悪役令嬢に憧れはあるのよ
後方部隊がこちらにやって来て、ニセヒトの姿に驚いていた。
どうやら他の個体と全然違うみたい。ニセヒトが言っていた劣化種というものはもっとひょろい体格らしい。
天龍剣を回収していると、リーダーっぽい男性のレドが深々を頭を下げた。
「ルクナ様、この度はありがとうございました」
「いえ、モニカちゃんの魔法で死にましたのでニセヒトを倒したのはモニカちゃんですよ? ねーモニカちゃん」
「うんっ! 私が倒したのっ!」
「えー、そう、ですよね……あっサイリー、無事か?」
「……はい、お役に立てず、申し訳ありませんでした」
サイリーさんがよろよろとやって来て、地面に頭が付きそうな程頭を下げていた。
私は気にしていないのだが、めちゃくちゃ落ち込んでいた。
でもあれは仕方がないよねー。というか顔がボッコリ腫れて痛々しいぞ。
「こちらに来て下さい」
「……はい。ルクナ様を危険な目に合わせてしまいました。どんな罰でも受けます」
「では最近開発した魔法の実験台になって下さい。スノーヒール」
「えっ……この、魔法は……氷属性の回復」
「ふむ、やっぱり回復は早いけれど少し残りますね……うーん、あっ、少し残った用の魔法を作れば良いのか。あっ、自分で治さないで下さいね。微調整が必要なので」
「あの、なんと、お礼を言ったら良いか……」
サイリーさんの顔を触っていると、横から圧が……見るとモニカちゃんがほっぺを膨らませてぷんぷんだ。
褒めて欲しいのね。よーしよーし。
「せんせ、私、ちゃんと出来た?」
「満点花丸だよっ! 我慢して魔力溜めてくれてありがとね」
「せんせなら絶対大丈夫だって知ってるもんっ!」
「……ふふ、ありがと」
絶対大丈夫だなんて、自分で言うのと誰かに言われるのは全然違うな。
凄く、元気になる。
ニセヒトの身体は男性陣が回収して検分するみたい。
私とモニカちゃんとサイリーさんともう一人の女性レド、ミシラさんと四人で魔導馬車まで戻る事にした。
ミシラさんはキラキラとした目で私を見て隣をキープして、モニカちゃんが不機嫌だが我慢して偉いぞ。
「ルクナ様っ、とってもお強いのですねっ!」
「今回は皆さんのお蔭で早く終わったので助かりました。ミシラさんは普段どのような活動をしているのですか?」
「私はレドの下っ端ですからなーんもしていませんっ! サイリー先輩はレドの講師とか家庭教師の依頼とか凄いんですよっ! 美人ですからねっ!」
「ミシラ、私なんてまだまだよ。ルクナ様の足元にも及ばないわ」
「サイリーさんの付与魔法は一流でした。ヴァン王国でもサイリーさんに並ぶ人はほんの一握りですよ?」
「ほらぁ先輩凄いじゃないですかー。私もルクナ様に褒められたいなぁ……」
「それなら勉強する事ね。ルクナ様、あの、戻られたらお気をつけ下さい。助けた学生は東の者が居ました。そしてルクナ様を呼ぶように言ったのも東の貴族でした……逆らえず無理を言って申し訳ありません」
「やっぱりそうですか。サイリーさんのご出身は?」
「私は西でミシラは南です」
「てっきり東かと思いました。はぁ……私は休暇のつもりで来たのですがね……ところでスノーゴブリンやニセヒトの元になった生徒は居るのですか?」
「あー……調査中としか……」
死んでいる線が濃いのね。まっ、とりあえず戻ろう。
魔導馬車に乗り込み、会話をしながら宿舎に到着した。
すっかり仲良くなれたから嬉しい。ここでの仕事はミシラさんは施設の巡回業務で、サイリーさんは私を担当する予定だったみたい。
「ルクナ様、今日はそのままお休みになられて下さい。誰かが来てもお断りしますので」
「ではお言葉に甘えて。おや? あれは実習ですか?」
宿舎の近くで生徒達が集まり、教師の話を聞いていた。
結構な人数よね。休みたいのだが、モニカちゃんは実習に参加しないといけないのでは?
「はい、みんなで野営の訓練ですね。希望者のみあの場で一泊するので」
「へー。モニカちゃんは参加しないといけませんよね? レポート提出があるので」
「えーっ! せんせとお休みにするーっ!」
「確かに……そうですね。ノーザン公爵様より、モニカ様はしっかり参加するように、と……見学だけ、おねがいします」
「お父様……許さない」
「見るだけなら私も行くよ」
どうせ暇だし、雰囲気もみたい。テシアは居るかなー? 学院にはまだ通うみたいだし。
魔導馬車を降りて、みんなで見学する事にした。
ほうほう、火起こしは薪に火の魔法と道具を使っているから氷魔法以外もやる実習という事かな?
各班に分かれて実際にやる生徒と見ているだけの生徒……ここで身分が分かれるとか? んーよくわからないよなぁ。多分、交流を深める意味合いが強いようにも感じる。東西南北と混ざって班になっているらしいし……学院も派閥には苦労していそうだよなぁ。
「はいっ、ここまでで質問ある方ー」
「はーい、レドになったらこういう事も多いんですかー?」
「はい。レドは総合的になんでも出来ないといけませんので、野営もしっかりやります。後は……あっ、他にありますか?」
あっ、の所で教師が私達を見たので、何人かの生徒が振り返った。
振り返って硬直したので、また一人、また一人と振り返って硬直していた。
「……なんか、注目されていますね。生徒達にはもうルクナが居る事がバレていそう」
「やっぱりリクーレが広めたのか……まっ、私はせんせを自慢できるから良いけど」
「ルクナ様を見たら誰だってああなると思いますよ? すっごく可愛いですから」
「んーでも、、あっ、眼鏡し忘れていた。はずっ」
「あっ、そういえばそうだったっ! せんせっ、隠してっ」
「手遅れかと、思いますが……」
「えっ、まさか?」「あれがルクナ様?」「ぅわぁ……可愛い」「あっ……ルクナ」
ざわざわ、ざわざわ。
仕方がない。ここは堂々と友達のテシアでも探すか……テシアはどこだー……あっ、居た居た。
テシアは目が合うと少し微笑み、膝を曲げて見えないようにしながら話し掛けるなオーラを出しやがった。
そんなオーラ私が弾き飛ばしてやんよっ。
「テシアー、頑張ってねー」
「……ど、どうも」
「どうもだなんてまじで泣くぞ。罰として後で部屋に来てね」
「えーいやよ……いやわかったから泣き真似しないでよ。はいはい後でね」
あっ、テシアが女子達に囲まれた。紹介しての嵐に巻き込まれたか……はぁ、どうもだなんて他人行儀で挨拶しやがって。
ちょっと教師が苦笑いをしているので私は居ない方がよろしいかね。向こうの中等部の塊にキャロリアとか居たらめんどくせえし……
うーむ、見学したかったが回れ右。宿舎へ向かおう……としたらモニカちゃんに捕まった。
「せんせっ! 私を置いていくのっ!?」
「だって私が居たらみんな気になって実習にならないでしょ? むしろ一緒にサボろ?」
「うんっ! せんせとサボりっ!」
「モニカ様、駄目です。ノーザン公爵様に叱られますよ」
「いやむしろ私が叱るしせんせはニセヒトに殴られたんだよ? サイリーさんも殴られたしこれ全部お父様のせいでしょ? 私がニセヒトを倒したんだからサボる権利がある」
「だそうです。せっかくなのでサイリーさんも一緒にサボりましょう。これはルクナ・レド・ノースマキナからのお願いという事で」
「ぐっ……名前を出されたら仕方がありませんね……」
仕方がないとか言いながら嬉しそうじゃん。
注目されながら宿舎へ向かっていると、誰かが走ってきた。
「ルクナ様っ! お待ちくださいっ!」
「ん? あぁリクーレちゃん。実習中だから抜け出しちゃだめだよ」
「んもぅそれどころじゃありませんっ! どうされたのですかっ!」
「どうって見に来たけれど邪魔みたいだから帰るだけだよ」
「邪魔だなんてとんでもないっ! あのっ、是非私と一緒の班になりませんかっ?」
「私はここの生徒ではないからね。それにすまないが用事があるのだよ」
「皆もルクナ様をお待ちしていましたっ、ご挨拶だけでもっ」
「なぜ?」
「えっ?」
「なぜ皆が私が居る事を知っているの? どうして待っていたの?」
「それは……」
言い淀んだ辺り、周りに言いまくったのだろうね。リクーレ以外も言っていそうだからリクーレだけが言いまくった訳ではないけれど。
私は秘密にしてと言ったから、誰かに言った時点でリクーレの頼みを断る理由が出来るのよ。
「私はルクナとして来ていないし、この場に居るのは非公式なのだよ。だから挨拶も出来ないの」
「それでもご挨拶して戴きたいです……モニカ様からも言っていただけませんか? 北の力を強めるチャンスです」
「私はせんせが望まない事はしないよ。こういう時だけ頼られても、私のレド試験に北の人は誰も来なかったから助けられないんだ」
「そうだねー。最終試験の応援に誰も来なかったという事はモニカちゃんには頼らない意思表示と公爵様に聞いたよ」
「っ……それは公爵様より止められていました」
それでも来るのが友達なのだよ。公爵はモニカちゃんには本当の友達が必要と思っている。だから敢えて来るなと言ったのだが、初等部ではそこまで察するのは難しいか。
「わざと止めたみたいだよ。それにお祝いしてあげた?」
「はい、皆でお祝いの手紙を送りました」
「ふふふ……そう。その手紙が返送されたのは知っている?」
「えっ……何故ですか?」
「なーんでだろうねー。親に聞いてみな。じゃあねー。モニカちゃん行くよ」
「はいっ、ではリクーレまたね」
モニカちゃんの人望が無いのは今更だが、見せ付けられると反抗したくなる。うーん、レドにもなったのに敬うとか尊敬とか掛け離れた目で見ているもんね。
やっぱりこれは友達を作るというよりも、威厳を示すにはどうしたら良いかと考えた方が良い。
因みに手紙の返送をしたのは私だよっ! 私の名前と喧嘩腰コメント付きだから、今頃親は大変だろうね。
「せんせ? どうしたの?」
「んー……もっと悪女になれば、子爵家の娘が公爵家の娘であるモニカちゃんを押し退けて喋らないと思わない?」
「今じゃ、足りない?」
「まぁねー」
私の妹に必要なのは、可愛いに加えて私と並ぶ強さ、強い精神力。
そして、私が憧れるくらいの存在になる事。
今のモニカちゃんはムラがあり過ぎるからね。
「うーん……難しい」
「手紙の返送で宣戦布告をしたから、せっかくだし楽しも」
「……せんせ、手紙になんか書いたの?」
「うん、応援すら来ないのに紙切れで祝ったつもりか? 応援しに行ったルクナ・レド・ノースマキナよりってね。モニカちゃんよりも先に私に謝る必要があるのよ」
一応私は氷神巫女の娘なので、同世代の中では最上位の人間だ。その私が応援に行ったのにお前らはなんで来ないんだって言い方をしているのでね。もちろん全員の手紙を送り返した訳ではないよ。公爵と話し合った結果だから。
そうなると私が恐怖の存在になるだろうがそれも良い。
良いお手本にならないと。
モニカちゃんは私の説明を聞いて、何か答えを出したみたいだ。
「私は、せんせが言っていたセイランさんを目指せば良いんだねっ!」
「うーん……セイランはちょっと……」
「えっ、そういうことじゃないの?」
「まぁ……目指すなら本人に会ってから考えて。私の妹候補と聞いたら容赦しないと思う」
「うっ……お腹痛くなってきた」
「まぁキャロ姉も洗礼があると思うし、モニカちゃんも頑張ってねっ」
セイラン、イシュラ、ローザが暴走したら私は全力で止めないといけない気がするなぁ……
せっかくだし、みんなで戦うのもありか。




