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嘘吐きエリスタの最後の嘘  作者: はぎま
ノースギア編

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237/427

ニセヒト

 

 一部の貴族の子息や教師に見守られながら魔導馬車に乗り込み、しばらくして現地に到着した。雪の上でも走れるのは流石雪国の魔導馬車だ。


 生徒らしき五人を大人達が囲み、怪我をしているだろう生徒を治療師が回復している最中……うわっ、腕もげてんじゃん。結構な重症ね。私が呼ばれたのはこの為かしら。


「ぅ、あぁぁっ! 痛えっ! 痛えっ!」

「もう少し頑張って下さい、なんとか、血が止まりました……次は」


 ノーズギアに氷属性の強い回復魔法は出回っていない。たから長い時間を掛けて光魔法で治療するのが一般的だ。治療師は光属性を学ぶに加えてレドの勉強もしなければいけないので、普通は良い所の家じゃないとなれないみたい。


「ルクナ様をお連れしましたっ!」

「本当かっ! 早くこっちにっ!」


「怪我の治療をお願い出来ますかっ!」

「ここまで来た以上は私とモニカちゃんでやりますが、氷神結界の中の回復魔法は効果が薄いです。なので先に結界を張りますね。モニカちゃん、黒の汎用魔法陣」


「はいっ!」

 モニカちゃんが雪が積もる地面に黒い魔法陣を展開し、安定したところで私の白い魔法陣を重ねた。


「光と闇は互いに輝き、二人だけの力を見せ付ける。魔法合成・光と闇の占拠」

 周りに光と闇しか使えない環境を作り、即座に回復魔法を掛けてあげる。幸いもげた腕はあったので、繋げて回復……ふむ、制服を着ているから貴族なのかわからんね。


「凄い……こんなに早く回復を……」

「これで後遺症は無いと思いますが、流れた血は戻らないので早く運んで下さい。次はニセヒトですか……本当にいるのです?」


「はい。魔物を感知する魔導具がずっと警報を発しています。間違いありません。ですがニセヒトの経験が無い者ばかりで……判断に迷っています」

「あちらの方ですか……」


「中等部二年が二人と初等部六、五、四年が一人ずつです」


 大人達に囲まれている五人……座らされて下を向く者や自分じゃないと言っている者、怖がっている生徒……視るか。

 久しぶりに指窓を作って魔眼で解析してみた。

 人間、人間、ニセヒト、魔物、魔物。

 ふむ、こういう時は便利ね。

 ニセヒトと魔物の違いはなんぞや?

 んー……まさか、他人にも擬態を付与出来るとか?

 とりあえず魔物から解除してみるか……


「モニカちゃん、あの子を魔法で解除してみて」

「はいっ! んー、ディスペル!」


 レグセントで呪いの練習をした甲斐があったな。

 男子の姿が白いゴブリンの姿に変わった。


『ガギャッ! ギャッ!』

「雪ゴブリン……だと……くっ、アイスランス!」


 ゴブリンが氷の槍で息絶え、みんなの視線は私に向けられた。


「次はその子」

「はいっ、ディスペル!」

『ギャガャッ!』


「どういう事だ……アイスランス!」


 ゴブリンは死に、残るはニセヒト。

 更に魔力を込めて解析していく。そうすれば概要が……むむむーむむー出たっ!

 ニセヒト……擬態型ホムンクルス、禁忌の魔物……能力は……うわっ、魔法耐性大、高位擬態、再生……きっついなぁ。

 それに……ホムンクルス?

 何処かで、聞いた事がある。なんだこの嫌な感じ。


「モニカちゃん、その人」

「はいっ! ディスペルっ! あれ? 掻き消された」


「じゃあ闇魔法で攻撃」

「はいっ! ダークネスアロー!」


「あっ……」

 モニカちゃんが闇の矢を中等部の生徒の眉間に突き刺した。

 いやいやいや、いきなり眉間? 少しは躊躇しなさいよ。

 それだけ私の事を信じているのはわかるのだが、人を殺す事にもう少し躊躇いは無いのかね? まぁ指示した私が一番悪いのだが……魔法耐性大のお蔭か全然効いていない。


「ぎゃぁぁ! 痛いっ! 酷いよっ! 僕は本物の人間だぁっ!」

「っ! まさか本物っ!」

「待って下さい。普通眉間を突き刺されたらこんな反応はしません」


「早く、早く治療をっ!」

「ニセヒトは、核が心臓にあります。ダークチェイン」


 のた打ち回る男子生徒の体に黒い鎖を巻き付け、身動きを封じた。

 うーん力が強い。鎖がギシギシと軋んで破られそうだ。

 それに……結界の効果が終わりそう。


「せんせ、こいつの魔力気持ち悪い」

「魔力も擬態出来るみたいだけれど、そこは不完全なのかな、破られそうだから手伝って」


「はいっ! ダークネスケージ!」

「どうしてっ! どうしてっ!」


 ニセヒトの周りに黒い柱が刺さり周囲を取り囲む。上出来上出来、というか氷魔法抜きにしたらマジで天才だからノーズギア以外では良い相棒になりそうだよ。


「ニセヒトさん、もうバレているので正体を現してくれません?」


 私の問いに、男子生徒は眉間に矢を刺したまま痛がるのを止めた。この状況でも落ち着いている辺り、余裕というか楽しそうというか……人間を困らせるのがニセヒトの性分なら駆除しなければいけないが、駆除出来るのか?


『……ナゼ、分かった?』

「例え完全擬態でも、私には通じませんよ。さて、なぜこのような真似を?」

「ルクナ様、危険ですっ! 早く駆除をっ!」


『クク……対話を望む者は珍しい。お前は、いつでも俺を殺せるという訳か』

「まさか。私は魔法が得意なのでいつでもは難しいです」


『そこまで解るか。ふんっ!』


 ニセヒトはバキバキと鎖を千切り、黒い柱を折った。

 ちょっと強いかも……みんなを守りながら戦うのは難しい。


「逃げる事は考えない方が良いですよ。あなたの魔力は覚えました。私の索敵範囲は一キロ、移動速度は一日でこの国は一周出来ます」

『ククク、それは凄い。だが俺は死なない』


「じゃあ、試してみます? ──疾風」

『──っ!』


 一瞬で間合いを詰めて銀の剣で脚を斬り飛ばした。

 後方に脚が飛び、バランスを崩してゆっくりと傾くところに合わせて斬り上げ、腕を胴ごと……硬い。腕は切断出来たが胴の途中で止まった。直ぐに剣を引き抜いたところで残った脚で蹴り飛ばされた。

 他の人が応戦しないように手の平を向けて制する。モニカちゃんには離れるようにサインを送ったが私の写真を撮るので忙しいみたいだ。ぴーす。

 そうしている内に脚と腕が元通り……早すぎやしないかい? 斬り飛ばした脚と腕は溶けて原型を留めていなかった。


「再生速度が異常だ……普通のニセヒトではありませんね」

『ぐっ、流石だな……氷神巫女の娘』


「……私を、ご存知で?」

『あぁ、噂は聞く』


「……王都にでも行っているのです?」

『もちろん。原始人のような生活を送っていると思ったか?』


「山にしか居ないと聞いています」

『ククッ、劣化種はそうだな。お返しだ、スノーグレイブ』


 足元から魔力反応っ! 直ぐに飛び退いて後ろに下がったところに足元が爆発っ、ぅ、急にニセヒトが速く距離を詰め真上から固く握った拳が……

 ──バキッ! と受けた銀の剣を折られ、更に追撃が来た。

 だがそれにやられる私ではない。

 拳が落ちる瞬間に結界を固定……ゴツッっと鈍い音が響いた。一瞬ニセヒトの動きが止まり、呪いの短剣で脚を斬りつけながら退避。


「いつっ……しかし不思議です。上位種の貴方がこんな茶番をするでしょうか? 何か目的があるのです?」

『あぁ、紛れていたのだが……氷神巫女の娘がどんなものか気になってな』


「それだと更に不思議です。私が居る事も来る事も不確定……まさか」

『ククッ、喋り過ぎたな。これは怒られそうだ』


 誰かと通じている。

 狙いが私なら……サーレス? ニセヒトと通じていれば誰も死人が居ない事も納得出来るが……ここまでするか? いやもしかしたら、この状況はニセヒトが勝手にやった事かもしれない。

 それは聞けたら聞くとして、予想よりも強いから周りが邪魔だ。


「死ぬかもしれないのに、よく引き受けましたね。移動しません? 魔法合成・引き摺りの刑」

『そんなものが効くとでも? ん……なに?』


「この為に呪いの短剣で斬りました。では引き摺りの旅へどうぞ」

『ぐガッ、小癪な……』


 呪いの短剣で斬りつけた場所から黒い縄が絡まり、地面から真っ黒な馬が現れた。

 縄が黒い馬に繋がった瞬間に馬が走り出す。

 十分くらいは引き摺られるから時間は稼げそう。


「よし、みなさん危険なので撤収でお願いします」


 振り返ると、大人達が私に近付いてきた。よく見ると若い……私の方が若いのだが十代の人が多いような気がした。

熟練者が少ないのも何かあるのかね。


「ルクナ様っ! これから討伐に向かわれるのなら俺達も連れて行って下さいっ!」

「「「お願いしますっ!」」」


「……構いませんが、生徒達に事情を聞く人、送る人、護衛する人等を差し引いて何人残りますか?」

「五人は残れますっ!」


「正直大人の男性が苦手なので、女性が二人は居てもらえると嬉しいのですが……」

「それなら少々お待ちくださいっ!」


 少し待つと、男性三人と女性二人が走ってきた……内一人は受付に居たお姉さん。うーん、この人が一番サーレスと繋がっていそうね。敢えてこの人にサポートしてもらうか。


「ではそちらのお姉さんは私の補佐で。残る四名はモニカちゃんの護衛をしつつ応戦可能であればお願いします」

「えっ? モニカ様を? 連れて行くのですか?」


「はい。彼女は私の弟子です。良い学びの機会かと思いまして……反対でしたら来なくても大丈夫です。私はモニカちゃんを守りながらニセヒトと戦えますので。モニカちゃん、行くよ」

「はいせんせっ! 私も頑張るっ!」


「ふふっ、ありがと。じゃあ戦いが始まったらニセヒトに悟られないように遠距離砲の準備だけしてね」

「まっかせてっ!」


「さぁ行きますか。付いて来て下さい」

「「「はいっ!」」」


 初対面でここまで畏まられるとむず痒い。それだけウォーエルの影響が大きい事を意味するのだが……とりあえず全員サーレス公爵と繋がっている前提で動くか。私の力を見せ付けないといけないからね。


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