ニセヒト2
ニセヒトが引き摺られていった方向へみんなで走って向かう。全員レドだから雪の中でも遅れを取る人は居ない……例外のモニカちゃんは護衛のお姉さんにおんぶされていた。私のだっこじゃないから少しムスッとしているが、我慢してくれ。
「お姉さんのお名前を」
「はい、サイリーと申します」
「サイリーさんよろしくお願いします。ところで良いのです? こんな小娘に指揮を取らせて」
「ふふ、何を仰いますか。ルクナ様は国の宝です。ウォーエル女王の再来とも生まれ変わりとも言われておりますし……こうしてお話出来るだけでもとても光栄に思います」
「宝ですか……んー……不思議です。実績なんて無いのにこの扱いなので」
「白銀城」
「えっ?」
「ルクナ様の最終試験の白銀城で、民衆の心を鷲掴みにしました。あれ程のものを短時間で創り上げ、氷神巫女様の娘であるルクナ様は、ノースギアの宝であり誇りです」
正直それは実感が無い。道を歩いても誰も声掛けないし……いや顔を隠しているから話し掛けるなオーラが出ているか。
「なるほど……アズリーナ王女と比べたら、どうです?」
「ははは……それは困る質問なので控えさせて戴きます」
「失礼しました。私はノーズギアの宝で帝国では大聖女、妖精国では特別扱いでヴァン王国では凶悪派閥の長……その内、ウォルおかぁさんと同じ絶対不可侵の認定でもされそうですね」
「それは……間違いないかと。差し支えなければ凶悪派閥というのはどのような派閥でしょう?」
「あぁヴァン王国の王都に居る同世代の女子半分が私と親友のアルセイア王女の派閥なのですよ。軽い自慢です」
「は、半分? 何名くらい、ですか?」
「さぁ? セイラン・オレイドスとグニア・マグリットの派閥も合わさったので……まぁまぁの数ですね。サイリーさんはどのような派閥に入っているのです?」
「私は派閥には入っていませんが、氷神様を信仰しています」
「そうでしたか……私ですみませんが、氷神様の御加護がありますように……フリーズプロテクト」
お守りに氷属性を使えば使う程強くなる防御結界を付与し、サイリーさんに渡しておく。
手に持つだけで氷属性攻撃も上がるから、まぁ死なないだろう。
「これは……あ、ありがとうござます。後生大事に致します」
「これは友人のお守りなので後で返して下さい。生き残ったら、ちゃんとしたお守りを渡しますので」
「そ、そうでしたか……ルクナ様のお心遣い感謝致します」
「なんか、段々丁寧になっているので普通に話して貰えません? おっ、そろそろ着きます」
……ぐるぐる眼鏡は壊れるか。外して金髪を解除。仕方がない、すっぴんでやるか。
「ルクナ様……」
「母と似ていますので、普段は目立たないようにしています……可愛いです?」
「それはもうっ! わぁー……大聖女様と呼ばれる理由が痛いほどわかります……」
「お蔭様でお見合いの話が凄くて帝国には住めなくなりました。さぁ、心の準備はよろしいですか?」
ニセヒトは一つ山を越えた先に引き摺られ、私達が到着するところで魔法を解除していた。
地面が雪だからそんなにダメージは無かったみたいだが、私を睨みつける様子はプライドを刺激出来たかなと思う。
私とサイリーさんが並び、戦闘準備。後方にモニカちゃんと護衛のみんなが並び防御結界を張った。
『はぁ、はぁ、クク、てっきり一人で来るものと思ったが、そうまでして俺を殺したいみたいだな』
「はい。興味はありますが私の平穏の為には貴方は邪魔です」
『ならば、力を出そうか。はぁぁぁぁ!』
「くっ、なんて力……ルクナ様、いざとなれば私ごと攻撃して下さい」
「えーそれは後味悪いので嫌です。私は攻撃していきますのでニセヒトの動きを阻害する事に専念して下さい。魔法陣起動」
ニセヒトが白いオーラを纏い、保有する魔力が増大した。
なんだ、この感じ……迷宮の魔王に似ている。
考える暇は無さそうなので起動した立体魔法陣に両手を突っ込み、魔法のガントレットを装着した。
防具はこれで良いかな。
武器はこの前秘密基地から持ってきた真っ白い剣……天龍剣シャフェルを使う。
この剣、一振りで手がボロボロになる程強いのよ。だからガントレットで補強しないと使えない。
『……その剣、異界の剣か』
「妖精国の宝……天龍様の剣です。天よ私に応えろ」
剣を掲げると、聖なる力が辺りを包み周囲の雪が溶けていく。
聖女感満載だからあまり好きでは無いのだが、大魔法を使って血を吐くよりはましだ。
天龍剣を構え、ニセヒトの胸に切先を向けた。
『クク、この寒気は久方ぶりだ。食らえば無事では済まんな……いでよ獄氷の炎』
ニセヒトの周囲に氷の塊……なんだ、この魔法……氷が揺めき炎のように地面を焦がしていた。
「普通の魔法じゃない……? サイリーさんあの氷を攻撃してみて下さい」
「はい。アイシクルランスっ!」
氷の槍が獄氷の炎に触れた瞬間に、砕け散った。
氷を壊す氷の炎……か。
「氷の防御は無意味ですっ! 受けずに絶対に避けて下さいっ!」
「はい! サポートはお任せ下さいっ! スピードステップオール! センスアップオール!」
「おお凄いっ! 安心して攻撃に集中出来ますっ! 天聖招雷っ!」
「はは……聖なる雷を纏うなんて、伝説の勇者様みたい……来ますっ!」
天龍剣は特殊な技が使える。聖なる雷を召喚し、邪を滅する一撃を放てる。
ただ、反動が凄いから連続攻撃が出来ない。もっと大人になれたら使いこなせるのに。
ニセヒトの攻撃が始まった。幾つもの氷が飛び交い、どこから飛んでくるかわからないから集中しないといけない。
一つ、私に向かってきたので魔力を込めたガントレットで殴ってみた。
ボフッ……と氷とは違う音を響かせながら四散したが、イシュラの剣を受けても傷付かないガントレットにヒビが……
『ほう、硬い防具だがこれは防げまい。召喚術・獄氷の剣』
「……予想よりも、強いか」
見上げるほどの青く、暗い巨大な剣が現れた。
急激に温度が下がり続け、ニセヒトは全身に力を込め、巨大な剣を更に大きくさせている。
避けたら、後方のモニカちゃんに当たる……やっべえな。
上位の上の方くらいの強さと思ったけれど、超位級の魔物だぞ。
「ルクナ様……震えが、止まりません。上位魔物までしか、戦った事が無くて……」
「いえ、経験ある方がおかしいです。私の真後ろに来て下さい」
「はいっ、何か、手伝える事は……」
「では魔力を溜めて下さい。これから私は反動で動きが止まります。全力で私を抱えてニセヒトから退避してもらえると……はぁ、明日は絶対何もしない。絶対、大丈夫」
『俺の魔法は、この世界の理に反する。全てを凍らし、焦がし、消し去る……獄氷大剣!』
ビキビキと空気が軋み、息をするのも辛いくらいの低気温の中、巨大な剣が振り下ろされた。
このまま黙って見ていたら確実に死ぬから、天龍剣を腰だめに構えて私に接触する直前まで待つ。
後ろから息を呑む音が聞こえた……そりゃ怖いよな。自分の命が年下の女の子に委ねられているのだから。
でも大丈夫。
剣技なんていらない。
獄氷大剣に合わせて、天龍剣を振るだけ。
──シッ……と微かな音が聞こえた瞬間……獄氷大剣が真っ二つに割れ……砕け散った。
暗い青の欠片が飛び散る中、私の腕に嵌められたガントレットも砕け……腕の感覚が無くなりゴトっと天龍剣が地面に落ちた。
「凄い……はっ、ルクナ様っ!」
「早く、退避を」
「すみませ……『遅い。獄氷拳』
「ごふっ……」
ニセヒトの拳が私の鳩尾にめり込み、空中に吹っ飛ばされた。
肺の空気が全部吐き出されて呼吸が出来ない……飛ばされながら格好つけて天龍剣なんか使わなきゃ良かったのになんて頭の隅で考えていると、微かにモニカちゃんの声が聞こえた気がした……まだ、こっちに来てはいけない。
なんとか受け身を取ったけれど、あー……身体が痛くて動きたくねえ。
でもニセヒトの近くにサイリーさんが居るから早く行かないと……あぁサイリーさんがぶん殴られて倒れた。
『ククク……己の武器を手放すとは、まだまだ子供か……』
「ごほっ、ごほっ……最近戦っていなかったせいか鈍っていました。お蔭で目が覚めましたよ……超回復、剛体術、練気術」
『……もう、回復したか。流石は聖女だが、落とし物は使わせてもらおうか』
「……あー痛かった……天龍剣は持たない方が良いですよ」
ニセヒトが落ちていた天龍剣を持ち、私に切先を向けた。
それで私にとどめを刺すつもりだろうが、やめておいた方が良い。
『ん? なんだ……急に重く』
天龍剣はシャフェルに認められないと使えない。イシュラでも振る事さえ出来ないのだから、ニセヒトなんか使えなくて当然……その隙に全速力でニセヒトに接近。至近距離で掌を向けた。
「だから言ったのに。魔気発勁」
『がはっ……な、に……』
「さて、天龍の試練をどうぞ」
『ぐあぁぁぁぁ!』
天龍剣シャフェルは資格の無い者が持つと怒る。
具現化した龍がニセヒトに絡み付き、蛇のように締め付けていった。
その隙にニセヒトと後方部隊を繋ぐように魔法陣を順番に設置していく。
三……いや五は必要か。
設置した後、後方部隊に手を振った。
今までずっと魔力を溜めてくれていたモニカちゃんは、設置した増幅魔法陣目掛けて闇の魔法をぶっ放した。
「魔法合成・光炎魔弾!」
氷神結界内でも増幅魔法陣を通過する度に光り輝く炎が大きく、輝きを増してニセヒトに迫る。
『ぐぅっ! うごぉぉぉ!』
「無駄ですよ。力で龍気は解けません」
『はは……ははははっ! 俺には神より授かった再生能力があるっ! この程度では死なんっ!』
上位級の光の炎が増幅され、超位級の威力を持つ光の炎がニセヒトを襲う。
少年の身体が焼け、本物の身体が姿を現した。青白く筋肉質な身体に白い血管が浮き出て、顔は鼻と耳は無く、切れ長の大きな真っ黒い眼が気持ちを不安にさせる。
その身体が焦げては治り、焦げては治りを繰り返していく。
このままじゃモニカちゃんの魔法が無駄になるから、光を囲うように魔法陣を設置した。
「凄い再生力ですね。まるで、神話に出てくる神の兵のようです。知っていますか? 神の兵は魔力の永久機関を持ち、再生能力が尽きずに戦い続けます。殺すには、再生を逆転し崩壊へと導く……禁術・魔力逆流」
『な、何故、身体が……その魔法はまさかっ!』
「この魔法は、とある魔法使いの禁術書に載っていました。禁術書があれば完璧な魔法が使えましたが、これで充分みたいですね」
『ぐぅあぁぁああ!』
魔力を逆流させ、再生機能をぐちゃぐちゃにしてみるとニセヒトの身体がどんどん崩れていく。
そこでモニカちゃんの魔法が切れた。
焦げた身体が再生せず、両脚が崩れブスブスと黒煙を上げながら私を睨み付けていた。
ふぅ、動きを止めるのは苦労したけれどなんとか勝てた。
禁術を維持したまま氷の鎖で縛り、後方部隊に手を振っておく。
「さて、貴方の負けです。質問ですが誰と通じているのですか?」
『ぐはっ、はぁ、はぁ、我らの、神だ』
「神? 神とは、なんの神ですか?」
『俺を、造った、神であり、母。神よ、俺は、役目を、果たした……』
「……それは誰ですか?」
『ククク……用心、する、事だな。神は……』
……事切れたか。
もう少し聞きたかったが、仕方がない。
はぁ、神位の魔王の件もあるのに新しい問題は勘弁だよ。




