トラブル? 知らねえよ
あけましておめでとうございます
リクーレから沢山質問をされている間に、現地に到着した。
晴れているのだが、馬車から降りた時に雪を踏むザクっとした音が寒さを余計感じさせた。
泊まる場所へ荷物を運ぶ際にモニカちゃんが話し掛けてきた。
「……せんせ、なんでバラしたの?」
「うん? 必要な事だから」
「どうして?」
「ルクナ・レド・ノースマキナはどんな人間かある程度広める必要があるの。今頃リクーレはルクナに会ったと誰かに話しているところだろうね」
「なんで? 秘密にしてって言ったのに?」
「そっ、ここだけの話という前置きでリクーレのグループに広まる。そうなれば私と話そうとみんながモニカちゃんに接触してくる。その時どう行動する?」
モニカちゃんは納得がいかないように下を向いて、考えていた。私の妹になるのなら、相応に対応力が試される。
まぁでも、モニカちゃんは相手が女子の場合萎縮するからなぁ……特にイケイケな女子にって私もそうか。
「……私、紹介、したくない」
「どうして紹介したくないの?」
「だって、みんな、せんせの事好きになる……私、寂しかったもん……リクーレは、せんせしか見てなかった……」
「そうだね。私と話したというだけで大きな話題になるし、今貴族女子の最高のファッションが私だから」
「ファッション……なんか違う。せんせをそんな風に見てほしくない」
「でも、みんなから見たらモニカちゃんは最高のファッションを手に入れた羨まし過ぎる存在だよ? 自覚ある?」
モニカちゃんは首を傾げて、考えるように私をじーっと見詰めていた。
もしかして、自覚無かった?
そしてちょっとビクッとしたように周りを見渡し、私の後ろ……リクーレが居る方向に目が止まった。
「……見てる」
「これからもっと注目される。その時、私の陰に隠れる? それとも、私の前に出る? 陰に隠れるのなら、今までのモニカちゃんで居れば良いよ」
「それじゃ、誰にも認められないのはわかってる。レドになれたのも、全部せんせのお陰……でも、怖いなぁ……」
「ふふっ、悪になれって訳でもないからね。ただ、嫉妬に耐えられる精神力は鍛えた方が良いよ。今リクーレの目は、嫉妬の目でしょ?」
「そう、かも」
「今私を抱きしめたらもっと嫉妬してくれるよ?」
両手を広げてみせると、そっと頭を寄せたので優しく撫でるように抱きしめた。
はぁ……こうしたかった。よーしよーし。
「……せんせと居ると……ドキドキが止まらなくって、どうしたら良いかわからなくて」
「あぁ……ごめん。クルルのキラキラに当てられるとしばらくそんな感じだから、いやぁつい悪戯心が……ほんとごめん」
「カンナが撫でられてるの見て、辛かった。胸が張り裂けそうで……」
「ごめんねぇ……カンナさんも泣いちゃって」
「あのね、夜にね、またきゅるるんせんせになって欲しい」
「えっ、大丈夫?」
「うん、えーっと、克服、しないと。きゅるるんせんせとお買い物とか、したいし」
「あー、クルルとデートかぁ。良いかもね」
正直クルルでノースギア王都を歩いたらどうなるか実験はしたい。
むしろイシュラとローザも一緒にが良いな。
モニカちゃんから離れて、辺りを見渡すとかなり注目されていた。
そりゃメイドが公爵家のお嬢さんを抱き締めるなんてあり得ないもんね。
モニカちゃんも辺りを見渡して、勝ち誇ったように微笑んだ。そうそう、その仮面の笑顔を少しでも出来れば目標に近付くよ。
少しぎこちないけれどいつもの調子に戻ってくれた。ツインテールに元気が出てきたから、早く仲直りしたかったのね。
本日泊まる所は丸太を組み上げて作ったような木の宿舎で、地方ではよくみる寒さに弱そうで強い造りだ。渡された鍵番号に従い、初等部貴族エリアへ……ん? 番号が無い。進んで進んで貴族エリアの更に奥、受付のお姉さんの奥にある王族エリアに到着した。
王族エリア? 何かの間違いでは?
「あっ、お父様が引率の教師やレドにはせんせが来ている事言ってるって」
「あぁ氷神巫女の娘は王族エリアじゃないと失礼という無駄な配慮ね。でもこれってルクナが来ているのバレバレじゃん」
「貴族エリアに嫌な奴多いから私は助かる。王族エリアには貴族は勝手に行けないから」
「確かにこのエリアに入る為の鍵があるし、受付のお姉さんに止められるね。えっ、初等部でこれって事は中等部も同じ規模? 学院金持ってんなー」
「これくらい普通だよ? 学院にも色々あるし、わっ、中凄いね」
「うへぇー、宿泊研修というより別荘に遊びに来ただけみたいだね」
部屋の中はお茶会用スペースやキッチン、寝室、お風呂と充実していて一ヶ月は引き篭もって暮らせそう。
一泊じゃ勿体ねえよこんな高級宿みたいな部屋……すげー。金持ちだー。
集合まで一時間はあるのでベッドに横たわってみる……沈み具合が一流のベッドだ……これ宿泊研修以外でも使っているよね? 使っていないと勿体無いぞ……あっこのベッド何処で買えるのかなー。モニカちゃんも横たわってほわーって言っているから凄いベッドなのだろう……モニカちゃんがコロコロ転がって私の所に来た。抱き枕にしよう。
「せんせ……すぅ、はぁ、すぅ、はぁ……良い匂い」
「モニカちゃんも良い匂い……制服シワになるよ?」
モニカちゃんがブレザーとスカートを脱いで、白シャツにパンティ姿……白シャツに白い太もも……時折見えるパンティがいい仕事をしている。モニカちゃんが嬉しそうに私の眼鏡を外し、顔に手を添えて……ちゅっとキスをした。
「えへへ、せんせ、だいしゅき」
「可愛いなぁ……あの訓練、する?」
「ぅ、ぅん、シて」
「じゃあ、脱がすよ」
……
……
……
──ピンポーン。
……
──ピンポーン。ピンポーン。
……誰だよ呼び鈴鳴らすやつは。
服を着てっと。
「ちょっと待ってねー。はーい」
「お休みの所申し訳ございません。学院よりルクナ様にご助力戴きたい件がございまして……」
受付のお姉さんが神妙な面持ちで聞いてきたのだが、いきなりルクナに用事? 怪しいなぁ。
「ご用件は?」
「初等部と中等部の男子生徒が規則を破り山に向かいました。それは毎年起きますので教師とレドが連れ戻そうとしたのですが……魔物に襲われたようで」
「怪我が酷いのです?」
「はい……それと、一名ニセヒトの疑いがあります」
「ニセヒト……出る地域なのです?」
「いえ……ここはニセヒトの出ない地域なので……ルクナ様、来て戴けないでしょうか?」
ニセヒト……アズ母が言っていた人に化ける魔物。判断基準は血の色らしいが、お姉さんの話では血も真似ている可能性があるが判断付かないみたいだ。
ニセヒトは興味があるが、今モニカちゃんとイチャイチャ……げふんっ、訓練中だったのに……
えー、やだー。私がいなくてもなんとか対処できるんでしょ?
もっと急ぎだったらお姉さんもはぁはぁしている筈だもん。
多分私を表に出したいだけでしょ? やーだー。
ゴロゴロしたーいー。
ニセヒトは死体だけ見られたらそれで良いもん。
「この件は他の生徒たちに知られていますか?」
「いえ、混乱を避ける為に生徒達は予定通り研修をする予定です」
「そうですか。モニカちゃん、お呼びが掛かったみたいだよ」
「えーっ、その男子自業自得じゃん。なんでせんせが行くの? 納得出来ないっ」
「ですがモニカ様、一刻を争う事態なので……」
「他に治療師やレドやらいるんでしょ? なんでわざわざルクナせんせが行くの? 意味わかんないっ」
「……」
「まぁ私が対応した事を公表してお礼やらで繋がりを持とうとする人が居る訳でしょ? どこの家かなー?」
「サーレスだったら絶対行かないでっ」
「……」
「ふふっ、行かなかったら行かなかったで責める人だって居るし、それに乗じて何か言質を取ろうとする人だって居る。モニカちゃん、これは私が居ると言ったノーザン公爵様のミスだから、責めるならノーザン公爵様を責めようね」
モニカちゃんの眉間にシワが寄るくらいイライラしているご様子。モニカちゃんはあれから一皮剥けたかな、良い感じにわがままだから。
とまぁこんな感じで時間稼ぎをしていると、後ろから痺れを切らしたのか男性がやってきた。
「ルクナ様、どうか来ていただけませんか? 大聖女のお力を貸して戴きたいのですっ!」
「あら、大聖女だなんてどこから漏れたのですかね? ノーザン公爵様はルクナ・レド・ノースマキナが居るとだけ言っている筈です。大聖女だと知っているのは……あぁそうだ、東区の薬屋で聖女だと言いましたねぇ」
「えーっ、サーレスじゃんっ! やだーっ! ルクナせんせに酷い事したからやーだーっ! あっ、そうだ私が行くっ! せんせの代わりに私がやった事にすればせんせにお礼言わなくて良いもんっ!」
「モニカ様、流石にレドと言えど今回の件は難しい案件です。ルクナ様、どうか……」
「モニカちゃんの案を採用しよう。私は怪我を治してニセヒトを見破ってあげるけれど、モニカちゃんの功績にしよう」
「決まりーっ! そうと決まれば行こー!」
「おーっ」
「……ありがとうございます。魔導馬車を用意してあります」
準備が良いのね。
私の事を知っていたら走った方が速いとわかるのだが、まぁ良いや。
ニセヒト見たかったし。




