド・ノースギア。
装飾の豪華な白い礼服を着て、腕を組んで私を見据える顔はとても五十代には見えない。アズ母の兄と言われてもわからないくらい若々しく、グラン・エリスタとは全然違う冷淡な印象だった。
司会と思われる人が中央にやって来て、各方面に頭を下げていった。
「じゃあ俺の役目は終わったからあっちに行くから。せんせ頑張って。応援してる」
「はい。ありがとうございます。全力でやろうと思います」
『それではグレイド試験を開催致します。来賓の氷神巫女様、一言宜しくお願い致します』
『ルクナ、グレイドは純粋な戦闘力を評価するわ。氷属性に拘らなくても良いから、全力でやりなさい。愛しているわ』
『ありがとうございます。先ずは挑戦者から一言お願い致します』
マイクを渡されたので、挨拶をしろというのね。
ウォーエルの方を見るとぶんぶん手を振っていて可愛いから手を振り返し、公爵が向かった方向には……アズ母が居たので勇気を出して小さく手を振ってみた。
……手を振り返してくれた。なんか泣きそう。
『初めまして王様。ルクナと申します。ご無礼を承知で挑まさせて戴きます』
自己紹介をしても、王は眉一つ動かさない。無表情で私を見据え、マイクを手に取った。
『問おう。グレイドになり、何を成す?』
『私がグレイドを目指す最大の理由は、王様に私のお願いを聞いて欲しいからです』
『ならば、勝ち取れ』
『はい、そのつもりです』
もう一人の爺ちゃん。
孫が、会いに来たよ。
ちゃんと、受け止めてね。




