友達の居ない行事って、苦痛でしかないよね
「……」
「……」
移動の魔導馬車の中は、無言が続いていた。
乗っているのは私とモニカちゃん。それと北の派閥の子爵家のご令嬢とお付きの人の四人……立場の高いモニカちゃんがムスッとしているので気まずい雰囲気全開だ。乗り合いだと聞いたのはさっきだったからねっ。
私は公爵から目立たないでと言われているのでモニカちゃんのぐるぐる眼鏡の地味なメイドとして来ている……胸に光る研修中の札は私の手作りだ。
まぁ数時間馬車に揺られるので、この空気を打破しないといけないという空気がご令嬢から伝わって来ていた。
がんばれ、私は今モニカちゃんに嫌われてしまって傷心中だからがんばれ。名前知らんけれどがんばれ。
お付きの人が私の事をチラチラ見ているので、恐らくルクナだとバレているだろう……北区の変な眼鏡の女子がルクナというのは有名だから。
私の最終試験は見ていただろうが遠かったし、直ぐにはわからないものよね。
「こほん、モニカ様はどんな鍛錬をなされたのですか? 相当鍛錬しないとレドにはなれませんでしたよね?」
「……うーん、基礎を六時間以上して、実技は少し……かな」
「えぇっ、基礎をそこまでやる理由はなんですの? ずっと同じ事を?」
「うん、私は下手くそだから魔法を使う時の魔力消費が激しいの。だから少ない魔力で効率よくするために基礎を学んだ」
「それはどんな基礎か、教えていただけませんか?」
「えっ、と……指先に魔力の玉を出してそのまま。こんな感じ」
モニカちゃんが指先に魔力を出して、速く回したりゆっくり回したりしているのを見て、ご令嬢が真似をしていた。ふよふよと浮かぶ魔力の玉を見て、モニカちゃんが首を横に振った。
これは友達が出来るチャンスなのでは? がんばれー。
「出来ていますよね? 何が、ダメなのです?」
「ふわふわしちゃダメなの。場所を決めてピタッと止めて」
「……あ、これ、辛い、ですね」
「慣れたら形を変えてみて。こう」
「わぁっ! 凄いですっ!」
「私なんてまだまだだよ……」
魔力の玉を色々な形に変え、色も変えていた。ご令嬢は興味深々で質問攻めにしていた。うんうん、毎日サボらずやっているみたいね。普通はピタッと止めて数分持てば良い方。モニカちゃんは形を変えながら一時間出来るので、魔力操作だけなら上位のレドに匹敵するだろう。
ご令嬢はお付きの人にもやらせてみたが、数分で限界が来ていた。
「流石最年少レドですわね……これは、ルクナ様から教わったのですか?」
「……うん。そうだよ」
「私、会った事が無くて……どんな方なのです?」
「……とっても、凄い人。なんでも出来るし、なんでも知ってる。すご過ぎて、夢の中に居る人みたい」
……褒めてくれるの凄い嬉しい……こっち見てよー。それっぽい事言っているだけだったら泣くが……本心だと信じているよっ。
こっちみてーおねがーい。
「ご紹介、していただく事は出来ます、か?」
「言ってみるけど……会ってくれないと思う。ルクナ様は恥ずかしがり屋だから」
「そっ、そうですよねっ。よろしくお伝え下さいっ。ところで、研修中のメイドが公爵家にいらっしゃるのが不思議なのですが……?」
「あーっ、と……それは……」
「研修のメイドは早くても男爵家から始まりますよね? どうも不思議で……」
別に会っても良いのだが、モニカちゃんがこれ以上不機嫌になったら怖いので断ろう。きっと断れという話だと思う。
それより私の話になったのだが、モニカちゃんは言い淀んでしまったな。ここは私が話した方が良いのか?
「発言、宜しいですか?」
「あら、良いわよ」
「私はメイド協会に属していません。公爵様から直々にお願いされました」
「? そうなの? なんで?」
「私は礼儀はありませんが、戦闘能力に長けています。モニカお嬢さまの護衛として雇われました」
「護衛なら納得ね。レドなの?」
上位レド証を見せると、二人が唸った。
上位レド証だぞーどうやーほれほれー。
「上位レド……相当な実力者なのね。名前は?」
「ルーとお呼び下さい」
「私はリクーレよ。機会があったら宜しくね。でもそれだけでノーザン公爵様にお願いされるかしら?」
「もう一つ理由があります。聞きたいですか?」
「えぇっ、聞かせて?」
「以前、別の方の元に居ましてその実績です。皆さん知っている方ですよ」
「……それは、誰?」
「アズリーナ王女」
「「「っ!」」」
このキラーワード言うの楽しい。
アズリーナ王女関連はどの世代でも共通で弾む話題だからね。
別にルクナとバレても気にしないし、というかお付きの人にはバレているだろうし。
……子爵を味方に付けた方が良いかも。これはモニカちゃんの友達作りではなくて、私の繋がりを作る目的としてだな。
モニカちゃんの同級生のラウラ子爵家のリクーレ……制服なのだが清楚系で可愛いよりも綺麗よりの雰囲気。きっとクラスカースト上位なのだろう……もちろん私のタイプだがそれを言ったら何が起こるかわからない。
「目的地到着まで時間がありますので、アズリーナ王女の話でもしましょうか?」
「えぇっ、是非っ。あっ、モニカ様宜しいですか?」
「うん、良いよ」
「アズリーナ王女とノースギアへやって来たのですが……そうだ、先ずは私がアズリーナ王女の元から離れた経緯を話しておきましょうか。最初東のサーレス公爵の元を訪れまして、そこでサーレス夫妻が私の事を孤児だと決め付けて追い出しました」
「サーレス……そう。でもアズリーナ王女は貴女を止めなかったの?」
「私が断りました。今頃アズリーナ王女は止めなかった事を後悔しているでしょうねー」
「そう? レドは沢山居るから後悔は……なに? えっ?」
あっ、お付きの人が耳打ちした。
リクーレが私を見つめながら目をパチパチさせて、急に挙動不審になった。私がルクナだと言ったのだろうね。
「ふふっ、どうかしましたか? リクーレさん」
「……あの、恐れ入りますが……もしかして……ルクナ様ですか?」
「はいと言いたいところですが今はルーです」
「……」
「ぁ、えと、お会い出来て光栄でございますっ!」
「ありがとうございます。公爵様より目立つ行動は避けるように言われていますので、内密にして戴くようご理解宜しくお願いします」
「もちろんですわっ! あぁ……ずっとお会いしたくて……感激です……」
うん、モニカちゃんがこっちを見たが、なんで正体を明かしたのか責める目をしている。
氷神巫女の娘と周知されているからバレても問題無いし、暇だし。
研修中の札を取って、モニカちゃんに笑いかける。ぐるぐる眼鏡越しなので意図した事は伝わらないだろうが、不機嫌そうな顔でも私を見てくれて嬉しいよ。
「さて、暇だし今だけルクナに戻るよ。よろしくね、リクーレちゃん」
「はいっ! あの、気になっていたのですが……いつもその眼鏡を?」
「あぁこれね。母とそっくりだから普段から顔は隠しているのだよ。ところで学院では私の事はどれくらい有名なの?」
「それはもう一日に一度は話題に上がりますっ! あの白銀城はほんっとうに凄いですっ! 大尊敬ですっ!」
「ありがと。今日と明日はモニカちゃんと一緒に居るから……そういえば宿泊研修って何するの?」
「はいっ、主に野営訓練や魔物討伐の基礎を学びます。去年も行ったのですが、私達初等部は見学が主です」
「そうなんだ。楽で良いねって事は中等部も居るの?」
「はいっ。と言っても離れていますので関わる事は無いです」
一応班に分かれて行動らしい……班に分かれて……班に分かれてなんて……『班長は順番に好きな人を選んでいきましょう…………はい、ルナード君だけ残りましたね。ルナード君はどの班に入りたいですか?』
……嫌な思い出しかなかったなぁ。




